「労務」の基本知識

建設業における安全衛生と労務管理の連携とは?


更新日: 2025/11/20
建設業における安全衛生と労務管理の連携とは?

この記事の要約

  • 安全衛生と労務管理の連携は現場の事故防止に不可欠である
  • 2024年問題対応には正確な労働時間把握と現場管理が必要
  • デジタル化による情報共有が業務効率化とリスク低減を実現
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建設業における「労務」の定義と安全衛生との違い

建設業における管理業務は多岐にわたりますが、特に「労務」と「安全衛生」は混同されやすい領域です。まずはそれぞれの定義を明確にし、どの業務が何に該当するのか、その違いを構造的に理解することが、適切な連携への第一歩となります。

労務管理とは何か

建設業における労務管理とは、主に従業員や技能実習生が働くための権利や環境を整備・管理する業務全般を指します。これは企業としてのコンプライアンス遵守の基盤となる業務であり、具体的には以下のような業務が含まれます。

  • 賃金計算・支払い
    基本給、残業代、手当の計算および支払い業務。

  • 労働時間管理
    出退勤の記録、36協定の遵守、有給休暇の取得状況管理。

  • 社会保険手続
    健康保険、厚生年金、雇用保険の加入・脱退手続き。

  • 福利厚生
    健康診断の実施手配、寮や社宅の管理。

  • 雇用契約
    雇用契約書の作成、法規制に基づいた就業規則の運用。

安全衛生管理とは何か

一方で安全衛生管理とは、労働安全衛生法に基づき、建設現場での労働災害(事故やケガ)を防止し、作業員の健康を守るための現場主導の活動を指します。物理的な危険を排除し、作業員の安全意識を高めるための直接的な活動です。

  • 現場巡回・点検
    不安全箇所の是正、足場や重機の点検、是正措置の実施。

  • 危険予知活動(KY活動)
    作業前のミーティングでのリスク洗い出しと対策の共有。

  • 安全教育
    新規入場者教育、送り出し教育、職長教育、特別教育の実施。

  • 保護具の管理
    ヘルメット、安全帯(フルハーネス)等の使用状況確認。

労務と安全衛生の決定的な違い

両者の決定的な違いは、管理の対象とアプローチにあります。「労務」は「人(契約・時間・権利)」を管理対象とし、オフィスワークや制度設計が中心となります。対して「安全衛生」は「現場(物理的環境・人の行動)」を管理対象とし、現場での実務的な対策が中心です。

建設現場事務所での労務と安全管理のイメージ

労務管理と安全衛生管理の比較
  • 主な対象
    労務管理:人・契約(労働者個人の権利と待遇)
    安全衛生管理:現場・環境(物理的な作業場所と行動)

  • 目的
    労務管理:労働条件の適正化、生活の安定
    安全衛生管理:労働災害の防止、健康障害の予防

  • 主な業務
    労務管理:勤怠管理、給与計算、保険手続
    安全衛生管理:リスクアセスメント、安全パトロール

なぜ安全衛生の向上に「労務」の連携が不可欠なのか

安全な現場を作るためには、単に手すりを設置したり点検を行うだけでは不十分です。事故の背景には、作業員の疲労や心理状態が深く関わっており、これらをコントロールするのが「労務」の役割だからです。ここでは両者の連携が不可欠な理由を解説します。

過重労働と労働災害の相関関係

労働災害の原因として多くの割合を占めるのが、作業員の「ヒューマンエラー」です。このヒューマンエラーを引き起こす最大の要因の一つが、過重労働による疲労の蓄積です。長時間労働や休日不足といった「労務上の課題」は、以下のようなプロセスで「安全衛生上の事故」に直結します。

  • 長時間労働の常態化
    適切な休息が取れず、慢性的な睡眠不足に陥る。

  • 身体機能・認知機能の低下
    集中力、判断力、注意力が低下し、危険予知能力が鈍る。

  • 不安全行動の発生
    手順の省略、確認不足、危険箇所の見落としが発生しやすくなる。

  • 労働災害の発生
    重機接触、墜落・転落などの重大事故につながる。

メンタルヘルス対策としての労務管理

安全衛生には「身体の安全」だけでなく、「精神の健康(メンタルヘルス)」も含まれます。建設現場は工期のプレッシャーや複雑な人間関係によるストレスがかかりやすい環境です。ストレスチェック制度の実施や、ハラスメント相談窓口の設置といった労務管理上のアプローチは、作業員の心理的負担を軽減します。精神的に安定した状態で作業に従事させることは、突発的なミスや判断ミスを防ぎ、現場全体の安全レベルを向上させます。

法的責任のリスクマネジメント

万が一、現場で重大な労働災害が発生した場合、企業には「安全配慮義務違反」や「使用者責任」が問われます。この際、現場の安全対策だけでなく、労務管理の状況も厳しく調査されます。「違法な残業をさせていなかったか」「法定の休憩を与えていたか」「社会保険に適切に加入させていたか」といった労務コンプライアンスに不備があると、企業の法的責任はより重くなり、指名停止処分や社会的信用の失墜につながります。

安全配慮義務違反のリスク要因
  • 36協定を超えた違法な時間外労働
  • 健康診断の未実施や事後措置の不備
  • 社会保険未加入状態での現場入場
  • メンタルヘルス不調の放置

建設業界を取り巻く法規制は年々厳格化しており、特に2024年以降の法改正対応は急務です。ここでは、安全衛生とも深く関わる労務関連の法規制と、実務上の重要ポイントについて解説します。

働き方改革関連法(2024年問題)への対応

2024年4月より、建設業にも「時間外労働の上限規制」が適用されました。これにより、原則として月45時間・年360時間以内の残業規制を遵守する必要があります(臨時的な特別の事情がある場合でも上限あり)。この法改正への対応は、単なる法律論ではありません。36協定の範囲内で作業計画を立てることは、無理のない工期設定につながり、結果として現場の安全を守ることになります。

グリーンサイト(労務安全書類)の重要性

建設現場では、元請企業に対して「労務安全書類(通称:グリーンファイル)」を提出する義務があります。これは、現場に入場する作業員の情報を網羅した書類群であり、労務情報と安全情報を繋ぐ最も重要なドキュメントです。

  • 作業員名簿
    誰が、いつ、どこで働くかを特定する(労務管理)。

  • 社会保険加入状況
    適切な保障があるかを確認する(労務コンプライアンス)。

  • 資格・免許の写し
    その作業を行う技能・資格があるかを証明する(安全管理)。

  • 健康診断等の受診状況
    作業に従事できる健康状態かを確認する(安全衛生管理)。

社会保険加入と建設キャリアアップシステム(CCUS)

国土交通省は、社会保険未加入企業の現場排除を進めています。適切な保険加入は、万が一の事故の際の保障(労災保険等の上乗せ)として不可欠です。また、建設キャリアアップシステム(CCUS)の普及により、技能者の就業履歴や資格情報がデジタル化されています。CCUSを活用することで、作業員のスキルレベルを客観的に把握でき、能力に見合った安全な配置が可能になります。

現場の不安を解消する効率的な労務管理の手法

労務と安全衛生の連携が重要である一方、現場からは「事務作業が増えて負担だ」「管理しきれない」という不安の声も聞かれます。ここでは、従来のアナログ管理と最新のデジタル管理を比較し、効率的な解決策を提示します。

従来のアナログ管理における課題

多くの建設会社では、依然として紙の出勤簿やExcelでの手入力による管理が行われています。しかし、アナログ管理には以下のようなリスクがあり、安全管理の足かせとなる場合があります。

  • 情報のタイムラグ
    月末に締めるまで労働時間が分からず、過重労働の発見と是正が遅れる。

  • 集計ミス・入力ミス
    手書き文字の判読不能や転記ミスにより、正確なデータが蓄積されない。

  • 資格期限切れの見落とし
    膨大な紙書類の中から、個々の資格有効期限を常時監視するのは困難である。

労務管理システムの導入メリット

クラウド型の労務管理システムや、顔認証・QRコード等を用いた入退場管理システムを導入することで、これらの課題は劇的に改善します。

  • リアルタイム管理
    日々の労働時間が自動集計され、残業規制の上限に近づくとアラートが出るなど、予防的な安全管理が可能になる。

  • 情報の共有
    本社(労務)と現場(安全)が同じデータベースを参照できるため、グリーンサイトの作成や資格情報の確認がスムーズになる。

  • 健康管理の見える化
    日報機能と連動し、その日の体調等を記録・共有することで、不調者を早期に発見できる。

建設現場におけるデジタル労務管理のイメージ

アナログ管理とデジタル管理の比較

比較項目 アナログ管理(紙・Excel) デジタル管理(クラウドシステム等)
初期コスト 低い(ほぼ不要) 中〜高い(導入費・月額費)
導入ハードル 低い(慣れた方法) 中(操作習得が必要)
情報の正確性 低い(転記ミス等のリスク) 高い(自動集計・連携)
リアルタイム性 なし(事後確認中心) あり(即座に把握可能)
安全衛生への寄与 限定的 大きい(予防管理が可能)

効率的な連携を実現する3ステップ

  1. 現状の可視化と課題の洗い出し
    自社の現場で「誰がどのくらい働いているか」「資格情報は最新か」が即座にわかる状態かを確認します。情報把握に数日のラグがある場合は、管理フローの見直しが必要です。
  2. 自社に適したデジタルツールの選定
    全現場に高額な機器を入れる必要はありません。小規模な現場ならスマホアプリ、大規模現場なら顔認証ゲートなど、現場規模と予算に合わせてツールを選定します。「グリーンサイトとの連携機能」があるシステムを選ぶと、書類作成の手間が大幅に削減されます。
  3. 運用ルールの策定と教育
    新しいシステムを導入しても、現場が使わなければ意味がありません。「入場時は必ずスマホで打刻する」「資格更新時は画像をアップロードする」といったシンプルなルールを決め、職長や現場代理人への教育を徹底します。

まとめ

建設業において、安全衛生と労務管理は別々のものではなく、互いに補完し合う「車の両輪」のような関係です。適切な労務管理(労働時間や健康の管理)を行うことが、結果として現場の事故を防ぎ、安全衛生水準の向上に直結します。法改正への対応を含め、両者を連携させた体制づくりが今後の建設企業には求められています。

よくある質問

ここでは、建設業の安全衛生と労務管理に関してよく寄せられる質問に回答します。

Q1. 労務管理だけで労働災害は防げますか?

労務管理だけで全ての労働災害を防ぐことはできません。しかし、事故の主要因である「疲労」「体調不良」「不注意」を予防する基礎となります。現場での安全パトロールやKY活動(危険予知活動)といった物理的な対策と、適切な労務管理を組み合わせることが最も効果的です。

Q2. 小規模な建設会社でもシステム導入は必要ですか?

必ずしも必須ではありませんが、2024年の法改正により労働時間管理が厳格化されています。手書きでの管理に限界を感じる場合や、正確性を期す場合は、小規模事業者向けの安価なツールや無料プランのあるアプリの導入を検討することをおすすめします。手間とリスクを天秤にかけて判断してください。

Q3. 安全書類(グリーンファイル)は労務担当が作成すべきですか?

企業の方針によりますが、理想的には現場と労務が連携して行うべきです。グリーンファイルには「現場の契約情報」と「作業員の個人情報」の両方が必要となるため、現場代理人と労務担当者が情報を共有し、最終的に現場代理人が確認・提出するフローが一般的であり、ミスも少なくなります。

[出典:厚生労働省 労働安全衛生法および関連法令]
[出典:国土交通省 建設業における働き方改革について]
[出典:国土交通省 建設キャリアアップシステム(CCUS)ポータルサイト]

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