「原価管理」の基本知識

契約変更と追加工事時の原価管理とは?押さえるべきポイントを解説


更新日: 2025/11/27
契約変更と追加工事時の原価管理とは?押さえるべきポイントを解説

この記事の要約

  • 追加工事の口頭発注は法令違反リスクもあり利益を損なう
  • 変更時はSTEP形式での記録と即時の予算修正が鉄則
  • Excel管理の限界を見極めシステムによる一元管理へ
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契約変更・追加工事において重要な原価管理とは

契約変更や追加工事が発生した際の原価管理とは、当初の実行予算と実績を管理するだけでなく、変更によって生じる「新たな原価」と「追加の請負金額」をリアルタイムに紐づけて管理することを指します。通常の工事進行とは異なり、突発的な要素が含まれるため、迅速な判断と記録が求められる管理領域です。ここでは、通常管理との違いや、管理が曖昧になりやすい背景について解説します。

通常の原価管理と変更時の管理の違い

通常の原価管理は、工事着手前に作成した「実行予算」を基準とし、発注済み金額や実際の支払額との差異(予実管理)をチェックすることが基本です。一方、契約変更・追加工事時の原価管理では、以下の要素が加わります。

変更時の原価管理の特徴
  • 予算の流動性
    実行予算自体を修正(増額・減額)し、新たな利益率を算出する必要があります。

  • 収支の再計算
    追加工事にかかる原価だけでなく、追加請求できる金額(売上)が確定していない場合が多く、見込みでの管理が必要になります。

この局面では、正式な変更契約が交わされる前に現場が動くことが多く、いわゆる「どんぶり勘定」になりやすいのが最大の特徴です。当初予算を守ることだけに固執すると、追加分のコストが漏れてしまい、正しい最終原価が見えなくなります。

なぜ追加工事で原価管理が曖昧になりやすいのか

追加工事の原価管理が徹底されない背景には、建設現場特有の事情が深く関係しています。特に、工期が逼迫している中での変更指示は、事務処理よりも現場作業が優先されがちです。

原価管理が疎かになる主な要因
  • 口頭指示(口約束)の常態化
    発注者や設計者から現場監督へ「とりあえずやっておいて」という指示だけで工事が進んでしまいます。

  • 見積もりの後回し
    工事を止めるわけにいかないため、費用交渉が完了後の「事後精算」になりやすい傾向があります。

  • 情報の分断
    現場監督のメモ帳や頭の中にだけ情報があり、経理や経営層に共有されていないケースが多々あります。

追加工事で原価管理が徹底されない場合に起こるリスク

契約変更や追加工事に対する原価管理がずさんであると、単に計算が合わないだけでなく、企業の経営体力そのものを奪う重大なリスクに直結します。ここでは、原価管理の不備が招く「金銭的な損失」と「信用的な損失」、そして「法的なリスク」について解説します。

利益率の低下と赤字工事への転落

最も直接的なリスクは、追加費用を請求できず、自社持ち出しになることです。追加工事には、材料費や外注費だけでなく、労務費や現場経費も発生します。これらを正確に把握し、原価として積み上げておかなければ、発注者に追加請求する根拠を示せません。

その結果、以下のような事態に陥ります。

  • 利益の食いつぶし
    本工事で確保していた利益が、追加工事の未回収コストによって相殺されます。

  • 隠れ赤字の発生
    工事完了後に請求書を締めて初めて、予想外の原価超過(赤字)が発覚します。

  • 資金繰りの悪化
    立て替え払いが増え、入金予定額とのズレが生じることでキャッシュフローが悪化します。

建設業法違反と信頼関係の悪化

原価管理以前の問題として、書面を交わさない「口頭発注・口頭請負」は法令違反のリスクがあります。建設業法第19条では、工事請負契約の締結にあたり、契約内容を書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付することが義務付けられています。これは、追加工事による変更契約においても同様です。

原価管理不足が招く対外的なトラブル
  • 「言った・言わない」の紛争
    エビデンスがないため、追加費用の支払いを拒否されたり、大幅な減額を強要されたりします。

  • 法令違反リスク
    国土交通省のガイドラインでも、追加工事の着工前に書面による変更契約(または合意)を行うことが強く推奨されています。

[出典:建設業法 第19条(建設工事の請負契約の内容)]
[出典:国土交通省 建設業法令遵守ガイドライン]

変更契約時の原価管理で押さえるべき重要ポイント

リスクを回避し、正当な利益を確保するためには、変更が発生した瞬間の初動対応と、組織的な承認フローが不可欠です。ここでは、変更発生から原価管理への反映までの理想的なフローを手順として解説します。

変更内容の即時記録手順(STEP形式)

人間の記憶は曖昧であるため、時間が経てば経つほど情報は劣化し、証拠能力を失います。以下の手順で即時に記録を残してください。

  • STEP1:指示内容の即時記録
    発注者から指示があったその場で、日時・場所・内容・指示者を記録します。公式な議事録がベストですが、メールや作業日報への記載でも「記録」としての効力を持ちます。

  • STEP2:現場状況の保全(写真撮影)
    施工前の状況と、なぜ変更が必要なのかがわかる箇所の写真を撮影します。これは後の見積もり根拠として不可欠です。

  • STEP3:原価情報との紐づけ
    その変更工事のために手配した材料の納品書や、従事した作業員の日報に「〇〇追加工事分」と注記し、本工事の原価と明確に区分けして管理します。

建設現場でタブレットを使い追加工事の変更箇所を記録する現場監督

実行予算の修正と再承認フローの徹底

記録と同時に行うべきは、実行予算の修正(見直し)です。当初の予算を固定化したままでは、現在の正しい損益状況が見えません。

  • 変更予算の作成
    追加工事に伴う原価(材料・外注・経費)を算出し、実行予算に追加します。

  • 利益変動の可視化
    変更によって最終利益がどう変化するかをシミュレーションします。

  • 組織的な再承認
    現場代理人の判断だけで進めず、上長や経営層へ報告し、予算変更の決裁を受けます。

発注者への迅速な見積もり提出と合意形成

工事着手前の変更契約締結が理想ですが、緊急性が高く難しい場合でも、以下の対応が求められます。正確な原価管理が行われていれば、材料費や人工などの明細が明確であるため、説得力のある見積書をスピーディーに作成できます。

着工前に契約できない場合の対応策
  • 概算金額の提示
    「少なくとも〇〇円程度かかります」と伝え、メールなどで合意のエビデンスを残します。

  • 見積書の早期提出
    工事が終わってからではなく、可能な限り早い段階で正式な見積書を提出します。

原価管理を効率化するためのツール・手法の比較

原価管理の重要性は理解していても、手法が適切でなければ現場の負担は増える一方です。ここでは、多くの企業で利用されている「Excel(エクセル)」と「工事原価管理システム」について、それぞれの特徴やメリット・デメリットを比較します。

Excel(エクセル)管理のメリット・デメリット

多くの建設会社で導入されているのがExcelによる管理です。手軽に始められる反面、複雑な変更管理には限界があります。

  • メリット
    導入コストがかからず(既存のOfficeソフトを利用)、現場ごとの独自ルールに対応しやすい点です。

  • デメリット
    現場入力からのタイムラグが発生しやすく、変更履歴の追跡や「最新版」の管理が困難になりがちです。また、計算式がわかる担当者に依存する「属人化」のリスクがあります。

原価管理システムのメリット・デメリット

近年普及が進んでいる、建設業に特化した原価管理システム(クラウド型など)です。一元管理に優れています。

  • メリット
    見積、実行予算、発注、支払データが連動しており、常に最新の収支が見えます。変更履歴も自動で残り、他部門との連携もスムーズです。

  • デメリット
    初期費用や月額利用料などのコストが発生します。また、従来のやり方を変えることに対し、現場からの抵抗感が生まれる場合があります。

管理手法による特徴の比較

自社の規模や課題に合わせて適切なツールを選ぶための比較表です。

比較項目 Excel・紙 汎用会計ソフト 工事原価管理システム
導入コスト 低い(既存利用可) 中程度 高い(投資が必要)
情報のリアルタイム性 低い(タイムラグあり) 中程度 高い(即時反映)
変更履歴の管理 困難(ファイルが乱立) 一部可能 容易(履歴保持機能)
現場の負担 大きい(入力・報告) 普通 軽減(スマホ対応等)
集計・分析の手間 非常に大きい 普通 ほぼ無し(自動集計)

契約変更と原価管理に関するよくある質問

最後に、契約変更時の原価管理について、よく寄せられる疑問とその回答をまとめました。

Q1. 口頭での追加工事指示にはどう対応すべきですか?

口頭指示はトラブルの元です。必ず書面に残すか、メールや議事録で履歴を残してください。その上で、早急に概算でも良いので見積もりを提出し、金額と工期への影響について発注者の承認を得ることが基本です。

Q2. 追加工事の原価はどのタイミングで計上すべきですか?

原則として発生主義に基づき、材料の納入や作業の実施など、費用が発生した時点で計上します。同時に、実行予算への反映(追加予算の計上)もこのタイミングで行うことが、正確な利益管理には望ましいです。

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