「工事写真」の基本知識

工事写真の保管期間とは?管理ルールと法対応も解説


更新日: 2025/12/10
工事写真の保管期間とは?管理ルールと法対応も解説

この記事の要約

  • 建設業法に基づき引渡しから10年間の保存義務がある
  • 税法や契約不適合責任を考慮した長期管理が必須
  • 電子小黒板やクラウド導入で管理コストを削減可能
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工事写真とは?撮影目的と重要性を解説

工事写真は単なる記録用の画像ではなく、契約の履行を証明し、将来的な紛争を未然に防ぐための重要な証拠資料です。建設現場において工事写真がなぜ不可欠なのか、その目的と重要性を法的責任の観点から解説します。

施工プロセスの証拠記録としての役割

工事写真は、建物が完成した後に目視できなくなる隠蔽部(いんぺいぶ)の施工状況を証明する唯一の手段です。発注者や監理技術者への報告において、図面通りに施工されたことを示すエビデンスとして機能します。

公共工事においては、各工程ごとの写真提出が検査合格の必須条件となります。具体的には以下の工程が該当します。

証拠記録が必要な主な隠蔽部
  • 基礎工事
    コンクリート打設前の配筋状況、杭の深さ、地盤改良の状況など

  • 配管工事
    壁内や床下に隠れる配管の接続状況、保温材の施工状況など

  • 防水工事
    下地処理の状況、防水層の規定厚み、重ね幅など

品質管理と瑕疵担保責任への対応

工事写真は、施工品質の管理だけでなく、万が一トラブルが発生した際の自衛手段としても重要です。適切な写真記録がない場合、施工業者は瑕疵(欠陥)がないことを証明できず、過大な修繕責任を負わされるリスクが高まります。

  • 言った言わないの防止
    仕様変更や指示内容に基づいた施工であることを視覚的に証明します。

  • 原因究明の資料
    将来的に雨漏りや設備の不具合が発生した場合、施工時の写真を確認することで原因特定を迅速化できます。

  • 責任の所在確認
    施工ミスなのか、経年劣化なのか、あるいは設計上の問題なのかを判断する客観的な材料となります。

パソコン画面で工事写真のデータ保存期間と分類を確認する現場監督

工事写真の保管期間は、一つの法律だけでなく建設業法、税法、民法など複数の視点から判断する必要があります。基本的には最も長い期間に合わせて保管することがリスク管理上推奨されます。それぞれの法律における要件を解説します。

建設業法における保管期間

建設業法およびその施行規則では、工事写真を営業に関する図書の一部とみなしています。新築工事の場合、完成した目的物の引渡しをした時から10年間の保存が義務付けられています。

これは、建物の主要構造部における瑕疵担保責任期間(10年)と整合性を取るためです。発注者との契約書類や図面と同様に、工事写真もこの保存義務の対象に含まれると解釈するのが一般的です。

[出典:国土交通省 建設業法施行規則]

税法(法人税法)上の保管期間

工事写真は、工事にかかった経費や売上の正当性を証明する取引証憑(しょうひょう)書類としての側面も持ちます。税務調査が入った際、工事の実態を示す資料として写真の提示を求められることがあります。

  • 原則的な保管期間
    確定申告書の提出期限の翌日から7年間

  • 例外的な保管期間
    欠損金(赤字)がある場合は10年間(平成30年4月1日以後に開始する事業年度)

[出典:国税庁 帳簿書類等の保存期間]

瑕疵担保責任(契約不適合責任)期間との関係

民法改正により「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」へと名称が変わりましたが、施工業者が負うべき責任の重さは変わりません。法律要件を満たすだけでなく、自社を守るために推奨される保管期間は10年が標準的です。

責任期間と推奨保管ルール
  • 品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)
    新築住宅の基本構造部分について、引渡しから10年間の保証が義務付けられています。

  • 民法(契約不適合責任)
    不適合を知った時から1年以内に通知が必要ですが、権利行使期間として引渡しから10年以内という制限があります。

以下の表は、各法律による保管期間の違いを整理したものです。

根拠となる法律 対象分類 保管期間 起算点(期間の始まり)
建設業法 営業に関する図書 10年間 目的物の引渡し時
法人税法 取引証憑書類 7年間
(条件により10年)
確定申告期限の翌日
品確法 新築住宅の基本構造部分 10年間 目的物の引渡し時

効率的な工事写真の管理ルールと整理方法

膨大な枚数となる工事写真を適切に管理するためには、撮影段階からのルール作りが欠かせません。この章では、国土交通省の基準(デジタル写真管理情報基準)に準拠し、第三者が見ても分かりやすい整理方法と撮影フローを解説します。

国土交通省の基準と信憑性の確保

公共工事においては、国土交通省が定める「デジタル写真管理情報基準」への準拠が求められます。ここで最も重視されるのが原本性の確保(改ざん検知)です。

J-COMSIA(一般社団法人施工管理ソフトウェア産業協会)の検定に合格したデジタルカメラやソフトウェアを使用する必要があります。これらを使用することで、画像データに固有のハッシュ値が付与され、「撮影後に画像が加工・改ざんされていないこと」を技術的に証明(信憑性確認)できるようになります。民間工事であっても、万が一の訴訟リスクに備え、この基準に準じた機材・ソフト選定が推奨されます。

[出典:国土交通省 デジタル写真管理情報基準]

写真整理のフォルダ構成と分類ルール

写真は撮影後すぐに整理しなければ、どれがどの現場のデータか判別できなくなります。検索時間を短縮するために、以下の階層構造でフォルダ分けを行うルールを徹底してください。

推奨されるフォルダ階層構造
  • 第1階層:工事名(プロジェクト名)

  • 第2階層:工種
    (例:基礎工事、躯体工事、内装工事)

  • 第3階層:種別
    (例:材料検収、施工状況、試験状況)

  • 第4階層:細別
    (例:配筋状況、コンクリート打設)

  • ファイル名
    (推奨例:YYYYMMDD_工種_内容.jpg)

このように、「大分類>中分類>小分類」のロジックで整理することで、AIによる自動仕分け機能などが使いやすくなるほか、担当者が変わってもデータを探しやすくなります。

撮影頻度と必須アングルの基本手順

工事写真は「いつ、どこで、何を、どのように」施工したかが第三者に伝わらなければ意味がありません。抜け漏れを防ぐため、以下の3ステップを基本ルーティンとして定着させましょう。

  • STEP 1:施工前(着手前)の撮影
    施工箇所の「現状」を記録します。補修工事などの場合は、施工前の不具合箇所が明確に分かるように撮影します。

  • STEP 2:施工中の撮影(最重要)
    完成後には隠れてしまう部分を中心に記録します。材料検収ではJISマークや規格を、寸法管理ではメジャーを当てて設計図通りの数値が出ているか接写します。

  • STEP 3:施工後(完了)の撮影
    仕上がり状況を撮影します。STEP 1(施工前)と同じアングルで撮影し、変化が一目で分かるようにするのがポイントです。
失敗しない撮影のチェックリスト
  • 黒板(電子小黒板)の文字は白飛びせず読めるか
  • 「全景(場所の特定)」と「近景(詳細の確認)」がセットになっているか
  • 測定器具の目盛りは拡大しても読み取れるか
  • 不要な私物や機材が写り込んでいないか
  • 撮影日時のデータ(Exif情報)は正しいか

建設現場でタブレットの電子小黒板機能を使って撮影する作業員

工事写真の電子化と管理ツールの活用

従来の紙焼きやアルバム作成による管理は、保管スペースや手間の面で限界があります。現在はクラウドや専用アプリを活用したデジタル管理が主流となっています。ここではアナログ管理との比較や電子小黒板のメリットを解説します。

アナログ管理とデジタル管理の比較

アナログ管理(紙媒体)とデジタル管理を比較すると、コスト・検索性・共有スピードのすべての面でデジタル管理に優位性があります。特に「保管スペースの削減」と「過去データの検索性」は、10年間の長期保管において大きなメリットとなります。

比較項目 アナログ管理(紙・アルバム) デジタル管理(クラウド・専用ソフト)
保管スペース 必要(キャビネット、倉庫等) 不要(サーバー・クラウド上)
検索性 低い(物理的に探す時間がかかる) 高い(キーワード・日付で即座に検索)
コスト 用紙・インク・バインダー代・倉庫代 サービス利用料・サーバー維持費
共有・提出 物理的な送付や持参が必要 URL共有やデータ送信で完結
バックアップ 困難(紛失・焼失リスクが高い) 容易(自動バックアップ機能あり)

電子小黒板の導入メリット

電子小黒板とは、タブレットやスマートフォンの画面上にデジタル合成された黒板を表示して撮影する技術です。J-COMSIAの信憑性確認(改ざん検知機能)に対応したツールであれば、公式な記録として認められます。

  • 安全性向上
    物理的な黒板を持ち運ぶ必要がなく、高所や狭所でも安全に撮影できます。

  • 単独作業が可能
    黒板を持つ補助員(手元)が不要となり、一人で撮影が完結するため人件費削減につながります。

  • 自動整理と台帳作成
    撮影データと黒板情報が連動し、ソフトに取り込んだ際に自動でフォルダ振り分けや台帳作成が行われます。

工事写真台帳作成ソフト・アプリの選び方

自社に合ったツールを選ぶ際は、以下の視点で選定します。特に電子納品を行う場合は、対応規格の確認が必須です。

ツール選定のポイント
  • 電子納品対応
    国土交通省や各自治体の要領・基準(営繕工事電子納品要領など)に対応した出力ができるかを確認します。

  • スマホ・PC連携
    現場で撮影したデータが、事務所のPCとリアルタイムで同期されるクラウド機能があるかを確認します。

  • 改ざん検知機能
    J-COMSIA認定の信憑性確認機能を有しているかを確認します。

工事写真の紛失や改ざん防止への対策(読者の不安解消)

デジタルデータは便利である反面、データ消失や意図しない改ざんのリスクがあります。長期保管を実現するためのセキュリティ対策と、改ざんとみなされる行為の境界線について解説します。

データのバックアップとセキュリティ

10年という長期間、データを安全に守るためには、HDD(ハードディスク)の故障やランサムウェアなどのウイルス被害を想定した対策が必要です。

バックアップの基本「3-2-1ルール」
  • 3つのデータコピーを持つ
    原本データに加えて、少なくとも2つのバックアップを作成します。

  • 2種類の異なるメディアに保存する
    例えば、外付けHDDとクラウドストレージなど、異なる媒体を組み合わせます。

  • 1つは別の場所に保管する
    事務所が被災した場合に備え、クラウドや遠隔地サーバーなど地理的に離れた場所を利用します。

クラウドストレージは、BCP(事業継続計画)の観点からも推奨されます。

画像編集(改ざん)とみなされる行為の境界線

工事写真は事実をありのままに伝える必要があります。画像の見栄えを良くするための加工でも、「改ざん」とみなされれば信用を失います。

  • OKな処理(補正)
    写真全体の明るさ調整(暗所撮影で見えにくい場合など)、回転(縦横の修正)、注釈の書き込み(矢印やテキストなど、元の画像を隠さない範囲で)。

  • NGな行為(改ざん)
    写っているゴミやクラック(ひび割れ)を画像編集ソフトで消去する、色味を変えてサビをごまかす、別の場所の写真を合成する、電子小黒板の数値を撮影後に書き換える。

まとめ

工事写真は、建設業法における「営業に関する図書」として、原則として引渡しから10年間の保管が義務付けられています。これは、税務調査や将来的な不具合発生時のリスク管理においても不可欠な期間です。

膨大な写真を10年間安全に管理し、かつ必要な時にすぐに取り出せるようにするためには、以下の対策が有効です。

  • 法的要件の遵守
    建設業法や電子帳簿保存法に対応した管理を行う。

  • ルールの統一
    撮影アングルやフォルダ構成を標準化し、誰でも検索できるようにする。

  • デジタルの活用
    電子小黒板やクラウド型管理ソフトを導入し、業務効率と検索性を高める。

  • セキュリティ対策
    改ざん検知機能の活用と、3-2-1ルールによるバックアップを徹底する。

適切な管理体制を構築することは、現場の負担を減らすだけでなく、企業の信頼を守る最大の防御策となります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 工事写真はプロジェクト終了後に削除しても良いですか?

いいえ、削除してはいけません。建設業法により、目的物の引渡しから10年間の保存義務があります。また、税務調査や将来のメンテナンス、不具合発生時の証拠としても必要となるため、長期保管が必須です。

Q2. 電子データ(クラウド等)での保存は法的有効ですか?

はい、有効です。電子帳簿保存法やe-文書法の要件(見読性、検索性、完全性など)を満たしていれば、紙に出力して保存する必要はなく、電子データのみでの保存が認められています。

Q3. 下請け業者も工事写真を保管する必要がありますか?

はい、原則として必要です。元請業者への報告義務があるほか、自社の施工に問題がなかったことを証明するために、下請け業者自身もデータを保管しておくことが強く推奨されます。

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