「DX・IT」の基本知識

建設業の電子帳簿保存法対応とは?IT活用の進め方も解説


更新日: 2025/11/04
建設業の電子帳簿保存法対応とは?IT活用の進め方も解説

この記事の要約

  • 建設業特有の電帳法対応の課題を解説
  • IT活用による3つのメリットと選定法
  • 電帳法対応をDXにつなげる4ステップ

そもそも電子帳簿保存法とは?建設業への影響

電子帳簿保存法(電帳法)は、国税関係の帳簿や書類を電子データで保存するためのルールを定めた法律です。特に2024年1月からの改正で「電子取引」データの電子保存が完全義務化され、建設業においても対応が待ったなしの状況となりました。現場での書類発生が多い建設業特有の事情を踏まえ、法律の概要と影響を理解することが不可欠です。

電子帳簿保存法の概要と改正のポイント

電子帳簿保存法は、従来、紙での保存が原則だった国税関係帳簿書類(仕訳帳、貸借対照表、請求書、領収書など)について、一定の要件下で電子データ(電磁的記録)による保存を認める法律です。

近年、ペーパーレス化やDX推進の観点から要件が緩和される一方、2024年1月1日からは「電子取引」データの電子保存が義務化されました。これは、メールで受け取ったPDFの請求書や、WebEDI(電子データ交換)で授受した発注書などを、紙に印刷して保存することが原則として認められなくなったことを意味します。

出典:[国税庁「電子帳簿保存法特設サイト」]

なぜ今、建設業で電帳法対応が重要なのか?

建設業は、業界の特性上、取り扱う書類が膨大です。

建設業で扱う主な書類

契約書(工事請負契約書、下請基本契約書など)
請求書・領収書(元請けへの請求、下請けからの請求、現場での立替経費など)
見積書・注文書・注文請書
各種図面(設計図、施工図など)
工事台帳

これらの多くが電子データでやり取りされるようになり、「電子取引」の義務化対応は必須です。また、紙の書類を電子化(スキャナ保存)することで、後述する建設業特有の課題を解決し、業務効率化を図る大きなチャンスとも言えます。法対応の遅れはリスクでしかありませんが、積極的な対応は企業の競争力強化につながります。

建設業特有の課題と電帳法

建設業の電帳法対応が難しいとされる背景には、以下のような特有の課題があります。

現場(作業所)での書類発生:
本社や支店だけでなく、各地の工事現場で立替経費の領収書や納品書などが日々発生します。

本社と現場間での書類のやり取り:
現場で発生した書類を本社に郵送したり、経理担当者が出向いて回収したりする手間とタイムラグが発生しています。

紙ベースの業務フローの常態化:
長年の慣習から、多くの業務が紙の書類を前提に組まれており、押印や手渡しのために業務が停滞しがちです。

書類の保管スペース圧迫:
工事が長期にわたることも多く、関連書類の保管期間も長いため、物理的な保管スペースが本社や倉庫を圧迫しています。

電帳法への対応は、これらの課題をITの力で解決するきっかけとなります。

電帳法対応は建設業のDX・IT化推進のチャンス

「法対応=コスト増」と捉えがちですが、電帳法対応は建設業が抱える課題を解決し、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する絶好の機会です。現場の業務フローを見直し、適切なITツールを導入することで、法対応と業務効率化の両立が可能になります。

読者のよくある不安:「対応が面倒」「ITに詳しくない」

電帳法対応を進めるにあたり、建設業の経営者や担当者からは以下のような不安が聞かれます。

・ 「ただでさえ現場は忙しいのに、新しいルールで混乱するのではないか?」
・ 「現場作業員や高齢の従業員がITツールを使いこなせないのでは?」
・ 「システム導入のコストがかかるだけで、メリットが見えない」
・ 「何から手をつければいいか、どのシステムを選べばいいか分からない」

これらの不安は、電帳法対応を「義務」として受動的に捉えることで生じます。しかし、適切な手順でIT化を進めれば、これらの不安は解消できます。

電帳法対応をIT化で乗り切る3つのメリット

法対応を「投資」と捉え直し、IT活用によって乗り切ることで、以下の3つの大きなメリットが期待できます。

IT化による3つの主要メリット

メリット1:業務効率化と生産性向上
メリット2:コスト削減
メリット3:コンプライアンス強化とガバナンス向上

1. 業務効率化と生産性向上:
請求書や領収書の処理、経費精算などがデジタル化されることで、手入力や紙の回覧、郵送の手間が大幅に削減されます。本社と現場間の情報共有もリアルタイムになり、月次決算の早期化にもつながります。

2. コスト削減:
紙の書類が減ることで、印刷代、郵送費、書類保管用のキャビネットや倉庫費用といった物理的なコストが削減されます。また、書類を探す時間や入力作業などの「見えない人件費」も削減可能です。

3. コンプライアンス強化とガバナンス向上:
ITシステムで電子データを一元管理することで、保存要件(検索要件など)を確実に満たせます。また、データの改ざん防止や閲覧履歴の管理も容易になり、内部統制の強化にもつながります。

対応しない場合のリスクとは?

一方で、電子取引のデータ保存義務化に対応しなかった場合、深刻なリスクに直面します。

最大のデメリットは、青色申告の承認が取り消される可能性があることです。青色申告が取り消されると、欠損金の繰越控除や各種税額控除などの優遇措置が受けられなくなります。

また、保存要件を満たしていない場合や、データの隠蔽・仮装などが発覚した場合には、追徴課税や重加算税(通常より10%加重)といったペナルティが課される可能性もあります。これらのリスクは、ITシステムを導入するコストよりもはるかに大きな損失となる可能性があります。

【図解】電子帳簿保存法の3つの保存区分と建設業のポイント

電帳法への対応を理解するために、まずは法律が定める「3つの保存区分」を知る必要があります。自社のどの書類がどの区分に該当するのかを整理することが、IT化の第一歩です。

3つの保存区分とは?

電子帳簿保存法では、国税関係の帳簿・書類を以下の3つの区分に分けて電子保存のルールを定めています。

1. 電子帳簿等保存:
会計ソフトや販売管理ソフトなど、自社が最初から一貫してコンピュータで作成した帳簿(仕訳帳、工事台帳など)や書類(請求書の控えなど)を、データのまま保存すること。

2. スキャナ保存:
紙で受領した書類(取引先から受け取った紙の請求書や領収書など)や、自社で紙で作成した書類の控えを、スキャナやスマートフォンで読み取って画像データで保存すること。

3. 電子取引:
メール添付のPDF請求書、WebEDIでの発注データ、Webサイトからダウンロードした領収書など、電子的に授受した取引情報をデータ(PDF、XML、スクリーンショットなど)のまま保存すること。

このうち、「3. 電子取引」のみが2024年から義務化されており、他の2つは任意(対応すれば紙の保存が不要になる)です。

建設業における各区分の対応ポイント

建設業の業務に当てはめると、各区分の対象書類と対応ポイントは以下の表のように整理できます。

建設現場でタブレットを操作する作業員

表:電帳法3区分と建設業の対応ポイント

保存区分 概要 建設業での主な対象書類 対応のポイント
電子帳簿等保存
(任意)
会計ソフト等で作成した帳簿・書類をデータのまま保存 ・会計ソフトの仕訳帳
・工事台帳
・自社発行の請求書(控)
・優良な電子帳簿の要件(※)を満たすと税制優遇あり
・一貫して電子作成していることが前提
スキャナ保存
(任意)
紙で受領・作成した書類をスキャンして画像データで保存 ・現場での立替経費の領収書
・紙で受領した請求書、注文書
・協力会社からの紙の納品書
・スキャン体制の構築(現場でのスマホ撮影など)
・タイムスタンプ要件や検索要件の確認
・導入するITシステムの選定が鍵
電子取引
義務
メールやEDIなどで授受した取引情報をデータで保存 ・メール添付の請求書(PDF)
・WebEDIでの発注データ
・WebサイトからDLした領収書
【義務化】紙保存は不可
・検索要件(日付・金額・取引先)の確保
・改ざん防止措置(システム導入等)

※優良な電子帳簿:訂正・削除履歴の確保や相互関連性の確保などの要件を満たした帳簿。

特に注意すべき「電子取引」の対応

建設業において、現在最も対応が急がれるのが「電子取引」です。協力会社とのやり取りで、請求書や注文書をメール(PDF)で授受するケースが急速に増えているためです。

これらを紙に印刷して保存することは認められません。必ず電子データのまま、以下の要件を満たして保存する必要があります。

電子取引の保存要件

真実性の確保(改ざん防止):
- タイムスタンプが付与されたデータを受領する
- 訂正削除が記録される(または禁止された)システムで授受・保存する
- 改ざん防止のための事務処理規程を定めて守る
可視性の確保(検索機能):
以下の3項目で検索できるようにする必要があります。
1. 取引年月日
2. 取引金額
3. 取引先名

現実的な対応として、ファイル名に「20251031_(株)A建設_110000.pdf」といった規則性を持たせる方法もありますが、件数が増えると管理が破綻します。多くの企業では、これらの検索要件や改ざん防止措置に対応したITシステム(文書管理システムや請求書受領サービスなど)を導入しています。

建設業向け!ITを活用した電帳法対応の進め方4ステップ

「何から手をつければいいか分からない」という企業向けに、ITを活用して電帳法対応(特に電子取引とスキャナ保存)を進めるための具体的な手順を4ステップで解説します。

ITを活用した電帳法対応 4ステップ

ステップ1: 現状把握(対象書類と業務フローの棚卸し)
ステップ2: 対応方針の決定(ペーパーレス化の範囲)
ステップ3: ITツール・システムの選定と導入
ステップ4: 社内ルールの整備と運用開始

1. ステップ1:現状把握(対象書類と業務フローの棚卸し)

まずは自社の現状を正確に把握することから始めます。

書類の棚卸し: どのような書類(請求書、領収書、契約書など)が存在するかをリストアップします。
業務フローの確認: それらの書類が、「どこで(本社か現場か)」「誰が」「どのように(紙かデータか)」「どのように処理・保管」しているかを明確にします。
・ 特に「電子取引」に該当するデータがどれだけあるかを最優先で洗い出します。

2. ステップ2:対応方針の決定(ペーパーレス化の範囲)

現状把握ができたら、どの範囲まで電子化・ペーパーレス化を進めるかの方針を決定します。

最優先事項: 「電子取引」への対応方針を決定します(必須)。
任意事項: 「スキャナ保存」を導入するかどうか、導入するならどの書類(例:現場の領収書のみ、全社の請求書など)から始めるかを決定します。
・ すべての書類を一度に電子化するのは困難です。現場の負担も考慮し、優先順位をつけてスモールスタートするのが成功の鍵です。

3. ステップ3:ITツール・システムの選定と導入

設定した方針に基づき、自社の課題を解決できるITシステムを選定します。

電子取引への対応: 文書管理システム、請求書受領サービス、または対応機能を持つ会計ソフト。
スキャナ保存への対応: 経費精算システム(現場の領収書が多い場合)、文書管理システム。
・ 選定のポイントは次章で詳しく解説しますが、自社の業務フローやITリテラシーに合ったものを選ぶことが重要です。

4. ステップ4:社内ルールの整備と運用開始

システムを導入するだけでは不十分です。新しい業務フローを社内に定着させるためのルール整備と教育が必要です。

マニュアル作成: 電子データの保存ルール(ファイル名の付け方など)、スキャンの手順、システムの操作方法などを明記した簡易なマニュアルを作成します。
社内周知と教育: なぜ変更するのか(法対応+業務効率化のため)という目的を共有し、本社経理部門と現場作業員の両方に対して説明会や研修を行います。
・ 運用開始後も、現場からのフィードバックを収集し、ルールや運用方法を継続的に見直すことが重要です。

【比較検討】失敗しない電帳法対応ITシステムの選び方

電帳法対応を機にITシステムを導入するなら、法対応だけでなく建設業の業務効率化に真に役立つものを選ぶべきです。ここでは、自社に最適なシステムを選定するための比較検討ポイントを解説します。

自社に必要な機能は何か?(機能の比較検討)

まずは、システムが電帳法の保存要件(検索要件、改ざん防止措置など)を満たしているかを確認します。その上で、自社の業務に必要な機能を見極めます。

電帳法対応機能: 電子取引データの保存、スキャナ保存(タイムスタンプ付与など)に対応しているか。公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)の認証を受けているシステムは一つの目安になります。
業務効率化機能: 建設業特有の業務(工事台帳管理、実行予算管理、原価管理)との連携は可能か。請求書のAI-OCRによる自動読み取り機能はあるか。

建設業特有のニーズに対応できるか?

建設業の現場は、オフィスとは環境が異なります。以下の点を必ず確認してください。

現場での使いやすさ(UI/UX):
現場作業員がスマートフォンやタブレットから、直感的に操作(領収書の撮影・アップロードなど)できるか。ITに不慣れな人でも迷わず使えるシンプルな画面設計が望ましいです。

複数現場(プロジェクト)管理:
経費や請求書を、どの工事現場(プロジェクト)のものか紐づけて管理できるか。工事ごとの原価計算に直結するため重要な機能です。

既存システムとの連携:
現在使用している会計ソフトや基幹システム(原価管理システムなど)とデータ連携(CSV出力やAPI連携)ができるか。

サポート体制とセキュリティは万全か

システム導入はゴールではありません。導入後の運用と法改正への対応が重要です。

サポート体制: 導入時の設定サポートや、運用開始後の問い合わせ窓口(電話、メール、チャット)が充実しているか。
法改正への対応: 今後、電帳法やインボイス制度などで法改正があった場合に、システムが迅速にアップデート対応されるか(特にクラウド型サービス)。
セキュリティ: 請求書や契約書といった企業の重要データを預けるため、データの暗号化、アクセス制御、バックアップ体制などのセキュリティ対策が万全かを確認します。

主なITツールの比較ポイント

電帳法に対応する主なITツールと、建設業における選定ポイントを以下の表にまとめます。

表:電帳法対応ITツールの比較

ツールの種類 特徴 建設業での活用シーン 比較ポイント
会計ソフト(電帳法対応) 帳簿保存と電子取引に強い。会計処理と一体で管理可能。 経理部門での一元管理。
工事台帳機能を持つものも。
既存ソフトからの移行コスト。
現場での入力(経費精算)のしやすさ。
経費精算システム スキャナ保存(領収書)に強い。スマホアプリが充実。 現場の立替経費精算。
電子取引の領収書保存。
スマホアプリの使いやすさ。
工事コードとの紐付け機能。
文書管理システム 電子取引・スキャナ保存に強い。契約書や図面も一元管理可能。 契約書、図面、請求書など全社的な文書管理。 検索機能の強力さ、ストレージ容量。
多種多様な書類に対応できるか。
請求書受領サービス 電子取引(請求書受領)に特化。AI-OCRでの自動入力機能。 協力会社からの請求書処理。
(紙・電子問わず)
AI-OCRの読み取り精度。
会計ソフトや原価管理SaaSとの連携。

まとめ:電帳法対応を建設業のDX推進力に

建設業における電子帳簿保存法への対応は、単なる法改正対応に留まらず、業務効率化とペーパーレス化を実現する絶好の機会です。

現場での書類発生や紙文化といった建設業特有の課題は、適切なITツールの導入と業務フローの見直しによって必ず解決できます。本記事で解説したステップを参考に、まずは自社の現状把握から着手し、ITツールを効果的に活用することで、電帳法対応を企業全体のDX推進へとつなげていきましょう。

建設業の電子帳簿保存法対応に関するよくある質問

Q. 現場からスマートフォンで領収書を撮影しても良いですか?
A. はい、問題ありません。ただし、スキャナ保存の要件(一定の解像度での読み取り、タイムスタンプの付与など)を満たす必要があります。多くの経費精算システムには、スマートフォンのカメラで撮影するだけでこれらの要件を満たせる機能が搭載されています。

Q. 導入コストはどれくらいかかりますか?
A. 導入するITツールの種類や企業の規模、利用するユーザー数によって大きく異なります。クラウド型(SaaS)のシステムであれば、初期費用を抑えて月額数千円〜数万円程度から利用できるものも多くあります。IT導入補助金など、中小企業のIT化を支援する補助金を活用できる場合もあります。

Q. すべての書類を電子化しないといけませんか?
A. いいえ、すべてを電子化する必要はありません。義務化されているのは「電子取引」(メールで受け取った請求書など)のデータ保存のみです。「電子帳簿等保存」(会計ソフトのデータ保存)や「スキャナ保存」(紙の領収書のスキャン)は任意です。ただし、業務効率化やコスト削減のために、ITを活用してこれらの電子化も進めることを推奨します。

NETIS
J-COMSIA信憑性確認
i-Construction
Pマーク
IMSM

株式会社ルクレは、建設業界のDX化を支援します