「工事写真」の基本知識

工事写真における日付・位置情報の記録方法とは?


更新日: 2025/12/18
工事写真における日付・位置情報の記録方法とは?

この記事の要約

  • 電子納品に必須の日付・位置情報記録基準とExifの重要性を解説
  • 電子小黒板やアナログ黒板など3つの記録方法を比較し最適解を提示
  • 改ざん防止やGPSズレへの具体的な対処法で信頼性を確保する
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工事写真の信頼性を支える日付・位置情報の重要性

公共工事をはじめとする建設現場において、工事写真は施工プロセスを証明する「証拠」としての役割を担っています。特にデジタルデータが主流となった現在では、画像そのものに加え、撮影日時や場所を示すメタデータの正確性が厳格に求められています。ここでは、なぜ今、日付と位置情報の管理が重要視されているのか、その背景と目的を解説します。

国土交通省の基準と電子納品要領

公共工事における工事写真は、国土交通省が定める「デジタル写真管理情報基準」および「電子納品要領」に準拠する必要があります。これらの基準では、画像データ(JPEG形式等)の中に、撮影日時や位置情報などの付加情報(属性情報)が含まれていることが必須要件となっています。

電子納品で管理が求められる主要な要素
  • 信憑性確認(改ざん検知機能)
    画像が撮影後に加工されていないことを技術的に証明する機能(ハッシュ値など)。

  • Exif情報
    撮影日時、使用カメラの機種、GPS情報などが記録されたメタデータ。

  • 写真情報管理
    工種、種別、細別、測点などの分類情報。

これらが適切に紐付けられていない場合、電子納品時にエラーが発生したり、検査時の有効な資料として認められなかったりするリスクがあります。

改ざん防止と証拠能力の確保

アナログ写真の時代は、ネガフィルムや物理的な写真そのものが原本として扱われていました。しかし、デジタルデータは編集ソフト等で容易に日付や画像を加工できてしまうため、「原本性(オリジナルであること)」の証明が最大の課題となります。

そのため、現在の工事写真管理では、画像データそのものに暗号化された情報を埋め込むなどして、「いつ、どこで撮影され、その後変更が加えられていないか」を技術的に担保することが不可欠です。日付と位置情報が正確なExifデータとして保持されていることは、施工の事実を客観的に証明する最も強力な手段となります。

電子小黒板アプリを使用して工事写真を撮影する現場監督

工事写真に日付・位置情報を記録する3つの主な方法

現場で工事写真を記録し、必要な情報をデータに付与する方法は大きく分けて3つあります。使用する機材やアプリケーションによって、作業効率やデータの信頼性に大きな違いが生まれます。ここでは、現在主流となっている手法を比較し、それぞれの特徴を解説します。

デジタルカメラ・スマートフォンのExif情報活用

最も基本的な方法は、デジタルカメラやスマートフォンに標準搭載されているExif(イグジフ)記録機能を利用することです。特別なアプリを使わなくても、撮影と同時に以下の情報が画像ファイル内に自動保存されます。

  • 撮影日時
    機器の内蔵時計に基づく時間。
  • 位置情報
    GPS機能による緯度・経度情報。

ただし、機器の設定で「位置情報を保存する」機能をONにしておく必要があります。また、カメラの内蔵時計がズレていると、全ての写真の撮影日時が誤って記録されるため、撮影前の時刻合わせが必須です。

電子小黒板アプリの自動付与機能

現在、多くの現場で導入が進んでいるのが、スマートフォンやタブレット向けの電子小黒板アプリです。画面上にデジタルの黒板を表示させて撮影する方法で、効率と信頼性の両面でメリットがあります。

電子小黒板アプリの主なメリット
  • 情報の自動連動
    黒板に入力した工種や測点情報が、自動的に写真のプロパティ情報として埋め込まれます。
  • 改ざん検知機能
    J-COMSIA認定などのアプリを使用することで、画像の真正性が担保されます。
  • 整理の効率化
    撮影後のフォルダ分けや台帳作成が自動化され、事務作業時間を削減できます。

従来のアナログ黒板(物理黒板)との併用

従来の木製やホワイトボード形式の物理的な小黒板を被写体と一緒に撮影する方法です。この場合、黒板に書かれた文字情報は画像データとして記録されますが、検索可能なテキストデータ(メタデータ)にはなりません。

そのため、電子納品を行う際は、撮影後に管理ソフトを使用して、手動で写真情報を入力するか、OCR(文字認識)機能を使って情報をデータ化する工程が発生します。日付・位置情報については、カメラ側のExif情報に依存します。

【表:工事写真記録方法別のメリット・デメリット比較】

記録方法 メリット デメリット 導入コスト データの信頼性
Exif情報のみ
(標準カメラ)
・手軽で特別な準備が不要
・機器を選ばない
・視覚的に日時・位置が確認しづらい
・編集ミスが起きやすい
電子小黒板アプリ ・黒板情報とExifが自動連動
・写真整理が大幅に楽になる
・改ざん検知機能あり
・対応端末とアプリが必要
・現場での操作習熟が必要
中~高
アナログ黒板 ・視認性が高く、状況共有しやすい
・電源トラブルの影響がない
・記入と配置の手間がかかる
・黒板記載内容とデータの不一致リスク

正確な工事写真を撮るための位置情報(GPS)の扱い方

工事写真における位置情報は、施工箇所を特定し、図面と整合させるための重要な要素です。しかし、GPSの特性上、設定ミスや環境要因による「ズレ」が頻発します。ここでは、電子納品でエラーを出さないための測地系設定と、GPSが受信できない環境での具体的な記録手順を解説します。

測地系の違い(世界測地系と日本測地系)

GPSの位置情報には座標の基準となる「測地系」が存在します。現在の公共工事では、以下の基準が適用されます。

  • 世界測地系(JGD2000 / JGD2011 / WGS84)
    現在の標準規格です。Googleマップや一般的なGPS機器はこれを採用しています。工事写真の電子納品においても、原則としてこの形式が求められます。

  • 日本測地系(Tokyo Datum)
    かつて日本独自で使用されていた規格です。世界測地系とは北西に約400〜450mのズレが生じるため、設定を間違えると地図上の位置が大きく狂います。
設定時の重要チェックポイント

撮影前にカメラやアプリの設定画面を開き、測地系が「世界測地系」になっていることを必ず確認してください。古い測量機器やGPSロガーを使用する場合は特に注意が必要です。

GPS電波が届かない場所(屋内・トンネル)での対応策

トンネル内、地下、屋内、深い山間部など、GPS衛星の電波が届かない場所では、自動で正確な位置情報を記録できません。このような環境では、以下のステップで対応することで、データの信頼性を確保できます。

  • 1. 最終取得地点情報の活用
    多くの電子小黒板アプリには、GPS信号が途絶えた際、最後に受信した地点(入り口付近など)の情報を保持する機能があります。まずはこの機能がオンになっているか確認し、大まかな位置情報を確保します。

  • 2. アプリ上の地図で「手動ピン留め」を行う
    撮影時、または撮影直後にアプリ内の地図を開き、実際の撮影箇所に手動でピンを立てて位置情報を登録します。この操作により、GPS座標がない写真データになることを防げます。

  • 3. 黒板情報への「通り芯・測点」の明記
    デジタルデータ上の位置情報だけでなく、写真に写り込む黒板(小黒板)の表記に、「No.○○+5.0m」「通り芯X2-Y5」など、図面と照合できる具体的な位置情報を文字で記載します。これが最も確実な証拠となります。

工事写真の日付データの改ざん防止と管理ルール

工事写真は「真正性(本物であること)」が命です。特に日付データは、施工の進捗や工程管理の正当性を証明する鍵となります。ここでは、意図しないデータの書き換えを防ぎ、コンプライアンスを遵守するための管理ルールについて解説します。

「撮影日」と「更新日」の違いと注意点

デジタルデータには複数の日付情報が存在し、これらを混同するとトラブルの原因になります。

  • 撮影日(Date Taken)
    Exif情報に記録される、シャッターを切った瞬間の日時。工事写真として重要なのはこの日付です。
  • 作成日/更新日(Date Created/Modified)
    ファイルをパソコンにコピーしたり、回転保存したりした際にOSが書き換える日時。

写真整理ソフトによっては、並び替えの基準を「更新日」にしてしまうことがあります。必ず「撮影日」を基準に管理するよう設定してください。また、一般的な画像編集ソフトで保存し直すとExif情報が削除される場合があるため、不用意な編集は避けるべきです。

信憑性確認(J-COMSIA認定)の重要性

一般社団法人施工管理ソフトウェア産業協会(J-COMSIA)は、工事写真の改ざん防止技術(信憑性確認機能)に関する検定を行っています。

J-COMSIA認定のソフトウェア(アプリおよびPCソフト)を使用すると、画像データに特殊なハッシュ値が埋め込まれます。これにより、提出された写真が「撮影後に加工されていないか」を自動的に判定(信憑性チェック)することができます。公共工事においては、このJ-COMSIA認定ソフトの使用が事実上の標準となっています。

[出典:一般社団法人施工管理ソフトウェア産業協会(J-COMSIA)]

パソコンの管理ソフトで工事写真の位置情報を確認する担当者

工事写真アプリ選定時の比較・検討ポイント

多数リリースされている工事写真アプリの中から、自社の業務に最適なものを選ぶにはどうすればよいでしょうか。カタログスペックだけでなく、実際の現場運用を想定したチェックポイントを紹介します。

オフライン環境での動作とデータ同期

建設現場のすべてで通信環境が良好とは限りません。選定時には以下の点を確認してください。

  • 完全オフライン対応
    電波がない場所でもアプリが起動し、黒板の編集や撮影、一時保存が可能か。
  • 自動同期のタイミング設定
    電波が入った瞬間にクラウドへアップロードされるか、Wi-Fi環境下でのみ同期するか設定できるか。(モバイルデータ通信量の節約のため)

位置情報の修正履歴機能の有無

GPSの誤差により、実際とは異なる場所で位置情報が記録されてしまうことは避けられません。この際、単に位置情報を書き換えるだけでは「改ざん」と疑われる可能性があります。

位置情報を後から手動で修正した場合に、「いつ、誰が、どの位置からどの位置へ修正したか」という変更履歴(ログ)が保持される機能を持つアプリを選びましょう。これにより、正当な修正であることを発注者に説明できます。

工事写真撮影に関する読者のよくある不安と解決策

現場監督や作業員が実際に直面しやすいトラブルや疑問について、具体的な解決策を提示します。事前の知識があれば、いざという時に慌てずに対応可能です。

撮影後に位置情報の大きなズレに気づいた場合

撮影が完了し、事務所に戻ってからGPS位置情報の大きなズレ(数百メートル~数キロなど)に気づくことがあります。

  • 再撮影の検討
    現場がそのままの状態であれば、再撮影が最も確実です。
  • 手動修正と注釈
    認定ソフト上で正しい位置に修正し、備考欄に「GPS受信不良のため位置情報を手動修正」と明記します。
  • 補足資料の提出
    撮影位置図(図面)を添付し、写真の位置情報が技術的誤差であることを補足説明します。

カメラの日付設定ミスによるトラブル対処

デジタルカメラの電池切れなどで時計がリセットされ、撮影日が「2000/01/01」などの過去の日付になってしまうケースです。

日付ミス発覚時の対処フロー
  • 1. Exifの一括修正は避ける
    一般的なフリーソフトでExifを書き換えると、信憑性確認機能(ハッシュ値)が破損し、改ざん扱いになります。

  • 2. 認定ソフトでの修正
    工事写真管理専用の認定ソフトには、信憑性を保持したまま(あるいは修正履歴を残して)撮影日時を一括補正できる機能を持つものがあります。必ず専用ソフトを使用してください。

  • 3. 発注者への報告
    修正履歴が残るため、事前に「カメラ設定ミスにより日時修正を行った」旨を監督員に報告し、承諾を得るのが安全です。

記事のまとめ

本記事では、工事写真における日付・位置情報の記録方法について、その重要性から具体的な手法、トラブル対策までを解説しました。

工事写真は単なる記録ではなく、工事の品質と正当性を証明する重要な「資産」です。アナログ黒板から電子小黒板への移行が進む中、正しい知識と適切なツール選定が業務効率化と信頼獲得の鍵となります。まずは自社の現場環境に合った記録方法を見直し、適切な運用ルールを確立することから始めましょう。

よくある質問

Q. スマートフォンの標準カメラアプリで撮影した写真も工事写真として使えますか?

可能ですが、推奨はされません。
電子納品に対応するための画素数設定やExif情報の取り扱い、また黒板情報の記載(物理黒板の準備)などの手間を考慮すると、専用の電子小黒板アプリを使用したほうが、結果的に業務効率とデータの信頼性が高まります。

Q. 工事写真の位置情報はどの程度の精度が求められますか?

基本的には一般的なGPS(誤差数メートル程度)で問題ありません。
ただし、用地境界の確認など、特に高精度が求められる写真については、GNSS測量機などの専用機器を用いた記録が必要になる場合があります。事前に発注者の特記仕様書を確認してください。

Q. 撮影後にExif情報を編集ソフトで修正しても問題ありませんか?

原則として推奨されません。
一般的な画像編集ソフトで修正すると「改ざん」とみなされるリスクがあります。どうしても修正が必要な場合は、修正履歴が正当なログとして残る「J-COMSIA認定ソフト」を使用するか、発注者に協議の上で対応を決める必要があります。

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