「原価管理」の基本知識

現場代理人が押さえるべき原価管理の実務知識とは?


更新日: 2025/12/18
現場代理人が押さえるべき原価管理の実務知識とは?

この記事の要約

  • 現場代理人に必須の原価管理4要素と定義をわかりやすく解説
  • 実行予算作成から工事台帳管理まで失敗しないPDCA実務フロー
  • エクセルと原価管理システムの選び方をメリット・デメリットで比較
目次
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建設業における原価管理とは?現場代理人の役割と重要性

建設業における原価管理は、単に経費を記録する作業ではなく、工事の完了までに発生する費用をコントロールし、予定した利益を確保するための重要なマネジメント業務です。ここでは、現場代理人が理解しておくべき定義や、なぜその能力が強く求められるのか、その背景と目的について解説します。

原価管理の定義と見積もり・予算との違い

原価管理を正しく行うためには、類似する用語の定義を明確に区別する必要があります。特に以下の3つの用語は混同されやすいため、正確に理解しておくことが重要です。

原価管理における重要用語の定義
  • 見積原価
    工事を受注する際、発注者に対して提出する見積金額の根拠となる原価。あくまで予測値であり、利益が含まれている場合もあります。

  • 実行予算
    受注後、実際に工事を行うために「いくらで施工するか」を社内で設定した目標原価。利益確保の基準となります。

  • 実際原価
    実際に工事を行って発生した費用の合計。材料の購入や外注費の支払いなど、確定した金額です。

原価管理とは、この「実行予算」と「実際原価」の差異を管理し、利益を確保する活動を指します。

なぜ現場代理人に原価管理能力が求められるのか

現場代理人に高い原価管理能力が求められる理由は、主に以下の2点に集約されます。

  • 会社経営における利益確保
    建設業は受注産業であり、契約時の金額は決まっています。そのため、工事原価を抑えることが直接的に会社の利益増大につながります。逆に原価管理がずさんであれば、予期せぬ赤字工事となり、会社の経営を圧迫するリスクがあります。

  • 現場代理人の評価指標
    品質管理や工程管理と同様に、原価管理は現場代理人の能力を測る重要なKPI(重要業績評価指標)です。決められた予算内で、あるいは予算以上の利益を残して工事を完了させることは、代理人としての信頼と評価に直結します。

原価管理を行うことで得られるメリット

原価管理を徹底することは、単なる利益確保以外にも多くのメリットをもたらします。現場運営において以下のような効果が期待できます。

原価管理の主なメリット
  • 資金繰りの安定
    支払いのタイミングと金額を正確に把握できるため、キャッシュフローの管理が容易になります。

  • 次回工事へのデータ蓄積
    正確な実績データは、次の工事の精度の高い見積もり作成や実行予算策定に役立ちます。

  • 現場の無駄削減
    日々コストを意識することで、材料の過剰発注や手待ち時間の発生など、現場の非効率な部分(ムダ)を早期に発見・解消できます。

図面と資材を確認しながら原価管理を行う現場代理人

原価管理の基礎となる「4つの原価要素」を理解する

建設工事にかかる原価は、大きく4つの要素に分類されます。これを「工事原価の4要素」と呼びます。正確な原価管理を行うためには、発生した費用がどの要素に該当するかを正しく仕訳ける知識が必要です。

材料費

材料費とは、工事のために購入した物品にかかる費用全般を指します。これには、建物そのものを構成する主要材料だけでなく、以下の費用も含まれます。

  • 直接材料費
    セメント、木材、鉄骨など、工事目的物の実体を形成するもの。

  • 間接材料費
    釘、消耗工具、燃料など、工事の補助的に消費されるもの。

  • 引取費用
    材料の購入に伴う運賃、荷役費、保険料、保管費など。

労務費

労務費とは、工事に従事する作業員に対して支払われる賃金や手当のことです。ただし、ここでいう労務費は、自社で直接雇用している作業員にかかる費用を指します。

  • 賃金
    基本給、残業代、諸手当。

  • 法定福利費
    社会保険料の会社負担分など。

外注費

外注費とは、協力会社(専門工事会社)に対して、工事の一部または全部を請け負わせた場合に支払う費用です。
建設業では、自社の作業員だけで施工することは稀であり、多くの工種を専門業者に依頼するため、原価の中で大きなウェイトを占めるのが一般的です。材料と手間(労務)をセットで発注する「材工共(ざいこうとも)」の契約もここに含まれます。

経費

経費とは、材料費、労務費、外注費以外のすべての費用を指します。

  • 現場経費
    現場事務所の維持費、水道光熱費、通信費、交通費、租税公課など。

  • 機械経費
    重機や車両の使用料、修理費、減価償却費(機械損料)など。

なお、本社経費(一般管理費)は工事原価には含まれません。

原価要素名 定義 具体的な費目の例
材料費 工事のために購入・消費した物品の費用 木材、コンクリート、鋼材、釘、燃料、運搬費、保管費
労務費 自社で雇用する作業員への賃金・手当 基本給、割増賃金、賞与、退職給付引当額
外注費 外部の協力会社に支払う工事代金 下請工事代金(材工共を含む)、加工依頼費
経費 上記3つに含まれない諸費用 動力光熱費、機械損料、地代家賃、保険料、事務用品費

現場代理人が実践すべき原価管理のフロー(PDCA)

原価管理を成功させる鍵は、計画(Plan)から改善(Action)までのサイクルを途切れさせないことにあります。ここでは、現場代理人が日常業務の中で具体的に何を行うべきか、標準的なPDCAフローを4つのステップで詳細に解説します。

パソコンで原価管理データや工事台帳を分析しPDCAサイクルを回す様子

Plan:実行予算の作成手順と目標利益の設定

原価管理のスタートであり、工事の利益が決まる最も重要なフェーズです。実行予算とは、受注金額から目標利益を差し引いた「工事に使ってよい原価の上限」のことです。以下の手順で精度の高い予算を作成します。

  • 1.施工計画の策定
    図面や現場条件を確認し、仮設の配置や施工手順を決定します。ここでの計画が、必要な機材や人員数に直結します。

  • 2.実行単価の積算
    見積時の単価ではなく、実際の取引価格(実勢価格)で材料費や外注費を積み上げます。

  • 3.目標利益の確定
    会社が定める規定利益率を確保できるか確認し、実行予算書として承認を得ます。

Do:発注業務の適正化と日々のコスト把握

計画に基づき、実際にコストを投入(発注・支払)するフェーズです。ここでは「発生ベース」での管理がポイントになります。

  • 業者選定と価格交渉(相見積もり)
    主要な工種については複数社から見積もりを取り(相見積もり)、実行予算内に収まる業者を選定します。品質とコストのバランスを見極める選定眼が問われます。

  • タイムリーな資材発注
    現場の工程に合わせて資材を手配します。早すぎると保管場所や劣化のリスクが生じ、遅すぎると手待ち(作業員の待機)による労務費ロスが発生します。

  • 日報による実績収集
    毎日の作業日報で「誰が何時間働いたか」「重機が何時間稼働したか」を正確に記録します。これを怠ると、後でコストの原因追及ができなくなります。

Check:工事台帳を活用した予実管理と分析手法

工事の中盤では、定期的に「予定」と「実績」のズレを確認します。これを予実管理(よじつかんり)と呼びます。

  • 工事台帳への記帳と集計
    請求書や日報のデータを工事台帳に入力し、現在の累計原価を算出します。

  • 進捗率と出来高の対比
    「工事が50%進んでいるのに、予算の70%を使っていないか?」という視点でチェックします。

  • 差異分析
    予算オーバーが発生している場合、その原因が「単価の上昇」なのか「数量の増加(無駄遣い)」なのか、あるいは「工程の遅れ」なのかを特定します。

Action:最終原価の確定と次期工事へのフィードバック

工事完了後に行う総仕上げです。単に帳尻を合わせるのではなく、次につなげるための資産とします。

  • 修正アクション
    赤字の兆候があれば、施工方法の変更や残りの発注費用の見直しを行い、利益確保に努めます。

  • 最終原価の確定
    未払いの請求書がないか確認し、全ての支払いを完了させて工事の最終利益を確定させます。

  • フィードバック
    なぜ予算と差異が出たのか(成功要因・失敗要因)を分析し、次回の実行予算作成や社内の歩掛かり(標準単価)データに反映させます。

失敗しない原価管理のためのポイントと注意点

原価管理で失敗し、最終的に赤字を出してしまう現場には共通するパターンがあります。現場代理人が特に注意すべきポイントを3つに絞って解説します。これらの落とし穴を避けることが、安定した利益確保への近道です。

実行予算は「厳しめ」かつ「現実的」に作成する

実行予算を作成する際、楽観的な数値を入れるのは禁物です。「たぶん安く発注できるだろう」「天候は安定するだろう」という希望的観測で予算を組むと、トラブル発生時に即座に赤字転落します。
一方で、現場の実態を無視して厳しすぎる予算を組むと、安全対策がおろそかになったり、協力会社のモチベーション低下を招いたりします。「過去の実績データに基づいた、達成可能なギリギリのライン」を見極めるバランス感覚が重要です。

どんぶり勘定を排除し、未成工事支出金を正確に把握する

失敗の典型例は、「請求書が届いてから原価を知る」というパターンです。これでは対策を打つ時間がありません。
発生主義に基づき、請求書が未着であっても、工事が行われた時点や材料が搬入された時点で「未成工事支出金」としてコストを認識する必要があります。「今、いくら使っているか」をリアルタイムで把握することが、精度の高い原価管理の鉄則です。

追加工事(変更工事)の費用負担をあいまいにしない

現場では、発注者からの要望や現場状況の変化により、追加・変更工事が頻繁に発生します。
この際、「ついでだからやっておいて」という口頭指示だけで作業を行い、費用負担を取り決めていないと、後で請求できずに自社の持ち出し(サービス工事)になるリスクがあります。
変更が発生した時点で必ず「増減見積もり」を作成し、書面で合意を得てから着手することを徹底してください。

アナログかシステムか?原価管理手法の比較と選び方

原価管理を行うツールとして、一般的に「エクセル(表計算ソフト)」と「原価管理システム(専用ソフト)」の2つがあります。現場の規模や会社の体制に合わせて適切な手法を選ぶことが重要です。それぞれの特徴を比較します。

エクセル管理の特徴とメリット・デメリット

エクセルは多くの企業で導入されており、手軽に始められるのが最大の特徴です。小規模な現場や、管理項目が少ない場合には有効です。

エクセル管理のメリット・デメリット
  • メリット
    追加コストがかからない、自由なフォーマットで作れる、使い慣れている人が多い。

  • デメリット
    入力ミス(計算式エラー)が起きやすい、複数人での同時編集が難しい、過去のデータを探しにくい、属人化(作った人しか修正できない)しやすい。

原価管理システムの特徴とメリット・デメリット

建設業向けに開発された専用システムは、効率化とデータ活用に強みを持ちます。複数の現場を管理する場合や、組織全体でデータを共有したい場合に適しています。

原価管理システムのメリット・デメリット
  • メリット
    入力と集計が自動連動する、リアルタイムで情報共有が可能、見積もりから発注・請求まで一元管理できる、過去データの参照が容易。

  • デメリット
    導入コスト(初期費用・月額費用)がかかる、操作方法を覚える必要がある。
比較軸 エクセル管理 原価管理システム
導入コスト 低い(既存ソフトで対応可能) 高い(初期費用・ライセンス料)
操作性 慣れている人が多い 習得が必要(教育コスト)
リアルタイム性 低い(集計作業が必要) 高い(入力即反映・共有)
集計の手間 多い(手動入力・転記) 少ない(自動集計・連携)
向いている現場規模 小規模・短期間の工事 中〜大規模・複数現場の管理

原価管理に関する現場代理人のよくある不安と対策

日々の業務に追われる現場代理人にとって、原価管理は大きなプレッシャーとなることがあります。ここでは、現場代理人が抱えがちなよくある不安とその具体的な解決策を提示します。

工事の途中で赤字が見込まれた場合の対処法

工事の進捗に伴い、予算オーバーの可能性が見えてくることがあります。この場合、絶対にやってはいけないのは「隠すこと」や「回復を祈ること」です。早期であればあるほど、打てる手は多くなります。

  • 1.早期報告
    上司や会社に状況を報告し、組織的な支援を仰ぎます。

  • 2.施工方法の見直し
    より安価な工法や材料への変更(VE/CD提案)を検討します。

  • 3.工程短縮
    仮設費や機械リース料などの「時間とともに増える経費」を圧縮するため、工程を詰められないか再検討します。

  • 4.再交渉
    協力会社へ事情を説明し、協力要請や単価の見直しを協議します。

事務作業が多すぎて管理しきれない時の工夫

現場管理(安全・品質・工程)に加え、原価管理の事務作業が負担になるケースは多々あります。ITツールの活用や分業化が有効な解決策となります。

  • スマホ・タブレット活用
    現場から日報や発注ができるクラウドツールを導入し、事務所に戻ってからの作業を減らします。

  • 事務員との連携
    伝票整理や入力作業は事務担当者に任せ、現場代理人は「承認」と「分析」に集中する役割分担を行います。

まとめ

建設業における原価管理は、単なる数字合わせの事務作業ではありません。それは、現場の利益を守り、会社の持続的な成長を支え、現場代理人自身の評価と信頼を築くための最も重要な実務の一つです。

4つの原価要素を正しく理解し、実行予算に基づいたPDCAサイクルを確実に回すこと。そして、どんぶり勘定を脱却し、リアルタイムな予実管理を行うこと。これらを徹底することで、現場代理人は自信を持って現場を指揮できるようになります。まずは自身の現場の管理手法を見直し、できることから改善を始めてみてください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 原価管理と工程管理にはどのような関係がありますか?

A. 両者は密接に関係しています。「工程の遅れ」は、労務費(作業員の日当)や機械リース料、現場経費の期間延長による増大を招き、直接的に原価を圧迫(原価アップ)します。したがって、適正な工程管理を行うことは、原価管理を行うことと同義と言えます。

Q2. 実行予算と実際原価の差が大きくなる主な原因は何ですか?

A. 主な原因としては、天候不順による工程の遅延、資材価格の予期せぬ高騰、設計変更や追加工事の費用計上漏れ、実行予算作成時の「歩掛かり(作業効率)」の見積もりミスなどが挙げられます。

Q3. 小規模な現場でも原価管理システムは必要ですか?

A. 必須ではありませんが、小規模工事を多数抱えている場合などは、システム化のメリットが大きくなります。案件ごとの利益が見えやすくなり、見積もり作成や請求書発行などの事務負担を大幅に削減できる可能性があるため、導入を検討する価値は十分にあります。

[出典:国土交通省 公共工事の品質確保の促進に関する法律]

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