「工事写真」の基本知識

構造物別の工事写真とは?撮影例と分類ポイントを解説


更新日: 2025/11/13
構造物別の工事写真とは?撮影例と分類ポイントを解説

この記事の要約

  • 工事写真の5つの目的と基本を解説
  • 構造物別(土木・建築・設備)の撮影例
  • 撮影の共通ルールと効率的な管理方法
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工事写真の基本と重要性

工事写真とは、単なる記録以上の重要な役割を担っています。工事が設計図書や仕様書通りに正しく行われたかを示す「証拠」であり、品質管理の根幹をなすものです。このセクションでは、工事写真の基本的な定義と、なぜ建設現場において工事写真が不可欠なのか、その5つの主要な目的について解説します。

工事写真とは?その目的と役割

工事写真は、工事の施工過程や完成状況を、写真という客観的な媒体で記録したものです。これにより、目視で確認できない場所や、施工後に隠れてしまう部分(隠蔽部)の品質を証明します。

工事写真が果たすべき主な目的は、以下の5つに整理できます。

  • 品質管理(出来形管理)
    設計図書や仕様書に定められた寸法、規格、材質、施工方法が守られているかを確認・証明します。例えば、鉄筋の太さや間隔、コンクリートの厚みなどが該当します。

  • 進捗管理
    日々の工事の進捗状況を視覚的に把握し、関係者間で共有するために使用します。工程が計画通りに進んでいるかの判断材料となります。

  • 安全管理
    仮設足場の設置状況や、安全帯の使用状況、危険箇所の表示など、現場の安全対策が適切に講じられているかを記録し、安全意識の向上や事故防止に役立てます。

  • 検査資料
    発注者による中間検査や完了検査の際に、施工が適切に行われたことを証明するための「提出資料(工事写真帳)」として使用します。

  • 証拠保全(契約・訴訟対応)
    万が一、施工後の不具合(瑕疵)や近隣とのトラブル、事故が発生した場合に、施工状況を客観的に証明する「証拠」として法的な効力を持ちます。

「豆図(施工図)」と「黒板(小黒板)」の役割とは

信頼性の高い工事写真を撮影するためには、「撮影対象」そのものに加え、それが「どこ」の「何」であるかを示す情報が不可欠です。その役割を担うのが「豆図」と「黒板」です。

  • 豆図(施工図)
    豆図(まめず)とは、広範囲な工事現場において、撮影箇所を明確にするための簡略化された図面を指します。写真だけでは撮影位置や方向が分かりにくいため、施工図の一部を抜粋した「豆図」を写真に含めることで、写真が構造物のどの部分を示しているのかを第三者でも正確に把握できます。

  • 黒板(小黒板)
    黒板(こくばん)とは、撮影日時、場所、工事内容、寸法などの情報を明記し、写真と一緒に写し込むための情報板のことです。近年では、アプリ上で情報を入力する「電子小黒板」の利用が主流となっています。
    黒板に記載すべき必須項目には以下のようなものがあります。
    • 工事名
    • 工種(例:鉄筋工事、型枠工事)
    • 測点(位置情報)
    • 部位(例:1階 柱、基礎フーチング)
    • 寸法(設計値と実測値)
    • 略図(必要に応じて)
    • 撮影年月日

【構造物別】工事写真の分類と撮影ポイント

工事写真は、対象となる構造物によって撮るべき対象やアングル、管理すべきポイントが大きく異なります。土木、建築、設備といった分野ごとの特性を理解することが、適切な記録を残す鍵となります。ここでは、主要な構造物別に、工事写真の分類と具体的な撮影時のポイントを整理します。

工事写真の主な分類方法

工事写真は、様々な軸で分類されますが、現場管理では主に以下の3つの視点で整理されます。

  • 撮影目的による分類
    施工前写真(工事着手前の現況)、施工中写真(材料、配筋、安全対策など)、施工後(完成)写真(工程完了、全体完成)など。

  • 工事種別による分類
    土木工事、建築工事、設備工事(電気、給排水、空調など)。

  • 構造物による分類
    本記事で以下に詳しく解説する、道路、橋梁、基礎、躯体などの具体的な構造物ごとの分類です。

構造物別の撮影例とポイント(土木構造物)

道路、橋、トンネル、河川など、社会インフラを支える土木工事は、その規模の大きさと、土やコンクリートなど自然素材を扱う特性があります。各層の厚みや締固め状況など、完成後に見えなくなる部分の品質をいかに記録するかが重要です。

以下の表は、土木構造物の代表的な撮影ポイントをまとめたものです。

表1:土木構造物の撮影ポイント例

構造物 主な撮影対象(工程) 撮影時のポイント・注意点
道路 路床、路盤、表層(舗装) 各層の厚み、転圧状況、平坦性がわかるように撮影する。
橋梁 基礎工、橋脚・橋台、桁の架設 鉄筋の配筋状況、コンクリート打設状況、部材の接合部を重点的に撮影する。
トンネル 掘削状況、支保工、覆工コンクリート 掘削断面、湧水の状況、コンクリートの厚みや仕上がりがわかるようにする。
河川 護岸工、床止め工 施工前後の比較(施工前写真が重要)、使用材料、法面の勾配がわかるように撮影する。

構造物別の撮影例とポイント(建築構造物)

建物の安全性や快適性に直結するのが建築工事です。特に、完成後は壁や天井に隠れてしまう基礎や躯体(柱・梁・床・壁)は、工事写真による記録が不可欠です。鉄筋のかぶり厚さや、断熱材の施工状況など、細部の品質が問われます。

建設現場で建物の基礎部分の鉄筋を撮影する作業員

以下の表は、建築構造物の代表的な撮影ポイントをまとめたものです。

表2:建築構造物の撮影ポイント例

構造物/部位 主な撮影対象(工程) 撮影時のポイント・注意点
基礎 根切り、捨コン、配筋、型枠、コンクリート打設 掘削の深さ、配筋の径・本数・ピッチ、かぶり厚さがわかるようにする。
躯体(RC造) 柱、梁、床、壁の配筋・型枠 鉄筋の結束状況、スリーブ(配管用の穴)の位置、型枠の精度を記録する。
躯体(S造) 柱・梁の接合部、デッキプレート 高力ボルトの締付け状況(マーキング)、溶接部(外観)、デッキプレートの敷設状況を撮影する。
仕上げ(内装・外装) 下地処理、防水層、断熱材、仕上材 見え隠れ部(下地や防水層、断熱材)は施工後確認できないため、必ず工程ごとに撮影する。

構造物別の撮影例とポイント(設備)

建物や構造物が機能するために不可欠な、電気、給排水、空調などの設備工事。その多くは天井裏や壁内、床下に設置されるため、工事写真は隠蔽部の施工品質を証明する唯一の手段となります。

以下の表は、設備工事の代表的な撮影ポイントをまとめたものです。

表3:設備工事の撮影ポイント例

設備 主な撮影対象(工程) 撮影時のポイント・注意点
電気設備 配管・配線の敷設、機器の設置 隠蔽部(壁内・天井裏)の配管・配線ルート、接続部を重点的に撮影する。
給排水衛生設備 配管の敷設、勾配、機器の設置 配管の材質、支持方法、勾配(水が流れるように)、満水・水圧試験の状況を記録する。
空調設備 ダクト・配管の敷設、機器の設置 ダクトの支持、断熱材の施工状況、機器の設置位置(ドレン配管の勾配含む)を撮影する。

工事写真の撮影で押さえておきたい共通ルール

構造物の種類(土木、建築、設備)を問わず、信頼性の高い「証拠」としての工事写真を撮影するためには、守るべき共通のルールが存在します。ここでは、撮影の基本的な流れから、よくある失敗を防ぐための具体的なテクニックや注意点を解説します。

写真撮影の基本的な流れ(計画~撮影)

行き当たりばったりな撮影では、重要な「撮り忘れ」が発生します。工事写真は、施工計画の一部として、体系的に実施する必要があります。

  • 1. 撮影計画(何を・いつ撮るか)
    施工計画書や設計図書、発注者から提示される「写真管理基準」に基づき、撮影すべき項目(工種、部位)、タイミング(施工前・中・後)、撮影頻度をリストアップします。特に、コンクリート打設前や内装ボードを張る前など、隠蔽部となる箇所の撮影計画は重要です。

  • 2. 機材準備(何で撮るか)
    撮影に必要な機材(カメラ、黒板、豆図、メジャー、三脚など)を準備します。現場環境(暗所、防水・防塵性能)に合わせた機材選定も行います。

  • 3. 撮影実施(どう撮るか)
    計画に基づき、撮影漏れがないように実施します。黒板の情報が正確か、ピントが合っているか、撮影対象が明確かをその場で確認し、不鮮明な場合は必ず撮り直します。

鮮明な工事写真を撮るためのコツ(構図・明るさ)

「何が写っているかわからない」写真は、証拠としての価値を持ちません。第三者が見ても明確に状況が伝わる写真を撮るための基本的なコツを紹介します。

  • 1. ピントと明るさを確保する
    最も重要な情報である「黒板」と、品質を証明したい「撮影対象」の両方にピントが合っていることが必須です。暗い場所では手ブレしやすいため、フラッシュや照明、三脚を活用し、白飛びや黒つぶれがないように明るさを調整します。

  • 2. 構図を整理する
    撮影対象が写真の中心に来るようにし、状況把握に不要なもの(工具の置き忘れ、ゴミなど)が写り込まないよう、撮影前に必ず整理整頓を行います。写真は原則として「1工種1枚」とし、全体と詳細(寸法など)を分けて撮影すると分かりやすくなります。

  • 3. 寸法を正確に示す
    鉄筋の間隔やコンクリートの厚みなど、寸法を記録する場合は、メジャーやスケールを当てて撮影します。この際、目盛りが明確に読み取れるように、メジャーをたるませず、対象に対して垂直に当てることが重要です。

工事写真の撮影における注意点とNG例

信頼性を損なう「NGな工事写真」を避けるため、よくある撮影ミスとその対策を整理します。

よくあるNG例と対策
  • NG例:黒板の文字が読めない(ピンボケ、光の反射、文字が小さい)。
  • NG例:撮影対象が何かわからない(寄りすぎ、引きすぎ、ピントが合っていない)。
  • NG例:撮影箇所が整理整頓されておらず、状況が不明瞭(ゴミや工具が散乱している)。
  • NG例:撮影漏れ(特に施工後に確認できなくなる隠蔽部の撮り忘れ)。
  • NG例:メジャーの目盛りが不鮮明、または当て方が不正確。

【対策】 撮影後は必ずその場でプレビュー(再生)し、上記のNG例に該当していないかを確認する癖をつけましょう。不鮮明な場合は、その場で必ず撮り直すことが鉄則です。また、作成した撮影計画リストを使い、撮影後にチェックマークを付けることで、撮影漏れを防ぎます。

工事写真の管理・整理方法と効率化

工事写真は「撮影して終わり」ではありません。撮影した膨大な量の写真を適切に管理・整理し、必要な時に迅速に取り出せる状態にして初めて、検査資料や証拠としての価値を持ちます。ここでは、工事写真の効率的な管理方法について解説します。

なぜ工事写真の整理が必要なのか

工事写真の整理は、単なる事務作業ではなく、建設プロジェクトの信頼性を担保する重要な業務です。

  • 検査書類(写真台帳)の作成
    発注者へ提出する「工事写真帳(台帳)」をスムーズに作成するために必須です。

  • 発注者・設計監理者への報告
    施工状況を報告する際、工種別・部位別に整理された写真があれば、説明が容易になり、円滑なコミュニケーションが図れます。

  • 将来のメンテナンス・改修対応
    数年後にメンテナンスや改修工事を行う際、当時の施工状況(特に隠蔽部)がわかる写真は、貴重な技術資料となります。

  • リスク(訴訟・クレーム)への備え
    万が一のトラブル発生時、施工の正当性を証明する「証拠」として迅速に提示できます。

従来の管理方法と課題

従来、工事写真の管理は多くの現場で下記のような方法で行われてきました。


1. デジタルカメラで撮影。
2. 現場事務所のPCに写真データを取り込む。
3. Excelや手作業で、工種別・日付別・部位別にフォルダ分けする。
4. 黒板の情報をExcel台帳に手入力で転記する。
5. ExcelやWordに写真を貼り付けて「工事写真帳」を作成する。

この方法には、「写真の取り込みとフォルダ分けに膨大な時間がかかる」「黒板情報の転記ミス(ヒューマンエラー)が起こりやすい」「写真を探すのに時間がかかる(検索性が低い)」といった大きな課題がありました。

工事写真管理を効率化するツール・アプリの活用

こうした従来の課題を解決するのが、近年主流となっている「工事写真管理ソフト」や「電子小黒板対応アプリ」です。これらのツールを活用することで、管理業務は劇的に効率化されます。

表:従来の方法 vs 専用ツール(比較検討)

以下の比較表は、従来の方法と専用ツール(電子小黒板アプリなど)の違いをまとめたものです。

比較項目 従来の方法(手書き黒板、Excel) 専用ツール(電子小黒板アプリ、管理ソフト)
黒板準備 現場で手書き。手間がかかる。雨天で滲む。 電子黒板で簡単入力。テンプレート利用可。改ざん防止機能も。
写真整理 PCに取り込み後、手動でフォルダ分け。時間がかかる。 撮影時に自動で仕分け・整理される。(例:工種>部位)
台帳作成 写真をExcelなどに貼り付け、黒板情報を手入力。 撮影データから自動で台帳(写真帳)を作成できる。
情報共有 データ転送(メール、USB)や印刷に時間がかかる。 クラウド経由でリアルタイムに共有可能。

[出典:国土交通省「デジタル写真管理情報基準」などを基に作成]

まとめ:適切な工事写真で品質と信頼性を担保しよう

この記事では、工事写真の基本的な役割から、構造物別の具体的な撮影ポイント、そして撮影・管理の共通ルールまでを網羅的に解説しました。

工事写真は、単なる「記録」ではなく、工事の品質を証明し、発注者や社会の信頼を得るための重要なエビデンスです。特に、施工後に見えなくなる隠蔽部の品質は、工事写真によってのみ証明されます。

構造物ごとの特性(土木なら厚み、建築なら配筋、設備なら勾配)を理解し、黒板や寸法が明確に写るよう共通ルールを守って正確な記録を残すことが、工事の品質と信頼性の確保に直結します。

まずは、本記事で紹介した構造物別の撮影ポイントや、管理効率化のためのツール活用を参考に、自社の撮影マニュアルやチェックリストが現状の基準(電子小黒板の活用など)に合っているか、見直すことから始めてみてはいかがでしょうか。

工事写真に関するよくある質問(FAQ)

Q. 工事写真はどれくらいの頻度で撮影すればよいですか?

A. 決まった頻度はありませんが、「施工前」「施工中(材料、配筋、寸法など)」「施工後(隠蔽部、完成)」の各段階で必ず撮影が必要です。特に、コンクリート打設後や内装仕上げ後など、後からでは確認できなくなる「隠蔽部」は、施工状況がわかるように細かく撮影することが重要です。発注者や設計図書の仕様で定められた撮影ポイントは必ず押さえてください。

Q. 撮影した工事写真のデータはいつまで保存する必要がありますか?

A. 保存期間は、関連法規(建設業法など)や発注者との契約内容によって異なります。一般的には、瑕疵担保責任期間(例えば新築住宅では10年)が一つの目安となりますが、公共工事などではそれ以上の長期間保存が求められる場合もあります。必ず契約書や仕様書を確認してください。

Q. スマートフォンでの撮影でも問題ありませんか?

A. 近年のスマートフォンは高画質であり、撮影自体は可能です。ただし、「電子小黒板」機能付きの専用アプリの使用を推奨します。通常のカメラアプリで撮影した写真は、データの信頼性(改ざん防止)の観点で、発注者によっては認められない場合があります。また、現場環境(暗所、雨天、高所など)を考慮し、防水・防塵・耐衝撃性能のある専用カメラやスマートフォンケースの使用が望ましいです。

Q. 電子小黒板とは何ですか?

A. 電子小黒板とは、従来の手書き黒板の代わりに、スマートフォンやタブレットのアプリ上で黒板情報(工種、測点など)を表示し、写真と一緒に撮影できる機能のことです。黒板を準備・記載する手間が省け、撮影データの自動整理や改ざん防止機能(信憑性確認機能)も備わっているため、工事写真業務の大幅な効率化と信頼性向上に繋がります。

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