「労務」の基本知識

建設業の労務管理を変えるDX・IT活用事例とは?


更新日: 2026/01/15
建設業の労務管理を変えるDX・IT活用事例とは?

この記事の要約

  • 2024年問題への対応には労務管理のデジタル化が必須です。
  • クラウド勤怠や電子契約で現場の事務負担を大幅に軽減します。
  • 段階的な導入と教育がデジタル化成功の重要な鍵となります。
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建設業の労務管理にDX・ITが必要とされる背景

建設業界では、働き方改革関連法の適用により時間外労働の上限規制が本格化しています。深刻な人手不足が続く中、アナログな管理から脱却し、デジタル技術を活用して業務効率と職場環境を抜本的に改善することが、企業の生存戦略において不可欠となっています。

建設業界が直面する「2024年問題」と労務規制の強化

2024年4月から、建設業においても時間外労働の上限規制が猶予期間を終えて適用されました。これにより、労務管理の不徹底は単なる社内問題ではなく、法的な罰則リスクを伴う経営課題へと変化しています。

  • 時間外労働の上限原則
    原則として月45時間、年360時間以内。これを超過する場合は、36協定の特別条項が必要となります。

  • 特別条項適用時の制限
    特別条項を適用しても、年720時間以内、複数月平均80時間以内(休日労働含む)などの厳格な基準を遵守しなければなりません。

これらの複雑な時間を紙の台帳やExcelで管理し続けることは、集計の遅れや転記ミスを招き、意図せぬ法令違反を引き起こすリスクを高めています。

アナログな労務管理が引き起こす業務効率の低下

多くの現場では依然として紙の出勤簿や手書きの日報が使用されていますが、こうしたアナログ手法は多大な無駄を生んでいます。

  • 1.二重入力の手間
    現場で記入された紙の情報を、事務所の担当者が改めてPCへ入力する作業が発生し、事務工数が肥大化します。

  • 2.リアルタイム性の欠如
    月末に書類を回収するまで累計労働時間が把握できず、法規制の閾値を超えそうな作業員を事前に察知することが困難です。

  • 3.証跡の信頼性不足
    自己申告による手書き打刻は、実際の入退場時間との乖離が発生しやすく、コンプライアンス上の脆弱性となります。

若手人材の確保と定着におけるデジタル化の重要性

将来の担い手となる若手層は、プライベートでもデジタルツールを使いこなしており、職場のDX化を働く環境の質を判断する材料としています。

若手が重視するデジタル労働環境

・スマートフォン一つで完結する勤怠打刻


・オンラインで即時に確認できる給与明細や休暇申請


・客観的なデータに基づく公平な評価制度


・無駄な移動や事務作業を省いた生産性の高い働き方

これらの環境を整備することは、「古い体質の業界」というイメージを払拭し、離職防止や採用力の強化に直結します。

労務管理をデジタル化する主な手法と機能

労務のデジタル化は、単なる時間記録の置き換えではありません。現場の状況をリアルタイムで可視化し、複雑な手続きを自動化することで、管理職が安全管理や品質管理といった本来の業務に注力できる環境を作ります。

建設現場の入り口で顔認証による自動打刻を行う建設作業員

クラウド型勤怠管理によるリアルタイムな就業把握

クラウド型のシステムを導入することで、現場と事務所の距離をゼロにできます。インターネット経由でデータが即時に同期されるため、全作業員の稼働状況を一元管理することが可能です。

  • GPS連動打刻
    スマートフォンの位置情報を利用し、指定された現場範囲内でのみ打刻を許可することで、直行直帰時の不正を防止します。

  • 顔認証・ICカード認証
    現場入り口の専用端末で本人確認を行うことで、なりすましを防ぎ、正確な入退場記録をエビデンスとして残せます。

  • 超過勤務アラート機能
    設定した残業時間を超えそうな場合、本人や管理者にプッシュ通知を送ることで、法令違反を未然に防ぎます。

電子契約・電子署名による労務手続きのペーパーレス化

雇用契約や現場への入場時の誓約書など、大量の書類をデジタル化することで、契約業務のスピードと安全性が飛躍的に向上します。

  • 契約締結の迅速化
    郵送や持ち回りの手間を省き、スマートフォン上で契約内容の確認と署名が完結するため、作業開始前の契約締結を徹底できます。

  • 印紙代と保管コストの削減
    電子契約は印紙税の対象外となるため、数多くの契約を交わす建設業においては大幅な経費削減が期待できます。

  • 法定書類の自動作成
    労働条件通知書などの作成をシステム化することで、記載漏れや形式不備といった人的ミスを排除できます。

安全衛生管理と連携した健康情報のデジタル一元化

労務管理と安全管理を統合することで、作業員の健康と安全を多角的に守る体制を構築できます。

安全衛生と労務の連携機能

・毎朝の検温・体調チェックデータの自動収集


・健康診断の未受診者や再検査対象者の自動抽出


・高所作業等の特殊作業資格の有効期限アラート


・ストレスチェックのオンライン実施と経年変化の分析

[出典:厚生労働省「建設業の時間外労働上限規制について」]

建設業向け労務管理ツールの比較と選び方

多種多様なシステムの中から自社に最適なツールを選定するには、建設業特有の商習慣や現場の運用に即しているかを確認する必要があります。汎用的なツールでは対応しきれない「現場目線」の機能が選定の成否を分けます。

ツール選定時にチェックすべき主要な比較ポイント

選定の際は、単に価格だけで判断せず、以下の3つの視点で評価することが重要です。

  • 操作の簡便性
    現場の職人が迷わず使えるか。ボタンの大きさやメニュー構成が直感的であるかが重要です。

  • オフライン対応
    電波の届きにくい地下や山間部の現場でも、一時的にデータを保存して後で同期できる機能があるか確認します。

  • 外部システムとの連携性
    既存の給与計算ソフトや原価管理システムとデータ連携が可能か。CSV出力だけでなくAPI連携ができると、より自動化が進みます。

従来の手法とITツール導入後の比較(表で整理)

従来のアナログな管理手法と、ITツールを導入した後の違いを以下の比較表にまとめました。

比較項目 従来のアナログ管理(紙・Excel) ITツール・DX活用
打刻の正確性 自己申告のため曖昧になりやすい GPSや顔認証で不正を防止
集計の手間 月末に手入力で集計(時間がかかる) リアルタイムで自動集計
法令遵守(アラート) 残業時間の超過に気づきにくい 上限に近づくと自動で通知
書類の保管 大量の紙ファイルと保管スペースが必要 クラウド上で一括管理・検索可能
現場との連携 電話やFAX、郵送などのタイムラグ アプリを通じて即時に情報共有

現場の規模や工種に応じたシステムの適正

企業の規模や工種によって、求めるべき機能の優先順位は異なります。

  • 元請け企業
    自社社員だけでなく、協力会社の作業員の入場管理や安全書類の回収まで一括で行える大規模なプラットフォームが適しています。

  • 専門工事会社
    現場を掛け持ちすることが多いため、現場ごとの工数集計が容易なモバイル特化型のツールが推奨されます。

労務管理のDX化における読者の不安と解決策

新しいシステムの導入には、現場の反発やコスト面での懸念がつきものです。しかし、これらの不安は適切なアプローチによって解消可能です。

オフィスで労務管理ダッシュボードを確認しながら相談する建設会社の社員

「現場の職人がITツールを使いこなせるか」という不安

「高齢の作業員が多い」「操作を覚える時間がない」といった声は必ず上がります。

  • 解決策:操作の極小化
    最初は「現場のQRコードを読み取るだけ」「顔をカメラに向けるだけ」といった、学習コストがほぼゼロの機能から導入します。マニュアルは動画やイラストを活用し、文字を読まずに理解できる工夫を施します。

導入コスト(初期費用・月額費用)に対する投資対効果

システム利用料が新たな固定費となることを懸念する経営者も少なくありません。

  • 解決策:コスト削減の可視化
    事務員の残業代削減、印紙代の撤廃、現場監督の書類作成時間の短縮を金額換算します。多くの場合、1〜2年程度で投資を回収でき、余剰時間をより付加価値の高い業務に充てられるメリットを評価軸にします。

個人情報漏洩やデータセキュリティへの対策

従業員の氏名や住所、マイナンバーをクラウドに預けることへのリスク管理が必要です。

  • 解決策:国際基準のベンダー選定
    ISO 27001(ISMS認証)を取得しているか、金融機関並みの暗号化通信を行っているかを確認します。自社のPCで管理するよりも、専門業者が最新の対策を施しているクラウドの方が、物理的な紛失や災害時のデータ消失リスクを低減できます。

失敗しないための労務管理システム導入のステップ

システムを単に購入するだけでは定着しません。組織全体で目的を共有し、段階的に展開していくプロセスが重要です。

  1. 現状の労務課題の洗い出しと優先順位の設定

まずは自社の業務フローを棚卸しし、「何に最も時間がかかっているか」を特定します。集計に時間がかかるなら勤怠管理を、契約に手間取るなら電子契約を最優先にするなど、課題に合わせたスタートラインを決めます。
  1. 現場スタッフへの丁寧な説明と操作トレーニング

「監視を強化するため」ではなく「現場の負担を減らし、会社と従業員を法的に守るため」というポジティブな導入目的を伝えます。少人数のグループを対象に、実際の端末を使った実技研修を実施します。
  1. スモールスタートから始める段階的な導入プロセス

全社一斉導入ではなく、まずはITに抵抗の少ない若手の多い現場や、特定の部署からテスト運用を開始します。そこで出た運用上の課題をルール化してから、全社へと順次拡大することで混乱を最小限に抑えます。
  1. フィードバックの回収と運用の最適化

導入後3ヶ月を目安に、現場からの意見を収集します。「この画面がわかりにくい」「この手順は無駄だ」といった声を真摯に聞き、システムの設定変更や運用の見直しを繰り返すことで、本当の意味で使いやすいシステムへと育てていきます。

まとめ:IT活用で持続可能な労務管理体制の構築を

建設業界における労務管理のDX化は、2024年問題への対応という消極的な理由だけでなく、企業の競争力を高めるための前向きな投資です。デジタルの力を活用することで、正確なデータに基づいた経営判断が可能になり、従業員が安心して長く働ける環境が整います。

本記事で解説した主なポイントを振り返ります。

  • 上限規制の適用により、客観的な労働時間管理が不可欠。

  • クラウド勤怠や電子契約は、コスト削減とコンプライアンス強化を同時に実現。

  • ツールの選定は「現場の使いやすさ」を最優先にする。

  • 小規模なテスト運用から段階的に広めることが成功の近道。

IT活用はゴールではなく、あくまで健全な経営を実現するための手段です。自社の課題に最適なツールを選び、一歩ずつデジタル化を進めることで、持続可能な建設業の未来を築いていきましょう。

[出典:国土交通省「建設業の働き方改革の加速化プログラム」]

Q. 建設業特有の「一人親方」の労務管理はどうすればよいですか?

一人親方は個人事業主であり労働基準法上の労働者ではありませんが、現場への入場管理や安全管理の観点から、ITツールを用いて入退場時間を記録することが推奨されます。多くの建設向けシステムでは、協力会社の一人親方もスマートフォンで簡単に打刻でき、そのデータを元に安全書類(グリーンファイル)を自動生成する機能を備えています。

Q. IT導入補助金は労務管理システムの導入に活用できますか?

はい、活用可能です。労務管理システムはIT導入補助金の対象となることが多く、導入費用の一部を補助金で賄うことができます。ただし、国が認定した「IT導入支援事業者」が提供するツールである必要があるため、事前にベンダーへ確認しましょう。2026年時点でも、中小企業の生産性向上を支援する枠組みとして多くの企業が利用しています。

Q. 複数の現場を掛け持ちする従業員の勤怠はどう管理すべきですか?

クラウド型のシステムであれば、従業員がスマートフォンから「どの現場で、いつからいつまで働いたか」を現場ごとに紐づけて記録できます。これにより、月末に各現場の原価へ人件費を正確に按分する作業が自動化され、事務作業の効率が劇的に向上します。リアルタイムで現場ごとの累計労働時間が把握できるため、現場監督の過重労働防止にも役立ちます。

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