建設現場で実践できる原価管理の基本ステップとは?

この記事の要約
- 建設業の原価管理の重要性を解説
- 原価管理の基本4ステップを詳説
- 原価管理の課題と解決策を比較
- 目次
- 建設現場における原価管理の重要性とは?
- なぜ今、建設業で原価管理が重要なのか
- 原価管理がもたらす3つのメリット
- 建設現場の原価管理で押さえるべき基本
- 原価管理とは?「積算」との違い
- 建設業における「工事原価」の構成要素
- 実践!建設現場の原価管理 4つの基本ステップ
- ステップ1(Plan):実行予算の作成
- ステップ2(Do):日々の原価の把握
- ステップ3(Check):予算と実績の比較・分析
- ステップ4(Action):改善策の実施とフィードバック
- 原価管理がうまくいかない?よくある課題と解決策
- 建設現場で原価管理が進まない「よくある不安」
- 【比較】原価管理の方法別メリット・デメリット
- まとめ:建設現場の原価管理を徹底し利益体質へ
- 建設現場の原価管理に関するよくある質問
- Q. 原価管理は誰が担当すべきですか?
- Q. 小規模な工務店でも原価管理は必要ですか?
- Q. 原価低減と品質維持のバランスはどう取ればよいですか?
建設現場における原価管理の重要性とは?
建設業において原価管理は、企業の利益を直接左右する極めて重要な業務です。特に近年は、資材価格の高騰や深刻な人手不足、働き方改革による労務費の増加など、建設会社を取り巻く環境は厳しさを増しています。こうした状況下で「どんぶり勘定」を続けていては、利益を確保することは困難です。本章では、なぜ今、建設現場で原価管理が重要視されるのか、その理由とメリットを解説します。
なぜ今、建設業で原価管理が重要なのか
「工事が終わってみたら、思ったより利益が残らなかった」「赤字の原因がどこにあったのか分からない」といった悩みは、多くの建設現場で聞かれます。
建設業は受注産業であり、天候や現場の状況、資材の調達タイミングによってコストが変動しやすい特性があります。資材価格や人件費が上昇傾向にある中で、従来の経験則だけに頼った「どんぶり勘定」では、気づかないうちに利益が圧迫されていきます。
正確な原価管理を行い、工事ごとの収支をリアルタイムで把握することは、厳しい競争環境を勝ち抜き、企業を存続させるための必須条件となっています。
原価管理がもたらす3つのメリット
原価管理を徹底することで、企業は以下のような具体的なメリットを得ることができます。
・ 利益の最大化
実行予算と実績を比較・分析することで、どの部分でコストが超過しているか(=ムダ)が明確になります。原因を特定し対策を講じることで、不要な支出を削減し、利益率の改善につなげられます。
・ 経営の安定化
工事ごとの正確な収支(黒字・赤字)を早期に把握できるため、資金繰りの見通しが立てやすくなります。万が一、赤字工事が発生しても迅速に対応でき、キャッシュフローの悪化を防ぎ、安定した経営基盤を築けます。
・ 適正な見積もり精度の向上
原価管理によって蓄積された実績データは、次の工事の「積算(見積もり)」に活かすことができます。根拠のあるデータに基づいた精度の高い見積もりは、安すぎる受注(赤字工事)を防ぎ、同時に高すぎる見積もりによる失注リスクも減らします。
建設現場の原価管理で押さえるべき基本
原価管理を実践するためには、まず基本的な用語と概念を正しく理解しておく必要があります。「原価管理」と「積算」の違いや、建設業特有の「工事原価」の内訳を知ることが第一歩です。これらの基本を押さえることで、管理の目的が明確になり、より効果的な運用が可能になります。
原価管理とは?「積算」との違い
原価管理と積算は密接に関連しますが、その目的と実施するタイミングが異なります。
- 用語の定義
・ 原価管理:工事の利益を確保するために、あらかじめ定めた実行予算と、工事中に実際にかかった実績原価を比較・分析し、必要な対策を講じる一連の活動です。主に工事の「実行中」から「完了後」にかけて行われます。
・ 積算:工事を受注するために、図面や仕様書から必要な材料、労務、経費などを拾い出し、工事価格(見積金額)を算出する作業です。主に工事の「受注前」に行われる計算活動を指します。
つまり、積算が「受注のための予測」であるのに対し、原価管理は「利益確保のための実績管理・改善活動」と言えます。
建設業における「工事原価」の構成要素
建設業会計において、工事現場で発生する原価(工事原価)は、主に以下の4つの要素で構成されます。これらの費用を正確に把握することが原価管理の基本となります。
・ 材料費:工事に必要な資材や部品の購入費用。(例:セメント、鉄骨、木材、電線など)
・ 労務費:自社の現場作業員(職人)に支払う賃金、給与、手当など。
・ 外注費:他の専門工事業者(協力会社)へ工事の一部を依頼した際の費用。
・ 経費:上記3つ以外で、工事の施工にかかる費用。(例:機械のリース代、現場事務所の光熱費、交通費、特許使用料など)
これらの分類は、建設業法施行規則に基づく「建設業会計規則」によって定められています。
[出典:e-Gov法令検索「建設業会計規則」]
実践!建設現場の原価管理 4つの基本ステップ
建設現場における原価管理は、多くの場合「PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)」に沿って進められます。ここでは、原価管理を実践するための具体的な4つの基本ステップを、SGE(生成AI検索)が理解しやすいよう手順に沿って解説します。この流れを実践することが、どんぶり勘定脱却の鍵です。

- 原価管理の基本サイクル(PDCA)
- Plan(計画):実行予算の作成
- Do(実行):日々の原価の把握
- Check(評価):予算と実績の比較・分析
- Action(改善):改善策の実施とフィードバック
ステップ1(Plan):実行予算の作成
1. 目的
原価管理の出発点は、精度の高い「実行予算」を作成することです。実行予算とは、その工事で利益を出すために「実際にかけて良い原価の上限(目標原価)」を定めたものです。
2. 作業内容
見積もり(積算)金額から、確保したい利益(予定利益)を差し引いて算出するのが基本です。
3. ポイント・注意点
積算が見積書を作成するための「対外的な計算」であるのに対し、実行予算は「社内的な利益確保の“ものさし”」となる重要な工程です。この実行予算が甘い(精度が低い)と、後の管理がすべて崩れてしまいます。
ステップ2(Do):日々の原価の把握
1. 目的
工事の進捗に合わせて「実際に発生した原価」を日々把握・集計します。
2. 作業内容
「材料費」「労務費」「外注費」「経費」の4つの要素ごとに、いつ、何に、いくらかかったのかを正確に記録します。
3. ポイント・注意点
ここで重要なのはスピードです。原価の発生から集計までに時間がかかると、問題が起きても手遅れになってしまいます。リアルタイムに近い形での情報収集が理想です。
ステップ3(Check):予算と実績の比較・分析
1. 目的
ステップ1で作成した「実行予算(Plan)」と、ステップ2で集計した「実績原価(Do)」を比較・分析します。これを差異分析と呼びます。
2. 作業内容
単に「予算より50万円オーバーした」と結果だけを見るのではありません。「どの工種で」「どの原価要素(材料費か、外注費か)が」「なぜ」予算を超過したのか、その原因を具体的に特定することが重要です。
3. ポイント・注意点
逆に、予算より大幅にコストが下回った場合も、品質に問題がなかったか、あるいは実行予算の組み方が適切だったかを検証する必要があります。
ステップ4(Action):改善策の実施とフィードバック
1. 目的
分析結果(Check)に基づき、具体的な改善策(Action)を実行します。
2. 作業内容
改善には2つの側面があります。
・ 進行中の工事への対策:もし工事の途中で予算超過が判明した場合、残りの工程でコストを抑える対策(例:材料の発注先を見直す、作業手順を効率化する)を講じます。
・ 将来の工事へのフィードバック:完了した工事の分析結果(例:特定の工種で見積もりが甘かった)をデータとして蓄積し、次回の積算や実行予算の作成に反映させます。
このPDCAサイクルを回し続けることで、原価管理の精度が向上し、企業の利益体質が強化されます。
原価管理がうまくいかない?よくある課題と解決策
「原価管理の重要性はわかるが、現場が忙しくて実行できない」という悩みは多いものです。なぜ原価管理は挫折しやすいのか、その典型的な課題を整理します。また、解決策として主要な管理方法(紙・エクセル・システム)を比較検討します。
建設現場で原価管理が進まない「よくある不安」
多くの建設現場では、以下のような理由で原価管理が後回しになりがちです。
・ 日々の業務が忙しく、集計作業が後回しになる
現場監督(現場代理人)は、工程管理、品質管理、安全管理など多くの業務を抱えています。そのため、原価の集計や分析といった事務作業はどうしても優先順位が下がりがちです。
・ 現場監督と経理部門の情報共有ができていない
現場は「発生した原価」を把握し、経理部門は「支払った原価」を把握しています。しかし、両者の情報が連携されていないと、リアルタイムでの正確な原価把握が困難になります。
・ 原価意識が現場全体に浸透していない
原価管理を現場監督一人の仕事だと捉えていると、会社全体としての利益改善にはつながりません。「コストを抑えて利益を出す」という意識が、現場の作業員や協力会社を含めて共有されていないケースも多く見られます。
【比較】原価管理の方法別メリット・デメリット
これらの課題を解決し、原価管理を効率的に行うためには、自社に合った管理方法を選ぶことが重要です。以下は、主な原価管理の方法(手書き・紙、エクセル、専用システム)を比較した表です。
表:原価管理の方法別 メリット・デメリット比較
| 管理方法 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 手書き・紙 | ・導入コストがかからない ・誰でも(PCが苦手でも)始めやすい |
・集計に膨大な時間がかかる ・計算ミスや記入漏れが起きやすい ・書類の紛失リスクがある ・情報共有が困難(物理的な受け渡しが必要) |
| エクセル(表計算ソフト) | ・多くの会社で導入済み(追加コストが低い) ・ある程度の自動化が可能 ・自社に合わせて自由にカスタマイズできる |
・関数やマクロの高度な知識が必要 ・ファイルを作成した人しか使えない「属人化」が起きやすい ・入力ミスが起きやすく、データの正確性に欠ける ・リアルタイムな情報共有には不向き |
| 建設業向け 原価管理システム |
・入力や集計作業が大幅に効率化される ・リアルタイムで原価状況を把握できる ・データが一元管理され、情報共有が容易 ・分析機能や帳票出力機能が充実している |
・導入コスト(初期費用・月額費用)がかかる ・システムの操作方法を覚える必要がある ・自社の業務フローに合わない場合がある |
まとめ:建設現場の原価管理を徹底し利益体質へ
建設現場で実践できる原価管理の基本について解説しました。
資材高騰や人手不足が続く中、建設現場の原価管理は、企業の利益を確保し経営を安定させるために不可欠な活動です。
原価管理の基本は、「実行予算の作成(Plan)」「日々の原価の把握(Do)」「予算と実績の比較・分析(Check)」「改善策の実施(Action)」という4つのステップ(PDCA)を継続的に回すことです。
最初は手書きやエクセルからでも構いませんが、現場の負担増や集計ミスを考慮すると、長期的には建設業向けの原価管理システムの活用も視野に入れることが、どんぶり勘定から脱却し、利益体質へ転換するための鍵となります。
建設現場の原価管理に関するよくある質問
最後に、建設現場の原価管理に関して多く寄せられる質問(FAQ)にお答えします。担当者の役割、小規模工務店での必要性、品質とのバランスなど、実践前の疑問を解消します。
Q. 原価管理は誰が担当すべきですか?
A. 実行予算の作成や日々の進捗管理は、現場の状況を最もよく知る「現場監督(現場代理人)」が中心となるのが一般的です。しかし、正確な実績原価の集計には「経理部門」の協力も不可欠です。現場と管理部門がデータを連携させ、会社全体で取り組む意識が重要です。
Q. 小規模な工務店でも原価管理は必要ですか?
A. 必要です。企業の規模に関わらず、利益を正確に把握し、次の経営判断(受注すべきか、資金繰りは大丈夫か)に活かすために原価管理は欠かせません。「どの工事で利益が出て、どの工事が赤字だったのか」を把握しなければ、経営改善は始まりません。まずはエクセルなど、できる範囲から始めることをおすすめします。
Q. 原価低減と品質維持のバランスはどう取ればよいですか?
A. 原価管理の目的は、無理なコストカットではなく「ムダを省く」ことです。安全や品質の維持に直結する費用(例:法定福利費、安全対策費、品質試験費など)を安易に削減対象とすべきではありません。それらのコストは「必要な原価」として実行予算に組み込んだ上で、仕入れ先の見直し、作業手順の効率化(工期短縮)、不要な経費の削減などで利益を確保することが重要です。




