CIMとICT施工の違いとは?連携による効果を解説

この記事の要約
- CIMとICT施工の決定的な違いを比較
- CIMとICT施工の連携が生む具体的メリット
- 建設DXの核となるCIMの基本概念を解説
- 目次
- 1. CIMとは?基本的な概念をわかりやすく解説
- CIM(Construction Information Modeling/Management)の定義
- CIMが目指すもの:建設プロセス全体の最適化
- BIM/CIMとの関係性
- 2. ICT施工とは?CIMとの関連性を解説
- ICT施工の定義
- ICT施工の主な技術要素
- 3. CIMとICT施工の主な違いを徹底比較
- 目的と対象範囲の違い【表で整理】
- 活用されるデータの「粒度」と「目的」の違い
- よくある誤解:「CIM = ICT施工」ではない理由
- 4. CIMとICT施工を連携させるメリットと効果
- メリット1:設計データ(CIM)のシームレスな活用による施工精度の向上
- メリット2:施工データのCIMへのフィードバックによる進捗管理の高度化
- メリット3:プロセス全体の「見える化」による手戻りの削減
- 5. CIM導入・連携における読者のよくある不安と解決策
- 不安1:「導入コストや運用コストが高いのではないか?」
- 不安2:「専門知識を持つ人材がいない、教育が大変」
- 不安3:「既存の業務フローを大幅に変える必要があるか?」
- 6. まとめ:CIMとICT施工の連携で建設業の未来を拓く
- 7. CIMに関するよくある質問(Q&A)
1. CIMとは?基本的な概念をわかりやすく解説
建設業界で耳にする機会が増えた「CIM(シム)」ですが、その正確な定義を理解されているでしょうか。CIMは単なる3Dモデル作成技術ではありません。プロジェクトの全工程に関わる情報を一元化し、生産性を飛躍的に高めるための「仕組み」そのものを指します。ここでは、CIMの基本的な概念と目的について解説します。
CIM(Construction Information Modeling/Management)の定義
CIMとは、「Construction Information Modeling/Management」の略称です。
この名前が示す通り、CIMは単に3次元のモデル(Modeling)を作成するだけではありません。計画、調査、設計段階で作成した3次元モデルに、部材の仕様、コスト、工程、維持管理情報といった様々な「属性情報」を紐づけます。
そして、その情報を施工、さらには維持管理の段階まで一貫して活用・共有(Management)していくための情報活用の仕組み(プラットフォーム)全体を指します。従来の2次元図面では難しかった情報の集約と、関係者間でのシームレスな情報連携を実現します。
CIMが目指すもの:建設プロセス全体の最適化
CIMが最終的に目指すのは、建設生産プロセス全体の最適化です。
3次元モデルを「情報の器」として活用することで、以下のような効果を実現します。
・ 合意形成の円滑化:3Dモデルにより完成形が視覚的にわかりやすくなり、発注者や地域住民、関連業者との合意形成がスムーズに進みます。
・ 手戻りの防止:設計段階で部材同士の干渉チェック(干渉チェック)や施工手順のシミュレーションが可能となり、施工現場での手戻りや設計変更を大幅に削減します。
・ 生産性と品質の向上:一元化された正確な情報を基に施工を行うことで、作業効率と品質が向上します。
・ 維持管理の高度化:竣工後もCIMモデルを引き継ぐことで、修繕履歴や点検情報を紐づけ、効率的かつ高度な維持管理が実現できます。
このように、CIMはプロジェクトのライフサイクル全体を見据えた最適化を目指す概念です。
BIM/CIMとの関係性
CIMと非常によく似た言葉に「BIM(ビム)」があります。
・ BIM(Building Information Modeling):主に建築分野(ビルや商業施設など)で発展してきた情報モデリングの仕組みです。
・ CIM(Construction Information Modeling):BIMの概念を土木分野(道路、橋梁、ダム、河川など)に適用・発展させたものです。
土木分野では、建築物とは異なり、広範な地形データや地盤情報などを扱う必要があります。CIMは、こうした土木特有の要素に対応するために発展してきました。
現在、国土交通省は建築分野の「BIM」と土木分野の「CIM」を統合し、「BIM/CIM(ビムシム)」として建設業界全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を強力に推進しています。2023年度からは公共工事においてBIM/CIM原則適用が開始されるなど、その重要性は急速に高まっています。
[出典:国土交通省「BIM/CIMポータルサイト」]
2. ICT施工とは?CIMとの関連性を解説
CIMと並んで頻繁に用いられるのが「ICT施工」です。これは、CIMという「仕組み」の上で活用される、より具体的かつ現場に近い「技術」を指します。国土交通省が推進する「i-Construction(アイ・コンストラクション)」の中核をなす技術であり、建設現場の生産性向上に欠かせません。ここではICT施工の定義と、CIMとどう関連するのかを解説します。
ICT施工の定義
ICT施工とは、情報通信技術(Information and Communication Technology)を活用して、建設現場の測量、設計、施工、検査といったプロセスを高効率・高精度に行う取り組みの総称です。
CIMがプロジェクト全体の「マネジメント」に主眼を置いているのに対し、ICT施工は特に「施工」段階における生産性向上、安全性向上、省人化に焦点を当てた具体的な技術や手法を指します。
代表的な例が、ドローンによる測量や、GPSを活用して自動で動くICT建機(情報化施工機械)です。これらにより、従来の「人手と経験」に頼っていた作業をデジタル技術で代替・支援します。
[出典:国土交通省「i-Construction」]
ICT施工の主な技術要素
ICT施工は、主に以下の4つのステップ(技術要素)で構成されています。
1. ICT測量(3次元測量)
ドローン(UAV)や地上型レーザースキャナを使用し、広範囲の現況地形を迅速かつ高精度に測量します。これにより、3次元の地形データを取得します。
2. ICT設計・施工計画(3次元設計データの作成)
ICT測量で得た3次元地形データと設計図面を基に、PC上で3次元の設計データを作成します。このデータが、後のICT建機の「お手本」となります。
3. ICT施工(ICT建機による施工)
3次元設計データをICT建機(ブルドーザ、油圧ショベルなど)に取り込みます。
・ マシンガイダンス(MG):オペレーターに設計面までの距離や位置をモニターで知らせ、操作を補助します。
・ マシンコントロール(MC):GPSや自動制御技術により、建機のブレードやバケットの動きを自動で制御し、設計データ通りに施工します。
4. ICT検査(3次元出来形管理)
施工後、再びドローンやレーザースキャナで現場を測量します。取得した3次元データと、当初の3次元設計データを比較することで、施工精度(出来形)を迅速かつ面で評価・管理します。
3. CIMとICT施工の主な違いを徹底比較
CIMとICT施工は、どちらも建設DXに不可欠な要素ですが、その役割と目的は明確に異なります。CIMは「全体を管理する情報基盤(仕組み)」、ICT施工は「現場で実行する具体的な技術(手段)」と理解すると分かりやすいでしょう。両者の決定的な違いを、目的、対象範囲、扱うデータの観点から比較・解説します。
目的と対象範囲の違い【表で整理】
CIMとICT施工の最大の違いは、目的と対象とするプロジェクトの範囲(フェーズ)にあります。
CIMがプロジェクトの計画から維持管理まで、ライフサイクル全体を見据えた情報管理を目指すのに対し、ICT施工は主に「施工」段階の効率化・自動化に特化しています。
CIMとICT施工の比較表
| 比較項目 | CIM (Construction Information Modeling/Management) | ICT施工 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 建設生産プロセス全体の情報共有、効率化、高度化、合意形成 | 施工段階の自動化、省人化、精度向上、安全性向上 |
| 対象フェーズ | 計画・調査・設計~施工~維持管理(ライフサイクル全体) | 主に施工段階(測量、設計、施工、検査) |
| 役割 | プロジェクト全体の「情報基盤」「データベース」 | 現場での「実行手段」「効率化ツール」 |
活用されるデータの「粒度」と「目的」の違い
両者が扱うデータの「中身(粒度)」にも違いがあります。
・ CIMが扱うデータ
形状や位置情報に加え、豊富な「属性情報」を含みます。
例:部材の材質、強度、メーカー、価格、耐用年数、点検履歴、施工時期など。
目的:プロジェクト全体のコスト管理、工程管理、シミュレーション、将来の維持管理への活用。
・ ICT施工が扱うデータ
主に「位置情報」と「形状情報」が中心です。
例:設計図面の3次元座標、地形データ、建機の現在位置など。
目的:ICT建機を設計データ通りに正確に動かすこと、施工後の出来形を計測すること。
CIMモデルに含まれる豊富な情報のうち、ICT施工では「施工に必要な位置・形状データ」を抽出して使用する、というイメージです。
よくある誤解:「CIM = ICT施工」ではない理由
建設業界では「CIM」と「ICT施工」がセットで語られることが多いため、しばしば混同されがちですが、「CIM = ICT施工」ではありません。
両者の関係性を正しく理解することが重要です。
- CIMとICT施工の関係性
・ CIM:プロジェクト全体の情報を一元化する「情報基盤(プラットフォーム)」
・ ICT施工:CIMという基盤の上で、施工段階において情報を活用する「具体的なアプリケーション(手段)の一つ」
CIMで管理される情報は、ICT施工だけでなく、積算、工程管理、安全管理、発注者協議、維持管理など、プロジェクトのあらゆる場面で活用されることを前提としています。ICT施工は、その多様な活用法の中で、特に「施工」の効率化を担う重要な技術なのです。
4. CIMとICT施工を連携させるメリットと効果
CIMという「情報基盤」と、ICT施工という「実行手段」は、それぞれ単体でも効果を発揮しますが、両者を連携させることで、その効果は最大化されます。設計から施工、検査に至るまでのデータフローがシームレスに繋がることで、従来の建設プロセスを根本から変革する力が生まれます。
メリット1:設計データ(CIM)のシームレスな活用による施工精度の向上
CIMとICT施工の連携により、設計情報がそのまま施工に直結し、高精度な施工が実現します。
従来は、2次元の設計図面を基に、現場で「丁張り(ちょうはり)」と呼ばれる基準の杭や板を設置し、それを目安に作業を行っていました。これには熟練の技術と多くの手間が必要で、ヒューマンエラーの要因にもなっていました。
CIMとICT施工の連携では、CIMで作成した3次元設計データを、直接ICT建機に取り込みます。
これにより、建機はGPSやセンサーで自らの位置を把握し、「設計データに対してあと何cm掘ればよいか」を自動で判断(またはオペレーターに指示)します。結果として、丁張り作業の大幅な削減・不要化が実現し、熟練度に関わらず高精度な施工が迅速に行えるようになります。

メリット2:施工データのCIMへのフィードバックによる進捗管理の高度化
「ICT施工 → CIM」への情報フィードバックにより、リアルタイムな進捗管理と高精度なデータ分析が可能になります。
ICT建機が作業した履歴(「いつ」「どこを」「どれだけ」掘削・盛土したか)や、ドローンで毎日測量した現場の状況は、デジタルデータとして蓄積されます。
この「施工実績データ」をCIMモデルに反映させることで、以下が実現します。
・ リアルタイムな進捗の可視化:設計モデルと実績データを重ね合わせることで、進捗状況が一目でわかります。
・ 土量の正確な把握:日々の土工量を正確に算出し、ダンプトラックの手配やコスト管理が最適化されます。
・ 設計との差異の早期発見:万が一、設計通りに施工されていない箇所があっても即座に発見でき、早期に対応できます。
メリット3:プロセス全体の「見える化」による手戻りの削減
CIMとICT施工の連携は、設計から施工、検査に至るまでの建設プロセス全体を「見える化」し、根本的な手戻りを削減します。
設計段階ではCIMモデルで施工手順をシミュレーションし、施工段階ではICT施工で設計通りに実行、検査段階では3次元データで実績を管理します。
すべての情報が3次元モデル(CIM)に関連付けられて一元管理されるため、関係者間(発注者、設計者、施工者)での情報共有が飛躍的にスムーズになります。
「図面が古かった」「指示が伝わっていなかった」といったミスコミュニケーションや、「現場でやってみたら干渉して作業できなかった」といった手戻りを防ぎ、プロジェクト全体の生産性向上に大きく寄与します。
5. CIM導入・連携における読者のよくある不安と解決策
CIMとICT施工の連携は強力なメリットをもたらしますが、導入には「コスト」「人材」「業務フローの変更」といった現実的な壁が存在します。多くの企業が「何から手をつければいいのか」「自社でも本当に活用できるのか」といった不安を抱えています。ここでは、それらの具体的な不安に対する解決策や現実的な考え方を紹介します。
不安1:「導入コストや運用コストが高いのではないか?」
課題:
CIM対応の3D CADソフトウェア、ICT建機、ドローン、レーザースキャナなど、初期投資は決して安くありません。また、ソフトウェアのライセンス費用など、継続的な運用コストも発生します。
解決策・考え方:
- 長期的な視点での投資対効果(ROI)の試算:導入コストだけでなく、丁張り作業の削減、工期短縮、手戻り防止による将来的なコスト削減効果を試算することが重要です。多くの場合、初期投資を上回るリターンが期待できます。
- 補助金・助成金の活用:国や地方自治体は、建設業のDXを推進するため、IT導入補助金やものづくり補助金など、様々な支援制度を用意しています。これらの活用を積極的に検討しましょう。
- レンタルやリース:高額なICT建機や測量機器は、いきなり購入するのではなく、レンタルやリースから始めることで初期コストを抑えられます。
不安2:「専門知識を持つ人材がいない、教育が大変」
課題:
3D CADを扱える技術者や、ICT施工を管理できる現場監督など、新たなスキルセットを持つ人材が必要です。既存の社員への教育にも時間とコストがかかります。
解決策・考え方:
- スモールスタートとOJT:最初から全社的に導入するのではなく、特定のプロジェクトや一部の工程(例:ドローン測量だけ)から試験的に導入(スモールスタート)し、実務を通じたOJT(On-the-Job Training)でノウハウを蓄積します。
- 外部研修・ベンダーサポートの活用:ソフトウェアベンダーや専門の研修機関が提供するトレーニングプログラムを活用し、効率的にスキルを習得します。また、導入時の手厚いサポート体制を持つベンダーを選ぶことも重要です。
- 役割分担とアウトソーシング:すべての業務を自社で完結させようとせず、高度なモデリングやデータ解析は専門のコンサルタントに外注(アウトソーシング)し、自社は「データの活用」に専念するという選択肢もあります。
不安3:「既存の業務フローを大幅に変える必要があるか?」
課題:
長年慣れ親しんだ2次元図面ベースの業務フローから、3次元モデルベースのフローへ移行することへの抵抗感や、プロセスの再構築が課題となります。
解決策・考え方:
- 段階的な移行:まずは従来の2次元図面とCIMモデルを併用する期間を設け、徐々にCIMの比重を高めていくなど、段階的な移行計画を立てます。
- 「守り」と「攻め」のDX:既存の業務フローを守りつつ、ICT施工などで部分的に効率化する「守りのDX」から始めることも有効です。
- 業務プロセス見直しの好機と捉える:CIM/ICT施工の導入は、非効率なまま残っていた従来の業務プロセス(BPR:ビジネスプロセス・リエンジニアリング)を見直す絶好の機会です。トップダウンで変革の必要性を共有し、全社的に取り組むことが成功の鍵となります。
6. まとめ:CIMとICT施工の連携で建設業の未来を拓く
本記事では、CIMとICT施工の違い、そして両者を連携させることの重要性について解説しました。最後に、本記事の要点をまとめます。
- 本記事のまとめ
・ CIMとは
建設プロセス全体の「情報管理の仕組み(基盤)」です。
3次元モデルに属性情報を紐づけ、計画から設計、施工、維持管理までの全工程で情報を活用・共有します。・ ICT施工とは
主に施工段階における「効率化・自動化の手段(ツール)」です。
ドローン測量やICT建機など、情報通信技術を使って現場作業を高精度・高効率に行います。・ 両者の関係性
「CIM = ICT施工」ではありません。
CIMという情報基盤(プラットフォーム)の上で、ICT施工という具体的な技術(アプリケーション)が活用されます。・ 連携の効果
CIMの設計データをICT施工で活用し、高精度な施工を実現します。
ICT施工で得た実績データをCIMにフィードバックし、進捗管理を高度化します。
結果として、プロセス全体の手戻りが削減され、生産性が飛躍的に向上します。
CIMとICT施工は、建設業界が直面する人手不足や働き方改革といった課題を解決し、より安全で魅力的な産業へと変革するための両輪です。
まずは両者の違いと関係性を正しく理解し、自社の課題解決や将来のビジョンに合わせて、できるところから導入を検討することが、未来の競争力を確保するための第一歩となるでしょう。
7. CIMに関するよくある質問(Q&A)
Q. CIMの導入は義務ですか?
A. 現状、すべての工事で義務化されているわけではありません。しかし、国土交通省は公共工事における「BIM/CIM原則適用」を強力に推進しており、対象となる工事の範囲は年々拡大しています。2023年度からは小規模を除く全ての公共工事で原則適用が開始されました。将来的には業界標準となる可能性が非常に高いため、義務化の有無に関わらず、早期の取り組みが推奨されます。
Q. 中小企業でもCIMやICT施工は導入できますか?
A. 導入可能です。CIMやICT施工というと大規模なシステムや高額な機材が必要と思われがちですが、中小企業でも導入できるソリューションは増えています。例えば、ドローンによる測量のみを導入する、比較的安価な3D CADソフトから始める、ICT建機はレンタルで利用するなど、自社の業務内容や規模に合わせてスモールスタートを切る企業も多数あります。IT導入補助金などの支援策を活用することも有効な手段です。
Q. CIMとBIMの違いは具体的に何ですか?
A. 基本的な概念(3次元モデルと情報を連携させる仕組み)は同じです。主な違いは、対象とする「分野」にあります。
・ BIM (Building Information Modeling):主に「建築分野」(ビル、マンション、商業施設など)で発展しました。
・ CIM (Construction Information Modeling/Management):主に「土木分野」(道路、橋梁、ダム、河川、トンネルなど)で発展しました。
土木分野では、建築物とは異なり、広大で不整形な「地形」や「地盤」といった自然条件を扱う必要があります。そのため、CIMではこれらのデータを3次元モデルと高精度に統合する技術が重視される点に特徴があります。現在、国土交通省は両者を「BIM/CIM」として統一的に推進しています。




