「DX・IT」の基本知識

建設DX導入後に成果を出すには?運用・定着の工夫とは


更新日: 2025/12/04
建設DX導入後に成果を出すには?運用・定着の工夫とは

この記事の要約

  • 建設DXの成功は導入後の運用ルールと現場定着で決まる
  • スモールスタートと対話が現場の抵抗を減らす鍵となる
  • 定着しない場合はKPIの再設定やツール見直しを検討する
目次
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建設DX・IT導入における「導入=ゴール」の誤解と失敗要因

建設DXにおいてツール導入はスタート地点に過ぎません。多くの失敗事例は「ツールさえ入れれば効率化する」という誤解から生じています。本章では、なぜ現場で定着しないのか、その根本原因である「手段の目的化」と「現場不在の進行」について解説します。

ツールを入れただけでは変わらない現場の現実

DX・IT導入において最も陥りやすい罠は、「高性能なツールさえ契約すれば、自動的に生産性が上がる」という思い込みです。ITツールはあくまで業務を効率化するための「手段」であり、それ自体が「目的」ではありません。

例えば、高機能な施工管理アプリや図面共有システムを導入しても、現場の業務フロー(仕事の進め方)自体が変わっていなければ効果は半減します。むしろ、以下のような事態を招く恐れがあります。

ツール導入のみで業務変革を行わない場合のリスク
  • 従来の手書き日報とアプリ入力の「二重管理」が発生し、残業が増える
  • 現場監督が操作方法を教えることに時間を取られ、本業がおろそかになる
  • 使い方が分からず、結局電話や紙でのやり取りに戻ってしまう

成果を出すためには、ツールに合わせて業務プロセスを見直し、不要な業務を削減するBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の視点が不可欠です。「今の業務をそのままデジタルに置き換える」のではなく、「デジタルを使う前提で業務をどう変えるか」という視点の転換が求められます。

運用が失敗する主な原因(目的の欠如・現場不在)

運用が定着せずに失敗するプロジェクトには、共通する典型的なパターンがあります。それは、「誰のために、何のために導入するのか」という目的意識の欠如と、現場を置き去りにしたトップダウンの意思決定です。

DX定着を阻害する2大要因
  • 目的の伝達不足
    経営層が「DXだ」と号令をかけても、現場には「なぜ今のやり方を変える必要があるのか」という背景やメリットが伝わっていないケースです。現場は変化を「押し付けられた余計な仕事」と捉え、心理的な反発を生みます。

  • 現場の実態無視(UI/UXのミスマッチ)
    本社側だけでツール選定を行い、現場の実情を考慮していないケースです。「ボタンが小さすぎて手袋をしたまま押せない」「地下現場で電波が入らず使えない」「機能が多すぎて高齢の職人が覚えきれない」といった問題は、利用率を著しく低下させます。

建設DX・IT導入後に成果を出すための運用・定着ロードマップ

DX推進を成功させるためには、場当たり的な対応ではなく、計画的なステップを踏むことが重要です。ここでは、導入から定着に至るまでのプロセスを構造化し、確実に成果へと繋げるためのロードマップを提示します。数値目標の設定から体制づくり、そして展開方法まで、段階的なアプローチを解説します。

建設DXの推進に向けて目標数値を確認し合う現場リーダーと管理職

ステップ1:具体的な数値目標(KGI・KPI)の再設定

漠然と「業務効率化」を掲げるのではなく、達成すべきゴールをKGI(重要目標達成指標)KPI(重要業績評価指標)として数値化します。数値化することで、導入効果が可視化され、現場のモチベーション維持にもつながります。

  • 現状の可視化(As-Is)
    まずは現状の業務にかかっている時間やコストを計測します。「日報作成に毎日30分かかっている」「移動に往復2時間かかっている」など、具体的な数値を把握します。

  • KGIの設定(最終ゴール)
    会社として達成したい最終的な目標を決めます(例:完工利益率を5%向上させる、年間休日を10日増やす)。

  • KPIの設定(中間目標)
    プロセスごとの目標を定めます。
    例:「移動時間を月間20時間削減する」「残業時間を前年比15%削減する」「図面確認のための手戻りをゼロにする」

ステップ2:推進チームの組成とリーダーシップの発揮

ITツールの導入・運用を、総務やIT担当者ひとりに丸投げするのは避けるべきです。現場の実情を知らない担当者が孤立無援で進めようとしても、現場の協力は得られにくいためです。成功するためには、以下のメンバーを含む横断的な推進チーム(タスクフォース)を組成することが推奨されます。

推奨される推進チームの構成メンバー
  • プロジェクトオーナー(経営層)
    予算権限を持ち、全社的な意思決定を行います。「会社として本気である」姿勢を示す役割も担います。

  • 推進リーダー(IT担当・DX担当)
    ツールの選定、設定、マニュアル作成などを主導します。ベンダーとの窓口にもなります。

  • 現場アンバサダー(現場責任者・職長)
    最も重要なポジションです。現場で信頼されている人物(キーマン)を巻き込み、「現場側の代表」として意見を出してもらいます。彼らが「これは便利だ」と使い始めることで、周囲の職人の心理的なハードルが一気に下がります。

ステップ3:スモールスタートによる成功体験の積み上げ

いきなり全支店、全現場で一斉導入を行う「ビッグバン方式」はリスクが高すぎます。初期トラブルが発生した際に対応しきれず、現場全体に「使えないツール」というレッテルを貼られてしまうと、挽回が困難になるからです。推奨されるのはスモールスタート(段階的導入)です。

  • モデル現場の選定
    ITリテラシーが高く、新しいものに肯定的な特定の部署や現場を選定し、先行導入を行います。

  • 課題の抽出と改善
    実際に使ってもらい、「ここが使いにくい」「この機能はいらない」といった意見を吸い上げ、運用ルールをブラッシュアップします。

  • サクセスストーリーの創出
    「この現場では移動時間が減って、17時に帰れるようになった」といった具体的な成功事例を作ります。

  • 横展開
    その実績(証拠)を元に、他の現場へ導入を広げます。「あそこの現場は楽になったらしい」という噂は、トップダウンの命令よりも強力な導入動機になります。

現場の抵抗を減らす!使いやすいDX・IT環境の整備と工夫

新しいツールの導入に対して、現場から「難しい」「面倒くさい」といった抵抗感が生まれるのは自然なことです。この抵抗を精神論で押し切るのではなく、物理的・心理的な障壁を取り除くための環境整備が必要です。マニュアル作成やフィードバックの仕組みなど、具体的な工夫について解説します。

現場でタブレットを活用し図面確認を行う職人たち

誰でも使えるマニュアル作成と定期的な勉強会

分厚い紙の説明書を渡すだけでは、多忙な現場監督や職人は読んでくれません。直感的でわかりやすいマニュアルが必要です。

  • 動画マニュアル
    スマホ画面の操作手順を録画し、1分程度の動画にして共有します。文字を読むよりも圧倒的に理解しやすくなります。

  • 画像ベースの簡易ガイド
    文字を最小限にし、スクリーンショットと矢印だけで操作を示した「カンペ」を作成し、現場事務所の壁に貼ります。

また、勉強会を開催する際は、一方的な講義形式ではなく、実際に端末を触りながら行う「ハンズオン形式」が有効です。「ここを押すだけで日報が終わります」と実演し、その場で体験してもらうことで、「これなら自分にもできる」という自信を持ってもらいます。

現場の声を反映させるフィードバックサイクルの構築

運用開始後は、現場からの不満や要望を積極的に吸い上げるフィードバックサイクルを構築します。

  • 定期的なヒアリング
    導入1ヶ月後などにアンケートや面談を行い、「使いにくい点はないか」を確認します。

  • 迅速な改善
    挙がってきた不満に対し、設定変更や運用ルールの緩和などで対応します。

  • 改善の周知
    「皆さんの意見を受けて、入力項目を減らしました」と伝えることで、「自分たちの意見が尊重されている」という信頼感を醸成します。

「使いにくい」という声を放置すると、ツール離れ(シャドーIT化やアナログ回帰)が加速します。現場と一緒にツールを育てていく姿勢が重要です。

【表で整理】従来のアナログ業務とデジタル化後の比較メリット

以下は、アナログ業務をデジタル化することで、現場にどのような具体的メリットがあるかを整理した比較表です。

業務項目 従来(アナログ) DX・IT導入後 現場のメリット
日報作成 帰社して手書き・PC入力 スマホで現場から送信 移動時間の削減・直行直帰が可能
図面確認 大量の紙図面を持ち運び タブレットで最新版を確認 持ち運び負担減・手戻りの防止
写真整理 デジカメからPCへ手動取込 クラウドへ自動保存 整理作業のゼロ化・共有スピード向上
会議・打合せ 現場から事務所へ移動 現場からWeb会議で参加 移動コスト削減・意思決定の迅速化

建設DX・IT運用に関する担当者の「よくある不安」と対策

導入担当者は、現場への普及だけでなく、セキュリティや費用対効果など多くの不安を抱えています。ここでは、担当者が直面しやすい課題に対する具体的な解決アプローチを整理します。不安を事前に想定し、対策を準備しておくことで、スムーズな運用が可能になります。

【表で整理】不安要素と具体的な解決アプローチ

以下は、DX担当者が抱えがちな不安と、それに対する推奨される解決策をまとめたものです。

よくある不安 推奨される解決アプローチ
「ベテラン職人が使ってくれるか心配」
  • UIがシンプルでボタンが大きいツールを選定する
  • 音声入力機能を活用する
  • 若手社員が操作をサポートするバディ制度を導入する
「セキュリティ漏洩が怖い」
  • ユーザーごとにアクセス権限(閲覧・編集)を細かく設定する
  • MDM(モバイル端末管理)を導入し、紛失時の遠隔ロックを可能にする
  • 情報管理に関する教育を徹底する
「費用対効果が出るか不安」
  • 削減できた工数(時間)×人件費でコストメリットを算出する
  • 初期費用が低いクラウド型(SaaS)のサブスクリプション契約から試す

費用対効果(ROI)が見えにくい時の評価軸

DXの成果は、必ずしもすぐに金銭的な利益として表れるわけではありません。短期的なROI(投資対効果)だけで判断すると、「コストばかりかかる」という誤った評価になりがちです。定量的なコストダウンに加え、以下のような定性的な評価軸も重要視すべきです。

DXの成果を測る4つの定性的評価軸
  • 従業員満足度(ES)の向上
    無駄な作業が減り、本質的な業務に集中できるようになったか。

  • 情報共有スピード
    トラブル発生時の報告や図面変更の共有が早まったか。

  • 採用への好影響
    「デジタル化が進んでいる働きやすい会社」としてのブランディング効果。

  • データの蓄積
    将来的にAI解析や見積もり精度向上に使えるデータが溜まっているか。

運用が見合わない場合のDX・ITツール見直しと選定基準

どれだけ工夫して運用しても、ツール自体が自社に合っていない場合は成果が出ません。無理に使い続けることは、コストの無駄遣いだけでなく、現場のDXアレルギーを引き起こす原因にもなります。ツールを見直すべきタイミングと、再選定時のポイントについて解説します。

自社の課題とツールの機能がマッチしているか再確認

運用がうまくいかない場合、一度立ち止まって「機能のミスマッチ」がないかを確認する必要があります。

  • 多機能すぎる
    大企業向けの多機能ツールは、中小規模の現場にとっては操作が複雑すぎて使いこなせないことがあります。

  • 現場環境との不適合
    オフライン対応していないツールを、電波の入りにくい山間部の現場で使おうとしていないか確認します。

  • 入力項目が過多
    管理側の都合で入力必須項目を増やしすぎ、現場の負担が許容範囲を超えていないか見直します。

「高かったから」という理由で使い続けるサンクコスト(埋没費用)の呪縛を断ち切り、現場が使いやすいシンプルなツールへの切り替えを検討する勇気も必要です。

サポート体制の充実度を含めた再選定のポイント

ツールを再選定する際は、機能スペックや価格だけでなく、ベンダーのサポート体制(カスタマーサクセス)を重要視してください。

  • 定着支援があるか
    導入後の説明会開催や、運用ルールの策定支援をしてくれるか。

  • 問い合わせのしやすさ
    現場から直接電話やチャットで質問できる窓口があるか(担当者経由でしか聞けない場合、解決に時間がかかる)。

  • アップデートの頻度
    ユーザーの要望を取り入れて機能改善を続けているか。

[出典:経済産業省「デジタルガバナンス・コード」]

まとめ

建設DX導入後に成果を出すためには、ITツールを入れることをゴールとせず、その後の「運用・定着」にリソースを割くことが不可欠です。

建設DXを成功に導くための重要ポイント
  • 目的の明確化
    何のために導入するのか、KGI/KPIを設定して現場と共有する。

  • スモールスタート
    小さな成功体験を積み上げて、徐々に全社展開する。

  • 現場ファースト
    マニュアル整備やフィードバックなど、現場が使いやすい環境を作る。

  • 柔軟な見直し
    定着しない場合は運用ルールやツール自体の変更も恐れない。

これらを意識し、経営層、担当者、現場が一体となって取り組むことで、建設DXは初めて実を結び、企業の競争力を高める強力な武器となります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 高齢の従業員が多く、ITツールへの抵抗感が強い場合はどうすべきですか?

一気に全ての業務をデジタル化せず、まずは「写真撮影だけ」「日報の送信だけ」など、シンプルで効果を実感しやすい機能から慣れてもらうことが重要です。また、文字入力が苦手な方のために、音声入力機能を活用したり、直感的なUI(ユーザーインターフェース)のツールを選定したりすることが定着の鍵となります。

Q2. DX導入の効果測定はどのくらいの期間で行うべきですか?

導入直後は操作に慣れるまでの学習コストがかかるため、一時的に生産性が落ちることもあります。焦って判断せず、最低でも3ヶ月〜半年程度は運用を継続し、習熟度が上がった段階で効果測定を行うことをおすすめします。

Q3. 運用が定着しない場合、ツールを変更すべきですか?

すぐに変更するのではなく、まずは「なぜ定着しないのか」の原因分析が必要です。単に使い勝手の問題であればツール変更も視野に入りますが、周知不足や運用ルールの不備(入力項目が多すぎるなど)であれば、運用方法を改善するだけで解決するケースも多々あります。現場の声をよく聞き、ボトルネックを特定してください。

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