「入札」の基本知識

公共工事の入札で守るべきルールとは?関連法を整理


更新日: 2025/11/27
公共工事の入札で守るべきルールとは?関連法を整理

この記事の要約

  • 入札の公平性を守る基本原則と経営事項審査の重要性を解説
  • 入札参加から落札までの具体的な5つのステップと必要書類
  • 独占禁止法違反や談合を防ぐ厳格なコンプライアンス対策
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公共工事における入札の仕組みと基本原則

公共工事の入札は、誰もが自由に参加できるわけではなく、一定のルールと資格要件に基づいて行われます。入札制度の根幹となる目的や、参加に不可欠な経営事項審査(経審)の仕組みを理解することは、適正な受注活動の第一歩です。税金を原資とする公共事業において、なぜ厳格な手続きが求められるのか、その背景にある公平性透明性の原則を解説します。

入札制度の目的と公平性の確保
  • 機会の均等と公正な競争
    公共工事では、特定の業者のみを優遇することなく、条件を満たした事業者に広く門戸を開くことで、価格と品質のバランスが取れた契約を目指します。

  • 競争契約の原則
    日本の会計法および地方自治法では、国や自治体が行う契約は競争契約が原則とされています。これにより、恣意的な業者選定を防ぎ、税金の無駄遣いを防止します。

入札参加資格(経営事項審査)の重要性

入札に参加するためには、建設業許可を持っているだけでは不十分であり、必ず経営事項審査(通称:経審)を受ける必要があります。経審とは、企業の経営状況や技術力を客観的な数値(点数)で評価する制度です。この点数(総合評定値P点)に基づき、企業はAランク、Bランクなどの格付けが行われ、参加可能な工事規模が決定されます。

表:経営事項審査の主な評価項目

評価項目(記号) 項目名称 概要と評価のポイント
X1 工事種類別年間平均完成工事高 建設業者としての施工実績の規模(売上高)。
X2 自己資本額・平均利益額 企業の財務体質の健全性や収益性。
Z 技術力 技術職員の数や元請工事の完成工事高。
W 社会性等 労働福祉の状況、法令遵守、防災活動への貢献度など。
P 総合評定値 上記を計算式に当てはめた総合評価点。ランク付けの基準。

入札参加資格の書類や法令を確認する建設会社の担当者

入札参加から落札までの基本的な流れ

入札情報の収集から落札、契約に至るまでのプロセスは、厳格なタイムラインに従って進行します。手続きのミスは入札無効につながるため、正確なフローを把握しておくことが重要です。ここでは、現在最も標準的な形式である一般競争入札をモデルケースとして、標準的な5つのステップを時系列で解説します。

入札参加の標準フロー(5ステップ)
  • 1. 入札情報の収集(公告の確認)
    自治体のホームページや入札情報サービス等で入札公告を確認します。工事概要、参加資格要件、工期、申請期限などを入念にチェックします。

  • 2. 仕様書・図面の入手と精査
    発注図書(仕様書、設計図面)を入手し、施工内容を詳細に把握します。不明点がある場合は、自己判断せず定められた期間内に質問書を提出します。

  • 3. 積算と見積もりの作成
    公表されている設計単価や歩掛(ぶがかり)に基づき、適正な工事費を算出(積算)します。安すぎる価格は低入札価格調査の対象となったり、失格となる場合があるため注意が必要です。

  • 4. 入札書の提出
    指定された日時・場所(現在は電子入札が主流)にて入札書を提出します。同時に工事費内訳書の提出が求められることが一般的です。

  • 5. 開札・落札者の決定
    開札が行われ、予定価格の範囲内で、かつ最低価格(または総合評価方式で最高点)を提示した業者が落札者となります。その後、落札決定通知を受け、正式に契約を締結します。

電子入札システムを使って入札書を提出する建設会社の担当者

入札業務は複数の法律によって規制されており、違反リスクを回避するためには全体像の把握が不可欠です。単に手続きを守るだけでなく、その背後にある法の趣旨を理解することが、コンプライアンス経営の基盤となります。ここでは、入札契約適正化法、独占禁止法、建設業法といった主要な法的枠組みについて解説します。

公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(入札契約適正化法)

この法律は、入札契約プロセスの透明化と、ダンピング受注(不当廉売)の防止を主な目的としています。採算割れするような低価格での受注は、下請け業者へのしわ寄せや手抜き工事(施工不良)を招く恐れがあるため、厳しく監視されます。発注者には入札結果の公表義務が、受注者には施工体制台帳の作成・提出が義務付けられています。

独占禁止法と入札談合等関与行為防止法

独占禁止法(独禁法)は、公正かつ自由な競争を促進するための法律です。入札においては、業者同士が事前に受注者や価格を決める談合(カルテル)が最大の規制対象です。また、発注側の公務員が関与する官製談合に対しては、入札談合等関与行為防止法により、関与職員への損害賠償請求や刑事罰が規定されています。

建設業法における請負契約のルール
  • 一括下請負(丸投げ)の禁止
    公共工事では、元請業者が実質的に施工に関与せず、下請け業者に工事を丸投げすることは原則として認められません。

  • 誠実な契約履行義務
    契約締結においては、信義に従い誠実に義務を履行する誠実義務が定められており、虚偽の申請や不正な手段での契約締結は厳しく処分されます。

公共工事における入札方式の種類と選び方

工事の規模や性質に応じて、一般競争入札、指名競争入札、随意契約など、採用される方式は異なります。自社が参加しようとしている案件がどの方式で実施されるのかを理解し、それぞれのメリットやデメリットを把握しておくことが重要です。近年は価格だけでなく技術力も評価する方式が増加しています。

表:主な入札方式の比較

入札方式 競争性 事務負担 適している工事規模・性質
一般競争入札 非常に高い 大きい 大規模工事、標準的な工事。条件を満たせば誰でも参加可能。
指名競争入札 限定的 中程度 特殊技術が必要な工事や災害時。発注者が業者を指名する。
随意契約 なし 小さい 少額工事、緊急工事、代替性のない技術を持つ特定業者との契約。
総合評価落札方式 高い 非常に大きい 技術提案が重要な工事。価格と品質(技術点)を総合的に評価する。

入札で絶対に避けるべき禁止事項とペナルティ

公共工事の入札において、ルール違反は企業の存続に関わる重大な問題です。意図的でなくとも、誤解を招く行動が致命的な結果をもたらすことがあります。具体的にどのような行為が談合や不正とみなされるのか、そして違反した場合にどのような社会的・法的制裁を受けるのか、リスク管理の観点から解説します。

談合行為とみなされる具体的なアクション(NG例)
  • 事前の受注調整
    入札前に他社と連絡を取り合い、受注予定者を話し合いで決める行為。

  • 貸し借りの約束
    「今回は降りてくれれば、次は譲る」といった約束を同業者間で交わす行為。

  • 情報の漏洩・交換
    自社の入札予定価格を他社に漏らす、または他社から聞き出す行為。業界団体の会合等での会話も注意が必要です。

違反した場合のペナルティ(指名停止・課徴金・刑事罰)

入札関連の法令に違反した場合、行政、刑事、民事の3方向から厳しいペナルティが科されます。

  • 行政処分(指名停止)
    一定期間(数ヶ月〜数年)、国や自治体の入札に参加できなくなります。これは公共工事を主力とする建設業者にとって、致命的な売上減を意味します。

  • 刑事処分
    公正取引委員会による刑事告発を受け、懲役刑や罰金刑が科される可能性があります。経営幹部だけでなく、担当者が逮捕されるケースもあります。

  • 民事上の責任・社会的制裁
    違反行為によって得た利益を没収する課徴金納付命令や、発注者からの損害賠償請求が発生します。さらに、報道による社会的信用の失墜は、民間工事の取引停止や融資引き上げにも波及します。

適正な入札を行うための社内体制の整備

法令違反を防ぎ、継続的に公共工事を受注するためには、個人の注意だけでなく組織的な仕組み作りが不可欠です。コンプライアンス遵守のためのルール策定や、情報の透明性を確保するための具体的な対策を提示します。これらは、万が一疑いをかけられた際の自己防衛策としても機能します。

  • 独占禁止法遵守マニュアルの作成と教育
    「競合他社とは価格の話をしない」「疑わしい会合には出席しない」といった具体的な行動規範を定め、全社員に周知徹底します。定期的な社内研修も有効です。

  • 入札情報の適正な管理と透明性
    積算業務においては、その価格を算出した根拠(見積書、計算過程のメモなど)を必ず記録・保存します。これは、後にダンピングや談合の疑いをかけられた際、自社の正当性を証明する重要な証拠となります。

  • チェック体制の強化
    入札担当者が一人で抱え込まないよう、複数名でダブルチェックを行う体制を作ります。組織的な監視とサポートが、個人の不正やミスを防止します。

まとめ

公共工事の入札は、企業の成長と安定にとって大きなチャンスですが、それは厳格なルールと高い倫理観の上に成り立っています。入札契約適正化法や独占禁止法などの関連法を正しく理解し、コンプライアンスを遵守することは、ペナルティを回避するだけでなく、発注者からの信頼を獲得し、長く安定して公共事業を受注するための最短ルートです。目先の利益にとらわれず、法を守る姿勢を貫くことが、結果として企業の持続的な発展につながります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 入札に参加するには最低限どのような資格が必要ですか?

基本的には、都道府県知事または国土交通大臣からの建設業許可を受けていることが大前提です。その上で、毎年経営事項審査(経審)を受けて客観的な評価点を取得し、各発注機関(自治体や省庁)の入札参加資格者名簿に登録申請を行い、認定される必要があります。

Q2. 「談合」を疑われないために普段から気をつけることは?

競合他社との接触には細心の注意が必要です。同業者との会合や電話、メールにおいて、特定の工事案件の価格、入札参加の意向、受注希望などについて具体的な話をすることは避けてください。また、自社の積算根拠を明確に書類として残し、独自に価格を算出したことを証明できるようにしておくことも重要な自己防衛策です。

Q3. 初めての入札でミスをしないためのポイントは?

公示されている入札説明書仕様書を隅々まで読み込むことが最優先です。提出書類の様式、期限、封筒の書き方など、細かなルールが定められています。不明点がある場合は自己判断せず、質問期間内に発注担当者へ公式に質問書を提出して確認してください。

[出典:公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(e-Gov法令検索)]
[出典:建設業法(e-Gov法令検索)]
[出典:私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(公正取引委員会)]

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