「積算」の基本知識

積算未経験者が実務に入る前に学ぶべき6つの知識


更新日: 2025/12/03
積算未経験者が実務に入る前に学ぶべき6つの知識

この記事の要約

  • 積算の役割と見積もりとの違いを明確に定義し解説
  • 工事費構成や図面の読み方など実務基礎を完全網羅
  • 歩掛の概念や積算ツールの特徴と選び方を比較提示
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積算とは?建設プロジェクトにおける役割と重要性

積算(せきさん)は、建設プロジェクトにおいてコスト管理の根幹を担う業務です。未経験者がまず理解すべきは、積算が単なる計算作業ではなく、プロジェクトの収支や適正な取引価格を決定づけるための「根拠」を作成する責任ある役割であるという点です。

積算業務の定義と影響範囲
  • 定義:設計図書に基づき、工事に必要な材料数量や労務手間(人工)を算出する業務
  • 目的:適正な工事原価を把握し、入札価格や予算作成の根拠とする
  • 影響:受注可否の判断、プロジェクトの利益率、資材発注の正確性に直結する

建設現場のお金を管理する積算の仕事

積算とは、設計図書(図面や仕様書)から、建物を完成させるために必要なすべての要素を数値化するプロセスです。具体的には、コンクリートの体積、鉄筋の重量、内装材の面積、そしてそれらを施工するために必要な職人の人数(人工)などを一つひとつ拾い出します。このデータは、建設会社が工事を受注するための「入札価格」や、利益を確保するための「実行予算」の基礎となります。

積算の正確性がプロジェクトの利益を左右する

積算業務において最も重視されるのは正確性です。算出された数量に誤りがあると、企業の経営に深刻なダメージを与えるリスクがあります。

積算ミスによるリスク
  • 過小積算(数量不足)
    必要な材料費や労務費が見積もりに計上されず、工事を受注しても赤字になるリスクが発生します。

  • 過大積算(数量過多)
    工事価格が必要以上に高くなり、競争入札で他社に負けて受注機会を損失する可能性があります。

設計図面を見ながら電卓で計算をする積算担当者の様子

積算と見積もりの違いを正しく理解する

建設業界では「積算」と「見積もり」がセットで語られることが多いですが、両者は目的とプロセスが異なります。積算は原価を弾き出す事実ベースの作業であり、見積もりはそれに利益や戦略を加味した対外的な提示額を作成する行為です。

数量を算出する「積算」と金額を提示する「見積もり」

積算と見積もりの違いをプロセスで分解すると、以下のようになります。

  • 積算のプロセス:図面から「数量」を拾い、単価を掛けて「工事原価」を算出する(社内向けデータ)
  • 見積もりのプロセス:積算で出した原価に「一般管理費・利益」を上乗せし、「提出金額」を決定する(対外向け書類)

積算と見積もりの比較表

両者の違いを整理すると以下の通りです。

項目 積算 見積もり
主な目的 工事にかかる原価を正確に算出すること クライアントに工事価格を提示し契約すること
主な作業 図面からの数量拾い出し、単価設定 利益(経費)の調整、値引き交渉の余地検討
求められる能力 図面読解力、計算の正確性、根気強さ 交渉力、市場の相場観、経営的視点

積算業務で必須となる「工事費構成」の知識

建設工事の費用は、単純な材料費の積み上げだけではありません。積算担当者は、「工事価格」がどのようなツリー構造で成り立っているかを理解し、自分が算出している費用がどの項目に該当するかを常に意識する必要があります。

工事価格が構成される仕組み

工事費は大きく「工事原価」と「一般管理費等」に分類されます。さらに工事原価は、実際に建物を作るための「純工事費」と、現場を運営するための「現場管理費」に分かれます。この階層構造を理解していないと、費用の計上漏れや分類ミスにつながります。

工事費構成の分類一覧

主な費用の分類と内容は以下の通りです。

大分類 中分類 小分類 内容の概要
工事価格 工事原価 純工事費 直接工事費(材料費・労務費・機械経費など)
共通仮設費(仮設トイレ・運搬費・足場など)
現場管理費 現場監督の給与、現場事務所の維持費、保険料など
一般管理費等 本社の経費(役員報酬・家賃・事務用品費)、会社の利益

[出典:公共建築工事積算基準(国土交通省)]

積算に必要な図面の読み方と拾い出しの基礎

正確な積算には、設計図書から情報を読み取る「図面読解力」が不可欠です。どの図面に何が描かれているかを把握し、定められた手順で数量を拾い出すスキルは、実務に入るための最低条件となります。

意匠図・構造図・設備図の違い

工事種別によって参照すべき図面は異なります。

  • 意匠図(いしょうず)
    建物のデザイン、間取り、仕上げ材が描かれた図面。内装材(クロス、床材)の面積や建具の個数を拾う際に使用します。

  • 構造図(こうぞうず)
    柱、梁、基礎などの骨組みが描かれた図面。コンクリート体積、鉄筋重量、鉄骨トン数など、建物の躯体に関わる数量を拾う際に使用します。

  • 設備図(せつびず)
    電気、給排水、空調などの配管・配線ルートが描かれた図面。配管の長さ、照明器具の個数、エアコンの台数などを拾う際に使用します。

拾い出し作業の基本的な4ステップ

図面から数量を算出する作業を「拾い出し」と呼びます。ミスを防ぎ、第三者が検証可能な状態にするために、以下の手順を遵守します。

  • 1. 縮尺(スケール)の確認
    図面の縮尺(1/100、1/50など)を確認します。ここを誤ると、計測した数値がすべて誤ったものになります。

  • 2. 仕様(スペック)の特定
    「特記仕様書」や「仕上げ表」を確認し、材料のメーカー、品番、グレードを特定します。同じ面積でもグレードにより単価が異なるためです。

  • 3. 部位ごとの計測と計算根拠の明記
    「場所(通り芯や部屋名)」と「計算式」を必ずメモに残します。
    例:リビング天井:3.5m × 4.0m = 14.0m2

  • 4. 消し込み(チェック)
    拾い終わった箇所を図面上でマーカーなどで塗りつぶします。これにより「拾い忘れ」と「二重計上」を防ぎます。

積算精度を高める材料・工法と「歩掛」の理解

図面上の線や数字を追うだけでは、実態に即した費用は算出できません。施工手順を理解し、それに伴うロスや手間を数値化する「歩掛(ぶがかり)」の概念を理解することで、積算の精度は飛躍的に向上します。

材料と工法の知識がなぜ必要か

図面には完成形のみが描かれており、施工プロセスは省略されています。しかし、実際には以下のような費用が発生します。

  • 石膏ボードを貼るための「ビス」や「接着剤」などの副資材
  • 材料を切断した際に発生する「ロス(切り無駄)」

工法を知ることで、これらの隠れたコストを見落とすことなく計上できるようになります。

「歩掛(ぶがかり)」とは何か

歩掛とは、ある一つの作業を行うために必要な手間(時間・労働力)や材料の単位量のことです。積算において、労務費や材料費を算出するための重要な係数となります。

歩掛の活用例

例えば「100m2の壁を塗装する」場合、以下のような基準(歩掛)を用います。

  • 労務歩掛:1m2あたり0.05人の職人が必要
    算出:100m2 × 0.05人 = 5人の人工(にんく)

  • 材料歩掛:1m2あたり0.3kgの塗料が必要
    算出:100m2 × 0.3kg = 30kgの塗料

実務では、国土交通省の「公共建築工事積算基準」や、市販の「建設物価」「積算資料」などのデータを参照して歩掛を設定します。

積算ソフトとExcelの使い分けと実務への適応

積算業務の効率化にはデジタルの活用が欠かせません。汎用的なExcelと専用の積算ソフトにはそれぞれ特徴があり、企業の規模や工事内容によって使い分けられています。

建設積算ソフトの画面イメージ

実務で使われる主な積算ツール

多くの建設会社では、効率性と正確性を高めるために専用の積算ソフトを導入していますが、小規模工事や部分的な計算にはExcelも広く使われています。近年ではBIM(Building Information Modeling)データを活用した自動積算も普及し始めています。

Excel積算と専用ソフトの比較

それぞれのメリットとデメリットは以下の通りです。

ツール メリット デメリット
Excel ・導入コストが低い
・カスタマイズ性が高い
・小規模工事やリフォームに適応しやすい
・計算式の入力ミスが起きやすい
・データ共有や複雑な階層管理が困難
・単価更新を手動で行う必要がある
専用積算ソフト ・数量集計が自動化され効率的
・最新の単価データと連動可能
・内訳書作成機能が充実している
・導入コストが高い(数十万〜数百万)
・操作習得に一定の学習コストが必要
・ソフト間の互換性がない場合がある

まとめ:積算は「正確さ」と「探究心」が未経験からの成長鍵

積算は、建設プロジェクトのコスト構造を可視化し、利益を守るための重要な業務です。未経験者が実務に入る前に押さえておくべきポイントは以下の通りです。

本記事の重要ポイント
  • 役割の理解:積算はコストの根拠を作り、見積もりのベースとなる
  • 構造の理解:工事費は「原価」「管理費」「利益」などの階層で構成される
  • 図面の基礎:意匠・構造・設備の違いを知り、正確な拾い出し手順を守る
  • 歩掛の概念:作業ごとの手間や材料ロス率を考慮する
  • ツールの活用:Excelと専用ソフトの特性を理解し使い分ける

最初は専門用語や図面の複雑さに直面するかもしれませんが、一つひとつの部材が建物の一部となるプロセスを数字でシミュレーションできる点は積算の大きな魅力です。「正確さ」を常に意識し、不明な点は調べる「探究心」を持つことで、確実にスキルを習得できます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 積算の仕事に「数学」の高度な知識は必要ですか?

高度な数学(微分積分など)は不要です。実務で使用するのは主に四則演算(足し算・引き算・掛け算・割り算)と、面積・体積を求める公式が中心です。数学的な計算能力よりも、図面から情報を読み落とさずに整理する論理的思考力の方が重要視されます。

Q2. 文系出身の未経験者でも積算業務はできますか?

可能です。実際に文系出身で活躍している積算担当者は多く存在します。建築用語や部材の名称を覚える学習は必要ですが、これらは実務を通じて身につけることができます。数字に対する極端な苦手意識がなく、コツコツと正確に作業を進める適性があれば問題ありません。

Q3. 積算の実務スキルを身につけるための資格はありますか?

実務経験が最も重視されますが、資格取得は体系的な知識の証明になります。代表的な資格には「建築積算士」や、その下位資格である「建築積算士補」があります。未経験者の場合、まずは実務で経験を積みながら、キャリアアップの一環としてこれらの資格取得を目指すのが一般的です。

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