「施工計画」の基本知識

施工計画書の作り方とは?3ステップと注意点を解説


更新日: 2025/11/04
施工計画書の作り方とは?3ステップと注意点を解説

この記事の要約

  • 施工計画書の目的と重要性を解説
  • 作成手順を3ステップで分かりやすく
  • 失敗しないための注意点とQ&A

そもそも施工計画書とは?【施工計画の基本】

施工計画書が工事全体で果たす役割と、その基本的な定義について解説します。なぜこの書類が必要なのか、その重要性や目的を明確にし、類似する施工要領書などとの違いも比較しながら、施工計画の全体像を掴みます。

施工計画書の目的と重要性

施工計画書は、工事を安全かつ円滑に進めるための「総合的な設計図」とも言える重要な書類です。その目的は多岐にわたり、プロジェクト成功の基盤となります。

主な目的と重要性は以下の通りです。

品質の確保:
設計図書や仕様書で要求される品質を、現場でどのように実現するかを具体的に計画します。使用材料、施工方法、検査体制などを明確にし、一定の品質基準をクリアするための方針を定めます。
安全の確保:
工事現場に潜むあらゆる危険(リスク)を事前に洗い出し、それに対する具体的な安全対策(仮設計画、使用機械の安全措置、作業員への教育など)を計画します。関係者全員の安全を守るために不可欠です。
工程の遵守:
定められた工期内に工事を完了させるための詳細なスケジュールを計画します。各工種の作業順序や所要日数、人員配置などを最適化し、無理・無駄のない工程管理を目指します。
原価の管理:
設定された予算内で工事を完了させるため、実行予算に基づいたリソース(人、モノ、カネ)の管理方法を計画します。資材の調達計画や労務管理も含まれます。
発注者や関係者への説明責任:
「このような計画に基づいて工事を進めます」という内容を発注者(施主)や関係機関に明示し、承認を得るための根拠資料となります。透明性を確保し、信頼関係を築く上でも重要です。

これら全ての要素を網羅した施工計画を文書化することで、関係者全員が同じ目標と手順を共有し、組織的かつ効率的に工事を進めることが可能になります。

施工計画書と関連書類の違い

建設現場では施工計画書以外にも多くの書類が作成されますが、特に「施工要領書」や「作業手順書」としばしば混同されます。これらの役割の違いを理解することは、適切な施工管理に不可欠です。

以下の表で、それぞれの書類の主な目的と作成単位の違いを整理します。

【施工計画書・施工要領書・作業手順書の比較】

書類名 主な目的・内容 作成単位
施工計画書 工事全体の計画(品質、安全、工程、環境など) 工事全体
施工要領書 特定の「工種」に関する詳細な施工方法や手順 工種ごと(例:鉄筋工事、型枠工事)
作業手順書 個々の「作業」の具体的な手順と安全上の注意 作業ごと(例:クレーン作業、足場組立)

簡単に言えば、施工計画書が工事全体の「方針・概要」を示す最上位の計画であるのに対し、施工要領書は特定の工種(例:鉄筋工事)をどう行うかの「マニュアル」、作業手順書は個々の作業(例:クレーンでの荷揚げ)の「具体的な手順と安全指示」を示すもの、と階層的に理解すると分かりやすいでしょう。

施工計画書に記載すべき主な項目

施工計画書に記載すべき項目は、工事の種類や規模、発注者の要求によって異なりますが、一般的には以下の項目が含まれます。

施工計画書の主な記載項目一覧

・工事概要(工事名、場所、工期、発注者・受注者名など)
・計画工程表(バーチャート、ネットワーク工程表など)
・現場組織表(指揮命令系統、各担当者の役割、緊急連絡網)
・指定機械(使用するクレーンや重機などの仕様・配置)
・主要資材・材料(使用する材料の品質規格、搬入計画)
・施工方法(主要工種の施工方針、手順の概要)
施工管理計画(品質管理、出来形管理、写真管理の方法・基準)
安全衛生管理計画(安全体制、危険予知活動(KYK)、安全教育、仮設計画、交通対策など)
・交通管理計画(公道使用の有無、資材搬入出経路、交通誘導員の配置)
・緊急時の体制・連絡網(事故、災害発生時の対応フロー)
・環境対策(騒音、振動、粉じん対策、産業廃棄物の処理計画)

特に公共工事においては、国土交通省が定める「公共建築工事標準仕様書」や「土木工事共通仕様書」などで、施工計画書に記載すべき標準的な項目が示されています。これらの基準を参考にすることで、網羅的で精度の高い計画書を作成できます。

[出典:国土交通省「公共建築工事標準仕様書」]

施工計画書の作り方3ステップ

ここでは、実際に施工計画書を作成するための具体的な手順を3つのステップで解説します。情報収集から始まり、内容の検討、そして最終的な書類作成と承認プロセスまで、施工計画を形にするための流れを順序立てて説明します。

ステップ1:必要書類と情報の収集

施工計画書は、ゼロから作り出すものではありません。まずは、計画の土台となる「インプット情報」を徹底的に収集・整理することから始めます。

  1. 設計図書の精読:
    図面(意匠図、構造図、設備図など)仕様書(標準仕様書、特記仕様書)を読み込み、発注者が要求する品質、性能、使用材料などを正確に把握します。
  2. 発注者からの指示事項の確認:
    契約書や事前の打ち合わせで受けた、特に重視すべき点や制約条件などを整理します。
  3. 現場の条件の調査:
    工事現場の立地(市街地、山間部など)、敷地の広さ、周辺環境(近隣住民、学校、道路状況)、インフラ(電気、水道)の有無など、施工に影響を与えるすべての要素を洗い出します。
  4. 関連法令・条例の確認:
    建設業法、労働安全衛生法、建築基準法、騒音規制法、道路交通法など、当該工事に関連する法規制を確認します。
  5. 使用機材・資材の仕様確認:
    使用を予定している重機や特殊機械の性能、および主要資材のカタログや技術資料を収集します。

このステップでの情報収集が不十分だと、後のステップで計画の修正や手戻りが発生し、大きな時間のロスにつながります。

ステップ2:記載項目の決定と内容の検討

ステップ1で収集した情報を基に、施工計画書の骨子となる各項目の具体的な内容を検討・決定していきます。

建設現場で図面を見ながら施工計画について打ち合わせをするヘルメット姿の技術者たち

  1. 工程計画の策定:
    全体の工期から逆算し、各工種をどのような順序で、どれくらいの期間で行うか、詳細なスケジュール(計画工程表)を作成します。天候による遅延なども考慮に入れます。
  2. 安全計画の立案:
    現場の危険箇所を予測するリスクアセスメントを実施し、それに基づいた具体的な安全対策(例:足場の設置基準、重機作業時の立入禁止措置、安全教育の実施計画)を立案します。
  3. 品質計画の具体化:
    仕様書で求められる品質を確保するため、「何を」「いつ」「どのように」管理・検査するか(品質管理基準、試験方法、検査頻度)を決定します。
  4. 施工方法の選定:
    各工種について、現場の条件や使用機材、コスト、安全性を考慮し、最も合理的で確実な施工方法を選定し、その手順を明確にします。

この段階では、現場代理人や主任技術者だけでなく、必要に応じて専門工事業者の意見も取り入れながら、実現可能性の高い計画を練り上げることが重要です。

ステップ3:書類の作成とレビュー(確認・承認)

検討した内容を、正式な「施工計画書」として文書化し、関係者の合意を得る最終ステップです。

  1. ひな形(テンプレート)の活用と文書化:
    社内や発注者から指定されたひな形(テンプレート)を用い、ステップ2で検討した内容を各項目に沿って具体的に記述していきます。
  2. 社内でのレビュー:
    作成した施工計画書(案)を、上司(工事課長や所長など)や安全管理部門、品質管理部門など、社内の関連部署に回覧し、内容に不備や矛盾がないかチェックを受けます。
  3. 発注者(または元請け)への提出と承認:
    社内レビューで修正した施工計画書を、正式に発注者(または元請け業者)に提出します。内容について説明を求められたり、修正を指示されたりする場合があるため、誠実に対応します。発注者の「承認」を得て、初めてその計画書が公式なものとなります。
  4. 承認後の関係者への周知:
    承認された施工計画書は、現場事務所に掲示するだけでなく、下請けの協力会社や実際に作業を行う作業員にも、ミーティングや朝礼の場を通じて内容を確実に周知徹底します。

失敗しない施工計画書作成の注意点

精度の高い施工計画書を作成するためには、いくつかの重要な注意点があります。形式的に作成するだけでなく、実効性のある計画にするためのポイントを解説します。これらの点を怠ると、計画が現場の実態と乖離してしまう恐れがあります。

具体性・実現可能性を持たせる

施工計画書は、現場で実行するためのものです。「安全管理を徹底する」「品質向上に努める」といった精神論や曖昧な表現は避けなければなりません。

例えば、「安全管理」であれば「開口部周りには高さ90cm以上の手すりを設置し、安全帯使用の看板を掲示する」、「品質管理」であれば「コンクリート打設前に鉄筋の径とピッチを実測し、写真記録を残す」など、誰が読んでも同じ行動が取れるよう、具体的な数値や方法を記載する必要があります。
また、人員、機材、工期など、現場の現状に即した実現可能な計画であることが大前提です。

関連法規や仕様書を遵守する

施工計画は、必ず関連法規および契約図書(特に仕様書、特記仕様書)に準拠していなければなりません。

例えば、安全計画であれば労働安全衛生法や関連する施行令・規則に基づいた対策が必須です。また、公共工事であれば「公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)」の趣旨も理解しておく必要があります。
法令違反は論外ですが、見落としがちなのが発注者独自の「特記仕様書」です。標準仕様書にはない特別な要求事項が記載されている場合、それを見落としたまま計画を立てると、後で重大な手戻りや契約不適合につながるリスクがあります。作成前および作成後のチェックを徹底してください。

[出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」]

関係者間での情報共有を徹底する

施工計画書は「作って承認されたら終わり」ではありません。その計画書に沿って工事が正しく進められて初めて意味を持ちます。

作成した施工計画書の内容は、現場監督者だけでなく、下請けの協力会社、さらには日々作業を行う作業員一人ひとりまで、確実に共有され、理解されている必要があります。朝礼でのKYK(危険予知活動)やミーティング、現場への掲示などを通じて、計画内容の周知徹底を図ることが不可欠です。

テンプレートの活用とカスタマイズ

効率的に施工計画書を作成するために、過去の類似工事のデータや社内のテンプレート(ひな形)を活用することは非常に有効です。これにより、記載漏れを防ぎ、作成時間を短縮できます。

しかし、テンプレートの丸写しは絶対に避けてください。工事場所、工期、周辺環境、発注者の要求など、一つとして同じ条件の現場はありません。必ず「今回の工事」の特性に合わせて、内容を一つひとつ精査し、修正・追記(カスタマイズ)する作業が必要です。

施工計画書作成に関する読者のよくある不安

初めて施工計画書を作成する際や経験が浅い場合、多くの不安や疑問が生じるものです。ここでは、代表的な悩みを取り上げ、その具体的な対処法や考え方について解説します。

対処法:「何を書けばいいか分からない」場合

まずは「発注者から提示された設計図書(特に仕様書・特記仕様書)」を徹底的に読み込むことが第一歩です。
仕様書には、発注者がその工事で何を求めているか、どのような品質基準をクリアすべきか、どのような項目を施工計画書に記載すべきかが明記されている場合が多くあります。

要求事項を把握したら、次に社内にある「過去の類似工事の施工計画書」を探して参考にしましょう。ただし、前述の通り丸写しはせず、あくまで「どのような項目立てで、どの程度の具体性で書かれているか」を掴むための参考資料としてください。
それでも不明な点は、一人で抱え込まず、発注者(または元請け)の担当者や社内の上司・先輩に早めに相談することが重要です。

効率化のコツ:「作成に時間がかかりすぎる」場合

施工計画書の作成には時間がかかるものですが、以下の方法で効率化を図ることが可能です。

社内で標準的なひな形(テンプレート)を整備・活用する:
工事種別ごとに基本的なひな形を整備しておけば、ゼロから作成する手間が省け、項目漏れも防げます。
項目ごとに担当を分担して作成する:
現場組織表に基づいて、安全担当、品質担当、工程担当など、項目ごとに作成を分担し、最後に現場代理人が取りまとめる方法も有効です。
施工管理システムや専用ソフトの導入を検討する:
近年は、施工計画書の作成や工程管理、図面管理を支援するITツールも多く存在します。これらを活用することで、書類作成業務が大幅に効率化できる場合があります。
ステップ1(情報収集)を抜け漏れなく行う:
最も重要なのは、作成の「前段階」です。ステップ1で解説した情報収集を徹底し、必要な情報をすべて揃えてから作成に取り掛かることで、途中で資料探しに戻ったり、内容を大幅に修正したりする「手戻り」を防ぐことができます。

まとめ:精度の高い施工計画書で工事の成功確率を高めよう

本記事で解説した施工計画書の作り方と注意点をまとめます。施工計画書は工事の羅針盤であり、その精度がプロジェクトの成否を左右します。ポイントを押さえ、実効性のある計画書を作成しましょう。

本記事では、施工計画書の作り方を3つのステップ(1. 情報収集2. 内容の検討3. 作成・承認)で解説し、作成時の注意点やよくある不安についてもお伝えしました。

施工計画書は、工事の品質、安全、工程、原価を管理し、プロジェクトを成功に導くための羅針盤となる重要な書類です。
それは、単に発注者に提出するための形式的なものではなく、現場で働くすべての人々が共有し、遵守すべき「ルールブック」そのものです。

今回紹介したステップと注意点を押さえ、具体性と実現可能性のある精度の高い施工計画を作成することで、発注者の信頼を得るとともに、現場作業の円滑化と安全確保を実現しましょう。

施工計画書に関するよくある質問

施工計画書の作成や運用に関して、現場の担当者から多く寄せられる質問とその回答をまとめました。基本的な疑問をここで解消しておきましょう。

Q. 施工計画書はいつまでに作成すればよいですか?

A. 一般的には、工事着手前までに作成し、発注者(または元請け)の承認を得る必要があります。具体的な提出期限は、契約図書や仕様書に明記されているか、発注者との事前協議で決定されます。早めに提出し、修正の余裕を持つことが望ましいです。

Q. 施工計画書は誰が作成するのですか?

A. 工事を請け負った元請業者の現場代理人や主任(監理)技術者が、工事全体を統括する責任者として作成するのが一般的です。ただし、専門的な工種(例:特殊な基礎工事、足場工事など)については、下請けの専門工事業者が該当部分の計画書(施工要領書など)を作成、または作成に協力する場合もあります。

Q. 施工計画書に変更があった場合はどうすればよいですか?

A. 工法や工期、主要な使用機械、安全計画など、施工計画の重要な内容に変更が生じた場合は、速やかに「変更施工計画書」を作成し、再度発注者(または元請け)の承認を得る必要があります。軽微な変更(例:担当者名の変更など)であっても、変更届を提出し、関係者への周知は徹底してください。

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