「入札」の基本知識

総合評価落札方式とは?採点基準と対策を解説


更新日: 2025/10/28
総合評価落札方式とは?採点基準と対策を解説

この記事の要約

  • 総合評価落札方式は「価格+技術力」で決まる入札
  • 採点基準である「価格点」と「技術点」の仕組みとは?
  • 落札率を上げるための技術提案書作成と対策4選

総合評価落札方式とは?【初めての公共入札でも安心】

総合評価落札方式は、現代の公共調達において非常に重要な入札方式の一つです。これは、単に最も安い価格を提示した業者が落札するのではなく、価格と価格以外の要素(技術力、品質、実績など)を総合的に評価して落札者を決定する仕組みです。特に大規模な工事や専門的な業務委託において、品質の確保と価格の妥当性を両立させるために採用されています。

総合評価落札方式の基本的な仕組み

総合評価落札方式の最大の特徴は、「価格」「価格以外の要素(技術的な提案や実績)」の両方を点数化し、その合計点(総合評価値)が最も高い入札参加者を落札者とすることです。

従来の価格競争では、安さだけが評価基準でした。しかし、この方式では、例えば「より安全な工法を提案する」「より高品質な材料を使用する」「過去に同種の業務で高い実績がある」といった技術的な側面も評価の対象となります。これにより、発注者は価格と品質のバランスが取れた、最も優れた調達先を選ぶことができます。

なぜこの方式が採用されるのか?(目的と背景)

この方式が導入された背景には、従来の「最低価格落札方式」が引き起こしていた問題があります。価格競争が過熱しすぎると、企業は採算度外視の低価格(ダンピング)で入札せざるを得なくなり、その結果、以下のような弊害が多発しました。

・ 工事の品質低下や手抜き工事
・ 労働者へのしわ寄せ(低賃金、劣悪な労働環境)
・ 安全管理の不徹底による事故の発生
・ 下請け企業への不当な買い叩き

総合評価落札方式は、こうした「安かろう悪かろう」の事態を防ぎ、税金で賄われる公共サービスや公共工事の品質を確実に担保することを目的としています。これは「公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)」の理念にも基づいています。価格だけでなく技術力も評価することで、健全な競争を促し、国民にとって真に価値のある調達を実現するために導入されました。

他の入札方式との違いは?

総合評価落札方式は、数ある入札方式の一つですが、他の方式とどのように異なるのでしょうか。特に混同されがちな「一般競争入札」や「最低価格落札方式」、「プロポーザル方式」との関係性や違いを明確に理解することが、適切な入札戦略を立てる第一歩となります。それぞれの特徴を比較し、総合評価落札方式の位置づけを明らかにします。

一般競争入札・指名競争入札との関係性

まず理解すべきは、総合評価落札方式が「独立した別の入札方式」というよりも、「落札者の決定方法の一つ」であるという点です。

一般競争入札: 公告により参加希望者を広く募り、資格を満たす全ての参加者で競争する方式。
指名競争入札: 発注者があらかじめ指名した特定の企業のみで競争する方式。

総合評価落札方式は、これら「一般競争入札」や「指名競争入札」といった競争の「枠組み」の中で、落札者を決定する「評価基準」として適用されます。つまり、「一般競争入札(総合評価落札方式)」や「指名競争入札(総合評価落札方式)」といった形で実施されます。

価格競争(最低価格落札方式)との決定的な違い

最も対比されるのが最低価格落札方式です。これは、入札参加者のうち、予定価格の範囲内で最も低い価格を提示した者を落札者とする、いわゆる「価格競争」です。

決定的な違いは、「評価尺度が価格のみか、価格と技術の両方か」という点です。
最低価格落札方式では、技術提案書などを提出する必要はなく、純粋に価格だけで勝負が決まります。一方、総合評価落札方式では、たとえ最低価格を提示しても、技術点が低ければ落札できない可能性があります。

公共入札の書類審査を行う複数の職員

総合評価落札方式とプロポーザル方式の比較

もう一つ混同しやすいのがプロポーザル方式(企画競争方式)です。これは、主にコンサルティング業務やシステム設計など、仕様を確定しにくい創造性や専門性が求められる業務で採用されます。

総合評価落札方式が「価格+技術」で評価値(点数)を競うのに対し、プロポーザル方式は「提案内容(企画力・技術力)」そのものの優劣で受注者を決定します。価格も評価対象にはなりますが、総合評価落札方式ほど価格の比重が高くないケースが多いのが特徴です。

【表】総合評価落札方式とプロポーザル方式の比較

比較項目 総合評価落札方式 プロポーザル方式
主な評価軸 価格 + 技術・品質 技術・企画提案の内容
落札者の決定 総合評価値(価格点+技術点)が最も高い者 提案内容が最も優れた者(価格は二次的要素の場合も)
適した案件 主に工事、仕様がある程度固まっている業務委託 コンサルティング、システム設計など企画力・創造性が求められる業務委託
価格の位置づけ 評価の大きな要素の一つ 評価要素の一つだが、技術・企画力より優先度が低い場合がある

【重要】総合評価落札方式の採点基準と評価項目

総合評価落札方式の入札で勝つためには、採点の仕組みを正確に理解することが不可欠です。落札者は「総合評価値」によって決まりますが、この点数は「価格点」と「技術点」という2つの要素で構成されています。ここでは、それぞれの点数がどのように計算され、どのような項目が評価対象となるのかを詳しく解説します。

評価点はどう決まる?「価格点」と「技術点」

落札者の決定基準となる「総合評価値」は、発注者や案件ごとに定められた計算式で算出されます。この方式は、公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)や、地方自治法施行令などに基づき、価格と品質の両方を評価するために運用されています。

主な計算方式は以下の2つです。

加算方式: 総合評価値 = 価格点 + 技術点
(最も標準的な方式です。価格の評価と技術の評価を独立して行い、足し合わせます。)
除算方式: 総合評価値 = 技術点 ÷ 入札価格
(価格が安くなるほど総合評価値が高くなる方式です。※計算式は発注者により異なる場合があります)

どちらの方式が採用されているかで価格設定の戦略も変わるため、必ず入札説明書で確認してください。

価格点の計算方法(基本的な考え方)

価格点は、提示した入札価格に応じて機械的に計算されます。満点となる「基準価格点」が設定されており、入札価格が発注者の設定した「予定価格」を下回るほど高い点数がつきます。

ただし、安ければ安いほど良いわけではありません。多くの場合、品質確保やダンピング防止のために「最低制限価格」(または調査基準価格)が設定されています。

重要な注意点として、この価格を下回る入札は、技術点が高くても原則として失格となります。価格点は、この「予定価格」と「最低制限価格」の間で点数化される仕組みだと理解してください。

[出典:国土交通省 総合評価落札方式の仕組み]
[出典:e-Gov法令検索 地方自治法施行令]

技術点の主な評価項目

技術点は、入札参加者が提出する「技術提案書」や申請書類に基づいて採点されます。発注者は「どのような提案をしてほしいか」「どのような実績や体制を評価するか」を具体的に示します。主な評価項目は以下の通りです。

企業の施工実績・同種業務の実績
(過去に、今回の案件と類似した規模や内容の工事・業務をどれだけ適切に実施したか。)
配置予定技術者の資格・経験
(業務を担当する技術者が、必要な国家資格(例:1級土木施工管理技士など)を保有しているか。関連業務の経験年数や、過去の担当実績。)
技術提案
(工事の品質をどう向上させるか、工期をどう短縮するか、安全性をどう確保するか、といった具体的な工夫や提案。)
品質管理・安全管理体制
(ISO9001(品質)やISO45001(労働安全衛生)などのマネジメントシステム認証の取得状況。現場での具体的な管理計画。)
地域への貢献度
(発注者によって異なる場合があります。地元企業の活用、地域産品の利用、災害協定の締結など。)

これらの項目に対し、発注者が設定した配点基準(例:実績10点、技術提案20点など)に従って採点が行われます。

総合評価落札方式の入札で勝つための対策ポイント

総合評価落札方式は、価格と技術の両方が問われるため、戦略的な準備が必要です。単に安い見積もりを出すだけでは勝てません。ここでは、入札で落札を勝ち取るために必須となる4つの対策ポイントを、手順を追って解説します。これらのポイントを押さえることが、技術点を最大化し、適正な価格で落札するための鍵となります。

対策の前に:読者のよくある不安

初めての総合評価落札方式でよくある不安

初めて総合評価落札方式に取り組む際、多くの担当者が以下のような不安を抱えます。

・ 「技術提案書って、具体的に何を書けば評価されるの?」
・ 「価格は安ければ安いほど良いの? それとも適正価格がある?」
・ 「うちは設立間もなくて実績が少ないけど、不利にならない?」

これらの不安は、採点基準と対策ポイントを理解することで解消できます。重要なのは、発注者が「何を」「どのように」評価しようとしているかを正確に読み解くことです。

建設現場で図面を確認し、技術提案を練る技術者

1. 公示・入札説明書を徹底的に読み込む

目的: 発注者が何を求めているか(評価項目と配点)を正確に把握する。

工程:

  1. 公示(公告)の確認: まず、入札の概要、参加資格、評価方式(加算方式か除算方式か)を確認します。
  2. 入札説明書の精読: 最も重要な書類です。以下の点を徹底的にチェックします。
    技術点の評価項目: 何を提案すれば加点されるのか(例:「工期短縮」「安全性向上」など)。
    配点: どの項目に何点が割り振られているか。配点の高い項目に注力するのがセオリーです。
    加点条件: 必須ではないが、満たせば点が加わる項目(例:ISO認証、地域貢献活動など)。
    価格点の計算式と最低制限価格: 価格設定のボーダーラインを見極めます。

注意点: 説明書を読み飛ばすと、評価されるべきポイントを提案書に盛り込めず、大きな失点につながります。

2. 技術提案書の作成クオリティを高める

目的: 評価項目に対し、具体的かつ説得力のある提案を行い、技術点を最大化する。

工程:

  1. 評価項目への準拠: 入札説明書で求められている項目(例:「品質管理体制」「安全対策」)に対し、漏れなく回答します。
  2. 具体性の担保: 「頑張ります」といった抽象的な表現は評価されません。「(従来の方法)ではなく、(具体的な新工法)を採用することで、工期を○日短縮する」のように、数値や客観的な根拠を示します。
  3. 発注者のメリット明記: 提案が発注者(=国民・市民)にどのような利益(コスト削減、品質向上、安全性向上)をもたらすかを明確にアピールします。
  4. 実績の裏付け: 提案内容が「絵に描いた餅」でないことを示すため、過去の同種業務の実績やデータを引用します。

注意点: 独りよがりな提案ではなく、あくまで「発注者の課題を解決する提案」であることが重要です。

3. 価格点のボーダーラインを見極める

目的: 失格を避けつつ、価格点で不利にならない適正な入札価格を設定する。

工程:

  1. 最低制限価格(または調査基準価格)の確認: これを下回ると失格です。絶対に割ってはなりません。
  2. 予定価格の推測: (非公表の場合)過去の類似案件の落札結果や、仕様書から積算根拠を分析し、予定価格のおおよそのラインを推測します。
  3. 価格点のシミュレーション: 価格点の計算式に基づき、いくらの価格を提示すれば何点になるかをシミュレーションします。

注意点: 価格競争に引きずられ、最低制限価格ギリギリを狙いすぎると、わずかな積算ミスで失格となるリスクがあります。自社の適正な利益も確保できる範囲で、最も有利な価格を探る必要があります。

4. 加点項目を漏れなくアピールする

目的: 技術提案本体以外の「加点項目」を確実に拾い、点数を積み上げる。

工程:

  1. 加点項目のリストアップ: 入札説明書から、資格保有者の配置、ISO認証(9001, 14001等)、地域貢献活動(清掃活動、災害協定)など、加点対象となる項目をすべて洗い出します。
  2. 証明書類の準備: 認証書のコピーや、活動実績の証明など、加点を申請するために必要なエビデンスを漏れなく準備します。

注意点: これらは「できて当然」ではなく、申請しなければ評価されません。数点の差が勝敗を分けることもあるため、見落としがないようダブルチェックが必須です。

総合評価落札方式のメリットとデメリット

総合評価落札方式は、品質確保の面で優れた仕組みですが、入札参加者(受注者)と発注者(国・自治体)の双方にとって、メリットとデメリットが存在します。この方式の特性を理解することは、入札戦略を立てる上で重要です。

受注者(入札参加者)側のメリット・デメリット

企業にとって、技術力が正当に評価されるチャンスである一方、準備の負担が大きいという側面があります。

【表】受注者側のメリット・デメリット

メリット デメリット
受注者側 ・技術力や提案力が高ければ、価格競争以外で勝負できる
・企業の強み(実績、ノウハウ)が正当に評価される
・ダンピング(不当廉売)競争に巻き込まれにくい
・技術提案書などの申請書類作成に大きな負担(時間・コスト)がかかる
・評価基準が複雑で、対策が難しい場合がある
・小規模企業や新規参入企業は実績面で不利になりやすい

発注者(国・自治体)側のメリット・デメリット

発注者にとっては、調達の品質を担保できる反面、審査コストが増大するという課題があります。

【表】発注者側のメリット・デメリット

メリット デメリット
発注者側 ・価格だけでなく、品質や安全性も担保した調達ができる
・「安かろう悪かろう」の業者やダンピングを排除しやすい
・企業の創意工夫や技術革新を促すことができる
・評価(審査)に手間と時間がかかり、行政コストが増加する
・評価の客観性・公平性を担保するのが難しい
・評価基準の設定が適切でないと、望んだ品質が得られない可能性がある

まとめ:総合評価落札方式は技術力と準備が鍵となる入札方式

総合評価落札方式は、単なる価格の安さだけで落札者が決まる「最低価格落札方式」とは異なり、企業の技術力、実績、提案力といった「価格以外の価値」も総合的に評価する入札制度です。

この方式で落札を勝ち取るためには、以下の2つの側面からのアプローチが不可欠です。

落札を勝ち取るための2つの鍵
  1. 価格点: 最低制限価格を割らない範囲で、競争力のある価格を提示すること。
  2. 技術点: 発注者の要求(入札説明書)を完璧に読み解き、自社の強みを具体的かつ客観的な根拠(数値や実績)でアピールする「技術提案書」を作成すること。

特に技術提案書の準備には多大な時間と労力がかかりますが、この質が勝敗を大きく左右します。総合評価落札方式は、付け焼き刃の対策では勝てない、まさしく企業の総合力が問われる入札方式であると言えます。

総合評価落札方式に関するよくある質問

総合評価落札方式に関して、企業の担当者からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q. 技術点が低くても、価格を安くすれば逆転できますか?
A. 可能性はありますが、難しい場合が多いです。総合評価値は「価格点+技術点」で決まるため、技術点の配点が高い案件では、価格だけで逆転するのは困難です。また、価格が安すぎると最低制限価格を下回り失格となるリスクもあります。まずは技術点で一定の評価を得ることが大前提となります。

Q. 技術提案書作成で最も重要なことは何ですか?
A. 発注者の「評価項目」と「配点」を正確に理解することです。評価されない項目に力を入れても点数は伸びません。公示や入札説明書を熟読し、「何が求められているか」「どの項目に高い配点があるか」を把握した上で、具体的かつ客観的な根拠を示してアピールすることが重要です。

Q. 実績が少ない企業でも勝てますか?
A. 不利になる可能性はありますが、不可能ではありません。案件によっては「実績」の配点が低い場合もあります。その場合は、「配置予定技術者の経験」や「技術提案(工法や安全対策の工夫)」の内容で高得点を狙うなど、他の項目でカバーする戦略が考えられます。自社が勝てる土俵(評価項目)を見極めることが重要です。

NETIS
J-COMSIA信憑性確認
i-Construction
Pマーク
IMSM

株式会社ルクレは、建設業界のDX化を支援します