「入札」の基本知識

入札における不正リスクとは?企業の内部統制の重要性を解説


更新日: 2025/12/09
入札における不正リスクとは?企業の内部統制の重要性を解説

この記事の要約

  • 入札不正は談合や贈収賄など多岐にわたり刑事罰のリスクがある
  • 個人の判断に頼らない組織的な内部統制の構築が急務である
  • 職務分掌やダブルチェックの実践が企業の社会的信用を守る
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そもそも入札とは?仕組みと種類の基礎知識

入札とは、国や地方自治体などの公的機関が物品の購入や工事の発注を行う際、最も有利な条件を提示した民間事業者と契約を結ぶための調達方法です。ここでは、入札の基本的な定義と、代表的な方式の違いについて解説します。これらを正しく理解することは、適切なビジネス参加の第一歩となります。

入札の定義と基本的な仕組み

入札(競争入札)とは、発注者(国・自治体等)が契約内容や仕様を公開し、参加を希望する複数の事業者から見積もり(入札金額)や提案を受け付け、その内容を比較検討して契約相手を決定する仕組みを指します。

もっとも一般的である価格競争においては、予定価格の範囲内で最も安価な金額を提示した事業者が落札者となります。また、価格だけでなく技術力や提案内容を総合的に評価する総合評価落札方式も、公共工事などで広く採用されています。この仕組みは、税金を原資とする公共事業において、「公正さ」「透明性」「経済性」を担保するために不可欠なプロセスです。

代表的な入札方式の違い

入札には主に一般競争入札指名競争入札随意契約などの種類があり、それぞれ参加要件や競争性が異なります。各方式の特徴を以下の表に整理しました。

入札方式の比較まとめ
  • 一般競争入札
    参加資格を満たす全ての業者が参加可能で、透明性が高いが入札競争は激しい。

  • 指名競争入札
    発注者から指名された業者のみが参加可能。信頼性は高いが談合リスクへの懸念がある。

  • 随意契約
    特定の1社を選んで契約する方式。緊急時や特殊技術が必要な場合に限定される。
入札方式 特徴 メリット デメリット 参加のしやすさ
一般競争入札 参加資格を満たす全ての業者が参加可能 透明性が高く、談合が起きにくい 参加業者が多く、競争が激化しやすい 最も高い(門戸が広い)
指名競争入札 発注者から指名された業者のみが参加可能 信頼できる業者を選定できる 特定業者間での談合リスクが高まる 限定的(実績が必要)
公募型指名競争入札 公募に応じた中から指名された業者が参加 一般競争と指名競争の中間的性質 技術力のある業者を選定しやすい 申請手続きの手間がかかる
随意契約 特定の1社を任意に選んで契約する 緊急時や特殊技術が必要な場合に対応可能 透明性が低く、癒着を疑われやすい 原則不可(例外のみ)

入札において想定される不正リスクの種類

入札業務は法律で厳格にルールが定められており、違反した場合は刑事罰を含む重いペナルティが課されます。ここでは、どのような行為が不正とみなされるのか、その具体的な種類と定義について解説します。悪意がある場合はもちろん、知識不足によるミスもリスクになり得るため注意が必要です。

入札書類の不備やリスクを確認するビジネスマンたち

談合行為(独占禁止法違反)

談合(だんごう)とは、入札に参加する業者同士が事前に話し合い、受注する業者や入札価格を決めておく行為です。これは自由な競争を阻害するため、独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)で固く禁じられています。

「持ちつ持たれつ」の慣習であっても、発覚すれば公正取引委員会による排除措置命令や課徴金納付命令の対象となり、最も重大なリスクの一つです。

贈収賄・癒着

贈収賄(ぞうしゅうわい)とは、受注を有利にするために、発注側の公務員などに対して金品を渡したり、過剰な接待を行ったりする行為です。

  • 贈賄罪
    賄賂を渡した側(企業側)に適用されます。

  • 収賄罪
    賄賂を受け取った側(公務員側)に適用されます。

これらは刑法上の犯罪であり、いわゆる官製談合(発注側が特定の業者に肩入れして情報を漏らす行為)とセットで発生するケースが多く見られます。

虚偽記載・書類改ざん

入札に参加するためには、経営状況や技術者の配置など、発注者が定める参加資格を満たす必要があります。この際、実態とは異なる内容を書類に記載することは不正にあたります。

  • 過去の施工実績を水増しして報告する
  • 配置予定技術者の経歴や資格を偽る
  • 経営審査事項の数値を操作する

これらは「形式的なミス」では済まされず、契約解除や損害賠償請求の原因となります。

不正が発覚した場合のペナルティ

入札に関する不正が発覚した場合、企業は法的・社会的に甚大なダメージを受けます。主なペナルティは以下の通りです。

入札不正による主なペナルティ
  • 指名停止処分
    数ヶ月から数年の間、国や自治体の入札に参加できなくなり、事実上の売上喪失となります。

  • 課徴金納付命令・罰金
    独占禁止法に基づく課徴金や、刑法に基づく罰金など、多額の金銭的損失が発生します。

  • 刑事罰
    経営者や担当者が逮捕・起訴され、有罪判決を受ける可能性があります。

  • 社会的信用の失墜
    メディア報道により企業イメージが悪化し、公共事業だけでなく民間企業との取引停止や銀行融資の停止につながります。

[出典:公正取引委員会「入札談合の防止に向けて」]

入札の不正を防ぐ内部統制の重要性

なぜ、個人の注意だけでなく、組織全体での内部統制が必要なのでしょうか。ここでは、コンプライアンス遵守が企業経営に与える影響と、内部統制を構築する目的について解説します。内部統制は単なる「ルール作り」ではなく、企業を守るための防波堤です。

法令遵守(コンプライアンス)の徹底

入札不正の多くは、現場担当者の「会社のために良かれと思ってやった」という誤った忠誠心や、プレッシャーから生じることがあります。
内部統制によって業務のプロセスをルール化し、個人の判断に依存しない仕組みを作ることは、結果として従業員を法的なリスクから守ることにつながります。法令遵守を組織文化として定着させることが不可欠です。

経営リスクの回避と社会的信用の維持

前述の通り、一度でも不正に関与すれば、指名停止や報道によって会社が倒産の危機に瀕することもあります。
適切な内部統制システムは、不正の芽を早期に発見し、リスクが顕在化するのを防ぐリスクマネジメントの役割を果たします。また、クリーンな入札を行っている企業であることを対外的に示すことは、社会的信用を維持し、長期的な取引関係を築くための基盤となります。

公平・公正な競争環境の確保

自社がルールを遵守することは、業界全体の健全化に寄与します。
不正が横行する業界では、技術力や努力が正当に評価されません。各企業が内部統制を強化し、公正な競争環境を作ることは、長期的には業界全体の発展と、持続可能なビジネスモデルの構築につながります。

入札業務における具体的な内部統制の構築ポイント

実際にどのような対策を講じればよいのでしょうか。ここでは、入札業務において導入すべき具体的な内部統制のアクションプランを解説します。これらは大企業だけでなく、中小企業においても導入可能な施策です。

入札業務に関する社内コンプライアンス研修の様子

職務分掌の明確化とダブルチェック

不正リスクを高める要因の一つは、特定の個人に権限と情報が集中することです。以下の対策が有効です。

  • 担当の分離
    積算(見積もり作成)担当者と、最終的な入札価格の承認者を分けます。

  • 複数名確認
    提出書類や見積額は、必ず担当者以外の第三者がチェックするフローを設けます。

  • ローテーション
    長期間同じ担当者が同じ発注者を担当しないよう、定期的に配置転換を行います。

業務プロセスの可視化と記録

「なぜその価格にしたのか」「誰が承認したのか」というプロセスを後から検証できるようにしておくことが重要です。

  • 意思決定の文書化
    入札価格の決定根拠となる資料(見積書、原価計算書など)を必ず保存します。

  • 交渉記録の保存
    発注者や他業者との接触があった場合、日時・場所・内容・同席者を記録します。

  • 証跡(トレイル)の確保
    承認印や電子決裁のログを残し、責任の所在を明確にします。

社内研修とコンプライアンス教育の実施

法律やルールは改正されることがあるため、知識のアップデートが必要です。

  • 定期研修
    独占禁止法や官製談合防止法に関する研修を年1回以上実施します。

  • 事例学習
    他社の摘発事例などを共有し、「何が違反になるか」を具体的にイメージさせます。

  • 誓約書の提出
    入札に関わる社員から、法令遵守に関する誓約書を取得します。

内部通報制度の整備

万が一、社内で不正の疑いが発生した場合、自浄作用を働かせる仕組みが必要です。

  • 相談窓口の設置
    社内または社外(弁護士など)に、匿名で相談できる通報窓口を設けます。

  • 通報者保護
    通報を行った従業員が不利益な扱いを受けないよう、規定で保護を明文化します。

安全な入札を行うためのチェックリスト

日々の業務で活用できる、入札時の確認項目をリスト化しました。これらを活用し、入札参加前および提出前に漏れがないか確認してください。

入札参加前の確認事項

入札への参加を決める段階で確認すべき項目です。

参加前の重要チェック
  • 参加資格要件
    経営事項審査の点数や等級は基準を満たしているか確認する。

  • 利益相反の有無
    発注支援業務など、入札の公平性を害する業務に関与していないか確認する。
項目 確認内容
参加資格 経営事項審査の点数や等級は要件を満たしているか
技術者要件 配置予定技術者の資格・実務経験は要件を満たしているか
利益相反 発注支援業務など、入札の公平性を害する業務に関与していないか
接触制限 発注担当者との私的な接触や、他社との情報交換を行っていないか
情報収集 入札情報は公式サイトや官報など、正規のルートから入手したものか

入札価格決定・提出時の確認事項

見積もりを作成し、入札書を提出する直前に確認すべき項目です。

提出前の重要チェック
  • 積算根拠の確認
    計算ミスがないか、また最低制限価格を意図せず下回っていないか確認する。

  • 決裁プロセスの完了
    社内規定に基づき、適切な権限を持つ承認者の決裁を得ているか確認する。
項目 確認内容
積算根拠 積算ミスや入力ミスはないか、根拠資料は整っているか
価格設定 最低制限価格や低入札価格調査基準を下回っていないか(意図しない場合)
承認フロー 社内規定に基づく決裁権者の承認(決裁)を得ているか
書類の整合性 提出書類の記載内容に虚偽や矛盾はないか
独立性 入札価格は自社で独自に算出したものであり、他社と相談していないか

まとめ

入札業務には、ビジネスチャンスと隣り合わせに談合贈収賄書類不備といった不正リスクが存在します。これらが顕在化すれば、指名停止や法的制裁により、企業の存続そのものが危ぶまれる事態になりかねません。

リスクを回避し、安全に入札に参加するための結論は以下の通りです。

入札不正を防ぐための重要ポイント
  • 個人の倫理観に依存しない
    「人」ではなく「仕組み」で不正を防ぐ体制を作る。

  • 内部統制の徹底
    職務分掌、ダブルチェック、プロセス記録を確実に実行する。

  • 継続的な教育
    社員のリスク感度を高め、組織全体でコンプライアンス意識を持つ。

クリーンで公正な入札業務を行うことは、単なるリスク回避にとどまらず、企業の社会的信用を高め、長期的な成長へとつながる重要な経営戦略です。

よくある質問(FAQ)

入札の実務現場で頻出する疑問について回答します。

Q1. 入札における「談合」と「情報交換」の境界線はどこですか?

受注予定者や入札価格について合意したり、拘束し合ったりする行為があれば「談合」とみなされます。「これくらいの価格ならいけるか?」といった世間話のつもりでも、競争の不確実性を減らすやり取りは独占禁止法違反のリスクが高まります。同業者とは入札案件に関する具体的な話題を避けるのが安全です。

Q2. 中小企業でも大掛かりな内部統制システムは必要ですか?

企業の規模に応じた体制で問題ありません。高価なシステムを導入しなくても、「見積作成者と承認者を分ける」「必ず2人で書類をチェックする」「決定経緯を紙に残す」といったアナログな運用ルールを徹底するだけでも、立派な内部統制として機能します。

Q3. 入札参加停止(指名停止)になると、民間工事もできなくなりますか?

指名停止処分自体は公共工事への参加を制限するものであり、民間工事を法的に禁止するものではありません。しかし、処分事実は公表されるため、民間の発注者がコンプライアンスを重視して取引停止を通告してきたり、銀行からの融資が受けにくくなったりするリスクは非常に高いと言えます。

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