建設業の入札における電子化とは?進展と対応策を解説

この記事の要約
- 電子入札への移行で移動コスト削減と業務効率化を実現する
- JACICと独自システムの違いを理解し適切なPC環境を整える
- ICカード取得から利用者登録までの手順と注意点を徹底解説
- 目次
- 建設業における「入札」の仕組みと電子化の基礎知識
- そもそも入札とは何か:指名競争入札と一般競争入札
- 紙の入札から電子入札へ移行している背景
- 国土交通省が進める建設DXと入札の関係
- 電子「入札」へ移行することのメリットとデメリット
- 業務効率化とコスト削減におけるメリット
- システム導入やセキュリティ対策におけるデメリット
- 建設業の電子「入札」システムの現状と進展
- 国や自治体における電子入札の導入状況
- 共通システム(JACIC)と独自システムの違い
- 電子「入札」に参加するために必要な準備と手順
- パソコン環境の整備とICカード・カードリーダーの購入
- 電子入札コアシステムへの利用者登録とパソコン設定
- 入札参加資格審査申請(指名願い)の手続き
- 「入札」の電子化に伴うよくある不安と対応策
- 操作ミスやシステムトラブルが起きた場合の対処法
- セキュリティリスクへの対策と心構え
- 電子化によって変わる落札のための情報収集方法
- まとめ
- よくある質問
- Q1. 電子入札を始めるにはどのくらいの費用がかかりますか?
- Q2. パソコンが苦手でも電子入札に対応できますか?
- Q3. ICカードには有効期限がありますか?
建設業における「入札」の仕組みと電子化の基礎知識
建設業の受注活動において中心となる入札制度は、従来の紙ベースからデジタル技術を活用した電子入札へと大きく転換しています。ここでは、入札の基本的な定義から、なぜ国を挙げて電子化が推進されているのか、その背景にある建設DX(デジタルトランスフォーメーション)との関連性を含めて、電子入札の基礎知識を解説します。
そもそも入札とは何か:指名競争入札と一般競争入札
建設業における入札とは、国や地方自治体などの発注機関が工事を発注する際に、複数の業者に金額などを提示させ、最も条件(主に価格)の良い業者と契約を結ぶ仕組みです。公共工事の品質確保と公正さを保つために行われます。主な入札方式には以下の2つがあります。
- 主な入札方式
- 指名競争入札
発注者が事前に選定(指名)した特定の業者のみが参加できる方式です。実績や信頼性が重視されますが、透明性の観点から近年は縮小傾向にあります。 - 一般競争入札
入札参加資格(ランクや地域要件など)を満たしていれば、原則としてどの業者でも参加できる方式です。透明性が高く、現在の公共工事における主流となっています。
- 指名競争入札
紙の入札から電子入札へ移行している背景
かつては発注機関の指定場所に業者が集まり、紙の入札書を入札箱に投函する「紙入札」が一般的でした。しかし、2001年の政府による「e-Japan重点計画」以降、電子入札への移行が急速に進められてきました。この背景には、地理的な制約をなくして競争性を高めることや、業者が一堂に会する機会を減らして談合等の不正行為を防止する目的があります。また、開札作業や結果公表をシステム化することで、発注者・受注者双方の事務処理負担を軽減する狙いもあります。
国土交通省が進める建設DXと入札の関係
国土交通省は、建設現場の生産性向上を目指す「i-Construction」や、データとデジタル技術を活用する建設DXを強力に推進しています。入札の電子化はこの入り口に位置づけられます。単に入札書をデジタルで送るだけでなく、積算見積もりのデータ連動や、契約後の工事情報共有システム(ASP)への接続など、入札から施工、維持管理までの一連のプロセスをデータで繋ぐための基盤として、電子入札の完全実施が求められています。
[出典:国土交通省「地方公共団体における電子入札の導入状況について」]
電子「入札」へ移行することのメリットとデメリット
電子入札への移行は、業務効率の大幅な向上をもたらす一方で、システム環境の整備といった新たな課題も生じさせます。導入前に把握しておくべきメリットとデメリットを、コスト削減効果やセキュリティ対策の負担といった観点から整理し、紙入札との違いを明確にします。

業務効率化とコスト削減におけるメリット
最大のメリットは、移動時間とコストの削減です。役所へ出向く必要がないため、交通費や人件費を抑制できます。また、多くのシステムは平日の日中であれば時間を選ばず入札書の提出が可能なため、スケジュール調整が容易になります。さらに、入札結果がWeb上で即時公表されるため、情報収集のために庁舎へ通う手間も省け、営業活動の効率化に繋がります。
システム導入やセキュリティ対策におけるデメリット
一方で、初期投資と学習コストが発生します。指定されたスペックのパソコン、ICカード(電子証明書)、ICカードリーダーの購入が必要です。また、インターネットを介して重要な金額情報を送信するため、ウイルス対策ソフトの導入やOSのアップデートなど、セキュリティ管理を自社で徹底しなければなりません。操作ミスによる「無効」のリスクもあるため、担当者の習熟が求められます。
表:紙入札と電子入札の比較
| 比較項目 | 紙入札(従来) | 電子入札 |
|---|---|---|
| 移動時間・コスト | 発注機関への持参が必要(交通費・時間がかかる) | オフィスから送信可能(移動ゼロ・コスト削減) |
| 透明性・公平性 | 特定の場所に集まるため、業者間の接触リスクがある | 非対面で行われるため、談合などのリスクが低い |
| 手間・工数 | 紙の書類作成、封入、持参の手間が発生 | パソコン上の操作で完結(事前設定は必要) |
| 受付時間 | 指定された日時の、短い時間枠に限定される | 期間内であれば、24時間(または広範な時間)提出可能 |
| トラブル対応 | 交通渋滞や事故による遅刻のリスクがある | 通信障害やシステム操作ミスのリスクがある |
建設業の電子「入札」システムの現状と進展
電子入札システムは単一のものではなく、発注機関によって利用するプラットフォームが異なります。国や自治体が導入しているシステムの現状と、主要なシステムの種類や特徴について解説します。自社がターゲットとする自治体がどのシステムを採用しているかを確認することが重要です。
国や自治体における電子入札の導入状況
国の機関(国土交通省、農林水産省など)および都道府県レベルでは、ほぼ100%電子入札が導入されています。一方、市区町村レベルでは導入率にばらつきがありましたが、近年は国からの要請や共同利用システムの普及により、小規模な自治体でも電子入札への移行が加速しています。これにより、地域建設業者であっても電子入札への対応は避けて通れない状況となっています。
共通システム(JACIC)と独自システムの違い
日本の電子入札システムは、大きく分けて「JACIC(ジャシック)が開発したコアシステム」と「各自治体の独自システム」の2種類が存在します。それぞれの特徴を理解し、対応する機器や設定を準備する必要があります。
| システムの種類 | 特徴 | 対象となる発注機関の例 |
|---|---|---|
| 電子入札コアシステム | (一財)日本建設情報総合センター(JACIC)が開発した標準システム。多くの自治体がこれをベースに採用しており、操作性が統一されている。 | 国土交通省、防衛省、多くの都道府県、政令指定都市など |
| ASP方式(共同利用型) | 民間事業者が提供するクラウド上の入札システムを、複数の自治体が共同で利用する形式。コアシステムベースのものが多い。 | 多くの市区町村(地域の自治体でグループを組んで利用する場合など) |
| 独自システム | 自治体が独自に開発・運用しているシステム。専用のソフトが必要な場合や、ブラウザだけで完結する場合など仕様が異なる。 | 東京都、大阪府などの一部の大規模自治体 |
電子「入札」に参加するために必要な準備と手順
実際に電子入札に参加するためには、ハードウェアの準備から電子証明書の取得、システムへの登録まで、複数のステップを確実に踏む必要があります。ここでは、入札参加資格を得るまでの具体的な手順を体系的に説明します。特にパソコンの設定はつまずきやすいポイントです。

パソコン環境の整備とICカード・カードリーダーの購入
まず、各発注機関が推奨する動作環境(OS、ブラウザのバージョン、メモリなど)を満たしたパソコンを用意します。次に、実印の代わりとなる電子証明書(ICカード)と、それを読み取るためのICカードリーダーを、民間認証局から購入します。ICカードは、代表者の名義で取得するのが一般的です。
電子入札コアシステムへの利用者登録とパソコン設定
ICカードが手元に届いたら、パソコンに専用のドライバソフト(認証局から提供されるもの)をインストールし、カードリーダーを接続します。その後、発注機関の入札システムにアクセスし、「利用者登録」を行います。ここでICカードの情報と企業の情報を紐付けます。この登録を行わないと、入札に参加することはできません。
入札参加資格審査申請(指名願い)の手続き
電子入札の利用者登録とは別に、入札参加資格審査申請(いわゆる指名願い)が必要です。これは、「うちの会社は公共工事に参加する能力があります」と審査してもらう手続きです。多くの自治体では、2年に1回などの定期受付を行っています。現在は、この申請自体も電子申請で行うケースが増えています。
- 準備開始から入札参加までのステップ
- 1. ターゲット選定と要件確認
参加したい発注機関(国、県、市など)を決定し、システム要件を確認します。パソコン環境を整えます。 - 2. ICカード購入
民間認証局に申し込み、ICカードとカードリーダーを購入します(届くまで数週間かかる場合があるため注意が必要です)。 - 3. パソコンのセットアップ
パソコンにカードリーダーのドライバやJava実行環境等をインストールし、接続確認を行います。ブラウザのセキュリティ設定も重要です。 - 4. 利用者登録
各発注機関のシステムにログインし、ICカードの情報を登録します。 - 5. 資格審査申請
入札参加資格審査の申請を行い、格付け(ランク)の認定を受けます。 - 6. 案件検索・参加
公示された案件を検索し、電子入札システムから参加申請を行います。
- 1. ターゲット選定と要件確認
「入札」の電子化に伴うよくある不安と対応策
初めて電子入札を行う際には、システムトラブルや操作ミスへの不安がつきものです。ここでは、万が一のトラブルへの対処法やセキュリティ対策、そして電子化時代に求められる情報収集のあり方について解説します。事前の準備がリスク回避の鍵となります。
操作ミスやシステムトラブルが起きた場合の対処法
「締切直前にパソコンが固まった」「誤った金額を入力してしまった」というトラブルは、電子入札における最大のリスクです。以下の対策を講じておきましょう。
- ヘルプデスクの活用
各システムにはヘルプデスクが設置されています。連絡先を必ず手元に控えておきましょう。 - 紙入札への切り替え申請
システム障害やICカードの破損など、やむを得ない事情がある場合、例外的に「紙入札」での参加が認められることがあります。ただし、事前の申請と承諾が必要です。 - 余裕を持った入札
締切ギリギリの操作は避け、通信エラーが起きても再送できる時間の余裕を持ちましょう。
セキュリティリスクへの対策と心構え
電子入札に使用するパソコンは、外部からの不正アクセスやウイルス感染を防ぐため、業務専用機にすることが望ましいです。ウイルス対策ソフトを導入し、常に最新の状態に保つことは基本です。また、ICカードとPINコード(暗証番号)は、実印と同様に厳重に管理し、カードを挿したまま離席しないなどの運用ルールを徹底する必要があります。
電子化によって変わる落札のための情報収集方法
電子化により、入札情報は「掲示板を見に行く」ものから「ネットで検索する」ものへと変化しました。入札情報サービス(PPI)などのポータルサイトを活用することで、広範囲の案件情報を効率的に収集できます。また、過去の入札結果(落札金額や応札業者)もデータとして蓄積・公開されているため、これらのデータを分析し、自社の入札金額を戦略的に決定することが、落札率向上の鍵となります。
まとめ
建設業における入札の電子化は、単なる事務手続きの変更ではなく、経営の効率化と透明性を高めるための重要なインフラ整備です。国や自治体がDXを推進する中で、電子入札への対応は今後ますます不可欠となります。初期導入には手間がかかりますが、一度環境を整えれば、移動コストの削減や情報収集の迅速化など、長期的なメリットは計り知れません。システムの違いを理解し、セキュリティ対策を講じた上で、早期に対応を進めることが、今後の建設業経営において安定した受注を確保するための第一歩となります。
よくある質問
ここでは、これから電子入札を始める建設業者が抱きやすい疑問について回答します。コスト面や技術的な不安、ICカードの管理について確認しておきましょう。
Q1. 電子入札を始めるにはどのくらいの費用がかかりますか?
パソコンがすでにある場合、ICカードとカードリーダーの購入費用がかかります。認証局や有効期間(1年〜3年など)によって異なりますが、年間あたり1万円〜2万円程度が目安です。その他、セットアップを業者に依頼する場合は別途費用が発生します。
Q2. パソコンが苦手でも電子入札に対応できますか?
基本的なブラウザ操作(インターネット閲覧)と文字入力ができれば問題ありません。各発注機関が詳しい操作マニュアルを公開しているほか、模擬入札(チュートリアル)機能を用意しているシステムも多いため、本番前に練習することが可能です。
Q3. ICカードには有効期限がありますか?
はい、あります。購入時に選択した期間(例:1年、3年、5年など)が過ぎると使用できなくなります。有効期限が切れると入札に参加できなくなるため、期限管理を徹底し、失効する前に更新手続き(新しいカードの購入と再登録)を行う必要があります。





