工種ごとの施工計画とは?作り方と記載内容の違いを解説

この記事の要約
- 総合施工計画書と工種別施工計画の違い
- 工種ごとの施工計画を作成する5ステップ
- 主要工種による記載内容と安全対策の比較
- 目次
- そもそも「工種ごとの施工計画」とは?総合施工計画書との違い
- 総合施工計画書:プロジェクト全体の基本方針
- 工種別施工計画書:各工事の詳細な実行計画
- 目的と作成者の違い
- なぜ工種ごとの施工計画が必要なのか?その重要性
- 専門性の高い品質・安全の確保
- 現場作業員への具体的な指示の明確化
- リスクの具体化と対策の徹底
- 工種ごとの施工計画の基本的な作り方(5ステップ)
- 1. 【STEP1】上位計画(総合施工計画書)の確認
- 2. 【STEP2】図面・仕様書・関連法令の精査
- 3. 【STEP3】施工方法と使用機械・資材の決定
- 4. 【STEP4】人員配置と施工体制の計画
- 5. 【STEP5】品質・安全・工程管理の具体化
- 【徹底比較】主要工種ごとの記載内容の違いとポイント
- まとめ:工種ごとの特性を理解し、実効性のある施工計画を
- 施工計画に関するよくある質問
そもそも「工種ごとの施工計画」とは?総合施工計画書との違い
建設プロジェクトにおける「施工計画」には、大きく分けて2種類あります。それはプロジェクト全体を管理する「総合施工計画書」と、各専門工事の詳細を定めた「工種別施工計画書」です。まずは、それぞれの役割と目的の違いを明確に理解しましょう。(読者のよくある不安・比較検討)
総合施工計画書:プロジェクト全体の基本方針
プロジェクト全体(全工種)の基本的な進め方、全体工程、品質管理・安全管理の統一方針などを定めた、元請業者が作成する計画書です。これは、工事全体の憲法やマスタープランに相当し、プロジェクトに関わるすべての企業が遵守すべき基本ルールを示します。
工種別施工計画書:各工事の詳細な実行計画
総合施工計画書の方針に基づき、特定の工種(例:土工事、鉄筋工事、コンクリート工事など)について、具体的な施工方法、使用機械、人員配置、詳細な安全対策などを定めた計画書です。多くの場合、専門工事会社(サブコン)や元請の専門部署が作成し、その工種を実行するための具体的な「作業指示書」となります。
目的と作成者の違い
総合施工計画書と工種別施工計画書の違いについて、目的、範囲、作成者、内容の粒度の観点から以下の表に整理します。
| 比較項目 | 総合施工計画書 | 工種別施工計画書 |
|---|---|---|
| 目的 | プロジェクト全体の統一管理 | 特定工種の具体的・詳細な実行 |
| 対象範囲 | 全工種 | 特定の工種(土工事、鉄筋工事など) |
| 主な作成者 | 元請業者(総合建設業) | 専門工事会社(サブコン)、元請の工種担当 |
| 記載内容の粒度 | 大局的・方針中心 | 具体的・詳細・専門的 |
なぜ工種ごとの施工計画が必要なのか?その重要性
総合施工計画書があるにもかかわらず、なぜ工種ごとに詳細な施工計画書を別途作成する必要があるのでしょうか。それは、プロジェクトの品質、安全、工程を確実なものにするために不可欠な3つの重要な理由があるからです。
- 工種ごと施工計画の3つの重要性
・専門性の高い品質・安全の確保:工種特有の技術要求や潜在的リスク(例:鉄筋のかぶり厚さ)に対応できます。
・現場作業員への具体的な指示の明確化:抽象的な方針を具体的な作業手順に落とし込み、手戻りやミスを防ぎます。
・リスクの具体化と対策の徹底:工種特有の危険作業を特定し、詳細な安全対策を計画することで事故を未然に防ぎます。
専門性の高い品質・安全の確保
工種ごとに特有の技術的な要求事項や潜在的リスクが存在します。例えば、鉄筋工事における「かぶり厚さ」の確保や、コンクリート工事の「打設順序・養生方法」などです。工種ごとの施工計画は、これらの専門的な知見に基づいた品質・安全管理基準を具体的に定めることで、施工不良や事故を未然に防ぐ役割を果たします。
現場作業員への具体的な指示の明確化
総合施工計画書では方針や目標が中心となり、現場の作業員への指示としては抽象的になりがちです。工種ごとの施工計画では、「誰が」「何を」「いつ」「どのような手順と機材で」作業するかを明確に文書化します。これにより、作業員は迷うことなく正確な作業を実行でき、手戻りやミスの防止、生産性の向上に繋がります。
リスクの具体化と対策の徹底
建設現場では、高所作業、重機作業、掘削作業など、工種特有の危険作業が数多く存在します。工種ごとの施工計画は、これらのリスクを具体的に特定し、使用する保護具、作業手順、緊急時の対応などを詳細に計画に落とし込むために必要です。これにより、現場レベルでの安全意識と対策の徹底が図られ、労働災害の防止に直結します。
工種ごとの施工計画の基本的な作り方(5ステップ)
工種別施工計画書を作成する際の、基本的な流れを5つのステップで解説します。上位計画との整合性を保ちつつ、具体的で実効性のある計画を作成することが重要です。このプロセスは、国土交通省の各地方整備局が示す「[工事施工計画書作成要領]」(PDF)などでも標準的な手順として示されています。(HowTo構造)

1. 【STEP1】上位計画(総合施工計画書)の確認
まず、元請業者から提示された「総合施工計画書」を熟読します。プロジェクト全体の基本方針、全体工程、品質・安全に関する統一基準(特にKY活動のルールや使用する安全設備の基準など)を正確に把握します。作成する工種別施工計画が、この上位計画と矛盾しないことが絶対条件です。
2. 【STEP2】図面・仕様書・関連法令の精査
担当する工種の設計図、仕様書(特記仕様書を含む)を徹底的に確認します。要求されている品質基準、使用材料、寸法、工法などをすべて洗い出します。同時に、建設業法、労働安全衛生規則、および関連する専門技術指針など、遵守すべき法令や基準も確認し、計画に反映させます。
3. 【STEP3】施工方法と使用機械・資材の決定
図面や仕様書、現場の制約条件(敷地の広さ、搬入経路、周辺環境など)に基づき、最も効率的かつ安全な具体的な施工手順(工法)を決定します。
・施工手順:作業の開始から完了までを時系列で具体化します。
・使用機械:使用する重機(クレーン、バックホーなど)の型式、能力、台数、配置計画を定めます。
・使用資材:必要な資材の規格、数量、品質証明(ミルシートなど)の確認方法、搬入計画、保管場所を定めます。
・例:使用クレーンの型式と吊り荷の重量計算、コンクリートの配合計画と打設ロットの分割案、足場の組立手順など。
4. 【STEP4】人員配置と施工体制の計画
施工を円滑に進めるための体制を構築します。必要な作業員の人数、必要な保有資格(例:玉掛け、足場組立て等作業主任者、移動式クレーン運転士など)をリストアップします。さらに、現場代理人、主任技術者(または監理技術者)、安全管理者、各作業班の職長など、指揮命令系統を明確にした「施工体制図(組織図)」を作成します。
5. 【STEP5】品質・安全・工程管理の具体化
施工計画の実効性を担保する、管理体制の核心部分です。「何を(What)」「いつ(When)」「誰が(Who)」「どのように(How)」管理するかを具体的に記載します。
・品質管理:
・管理項目:鉄筋の径・本数、コンクリート強度など。
・管理基準値:仕様書に基づく許容誤差(例:鉄筋のピッチ±10mm)。
・検査方法と頻度:管理項目ごとのチェックタイミング(施工前・中・後)、検査方法(目視、実測、試験)。
・記録方法:管理帳票、施工写真の撮影基準。
・安全管理:
・工種特有のリスクの洗い出し(リスクアセスメント)。
・具体的な安全対策:墜落防止設備の設置、重機との接触防止策、使用する保護具の指定。
・安全教育計画、KY活動(危険予知活動)の重点項目。
・緊急時の連絡体制と対応フロー。
・工程管理:
・工種内の詳細な作業スケジュール(日単位)。
・他工種(前後の作業)との調整事項、作業ヤードの調整計画。
【徹底比較】主要工種ごとの記載内容の違いとポイント
施工計画は、工種によって「特に重点を置くべき項目」が大きく異なります。ここでは主要な工種である「仮設工事」「土工事」「鉄筋工事」「コンクリート工事」を例に、記載内容のポイントと、特に注意すべき安全対策の違いを具体的に比較します。
これらの基準は、国土交通省が定める「[公共建築工事標準仕様書]」や「[土木工事共通仕様書]」などの技術基準に基づき、現場の状況に合わせて具体化する必要があります。

【主要工種別 施工計画の重点項目比較表】
| 工種 | 主な記載内容と重点管理項目 | 特に注意すべき安全対策 |
|---|---|---|
| 仮設工事 | ・足場の種類(枠組、単管等)、構造、強度計算 ・仮囲い、仮設事務所、仮設電気・水道の配置計画 ・使用部材の品質管理(認定品か、変形・腐食はないか) ・盛替え、解体の手順 |
・足場の組立・解体時の墜落・転落防止対策(作業主任者の選任、安全帯の使用徹底) ・強風、悪天候時の部材飛散防止措置(シートの結束、資材の固定) ・第三者(公衆)災害の防止(仮囲いの点検、部材の落下防止) |
| 土工事 (掘削・埋戻) |
・掘削工法(オープンカット、山留め工法等)、掘削順序 ・山留め支保工の計画、点検方法、変位計測計画 ・湧水、地下水の排水計画(排水ポンプの選定、水質管理) ・埋戻し材の品質(土質)、転圧方法(締固め度)の管理 |
・掘削機械(バックホー等)と作業員、ダンプトラックとの接触防止(作業半径内の立入禁止、誘導員の配置) ・土砂崩壊防止(山留めの点検、法面勾配の管理、土質の監視) ・酸欠、有毒ガス対策(深さ1.5m以上の地山掘削作業における酸素濃度測定) |
| 鉄筋工事 | ・使用鉄筋の規格、品質証明(ミルシート)の確認方法 ・鉄筋の加工寸法、組立手順(配筋要領図) ・品質管理項目(かぶり厚さ、あき、継手長さ、定着長さ)の確保策 ・結束方法、スペーサーの材質・配置計画 |
・鉄筋の運搬・荷揚げ時の玉掛け、合図の徹底 ・足場の悪い場所(配筋上)での作業時の転倒、踏み抜き ・鉄筋の端部(切断箇所、配筋の先端)による切創・突刺し防止(保護キャップの装着) |
| コンクリート工事 | ・コンクリートの配合計画、受入検査計画(スランプ、空気量等) ・打設順序、打設方法(ポンプ車の配置、バイブレータの仕様) ・コールドジョイント、初期ひび割れ防止策 ・養生計画(養生方法、期間、温度・湿度管理) ・型枠・支保工の組立・解体時期、強度確認方法 |
・コンクリートポンプ車のアウトリガー設置(地盤の確認)、ブームの電線・障害物への接触防止 ・コンクリート打設時の飛沫による目への傷害防止(保護メガネの着用) ・型枠解体時の部材の落下防止、支保工解体時の手順遵守 |
まとめ:工種ごとの特性を理解し、実効性のある施工計画を
工種ごとの施工計画書は、総合施工計画書の方針を現場の具体的な作業に落とし込むための「実行指示書」であり、プロジェクトの品質と安全を担保する生命線です。
その工種特有のリスクや品質管理の急所を正確に把握し、「誰が読んでも」「何をすべきか」が明確に分かるように作成することが、建設プロジェクト全体の成功の鍵となります。
- 実効性のある施工計画書作成の5ステップ
- 【STEP1】上位計画(総合施工計画書)の確認
- 【STEP2】図面・仕様書・関連法令の精査
- 【STEP3】施工方法と使用機械・資材の決定
- 【STEP4】人員配置と施工体制の計画
- 【STEP5】品質・安全・工程管理の具体化
本記事で解説した「作成の5ステップ」と「工種ごとの違い」を参考に、現場の状況に合わせた、実効性のある施工計画書の作成にお役立てください。
施工計画に関するよくある質問
施工計画書の作成や運用に関して、現場担当者が抱きやすい一般的な質問とその回答をまとめます。
Q1. 工種別施工計画書は、いつまでに作成・提出すべきですか?
A1. 一般的に、その工種の作業を開始する前(多くの場合は1〜2週間前)までに作成し、元請業者の内容確認と承認を得る必要があります。具体的な提出期限は、元請業者との契約や総合施工計画書で定められていることが多いため、必ず事前に確認してください。承認プロセスに時間がかかる場合もあるため、早めの準備が肝心です。
Q2. すべての工種で個別に作成する必要がありますか?
A2. プロジェクトの規模や重要度、契約内容によります。特に品質や安全に大きな影響を与える主要な工種(土工事、鉄筋工事、コンクリート工事、仮設工事、鉄骨工事など)は、個別に作成されることがほとんどです。一方、比較的軽微な作業や、他の工種に付随する作業については、関連する工種の施工計画書に含めるか、別途簡易な作業手順書(指示書)で対応する場合もあります。
Q3. 作成した施工計画書は、どのように活用すればよいですか?
A3. 作成して承認を得るだけでは不十分です。最も重要なのは、その内容を現場の作業員全員に周知徹底することです。朝礼でのKY活動(危険予知活動)や作業前のミーティング(TBM)などで、その日の作業に関する施工計画の内容(特に具体的な手順、急所、安全上の注意点)を日々確認し、共有することが事故防止と品質確保に繋がります。




