小規模工事で原価管理を導入するには?手順をわかりやすく解説

この記事の要約
- 小規模工事でも利益確保に原価管理は必須
- 可視化から始める4つの導入手順を解説
- 自社に合うのはエクセルかシステムか比較
- 目次
- 建設業における原価管理とは?その基本と目的
- 原価管理の定義と実行予算との関係
- 小規模工事と大規模工事での管理の違い
- 小規模工事こそ原価管理が重要である3つの理由
- どんぶり勘定による利益の流出を防ぐ
- 資金繰り(キャッシュフロー)を安定させる
- 過去のデータを蓄積し見積り精度を上げる
- 小規模工事で原価管理を導入する4つの手順
- 手順1:現状の発生原価を可視化する
- 手順2:簡易的な実行予算を作成する
- 手順3:工事進行中に原価と予算を比較する
- 手順4:工事完了後に最終原価を確定・分析する
- 原価管理を行う方法の比較:エクセル vs システム
- エクセル(Excel)で管理する場合のメリット・デメリット
- 原価管理システムを導入する場合のメリット・デメリット
- 原価管理の導入・定着でよくある不安と解決策
- 「入力作業が面倒で現場が反対する」への対策
- 「導入コストに見合う効果が出るか不安」への対策
- 「ITに詳しい社員がいない」への対策
- まとめ
- よくある質問(FAQ)
- Q1. 原価管理は税理士任せではいけませんか?
- Q2. 実行予算はどの程度の精度で作るべきですか?
- Q3. 従業員数5名の会社ですが、システムは必要ですか?
建設業における原価管理とは?その基本と目的
原価管理は、工事の品質を維持しながら会社に残る利益を最大化するための経営手法です。建設業においては、どんぶり勘定からの脱却が急務とされています。ここでは、原価管理の定義と、小規模工事における実務的な管理ポイントについて解説します。
原価管理の定義と実行予算との関係
原価管理とは、工事着手前に定めた実行予算(目標原価)と、実際に発生した実際原価を比較・分析し、利益をコントロールする活動のことです。建設業の会計には大きく分けて二つの側面があります。
- 建設業における2つの会計
- 財務会計(制度会計)
決算書作成や税務申告を目的とし、過去の結果を正しく記録するための会計です。主に税理士や経理担当者が扱います。 - 管理会計(原価管理)
工事ごとの採算をリアルタイムで把握し、未来の利益を作るための会計です。現場監督や経営者が判断材料として使用します。
- 財務会計(制度会計)
重要なのは、単にコストを切り詰めることではありません。実行予算という基準を作り、日々の発注や作業日報から「今、予算に対していくら使っているか」を監視することで、赤字リスクを早期に発見することが最大の目的です。
小規模工事と大規模工事での管理の違い
工事規模によって、最適な管理手法は異なります。大規模工事では厳密な承認フローや工種別管理が必要ですが、小規模工事ではスピードと手軽さが優先されます。管理が重すぎると、かえって業務効率を落とす可能性があるためです。
以下の表は、小規模工事と大規模工事における管理特性の違いを整理したものです。
表:小規模工事と大規模工事の管理特性の違い
| 項目 | 小規模工事 | 大規模工事 |
|---|---|---|
| 工期 | 短い(数日~数週間) | 長い(数ヶ月~数年) |
| 管理者 | 社長や少人数の担当者が兼任 | 専任の現場代理人や事務員 |
| 管理のポイント | スピードと手軽さ | 厳密さと詳細な承認フロー |
| リスク | 1つのミスが資金繰りに直結しやすい | 予算変更や工期延長の調整が発生しやすい |

小規模工事こそ原価管理が重要である3つの理由
「小規模だから目が行き届く」「どんぶり勘定でもなんとかなる」という考えは危険です。案件数が多く回転が速い小規模工事こそ、緻密な管理が経営の安定に直結します。ここでは、なぜ今すぐ原価管理が必要なのか、その理由を3つの視点から深掘りします。
どんぶり勘定による利益の流出を防ぐ
小規模工事の最大の特徴は、同時並行で複数の現場が動くことです。「忙しいから」といって原価計算を後回しにし、工事完了後にまとめて請求書を処理していると、以下のような問題が発生しやすくなります。
- どんぶり勘定で発生するリスク
- 追加工事分の請求漏れが発生する
- 想定外の材料費高騰に気づかず利益が圧迫される
- 外注費の二重払いや計上ミスが見過ごされる
これらはいわゆるどんぶり勘定の弊害です。一件あたりの金額は小さくても、積み重なれば年間で大きな損失となります。原価管理を行うことで、工事ごとの収支がリアルタイムで見えるようになり、利益の流出を食い止めることができます。
資金繰り(キャッシュフロー)を安定させる
建設業は、材料費や外注費の支払い(出金)が先行し、工事代金の入金が後になることが一般的です。原価管理ができていないと、「今月いくら支払う必要があるか」が正確に把握できません。その結果、黒字倒産や突発的な資金ショートのリスクが高まります。
- 支払いサイトの管理
いつ、誰に、いくら払うかを正確に把握する - 入金予定の管理
いつ、誰から、いくら入るかを紐付けて管理する
これらを工事単位で把握することで、資金繰りの見通しが立ち、安心して経営を行うことができます。
過去のデータを蓄積し見積り精度を上げる
原価管理を継続すると、自社の標準的な原価データが蓄積されます。「この規模のキッチンリフォームなら、労務費はこれくらい、材料費はこれくらい」という実績値が明確になるため、次回の見積り作成時に活用できます。
- データ蓄積によるメリット
- 見積もりの根拠が明確になり、顧客への説明力が向上する
- 利益が出ないラインが明確になり、赤字受注を回避できる
結果として、勝てる見積り(受注率アップ)かつ利益の出る見積り(利益率アップ)を作成できるようになります。
小規模工事で原価管理を導入する4つの手順
いきなり高度な管理会計システムを導入する必要はありません。まずは身近なツールを使い、「数字を見える化」することから始めます。以下に、小規模事業者が無理なく実践できる4つのステップを解説します。
手順1:現状の発生原価を可視化する
最初のステップは、何にいくら使っているかという事実データを集めることです。正確な原価管理を行うためには、以下の「原価の4要素」を漏れなく記録する習慣が必要です。
- 材料費
仕入れた資材の請求書や納品書を工事ごとにファイリングします。 - 労務費
自社職人の作業日報をつけ、どの現場に何日入ったかを記録します。 - 外注費
協力業者からの請求書を現場ごとに分類します。 - 経費
現場の駐車場代や交通費などの領収書を整理します。
特に小規模工事では、レシートの紛失や「現場ごとの割り振り忘れ」が赤字の隠れた原因となります。まずは「書類を工事別に分ける箱を作る」といったアナログな方法でも構いません。
手順2:簡易的な実行予算を作成する
工事を受注したら、着工前に必ず実行予算書を作成します。これは工事のナビゲーションシステムのようなものです。「どのルート(予算)を通れば、目的地(目標利益)に辿り着けるか」を事前に設定します。
- 実行予算作成のポイント
- 見積書からの転記
お客様に提出した見積金額をベースにします。 - 目標原価の設定
過去の実績や業者からの見積もりを元に、「この金額で抑える」という目標値を入力します。 - 利益のシミュレーション
「受注金額 - 目標原価 = 粗利益」を算出し、会社として必要な利益率(例:25%など)を確保できているか確認します。
- 見積書からの転記
この段階で利益が出ていない場合は、仕様変更の提案や再見積もり、あるいは外注先の再選定を行う必要があります。
手順3:工事進行中に原価と予算を比較する
工事期間中は、予算消化率をチェックします。工事が終わってからでは手遅れになるため、期中管理が重要です。
- チェックのタイミング
月末の支払い締め日、または工期の中間地点で確認します。 - 確認項目
材料の発注量は予算範囲内か(ロスが出ていないか)、予定よりも人工(にんく)がかかりすぎていないかを確認します。 - 追加変更の対応
追加工事が発生した場合、速やかに追加の見積もりを提出し、予算を修正します。
手順4:工事完了後に最終原価を確定・分析する
工事完了後は、最終的な損益を確定させ、予実差異(予算と実績のズレ)を分析します。この振り返りが、次の工事の利益率を向上させます。
- 最終原価の集計
未払いの請求書がないか確認し、総原価を確定します。 - 原因分析(振り返り)
「なぜ予算より安く済んだのか(良かった点)」、「なぜ予算を超過したのか(悪かった点)」を言語化します。
[出典:国土交通省「建設業の会計処理等に関するガイドライン」]
原価管理を行う方法の比較:エクセル vs システム
原価管理を行うツールは、大きく分けて「エクセル(表計算ソフト)」と「専用の原価管理システム」の2つがあります。企業の規模や体制によって適したツールは異なります。それぞれのメリット・デメリットを比較します。

エクセル(Excel)で管理する場合のメリット・デメリット
多くの企業が最初に導入するのがエクセルです。自由度が高く、コストがかからないのが最大の特徴です。
- エクセル管理の特徴
- メリット
追加費用がかからず(既存のOfficeソフトで対応可能)、自社の管理項目に合わせて自由にフォーマットを作成できます。 - デメリット
入力ミスや計算式の破損(先祖返り)が起きやすく、複数人で同時に編集・共有するのが困難です。また、データ量が増えるとファイルが重くなり、分析がしにくくなります。
- メリット
原価管理システムを導入する場合のメリット・デメリット
建設業向けに開発されたパッケージソフトやクラウドサービスを利用する方法です。
- システム管理の特徴
- メリット
工事台帳や請求書などが自動で連動するため、二重入力の手間がありません。クラウド型ならリアルタイムで全社の収支状況が可視化できます。 - デメリット
初期費用や月額利用料などのランニングコストがかかります。また、操作方法を覚えるまで、一時的に現場の負担が増える可能性があります。
- メリット
以下の表で、両者の特徴を比較します。
表:エクセル管理とシステム管理の比較
| 比較項目 | エクセル(Excel)管理 | 原価管理システム |
|---|---|---|
| 導入コスト | 低い(既存ソフトで対応可) | 中~高い(月額費用など) |
| 即時性 | 低い(入力・集計にタイムラグあり) | 高い(リアルタイム反映) |
| データ共有 | 難しい(先祖返りや破損のリスク) | 容易(クラウドで同時編集可) |
| 集計・分析 | 手動設定が必要で属人化しやすい | 自動集計で見える化しやすい |
| 向いている会社 | 工事件数が少なく、担当者が1人の場合 | 工事件数が多く、複数人で共有したい場合 |
原価管理の導入・定着でよくある不安と解決策
新しい仕組みを導入する際、現場からの反発やコスト面での不安はつきものです。ここでは、導入時によくある課題と、それを乗り越えるための具体的な解決策を提示します。
「入力作業が面倒で現場が反対する」への対策
現場監督や職人は本業で忙しく、事務作業が増えることを嫌がる傾向があります。現場に負担をかけない工夫が必要です。
- スマホ対応ツールの活用
現場の移動時間や待機時間に入力できるツールを選びます。 - 入力項目の簡素化
最初から細かく管理せず、「日付・金額・業者名」だけに絞るなど、ハードルを下げます。 - 代行入力の検討
現場は領収書の写真を送るだけにし、入力作業は事務員が行う体制にします。
「導入コストに見合う効果が出るか不安」への対策
システムを入れたものの、使いこなせずにコストだけがかかる失敗は避けたいものです。投資対効果を意識した導入計画が重要です。
- スモールスタート
無料トライアルや、安価なクラウドツール(月額数千円~)から始めます。 - 投資対効果の試算
原価管理によって「赤字工事が年間1件減る」「見積もり作成時間が半分になる」といった効果を金額換算し、システム利用料と比較します。
「ITに詳しい社員がいない」への対策
専任のIT担当者がいない小規模企業では、設定や運用が壁になることがあります。
- サポート体制の重視
機能の多さよりも、電話やチャットでのサポート、導入支援が手厚いメーカーを選びます。 - シンプルな機能の選択
多機能なシステムではなく、建設業に特化したシンプルで直感的に使えるシステムを選びます。
まとめ
小規模工事における原価管理は、会社の利益体質を作るための重要な投資です。まずは「完璧を目指さない」ことが成功の鍵です。
- この記事のまとめ
- どんぶり勘定からの脱却が利益確保の第一歩
小さな赤字を見逃さない体制を作ることが、経営安定に直結します。 - 「可視化→予算作成→比較→分析」のサイクルを回す
まずは現状のお金の流れを記録することから始めましょう。 - 自社の規模に合ったツール(エクセルまたはシステム)を選ぶ
工事件数や担当者の人数に合わせて、無理のないツールを選定してください。
- どんぶり勘定からの脱却が利益確保の第一歩
まずは、現在の工事のレシート整理や、簡易的な予算表の作成といった「できること」から始めてみましょう。正確な数字の把握は、必ず次の利益につながります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 原価管理は税理士任せではいけませんか?
税理士が行うのは「決算のための会計(財務会計)」であり、工事ごとの利益をリアルタイムに把握する「管理会計(原価管理)」とは目的が異なります。税理士からの試算表は1〜2ヶ月遅れになることが多く、現場の経営判断を行うためには、自社でリアルタイムな原価管理を行う必要があります。
Q2. 実行予算はどの程度の精度で作るべきですか?
最初から完璧を目指す必要はありません。まずは「材料費」「外注費」「労務費」といった大きな項目ごとに、見積金額をベースにした目標数字を入れるところから始めてください。運用に慣れてきたら、徐々に詳細な内訳を設定していくのがおすすめです。
Q3. 従業員数5名の会社ですが、システムは必要ですか?
工事件数によりますが、年間を通して複数の現場が同時進行する場合や、社長以外も発注業務を行う場合は、5名以下でもクラウド型の安価なシステムを導入したほうが業務効率と利益率は向上する傾向にあります。情報の共有ミスや「言った言わない」のトラブルを防ぐ効果も期待できます。





