現場で使える施工計画書のフォーマットとは?活用法も紹介

この記事の要約
- 施工計画書の法的義務とQCDSを守る目的を解説
- 標準的な記載項目9選と実用的な構成案を網羅
- 効率的な作成手順3ステップと最適ツールの選び方
- 目次
- 施工計画書とは?作成する目的と重要性
- 施工計画書が果たす役割
- 法律および契約上の位置づけ
- 施工計画書に盛り込むべき標準的な記載項目
- 全体計画とプロジェクト概要
- 施工方法と品質管理の計画
- 安全衛生管理と環境対策
- 効率的な施工計画の作成手順と流れ
- 1. 事前調査と設計図書の確認
- 2. 施工計画案の作成と社内検討
- 3. 発注者(監理技術者)への提出と承諾
- 施工計画でよくある失敗と対策ポイント
- 工程の無理とリソース不足
- 安全対策の具体性欠如
- 変更管理の不徹底
- 施工計画の作成ツール比較と選び方
- Excel・Wordなどの汎用ソフト
- 施工管理システム・専用クラウドツール
- まとめ
- 施工計画に関するよくある質問
- Q1. 施工計画書の提出期限はいつですか?
- Q2. 変更があった場合、都度書き直しが必要ですか?
- Q3. 小規模な工事でも施工計画書は必要ですか?
施工計画書とは?作成する目的と重要性
施工計画書は、工事を着手する前に「どのように工事を進めるか」を具体的に定めた指針であり、現場運営の要となる文書です。単なる発注者への提出書類として処理するのではなく、その作成目的と重要性を正しく理解することが、現場の成功への第一歩となります。
施工計画書が果たす役割
施工計画書の最大の役割は、工事現場におけるQCDS(品質・原価・工程・安全)の目標を達成するための具体的なプロセスを可視化することです。
設計図書(図面や仕様書)には「何を作るか」が描かれていますが、「どうやって作るか」は明記されていません。施工計画書は、現場の条件や制約を考慮し、最適な施工手順、必要な機材、人員配置、安全対策などを具体化するものです。これにより、関係者間での情報の共有、認識の統一が図られ、手戻りやトラブルを未然に防ぐことができます。
- 施工計画書による4つの管理要素
- 品質(Quality)
設計図書に示された品質規格を満たすための管理方法を定める。 - 原価(Cost)
効率的な施工方法を選定し、無駄なコストを削減する。 - 工程(Delivery)
工期内に完了させるための詳細なスケジュールを策定する。 - 安全(Safety)
作業に伴うリスクを洗い出し、具体的な災害防止対策を講じる。
- 品質(Quality)
法律および契約上の位置づけ
施工計画書の作成は、法律および契約によって義務付けられています。
建設業法においては、一定規模以上の工事について、施工体制台帳の作成などと共に、適正な施工を確保するための計画が求められます。特に公共工事においては、公共工事標準請負契約約款にて、受注者は工事着手前に施工計画書を作成し、発注者(または監督員)に提出して承諾を得なければならないと明確に規定されています。
これは、発注者が工事の履行を確認するための根拠資料となるだけでなく、万が一事故やトラブルが発生した際に、適切な安全管理や施工管理が行われていたかを証明する重要な法的エビデンスとしての側面も持ちます。
- 関連する主な法令・基準
- 建設業法
適正な施工の確保と施工体制の整備。 - 公共工事標準請負契約約款
工事着手前の提出と承諾義務。 - 労働安全衛生法
特定元方事業者の安全衛生管理計画としての側面。
- 建設業法
施工計画書に盛り込むべき標準的な記載項目
施工計画書には、工事の規模や工種に応じて必要な項目を漏れなく記載する必要があります。ここでは、国土交通省のガイドラインや一般的な建設工事で標準とされる構成要素について、各セクションの記載ポイントを解説します。このフォーマットをベースに、現場の実情に合わせて加筆・修正してください。
全体計画とプロジェクト概要
施工計画書の冒頭には、工事の全体像を把握するための基本情報を記載します。誰が読んでも「何の工事を、どこで、いつまで、どのような体制で行うか」が一目でわかるようにまとめる必要があります。
- 工事概要
工事名称、工事場所、工期、発注者名、設計者名、施工者名、契約金額などを記載します。 - 計画工程表
全体工程表(バーチャートやネットワーク工程表)を用い、着工から完成までの主要なマイルストーンやクリティカルパスを明示します。 - 現場組織図
現場代理人、監理技術者(または主任技術者)、各担当者、協力会社の体制を体系図として整理し、指揮命令系統と緊急連絡網を明確にします。
施工方法と品質管理の計画
ここが施工計画書の技術的な核となる部分です。採用する工法や手順、品質を担保するための管理基準を具体的に記述します。
- 施工方法
主要な工種ごとに、作業フロー、使用機械の仕様、仮設計画(足場、支保工など)、施工手順を詳細に記述します。イラストや図解を入れると理解度が向上します。 - 品質管理計画
各工程で管理すべき項目(寸法、強度、温度など)、測定方法、測定頻度、管理基準値(規格値および社内管理値)を定めます。「品質管理計画書」として独立させる場合もあります。 - 使用資材・機械
使用する主要資材のメーカー、規格、JIS等の適合証明、使用する重機の性能などをリスト化します。
安全衛生管理と環境対策
現場周辺の第三者や作業員の安全を守り、周辺環境への負荷を低減するための計画です。
- 安全衛生管理
安全施工サイクル(朝礼、KY活動など)、安全教育訓練計画、有資格者の配置、労働災害防止協議会の運営、特定のリスク(高所作業、重機作業など)に対する安全対策を記載します。 - 環境対策
騒音・振動対策、粉じん飛散防止対策、建設副産物(廃棄物)の処理計画、水質汚濁防止対策などを、周辺環境の調査結果に基づいて立案します。地域住民への配慮事項もここに含めます。

- 施工計画書の基本構成リスト
読者がコピーして使えるよう、一般的な目次構成を整理します。
- 1. 工事概要
工事名、場所、工期、発注者等の基本情報 - 2. 計画工程表
全体工程、月間・週間工程の計画 - 3. 現場組織表
現場代理人、主任技術者、緊急連絡体制 - 4. 指定機械
使用する重機・車両の規格と性能 - 5. 主要資材
使用する主要な材料の規格・数量 - 6. 施工方法
工種ごとの施工手順、使用機材、留意点 - 7. 品質管理
品質管理項目、頻度、管理基準値 - 8. 安全衛生管理
安全対策、災害防止活動、有資格者配置 - 9. 環境対策
騒音、振動、粉塵、廃棄物処理の計画
- 1. 工事概要
効率的な施工計画の作成手順と流れ
質の高い施工計画書を効率的に作成するためには、いきなり書き始めるのではなく、十分な準備と手順を踏むことが重要です。ここでは、情報収集から承認に至るまでの標準的なフローを3つのステップで解説します。
1. 事前調査と設計図書の確認
計画書を作成する前の準備段階です。机上の設計図書と実際の現場状況に乖離がないかを確認し、施工条件を整理します。
- 契約図書の照査
設計図、特記仕様書、現場説明書を読み込み、工事の制約条件(時間制限、使用可能エリアなど)や品質規格を把握します。不明点は質疑応答書で発注者に確認します。 - 現場条件の調査
実際の現場に赴き、搬入路の幅員、近隣状況、埋設物、架空線、敷地の高低差などを調査します。 - 関連法規の確認
道路使用許可、騒音規制法など、工事に関連する法令や届出の必要性を確認します。
2. 施工計画案の作成と社内検討
収集した情報を基にドラフト(案)を作成し、組織として実現可能性を検証します。
- ドラフト作成
過去の類似工事のデータや社内の標準フォーマットを活用し、仮定の工程や工法を組み込みます。 - VE(バリューエンジニアリング)提案
コストダウンや工期短縮につながる代替案があれば検討します。 - 社内検討会
現場担当者だけでなく、社内の技術部門や上長を交えてレビューを行います。「工程に無理がないか」「安全対策は十分か」を客観的にチェックし、計画をブラッシュアップします。
3. 発注者(監理技術者)への提出と承諾
完成した計画書を発注者へ提出し、正式な承諾を得て初めて工事が可能になります。
- 提出
契約約款で定められた期限(一般的には工事着手前)までに提出します。 - 協議と修正
発注者や監理技術者(監督員)からの指摘事項や修正指示があれば、速やかに対応し、再提出します。 - 承諾と周知
承諾を得た計画書は、現場の関係者(協力会社、職長など)に配布・説明し、内容を周知徹底させます。計画書は作って終わりではなく、現場全員が理解することが重要です。
施工計画でよくある失敗と対策ポイント
施工計画書はあくまで「計画」ですが、机上の空論になってしまうと現場が混乱し、最悪の場合は事故につながります。ここでは、施工計画において陥りやすい失敗例と、それを防ぐための対策を紹介します。
工程の無理とリソース不足
最も多い失敗が、希望的観測に基づいた無理な工程計画です。「天候不順がない前提」や「最大限の作業効率」で工程を組むと、少しのトラブルで破綻します。
- 失敗例
雨天による遅延を考慮していなかったため、工程挽回のために無理な残業や突貫工事が発生し、品質低下を招いた。 - 対策
過去の気象データを参考に雨天不稼働日を見込む、余裕率(バッファ)を持たせた工程を組む。また、繁忙期における作業員や資材の確保確実性を事前に確認する。
安全対策の具体性欠如
安全対策がスローガンや精神論に終始しており、具体的な物理対策が欠けているケースです。
- 失敗例
「転落に注意して作業する」としか記載がなく、具体的な手すりの設置場所や安全帯の使用基準が明記されていなかったため、現場で是正指示を受けた。 - 対策
リスクアセスメントを行い、危険箇所を特定した上で、「開口部には高さ◯◯cmの手摺を設置」「◯m以上の高所作業ではフルハーネス型安全帯を使用」など、具体的な設備やルールを記述する。
変更管理の不徹底
工事中に設計変更や条件変更があったにもかかわらず、施工計画書が修正されていない状態です。
- 失敗例
工法が変更になったが計画書は当初のままだったため、品質管理基準が合わず、検査記録の整合性が取れなくなった。 - 対策
「計画変更時のルール」をあらかじめ定めておく。軽微な変更であれば記録に残すのみとし、重要な変更であれば変更施工計画書を作成・提出するフローを徹底する。
施工計画の作成ツール比較と選び方
施工計画書を効率的に作成するためには、適切なツールの選定が欠かせません。従来型の汎用ソフトと、近年普及が進む専用クラウドツールの特徴を比較し、自社の現場に適した方法を選びましょう。

Excel・Wordなどの汎用ソフト
多くの建設会社で標準的に使用されている方法です。
- 汎用ソフトの特徴
- メリット
追加コストがかからない、自由度が高く独自のレイアウトが作りやすい、多くの人が操作に慣れている。 - デメリット
過去データの検索・流用が面倒、ファイル管理が煩雑になり最新版がわからなくなる(先祖返り)、属人化しやすくノウハウが共有されにくい。
- メリット
施工管理システム・専用クラウドツール
施工管理に特化した機能を持つSaaSなどのツールです。
- 専用クラウドツールの特徴
- メリット
標準テンプレートが充実しており作成時間を短縮できる、過去の類似工事の計画書を簡単に参照・コピーできる、クラウド上でリアルタイムに共有・承認が可能。 - デメリット
導入コスト(月額費用など)がかかる、操作を覚えるための教育が必要、自由度が低く独自の書式に対応しにくい場合がある。
- メリット
各ツールの特徴を比較表にまとめました。現場の規模や予算に合わせて選定してください。
| ツール種類 | コスト | 自由度 | 共有・管理 | 向いている現場 |
|---|---|---|---|---|
| Excel / Word | 低 | 高 | 難 (ファイル管理煩雑) |
小規模工事 単発工事 独自の書式指定がある場合 |
| 専用クラウドツール | 中~高 | 中 (標準化重視) |
易 (リアルタイム) |
中~大規模工事 複数現場の管理 標準化を進めたい組織 |
まとめ
施工計画書は、単に工事を始めるための「通行手形」ではなく、現場の品質、原価、工程、安全(QCDS)をコントロールするための「現場運営のシナリオ」です。
フォーマットに沿って穴埋め作業をするだけでなく、以下のポイントを意識して作成することが重要です。
- 具体性
抽象的な表現を避け、数値や図解を用いて誰でも理解できるように書く。 - 実効性
現場の実情に即した、実現可能な計画(工程、安全対策)を立てる。 - 共有
作成して終わりではなく、作業員末端まで内容を周知・徹底する。
適切なツールを活用して作成業務を効率化し、空いた時間を現場の巡視やコミュニケーションに充てることで、より安全で質の高い施工を実現してください。
施工計画に関するよくある質問
Q1. 施工計画書の提出期限はいつですか?
A: 一般的には工事着手前に提出し、承諾を得る必要があります。公共工事標準請負契約約款では、具体的な日数が特記仕様書等で指定されることが多いため、契約書を確認してください。余裕を持って作成し、事前協議を行うことが望ましいです。
Q2. 変更があった場合、都度書き直しが必要ですか?
A: 変更の程度によります。工法や工程、安全対策の根幹に関わる重要な変更が生じた場合は、速やかに「変更施工計画書」を作成し、再提出・承諾を得る必要があります。軽微な変更については、発注者との協議により、打合せ簿などでの記録で済む場合もあります。
Q3. 小規模な工事でも施工計画書は必要ですか?
A: 基本的には工事の規模に関わらず、適正な施工を確保するために必要です。ただし、小規模工事や軽微な工事の場合、発注者の承諾を得て、記載項目を簡略化した「簡易な施工計画書」での提出が認められることがあります。詳細は発注者または監督員に確認してください。
[出典:公共工事標準請負契約約款]
[出典:建設業法]
[出典:国土交通省 土木工事共通仕様書]





