「電子納品」の基本知識

着工から竣工までの電子納品対応フローとは?全体の流れを解説


更新日: 2025/11/20
着工から竣工までの電子納品対応フローとは?全体の流れを解説

この記事の要約

  • 着工前の事前協議で基準とフォルダ構成を確定させることが成功の鍵
  • 施工中は日々の写真整理と図面のレイヤ管理・データ化を徹底する
  • 竣工時は支援ソフトでエラーを排除しウイルス検査後に媒体作成
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建設業界における電子納品の基礎知識と導入目的

建設DXの推進に伴い、公共工事において標準化されている電子納品ですが、その本質は単なる「紙のデジタル化」にとどまりません。ここでは、電子納品の定義や関連するガイドライン、導入によって得られるメリットについて、国土交通省の基準をもとに解説します。

電子納品の定義と国土交通省のガイドライン

電子納品とは、調査・設計・工事などの各業務段階における成果物(書類、図面、写真など)を、電子データとして納品することを指します。従来の紙媒体による大量のファイルを廃止し、特定のルールに基づいて電子データ化することで、情報の共有や再利用を促進する仕組みです。

このルールを定めたものが、国土交通省が策定する要領・基準(ガイドライン)です。主に以下の基準が適用されます。

  • 土木工事共通仕様書
    工事全般における技術的なルールを定めたもの。

  • 電子納品運用ガイドライン
    電子納品を行うための具体的な手順や運用ルールを定めたもの。

  • 各地方自治体のガイドライン
    国交省の基準をベースに、自治体独自ルールを加えたもの。

[出典:国土交通省「電子納品に関する要領・基準」]

業務効率化をはじめとする電子納品のメリット

電子納品は、発注者(国や自治体)と受注者(建設会社)の双方に大きなメリットをもたらします。

電子納品導入の主なメリット
  • 保管スペースの削減
    膨大な紙資料を保管する書庫が不要となり、省スペース化が実現します。

  • 検索性の向上
    必要な図面や書類をキーワード検索ですぐに見つけ出すことが可能です。

  • データの再利用
    維持管理や将来の改修工事において、過去のデータを容易に活用できます。

また、紙での納品と電子納品には、運用面で以下のような明確な違いがあります。

表:紙納品と電子納品の違い

項目 紙による納品 電子納品
納品形態 キングファイル等の紙媒体 CD-R、DVD-R等の電子媒体
保管場所 物理的な書庫・倉庫 サーバー、クラウド、ディスク
検索性 目視で探す必要があり時間がかかる ファイル名やキーワードで即座に検索可能
劣化 経年による破損、日焼けのリスクあり デジタルデータのため物理的劣化がない
再利用性 複写やスキャンが必要で手間がかかる データのコピー・加工が容易

【フェーズ別】着工から竣工までの電子納品対応フロー

電子納品の作業は、工事が終わってから慌てて開始するものではありません。着工前から竣工まで、工事の進捗に合わせて段階的に進めることが、手戻りのない納品への近道です。ここでは、時系列に沿って具体的な作業フローを解説します。

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STEP 1:着工前(事前協議とフォルダ構成の確認)

着工前に行う最も重要なタスクは、発注者との事前協議です。ここで決定したルールが、最終的な納品の合否を決定づけます。曖昧なまま進めると、竣工直前にすべてのファイル名を修正するような事態になりかねません。

着工前の重要アクション
  • 発注者との事前協議の実施
    工事打合せ簿などを利用し、監督職員(発注者)と適用基準などを具体的に決定します。

  • 適用する要領・基準(バージョン)の決定
    「令和〇年〇月版」など、契約図書に指定されたものを確認します。月単位で基準が異なる場合があるため注意が必要です。

  • 使用する電子納品支援ソフトの選定
    決定した基準(バージョン)に対応したソフトを準備します。

以下のチェックリストを活用し、漏れのない準備を行いましょう。

表:着工前に確認すべきチェックリスト

確認項目 具体的な確認内容 決定をおろそかにした場合のリスク
適用要領・基準 国土交通省、または各自治体ガイドラインの正確な年・月 バージョン違いによる全データの作り直しが発生する
図面ファイル形式 SXF(P21/SFC)のバージョン、およびオリジナルデータの要否 納品時にエラーが出る、または将来の再利用ができない
写真管理基準 黒板情報の有無、画素数(120万画素程度が標準)、参考図の分類 写真整理のやり直し、または写真の撮り直し(不可能)のリスク
納品媒体 CD-R、DVD-Rの種類、ラベル印字のフォーマット 媒体の買い直しや、ラベル貼り替えの手間が発生する
ウイルス対策 使用するソフト名、定義ファイルの更新頻度 納品データの受け取り拒否につながる

STEP 2:施工中(データの作成と日常的な管理)

施工中は、現場管理と並行して、日々の業務の中でデータを作成・整理し続けることが求められます。「後でまとめてやる」は禁物です。データ量が膨大になるため、日次のルーチンワークに組み込むことが重要です。

  • 日常的な写真撮影と整理
    撮影した写真は、その日のうちに支援ソフトへ取り込みます。「施工段階」「工種」「種別」「細別」といった分類に従って振り分けます。電子小黒板を使用すると、写真の中に工事情報(黒板情報)が埋め込まれるため、後の整理が自動化され、改ざん検知機能により信憑性も担保されます。

  • 図面データ(CAD)の修正とレイヤ管理
    施工段階で設計変更があった場合は、その都度CADデータを修正します。「CAD製図基準」に基づき、線種や文字サイズ、レイヤ(画層)の名前が正しく設定されているか確認します。

  • 書類のデジタル化(PDF化)と保管ルール
    施工計画書や打合せ記録簿などは、決裁完了後に速やかにPDF化します。スキャンしたデータの場合、傾きや汚れがないかを確認します。

  • 情報共有システム(ASP)を利用する場合の対応
    ASPを利用する場合、システム上のデータを最終的に電子納品形式で出力できるか確認し、二重管理を防ぎます。

STEP 3:竣工時(成果物のとりまとめと最終チェック)

工事が完了したら、これまでに作成したすべてのデータを集約し、納品用データセットを作成します。ここでの作業は「チェック」が中心です。

  • 納品データのフォルダ格納
    支援ソフトを利用し、PLAN(図面)、PHOTO(写真)、DRAWING(完成図)などの規定フォルダへデータを格納します。

  • 電子納品支援ソフトを使用したエラーチェック
    必ず支援ソフト搭載の「エラーチェック機能(キャリブレーション)」を実施してください。禁則文字や必須項目の入力漏れを検出・修正します。

  • ウイルスチェックの実施
    最新の定義ファイルに更新したウイルス対策ソフトで、納品データ全体の検査を行い、「ウイルスチェック実施証明書」を作成します。

  • 電子媒体への書き込みとラベル作成
    問題がなければ、指定された電子媒体(CD-R/DVD-R)に書き込み、表面に規定のラベルを印字します。

電子納品で管理が必要な主なデータとフォルダ構成

電子納品では、適当にフォルダを作ってデータを保存してはいけません。国土交通省の要領で定められた厳格なフォルダ構成とファイル命名規則に従う必要があります。ここでは主要な構成について整理します。

基本的なフォルダ構成と格納ルール

電子納品のルートディレクトリ(第一階層)の下には、以下のような規格化されたフォルダが配置されます。

  • ORG(オリジナル)
    編集可能な元データ(Word, Excelなど)を格納します。

  • PLAN(工事設計図書)
    施工計画書などのPDFファイルを格納します。

  • MEET(打合せ記録)
    協議記録などのPDFファイルを格納します。

  • PHOTO(工事写真)
    工事写真データ(JPEG)と写真管理情報(XML)を格納します。

  • DRAWING(完成図)
    完成図面データ(SXF形式など)を格納します。

また、ファイル名は基本的に半角英数字とハイフン(-)のみを使用します。日本語のファイル名は原則として禁止されています(※一部の運用ルールを除く)。また、文字数制限(ファイル名のみで何文字以内、パス全体で何文字以内など)も厳守する必要があります。

各データの形式と注意点

データの種類ごとに、納品すべき推奨フォーマットが決まっています。

表:データ種類ごとの推奨フォーマット一覧

データ種類 推奨フォーマット 注意点・備考
文書データ PDF 長期保存性を考慮し、フォント埋め込み等が推奨される。編集用としてWord/ExcelをORGフォルダに入れる場合もある。
工事写真 JPEG 編集・加工は厳禁。電子小黒板情報が含まれる場合はそのまま保持する。
図面データ SXF (P21, SFC) CADソフト独自の形式(dwg, jwwなど)ではなく、交換標準フォーマットであるSXF形式への変換が必須。
台帳データ XML 各データの属性情報(工事名、日付、場所など)を記述したテキストデータ。通常はソフトが自動生成する。

[出典:国土交通省「電子納品に関する要領・基準」]

失敗しない電子納品支援ソフトの選び方と活用法

電子納品を手作業(エクスプローラーでのフォルダ作成とテキストエディタでのXML記述)で行うことは、理論上可能ですが現実的ではありません。ここでは、専用ソフトの必要性と選び方を解説します。

手作業管理と専用ソフト利用の比較

手作業で管理する場合、数千枚に及ぶ写真のファイル名変更や、複雑なXML構造の記述において、ヒューマンエラーが避けられません。1文字でも間違えれば納品時にエラーとなり、再提出を求められます。これにかかる膨大な時間と修正コストは計り知れません。

一方、電子納品支援ソフトを利用すれば、写真の振り分けやファイル名の自動変換、XMLの自動生成が可能となり、工数を大幅に削減できます。エラーチェック機能も搭載されているため、品質の担保も容易です。

自社に合ったソフト選定のポイント

ソフトを選ぶ際は、自社の業務内容や対応する発注者に合わせて選定します。

表:ソフト選定時の比較基準

比較基準 確認すべきポイント
対応している基準・要領の範囲 国交省だけでなく、農林水産省や自社が受注する自治体の独自基準に対応しているか。
連携機能 使用しているCADソフトや写真管理アプリとスムーズにデータ連携できるか。
サポート体制 エラーが出た際や操作が不明な時に、電話やリモートでのサポートが受けられるか。
コスト体系 初期費用のみの「買い切り型」か、常に最新版が使える「サブスクリプション型」か。

電子納品業務でよくある不安やトラブルへの対処法

電子納品において、検査時に指摘されやすいトラブルや、作業中のよくあるエラーへの対処法をまとめました。読者の「もし間違えたらどうしよう」という不安を解消するためのポイントです。

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エラーチェックで頻出する問題と解決策

支援ソフトのエラーチェック機能でよく検出される項目とその解決策です。

  • ファイル名やフォルダ名の禁則文字使用
    全角文字、スペース、特殊記号(/, *, ?, ", <, >, |)が含まれているとエラーになります。半角英数字とハイフンのみに修正します。

  • 必須項目の入力漏れ(管理項目など)
    工事名、施工業者名、着手日などのXML情報が空欄の場合に発生します。事前協議資料を確認し、正確に入力します。

  • 図面のレイヤ設定ミスや未消去データ
    CAD製図基準で定められたレイヤ以外にデータが存在する場合や、不要なゴミデータ(極小の線など)が残っている場合に指摘されます。CADソフトの「CAD製図基準チェック機能」で修正します。

検査時に指摘されやすいポイント

データの中身だけでなく、付随する情報も検査対象です。

最終検査時の注意点
  • 電子小黒板の改ざん検知情報
    デジタル工事写真の信憑性を証明するため、改ざん検知結果のリストやハッシュ値の確認を求められることがあります。

  • 納品媒体のラベル記載内容の不備
    CD/DVDの盤面に記載する情報(工事件名、作成年月、施工者名など)に誤字脱字がないか確認します。手書きではなく、専用ラベルへの印刷が一般的です。

  • 最終的なウイルスチェック証明書の有無
    証明書の日付が古い、または定義ファイルが最新でない場合、受領を拒否されることがあります。納品直前に実施し、最新の証明書を添付します。

まとめ:電子納品の全体フローを理解してスムーズな竣工を目指す

電子納品は、竣工間際の一時的な作業ではなく、工事期間全体を通じた情報管理プロセスです。スムーズな納品を実現するためには、以下のポイントを徹底してください。

  • 着工前の準備(事前協議)
    ここでの決定事項がすべての基準となります。不明点は曖昧にせず、必ず発注者と合意形成を図ってください。

  • 日々の積み重ね
    写真整理や図面修正を溜め込まず、日常業務に組み込むことで、竣工直前の残業やミスを大幅に減らせます。

  • 適切なツールの活用
    信頼できる電子納品支援ソフトを選定し、機能をフル活用することで、品質の確保と効率化を両立させてください。

  • 最新情報の確認
    国土交通省や自治体のガイドラインは定期的に改定されます。常に最新の基準を確認する意識を持ちましょう。

電子納品に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 電子納品支援ソフトは必ず使わなければなりませんか?

必須ではありませんが、強く推奨されます
手作業でXMLファイルを作成し、数千枚のデータの整合性を取ることは極めて困難であり、ミスの原因となります。業務効率と品質確保の観点から、実務上はほとんどの現場で支援ソフトが導入されています。

Q2. 途中で担当者が変わる場合のデータ引き継ぎのコツは?

フォルダ構成と命名ルールの共有を徹底することです。
属人化したフォルダ管理を行っていると、後任者がデータを探せなくなります。着工時に決めたフォルダ構成に従ってデータを格納し、どこまで整理が終わっているかを明確にした「引継書」を作成することをお勧めします。

Q3. 電子納品したデータはいつまで保存する必要がありますか?

契約内容や社内規定によりますが、一般的には「瑕疵担保期間(契約不適合責任期間)」以上は保存します。
発注者へ納品した後も、問い合わせ対応や将来の改修工事の参考資料として活用するため、社内サーバーやクラウドストレージ等で厳重にバックアップ・保管しておくのが一般的です。

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