「原価管理」の基本知識

会計管理と原価管理の違いとは?建設業の視点で解説


更新日: 2025/10/22
会計管理と原価管理の違いとは?建設業の視点で解説

この記事の要約

  • 会計管理と原価管理の目的・対象・ルールの違いを解説
  • 建設業で原価管理が重要視される3つの理由を深掘り
  • 利益を最大化する原価管理の具体的な4ステップを紹介
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会計管理と原価管理の基本的な違い

企業の経営状態を正しく把握するためには、「会計管理」と「原価管理」が不可欠です。これらは混同されがちですが、その目的と役割は明確に異なります。会計管理は企業の財政状態を外部へ報告するためのものであり、原価管理は利益を最大化するために内部の意思決定に用いるものです。この根本的な違いを理解することが、適切な管理体制を構築するための第一歩となります。

会計管理とは?企業の財政状態を外部へ報告するための管理

会計管理とは、日々の企業の経済活動を帳簿に記録・計算・整理し、その結果を財務諸表(貸借対照表、損益計算書など)にまとめる一連の活動です。その主な目的は、株主や金融機関、税務署といった外部の利害関係者に対して、企業の経営成績や財政状態を客観的に報告することにあります。

これは一般に「財務会計」と呼ばれ、会社法や法人税法、金融商品取引法といった法律や、一般に公正妥当と認められる会計基準に則って、厳格なルールのもとで行われる必要があります。つまり、誰が見ても同じ解釈ができるよう、客観性と正確性が最重要視される管理手法です。

原価管理とは?企業の利益を最大化するために内部で行う管理

一方の原価管理とは、製品の製造やサービスの提供にかかる費用(=原価)を正確に把握・分析し、コストを計画的に削減することで、企業の利益を最大化させることを目的とする活動です。これは社内の経営層や部門責任者、現場担当者など、内部の関係者に向けた情報を提供する「管理会計」の一分野に位置づけられます。

原価管理には法律のような統一されたルールはなく、各企業が自社の経営判断に最も役立つ方法を自由に選択できます。そのため、過去のデータだけでなく、未来の予測に基づいた迅速な意思決定に役立つ情報であることが重視されます。

会計管理と原価管理の核心的な違い

会計管理(財務会計)外部への報告が目的。法律などの厳格なルールに基づき、過去の実績を正確に記録する。

原価管理(管理会計)内部の意思決定が目的。社内ルールで柔軟に運用し、未来の利益を創出するために活用する。

【比較表】会計管理と原価管理の目的・対象・時期の違い

会計管理と原価管理の主な違いを以下の比較表にまとめました。報告の目的や対象、準拠するルールが全く異なることがわかります。

項目 会計管理(財務会計) 原価管理(管理会計)
目的 外部の利害関係者への業績報告 内部の経営判断・意思決定
報告対象 株主、金融機関、税務署など 経営者、管理者、現場担当者など
準拠ルール 会社法、金融商品取引法、税法など 社内独自のルール(規定なし)
対象期間 過去の実績(月次、四半期、年次) 過去・現在・未来(予算と実績の比較)
情報の性質 客観性・正確性が重視される 迅速性・目的適合性が重視される

建設業で特に「原価管理」が重要視される3つの理由

企業の基本である会計管理も当然重要ですが、特に建設業においては、日々の利益に直結する原価管理の重要性が極めて高くなります。それは建設業特有の事業構造に起因します。ここでは、なぜ建設業で原価管理が生命線ともいえるのか、その主な理由を3つに絞って具体的に解説します。的確な原価管理なくして、建設業での安定した利益確保は困難といえるでしょう。

理由1:プロジェクト(工事)ごとに収支が大きく変動するから

建設業のビジネスモデルは、一つひとつの工事が顧客の要望に応じたオーダーメイドの受注生産です。案件ごとに建物の規模、仕様、工期、そして現場の立地条件まですべてが異なります。そのため、工事にかかる原価の内訳も毎回大きく変動します。

会社全体の会計情報だけを見ていては、どの工事でしっかりと利益が出ていて、どの工事が赤字になっているのか、その詳細を正確に把握することはできません。工事ごとの収支を明確にし、利益を確保するためには、プロジェクト単位での詳細な原価管理が不可欠となるのです。

建設現場でタブレットを見ながら打ち合わせをする現場監督と作業員

理由2:実行予算と実績の乖離が発生しやすいから

工事期間が数ヶ月から数年にわたることも珍しくない建設業では、着工前に立てた実行予算と、工事完了時の実績との間に差異(乖離)が生じやすいという特性があります。天候不順による工期の遅れ、世界情勢に伴う資材価格の急激な変動、現場での予期せぬトラブル、施主からの急な仕様変更など、予測が難しい不確定要素が非常に多いからです。

原価管理を徹底し、予算と実績の差をリアルタイムでモニタリングする体制があれば、問題の兆候を早期に発見し、損失が拡大する前に対策を講じることが可能になります。

理由3:利益確保に向けた迅速な意思決定が求められるから

万が一、ある工事で赤字の兆候が見られた場合、その対応のスピードが最終的な損失額を大きく左右します。損失の拡大を防ぐには、「この資材をより安価な代替品に変えられないか」「この工程の外注先を見直してコストを削減できないか」といった具体的な対策を迅速に打たなければなりません。

そのためには、どの原価項目で、なぜコストが超過しているのかを詳細に把握する必要があります。原価管理によって得られるデータは、こうした現場レベルでの的確かつ迅速な意思決定を支える、極めて重要な情報源となるのです。

建設業の利益を最大化する原価管理の進め方【4ステップ】

それでは、具体的にどのように原価管理を進めていけばよいのでしょうか。原価管理は一度行えば終わりではなく、継続的に改善サイクルを回していくことが重要です。ここでは、利益を最大化するための基本的なフレームワークである「PDCAサイクル」に基づき、明日からでも取り組める4つの具体的なステップを解説します。

1. 精度の高い「実行予算」を作成する (Plan)
目的:工事で確保すべき利益の目標を定め、原価管理全体の基準となる計画を作成する。
作業内容:工事の設計図や仕様書に基づき、材料費、労務費、外注費、経費といった原価項目を詳細に洗い出します。過去の類似工事のデータや最新の仕入れ単価、見積もりなどを参考に、できる限り正確な数値を積み上げて、工事全体の実行予算を策定します。
ポイント:この実行予算の精度が、原価管理全体の成否を分けます。単なる目標値ではなく、実現可能な根拠のある予算を作成することが重要です。

2. 日々の「原価の実績」を正確に把握する (Do)
目的:工事の進捗に合わせて、実際に発生した原価をリアルタイムで収集・記録する。
作業内容:現場で購入した資材の納品書や請求書、作業員が出退勤を記録する日報、外注先への発注書など、原価の発生を示すあらゆる実績データを日々集計します。
ポイント:情報の収集が遅れると、迅速な意思決定ができなくなります。現場担当者がスマートフォンなどから簡単に入力できる仕組みを整え、情報の鮮度を保つことが理想です。

3. 予算と実績を比較・分析する (Check)
目的:計画(実行予算)と実績の差異を明らかにし、その原因を特定する。
作業内容:ステップ1で作成した実行予算と、ステップ2で集計した実績データを定期的に(毎日、毎週、毎月など)比較・分析します。「どの費目で予算を超過しているか」「なぜ差異が発生したのか(資材の高騰、作業の遅延など)」を客観的に評価します。この差異分析こそが、原価管理の核心部分です。
ポイント:差異の額だけでなく、進捗状況に対する予算の消化率(出来高)も合わせて確認することで、より正確な状況判断が可能になります。

4. 問題点に対する「改善アクション」を実施する (Action)
目的:分析によって明らかになった問題点を解決し、利益を確保・改善する。
作業内容:分析結果に基づき、具体的な改善策を検討し、速やかに実行します。例えば、「特定の資材費が高騰しているなら、代替品を検討・提案する」「労務費が予算を超過しているなら、作業工程を見直し生産性を上げる」といったアクションプランを立て、実行に移します。
ポイント:改善活動の結果は必ず記録し、次の工事の実行予算作成や、他の進行中工事の管理にフィードバックします。このサイクルを回し続けることで、組織全体の原価管理能力が向上していきます。

失敗しない!正確な原価管理を実現するための3つのポイント

原価管理の重要性や進め方を理解しても、いざ実践すると思うように運用できないケースは少なくありません。形骸化させず、確実に成果につなげるためには、いくつかの重要なポイントがあります。ここでは、原価管理を成功に導き、会社の利益体質を強化するための3つの実践的なポイントをご紹介します。

ポイント1:建設業の4大原価を正しく理解する

建設業の工事原価は、主に以下の4つの要素(4大原価)で構成されます。これらの内訳を正確に分類し、費目ごとに丁寧に管理することが原価管理の基本です。どんぶり勘定を防ぐためにも、まずは自社の原価が何で構成されているのかを正しく理解しましょう。

建設業の4大原価

材料費
工事を施工するために必要な資材や部品の購入費用です。セメント、鉄筋、木材、配管などが該当します。

労務費
工事に直接従事する自社の職人や作業員の賃金、給与、手当などを指します。

外注費
鳶工事や電気工事、内装工事など、業務の一部を専門工事業者といった外部の協力会社に委託した場合に支払う費用です。

経費
上記3つ以外で、工事を施工するためにかかる費用全般です。現場事務所の家賃や光熱費、重機・車両のリース代、設計費、保険料などが含まれます。

[出典:国土交通省「建設業会計概説」]

オフィスで工事原価管理システムのデータを見ながら議論する建設会社の社員たち

ポイント2:リアルタイムな情報共有の仕組みを構築する

原価管理で最も重要なのは情報の鮮度です。現場で発生した原価が、紙の伝票で本社や経理担当者に届くまで数日から数週間かかっていては、問題が発覚したときには既に対応が手遅れになっている可能性があります。迅速な経営判断のためには、リアルタイムな情報共有が不可欠です。

理想は、現場担当者がスマートフォンやタブレット端末から、仕入れ情報や作業時間などをその場で簡単に入力でき、そのデータが即座に社内システムに反映されて関係者全員が共有できる仕組みです。これにより、管理部門は常に最新の原価状況を把握し、経営層は的確な意思決定を下すことができます。

ポイント3:原価管理システムの導入を検討する

Excelでの管理には限界があり、事業規模の拡大に伴い、建設業に特化した原価管理システムの導入が有効な選択肢となります。システムを導入すれば、実行予算作成から予実管理、分析レポート作成までを一元管理でき、業務を大幅に効率化できます。

システム選定で失敗しないためには、以下のポイントを比較検討することが重要です。

クラウド対応:場所を選ばずにリアルタイムで情報共有ができるか。
操作性:ITに不慣れな現場担当者でも直感的に使えるか。
機能の範囲:会計ソフトや勤怠管理ソフトなど、既存システムと連携できるか。
サポート体制:導入時やトラブル発生時に、手厚いサポートを受けられるか。
費用対効果:自社の規模や課題に見合った料金体系か。

まとめ:会計管理と原価管理の違いを理解し、建設業の利益を最大化しよう

今回は、会計管理と原価管理の違い、そして建設業において特に原価管理が重要である理由と、その具体的な進め方について解説しました。両者の違いを改めてまとめます。

会計管理は、会社の財政状態を外部へ報告するための「過去」の活動記録
原価管理は、会社の利益を最大化するために内部で活用する「未来」への経営の羅針盤

厳しい競争環境に置かれている建設業において、持続的に利益を上げていくためには、過去の実績をまとめる会計管理だけでは不十分です。工事ごとのリアルタイムな損益状況を可視化し、未来の利益を積極的にコントロールしていく原価管理の実践が、企業の成長に不可欠です。

この記事を参考に、まずは自社の現状を把握し、実行予算の作成や実績の収集といった身近なところから、原価管理の仕組みづくりを始めてみてはいかがでしょうか。それが、会社の利益体質を根本から強化する、確実な一歩となるはずです。

よくある質問

Q1. 原価管理はどの勘定科目を見ればいいですか?
A1. 主に損益計算書(P/L)の「売上原価」に該当する勘定科目が対象となります。建設業会計では、これをさらに具体的に「材料費」「労務費」「外注費」「経費(工事経費)」の4つの費目に分類して管理するのが一般的です。これらの内訳を工事ごとに詳細に把握することが、精度の高い原価管理の第一歩です。

Q2. 原価管理と原価計算の違いは何ですか?
A2. 「原価計算」は、工事や製品にかかった費用をルールに則って「計算・算出する」という技術的な行為そのものを指します。一方で「原価管理」は、その計算結果を用いて、コスト削減の計画を立てたり、予算と実績を比較して改善策を講じたりといった、「経営目標を達成するための活動全般」を指す、より広範な概念です。つまり、原価計算は原価管理という大きな枠組みの中の一つのプロセスと位置づけられます。

Q3. 小規模な工務店でも原価管理は必要ですか?
A3. はい、企業の規模に関わらず、すべての建設業者にとって原価管理は不可欠です。むしろ、経営資源が限られている小規模な工務店こそ、一つひとつの工事の利益を確実に確保することが経営の安定に直結します。はじめから高機能なシステムを導入する必要はありません。まずはExcelなどを活用し、工事ごとに簡単な実行予算と実績を管理する習慣をつけることから始めることを強く推奨します。

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