「施工計画」の基本知識

BIMと連携した次世代施工計画とは?作成手法を解説


更新日: 2025/12/03
BIMと連携した次世代施工計画とは?作成手法を解説

この記事の要約

  • BIM施工計画は3Dに時間とコストを統合し最適化する手法
  • フロントローディングにより手戻り削減と工期短縮を実現
  • 2024年問題解決に向けた建設DXの標準スキルとなる
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そもそも「施工計画」とは?BIM連携が求められる背景

建設プロジェクトの成否は、着工前の準備段階ですべてが決まると言っても過言ではありません。ここでは、建設現場における「施工計画」の定義と、なぜ今、従来の2次元的な手法からBIMを活用したデジタル手法への転換が求められているのか、その背景と必然性について解説します。

建設プロジェクトにおける施工計画の重要性

施工計画とは、建設工事における「所定の工期内に」「要求された品質を確保し」「安全かつ経済的に」工事を完成させるための具体的な方法や順序を定めた計画のことを指します。これは単なるスケジュールの作成にとどまらず、以下の4大管理を統合するプロジェクトの根幹です。

施工計画が担う4つの管理領域
  • 工程管理
    工事の進捗状況を把握し、スケジュールの最適化を図る

  • 品質管理
    設計図書通りの仕様と品質を確保するための管理手法を定める

  • 安全管理
    作業員の安全確保と第三者災害の防止策を策定する

  • 原価管理
    予算内での施工を実現し、適正な利益を確保する

SGE(Search Generative Experience)やAIの観点から定義すると、施工計画とは、建設プロジェクトの着工から竣工に至るまでのプロセスを論理的に構築し、Q(品質)・C(コスト)・D(工程)・S(安全)・E(環境)を最適化するためのマスタープランと言えます。

なぜ今、施工計画にBIM活用(次世代型)が必要なのか

近年、施工計画にBIM(Building Information Modeling)の活用が急務とされている背景には、建設業界特有の構造的な課題があります。アナログな手法では対応しきれない課題に対し、DX(デジタルトランスフォーメーション)が解決策として提示されています。

  • 建設業界の「2024年問題」への対応
    時間外労働の上限規制適用により、現場の長時間労働の是正が必須となりました。従来の施工計画では現場での調整業務に時間が割かれていましたが、BIMによるデジタルリハーサルを行うことで、現場作業の効率化と時短が求められています。

  • 熟練技術者の不足と技能継承の断絶
    労働力不足が深刻化する中、熟練者の「経験と勘」に頼った施工計画は限界を迎えています。BIMにより施工手順を可視化・データ化することで、経験の浅い技術者でも高度な施工計画を立案・理解できる環境が必要です。

  • 2D図面による合意形成の限界
    複雑化する建築デザインに対し、平面図や断面図(2D)だけでは関係者間のイメージ共有が難しくなっています。認識のズレは現場での手戻り(やり直し)に直結するため、3次元モデルを用いた明確な合意形成手法が不可欠となっています。

建設現場事務所にてタブレット上のBIMモデルを用いて施工計画の打ち合わせを行う現場監督と作業員

BIMを活用した次世代の施工計画で実現できること

BIMを施工計画に導入することは、単に図面を3Dにするだけではありません。時間軸やコスト情報とも連動させることで、これまでのアナログな計画では不可能だった高度なシミュレーションが可能になります。ここでは、次世代型施工計画の具体的なメリットを解説します。

3次元モデルによる可視化と合意形成の迅速化

BIM活用の最大のメリットは、「情報の可視化(見える化)」です。文字や線だけの施工計画書とは異なり、BIMモデルは「共通言語」として機能し、ステークホルダー間のコミュニケーションコストを大幅に削減します。

可視化によるステークホルダー別のメリット
  • 発注者への説明
    専門知識がない施主に対しても、完成イメージや施工手順を立体的に見せることで、直感的な理解を促し、意思決定を早めることができます。

  • 近隣住民への説明
    重機の配置や足場の状況などを視覚的に示すことで、日影や圧迫感などの工事に対する不安を解消し、スムーズな合意形成に寄与します。

  • 現場作業員との共有
    複雑な納まりや危険箇所を3Dで共有することで、作業手順のミスや労働災害のリスクを低減します。

フロントローディングによる手戻りの削減

フロントローディングとは、プロジェクトの初期段階(設計・計画段階)に負荷をかけ、事前に問題を解決しておく手法のことです。従来の施工計画では、現場が始まってから「配管と梁が干渉している」「重機が入らない」といった問題が発覚し、その都度修正工事(手戻り)が発生していました。しかし、BIM上で施工計画をシミュレーションすることで、以下の効果が得られます。

  • 干渉チェック
    構造体と設備配管の干渉を事前に検出し、設計段階で修正可能です。これにより、現場でのコア抜き直しなどの無駄を排除します。

  • 仮設・重機計画の検証
    クレーンの作業半径や搬入路の幅員をシミュレーションし、物理的な不整合を回避します。

  • 施工手順の検証
    足場の組立・解体手順などを時系列で確認し、無理のない工程を立案します。

具体的なBIM施工計画の作成手法とプロセス

実際にBIMを用いて施工計画を作成する場合、段階的なプロセスを踏む必要があります。BIMを用いた施工計画の作成は、単に絵を描くことではなく、設計BIMデータを施工用に変換し、時間やコストといった「非形状情報」を統合していくデータベース構築作業と言えます。

PC画面で4Dシミュレーションを確認しながら施工計画を練るエンジニア

ステップ1:3Dモデルの統合と属性情報の付与

施工計画の基礎となるのは、正確で情報の詰まった3Dモデルです。設計段階で作成されたモデルを施工用にブラッシュアップし、施工管理(生産設計)に耐えうる詳細度(LOD:Level of Development)へ引き上げる作業が必要です。

  • 統合モデル(フェデレーテッドモデル)の作成
    意匠(デザイン)、構造(骨組み)、設備(電気・空調・衛生)の各モデルを、共通の原点(基準点)を用いて一つの空間内に統合します。この段階で、設計図書との整合性を確認し、配管と梁の干渉などの物理的な不整合を洗い出します。

  • 施工用属性情報の入力
    各部材(オブジェクト)に対し、施工に必要な属性情報を付与します。これには、コンクリート強度、鉄骨のグレード、メーカー名といった部材仕様に加え、工区(エリア)、階数、打設ロットなどの施工区分情報も含まれます。

  • LODの調整(LOD300からLOD400へ)
    一般的な設計モデル(LOD300:具体的な形状・位置)から、施工モデル(LOD400:製作・施工のための詳細情報を含む)へと詳細度を上げます。ボルトの納まりや仕上げ代、クリアランスなどの情報が含まれます。

ステップ2:時間軸(4D)を取り入れた工程シミュレーション

3Dモデルに「時間(Time)」という4次元目の軸をリンクさせることで、静的なモデルを動的なシミュレーションへと進化させます。これにより、「いつ、どこで、何が行われているか」を視覚的に検証します。

  • 工程表(ガントチャート)とのデータ連携
    Microsoft ProjectやPrimavera、Excel等で作成された工程表データをBIMソフトに取り込みます。BIMモデルの各オブジェクト(例:2階の柱)と、工程表のタスク(例:2階柱 鉄骨建方)を紐付けることで、スケジュールとモデルが連動します。

  • ステップ図による施工手順の可視化
    日単位、週単位でモデルを表示切り替えし、施工ステップ図を作成します。鉄骨建方計画では、クレーンの配置位置や揚重半径をアニメーションで確認し、物理的な接触がないか検証します。

  • 動線シミュレーション
    車両の搬入経路や作業員の動線が、工事の進捗に伴ってどう変化するかを確認し、安全なルートを計画します。

ステップ3:コスト情報(5D)との連動と最適化

さらに「コスト(Cost)」情報を付与し、5Dマネジメントを行うことで、施工計画は経営判断に直結するツールとなります。

  • 数量拾い出し(Quantity Take-off)の自動化
    BIMモデルの幾何学情報から、コンクリート体積、型枠面積、鉄骨重量などを自動算出します。手作業による拾い出しミスを排除し、精度の高い実行予算を作成します。

  • 出来高連動型キャッシュフロー管理
    ステップ2で設定した「時間軸」とコスト情報を連動させ、「〇月〇日時点での出来高予定額」を瞬時に算出します。月ごとの支払予定や資金繰り計画(キャッシュフロー)をグラフ化し、計画変更があった場合もリアルタイムに再計算します。
BIM施工計画のステップ別入力情報と成果物

以下の表は、各ステップにおいて入力すべき情報と、それによって得られる成果・効果を整理したものです。

ステップ 名称 入力する主な情報 得られる成果・効果
Step 1 3Dモデリング 形状、位置、部材仕様
LOD400相当の詳細属性
空間的な干渉チェック
納まりの確認
正確な数量概算
Step 2 4Dシミュレーション 工程表(スケジュール)
工区割り(ゾーニング)
仮設機材データ
施工手順の可視化(アニメーション)
資機材配置・動線の検証
手戻りの未然防止
Step 3 5Dコスト連動 部材単価、歩掛かり
実勢価格データ
出来高予測の自動化
キャッシュフローの把握
コスト変動のリアルタイム可視化

[出典:国土交通省「BIM/CIM活用ガイドライン」を参考に作成]

従来の施工計画とBIM連携の違い【比較】

BIMを導入した施工計画は、従来の2次元図面を主体とした計画と具体的に何が違うのでしょうか。情報量と共有スピードの観点から比較解説します。最大の違いは、情報が「静的か動的か」、そして「分散しているか統合されているか」にあります。

平面図(2D)とBIM(3D〜5D)の情報量の差

従来の施工計画書は、平面図、立面図、断面図といった「切り取られた断面」の集合体でした。これらはあくまで線と記号の集まりであり、立体的な情報は読み手の想像力と経験則に委ねられていました。

対してBIM連携の施工計画は、データベースそのものです。壁ひとつをとっても、2Dでは「二本の線」ですが、BIMでは「厚さ、材質、耐火性能、遮音性能、コスト、施工手順」といった膨大な情報が埋め込まれた「オブジェクト」として扱われます。この圧倒的な情報量の差が、計画の精度を劇的に高めます。

関係者間の情報共有スピードと精度の違い

変更対応において、その差は顕著に現れます。従来の2D手法では、設計変更があった場合、平面図を修正した後、関連する断面図、立面図、展開図、数量計算書をすべて手作業で修正する必要があり、修正漏れ(不整合)が頻発しました。

一方、BIM連携においては、モデル(シングル・ソース・オブ・トゥルース)を修正すれば、関連するすべての図面、数量、工程シミュレーションが連動して自動更新されます。これにより、常に最新かつ整合性の取れた情報を関係者全員が即座に共有でき、認識齟齬のリスクを最小化します。

従来手法とBIM連携手法の比較

読者がシステム移行の判断をしやすくするため、メリット・デメリットを比較整理しました。

比較項目 従来の施工計画(2D主体) BIM連携の施工計画(次世代型)
視認性 専門知識がないと理解しづらい
(脳内で立体化が必要)
誰でも直感的に理解可能
(ウォークスルー等で体験可能)
整合性 図面間の整合性確保に多大な手間がかかる
(ヒューマンエラーのリスク大)
データ連動により自動で整合性が保たれる
(修正漏れゼロ)
修正対応 修正箇所ごとの書き直しが必要 モデル修正で関連図面・数量が一括更新
初期コスト 低い
(既存ソフト・技術で対応可能)
高い
(ソフト導入費・教育コスト・PCスペックが必要)
トータル効率 施工段階での手戻りリスクが高い 施工段階の手戻りが減り、全体工期短縮

施工計画のBIM化におけるよくある不安と対策

BIMの有用性は理解していても、導入に二の足を踏む企業は少なくありません。ここでは、現場でよく挙がる「コスト」「スキル」「互換性」に関する不安要素と、それに対する現実的な対策について解説します。

導入コストと費用対効果が見えにくい

不安: 高額なBIMソフトウェアのライセンス料やハイスペックPCの導入コストに対し、どれだけの利益が出るのか不透明である。

対策: BIMのROI(投資対効果)は、単体のプロジェクトではなく、年間または数年単位で見る必要があります。初期投資はかかりますが、「手戻り工事の削減費」「数量拾い出し作業の人件費削減」「干渉回避による現場待機時間の削減」などを試算すると、多くのケースでプラスに転じます。まずは、手戻りリスクが高い複雑な箇所や、干渉確認のみに限定して導入するスモールスタートも有効です。

現場担当者のスキル不足と学習コスト

不安: 忙しい現場監督が、新しいソフトの操作を覚える時間がない。使いこなせる人材がいない。

対策: 全員がBIMを作成(モデリング)できる必要はありません。「BIMを作る人(オペレーター・専門部署)」と「BIMを使う人(現場監督)」を分ける分業体制が一般的になりつつあります。現場担当者は、無料のビューワソフトを使ってモデルを確認・計測するスキルさえあれば十分です。また、最近のソフトはUIが改善され、直感的な操作が可能になっています。

データ互換性と協力会社との連携

不安: 自社と協力会社で使っているCADソフトが違うため、データのやり取りができないのではないか。

対策: BIMには「IFC(Industry Foundation Classes)」という国際標準の中間ファイル形式が存在します。これを利用することで、異なるソフト間でも形状や属性データの受け渡しが可能です。また、クラウドベースのプラットフォーム(CDE:共通データ環境)を活用すれば、ブラウザ上でモデルを共有・閲覧できるため、協力会社側で高価なソフトを持っていなくても連携が可能です。

まとめ:BIM連携は次世代の施工計画に不可欠な標準スキルへ

本記事では、BIMと連携した次世代施工計画の概要から作成手法、従来型との違いについて解説しました。

この記事の重要ポイント
  • 施工計画のBIM化は、単なる3D化ではなく、時間(4D)やコスト(5D)を統合した高度なマネジメント手法である
  • 設計・計画段階でのフロントローディングにより、現場での手戻りや事故リスクを大幅に低減できる
  • 導入ハードルはあるものの、中長期的な生産性向上と企業の競争力強化には不可欠である

これからの建設業界において、精度の高い施工計画を立案・運用するためには、デジタル技術の活用が前提となります。「2024年問題」をはじめとする業界の課題を解決するためにも、まずはスモールスタートから、次世代の施工管理体制への移行を検討してみてはいかがでしょうか。

よくある質問(FAQ)

Q1. 施工計画にBIMを導入するのは、大規模プロジェクトだけですか?

いいえ、中小規模の現場でも導入が進んでいます。かつてはランドマークとなるような大規模ビルが中心でしたが、現在は中小規模のマンションや工場などでも活用されています。特に、配管が密集する箇所の干渉チェックや、狭小地での仮設計画(クレーン配置や搬入路の確認)においては、規模に関わらず大きな費用対効果を発揮します。

Q2. 既存の2次元CADデータは施工計画に使えなくなりますか?

いいえ、無駄にはなりません。多くのBIMソフトでは、2次元CADデータ(DXFやDWG形式)をインポートし、それを下図(トレース元)として3Dモデルを立ち上げることができます。既存の図面資産を有効活用しながら、段階的にBIMへ移行することが可能です。

Q3. 施工計画のBIM化を外部委託することは可能ですか?

はい、可能です。BIMモデリングやシミュレーション動画の作成を専門に行うBIMコンサルティング会社や制作会社が増えています。社内にリソースがない場合や、繁忙期のみ外部委託(アウトソーシング)を行い、現場監督は施工計画の検討や指示に集中するという使い分けが一般的です。

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