建設DXで使えるITツール・システムとは?導入効果も紹介

この記事の要約
- 建設DXと単なるIT化の違いや法改正に伴う重要性を定義から解説
- 施工管理や図面共有など業務効率化に効くツールの種類を網羅
- 失敗しないシステム選定のポイントと導入効果を比較表で整理
- 目次
- 建設DXとは?IT化との違いや重要性
- 建設DX(デジタルトランスフォーメーション)の定義
- 「IT化」と「DX」の決定的な違い
- なぜ今、建設業界でITを活用したDXが必要なのか
- 建設DXでITツール・システムを導入する主な効果
- 業務効率化による長時間労働の是正
- 人手不足の解消と省人化
- 現場の安全性向上と品質管理の高度化
- アナログ管理とIT導入後の比較
- 建設DX推進に役立つITツール・システムの種類一覧
- 施工管理システム・工事管理アプリ
- 設計・測量ツール(BIM/CIM・3D CAD)
- 現場作業支援(ウェアラブルカメラ・遠隔臨場)
- ICT建機・ロボット・ドローン
- バックオフィス支援(電子契約・経理システム)
- 自社に合う建設DX・ITツールの失敗しない選び方
- 「機能の多さ」より「現場の使いやすさ」を優先する
- クラウド型かオンプレミス型かを確認する
- 既存システムとの連携可否とサポート体制
- ツール選定のチェックリスト
- 建設DXやIT導入におけるよくある不安と対策
- 「ITツールを導入しても現場が使ってくれない」への対策
- 「コスト対効果(ROI)が見えにくい」への対策
- 「セキュリティや情報漏洩が心配」への対策
- まとめ:建設DXはITツールの導入がゴールではない
- よくある質問
- Q1. 建設DXのITツール導入に使える補助金はありますか?
- Q2. 小規模な工務店でもIT導入の効果はありますか?
- Q3. 無料のITツールから始めても良いですか?
建設DXとは?IT化との違いや重要性
建設業界において「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉が急速に浸透していますが、現場では「単なるデジタル化」と混同されるケースも少なくありません。本セクションでは、建設DXの正確な定義と、手段としてのIT導入との決定的な違い、そしてなぜ今、国土交通省主導で業界全体の変革が求められているのか、その背景と重要性を解説します。
建設DX(デジタルトランスフォーメーション)の定義
建設DXとは、デジタル技術やデータを活用して建設生産プロセス全体を変革し、業務効率化や働き方改革、ひいては企業の競争優位性を確立することを指します。国土交通省の定義においても、単にアナログ作業をデジタルに置き換えるだけでなく、デジタルデータを活用して組織やビジネスモデルそのものを変革することが目的とされています。
- 建設DXの核心
- データ活用による変革
単なるペーパーレス化にとどまらず、蓄積されたデータを経営や現場の意思決定に活かす状態。 - 組織文化の改革
デジタル技術を前提とした働き方へ移行し、古い慣習や非効率な業務フローを刷新すること。 - 競争力の強化
安全性、品質、生産性の向上を通じて、顧客や社会に対して新たな価値を提供すること。
- データ活用による変革
「IT化」と「DX」の決定的な違い
「IT化」と「DX」は、手段と目的の関係にあり、明確に異なります。ITツールの導入はあくまでDXを実現するための手段の一つです。
- IT化とDXの比較定義
- IT化(デジタイゼーション/デジタライゼーション)
役割:手段
内容:手書きの日報をアプリにする、紙の図面をPDF化するなど、既存のアナログ業務をデジタルツールに置き換えること。
目的:個別の作業時間の短縮、業務負担の軽減。 - DX(デジタルトランスフォーメーション)
役割:目的
内容:IT化で蓄積されたデータを分析・活用し、現場のオペレーションや企業風土を根本から変えること。
目的:企業としての競争力強化、新規価値の創出、安全性の飛躍的向上。
- IT化(デジタイゼーション/デジタライゼーション)
なぜ今、建設業界でITを活用したDXが必要なのか
建設業界がDXを急務とする背景には、業界特有の構造的な課題と法改正があります。これらは企業の存続に関わる重要な要素です。
- 「2024年問題」への対応
働き方改革関連法の適用により、建設業でも時間外労働の上限規制(原則月45時間・年360時間など)が厳格化されました。従来のような長時間労働を前提とした現場運営は法律的に不可能となり、ITによる抜本的な時短が必要です。 - 労働人口の減少と高齢化
若手入職者の減少に加え、熟練技能者の高齢化が深刻化しています。少ない人数で従来の生産性を維持・向上させる「省人化」が避けて通れない課題です。 - 技術継承の危機
熟練工の「勘と経験」をデジタルデータとして形式知化し、若手に効率よく継承する仕組みを作らなければ、技術力の維持が困難になります。
建設DXでITツール・システムを導入する主な効果
ITツールやシステムは、導入すること自体が目的ではありません。導入によって得られる具体的なメリットを把握することが重要です。ここでは、建設業特有の課題に対して、デジタル活用がどのような解決策をもたらすのか、主な3つの効果について解説します。
業務効率化による長時間労働の是正
ITツールの導入により、移動時間や事務作業時間を大幅に削減できます。これは2024年問題の直接的な解決策となります。
- 移動の削減
現場に行かずとも遠隔で進捗確認が可能になり、「事務所と現場の往復」が減少します。 - 事務作業の自動化
日報作成や写真整理が現場のスマートフォンで完結するため、残業して事務所で書類作成をする必要がなくなります。

人手不足の解消と省人化
少人数で現場を回す体制(省人化)の構築に寄与します。
- マルチタスクの支援
一人の現場監督が複数の現場をリモートで管理できるようになります。 - コミュニケーションコストの削減
「言った言わない」のトラブルをチャットツール等のログ機能で防ぎ、確認作業の手間を減らします。
現場の安全性向上と品質管理の高度化
ヒューマンエラーの防止や危険予知に役立ちます。
- 安全管理
センサーやカメラによる危険エリアへの侵入検知や、バイタルセンサーによる作業員の体調管理が可能になります。 - 品質管理
設計データと施工状況をリアルタイムで比較し、施工ミスを早期に発見・是正できます。
アナログ管理とIT導入後の比較
以下は、従来のアナログ手法とITツール導入後の変化を整理した比較表です。
| 比較項目 | アナログ(従来) | IT導入後(DX) |
|---|---|---|
| 情報共有 | 電話・FAX・対面での口頭伝達 | ビジネスチャット・クラウドでリアルタイム共有 |
| 図面管理 | 大量の紙図面を持ち運び、差し替え漏れが発生 | タブレットで常に最新図面を閲覧・書き込み可能 |
| 日報作成 | 帰社後に記憶を頼りに作成(残業の原因) | 現場の隙間時間にスマホで作成・送信完了 |
| 進捗確認 | 現場巡回や電話での聞き取り | 遠隔カメラや工程管理システムで可視化 |
| 写真整理 | デジカメデータをPCに取り込み手動で台帳作成 | 撮影と同時にクラウド保存し、台帳を自動作成 |
建設DX推進に役立つITツール・システムの種類一覧
建設DXを実現するためのツールは、施工管理からバックオフィスまで多岐にわたります。自社の課題に合わせて最適なものを選択できるよう、主なカテゴリと代表的な機能を整理しました。ここでは、ソフトウェア(SaaS)からハードウェアまで、現場で実際に活用され、効果を上げている具体的なシステムの種類を詳細に解説します。
施工管理システム・工事管理アプリ
現場監督(現場代理人)の業務負担を最も軽減するのが、このカテゴリのSaaS(クラウドサービス)です。多くの現場で「最初のDX」として導入されています。
- 主な機能
写真の自動整理、スマホでの日報作成、工程表のクラウド共有、図面への書き込み機能、チャット機能。 - 導入メリット
現場事務所に戻ってからの「写真整理」や「日報入力」が不要になり、直行直帰が可能になります。これにより、1日あたり数時間の残業削減効果が期待できます。
設計・測量ツール(BIM/CIM・3D CAD)
設計・施工計画段階での効率化を担い、手戻りを防ぐためのツールです。
- BIM/CIM
3次元モデルに部材の強度やコストなどの属性情報を付与し、設計から施工、維持管理までデータを一元管理する仕組みです。 - 3D CAD/レーザースキャナ
現場の現況をレーザースキャナで点群データ化し、正確な測量や施工計画に活用します。これらは「フロントローディング(業務の前倒し)」を実現し、着工後のトラブルを激減させます。

現場作業支援(ウェアラブルカメラ・遠隔臨場)
「移動のムダ」をなくし、現場と事務所、あるいは発注者をつなぐリモートツールです。国土交通省も「遠隔臨場」として推奨しています。
- 遠隔臨場システム
ウェアラブルカメラ等の映像を通じて、段階確認や立会検査を遠隔で行います。発注者の移動時間をゼロにし、検査待ち時間を削減します。 - スマートグラス
図面や作業手順を作業員の視界に表示したり、本部の熟練工が遠隔から若手の視界(カメラ映像)を見てリアルタイムに指示を出したりすることで、教育コストを下げつつ品質を担保します。
ICT建機・ロボット・ドローン
物理的な作業を代替・支援し、安全性と生産性を高めるハードウェア技術です。
- ICT建機
3次元設計データに基づき、ショベルやブルドーザーの操作を半自動化・ガイドします(マシンガイダンス/マシンコントロール)。経験の浅いオペレーターでも熟練工並みの施工が可能になります。 - ドローン
短時間での広範囲測量(i-Construction対応)や、高所・法面など人が立ち入れない場所の点検に活用され、安全管理に寄与します。 - 資材運搬ロボット
現場内の重量物運搬を自動化し、職人の身体的負担を軽減することで、高齢者や女性が働きやすい環境を作ります。
バックオフィス支援(電子契約・経理システム)
現場以外の間接部門を効率化し、会社全体のDXを支えるシステムです。
- 建設業特化型電子契約
建設業法に対応した形式で、注文書・請書のやり取りを完全デジタル化します。収入印紙代の削減だけでなく、郵送の手間や保管スペースのコストも削減できます。 - 勤怠管理システム
「直行直帰」や「現場ごとの工数管理」に対応したGPS打刻システムなどを導入することで、複雑な労務管理を適正化し、法令遵守(コンプライアンス)体制を強化します。
自社に合う建設DX・ITツールの失敗しない選び方
数多くのツールの中から、自社に最適な一つを選ぶのは容易ではありません。高機能なものが必ずしも正解ではなく、現場の定着率こそが成功の鍵となります。ここでは、ツール選定において重視すべき3つの基準について解説します。
「機能の多さ」より「現場の使いやすさ」を優先する
最も重要なのはUI(ユーザーインターフェース)です。どれほど高機能でも、現場が使わなければ無用の長物となります。
- 直感的な操作性
ITリテラシーが高くない職人やベテラン社員でも、マニュアルなしで直感的に使えるかを確認します。ボタンが大きく、タップ数が少ないものが推奨されます。 - 現場適合性
手袋をしたままでも操作しやすいか、オフライン環境(電波の届かない地下など)でも動作するかといった点も重要です。
クラウド型かオンプレミス型かを確認する
現在はクラウド型が主流ですが、違いを理解しておく必要があります。
- クラウド型
インターネット経由で利用します。初期費用が安く、常に最新機能が使え、場所を選ばずアクセス可能です。DX推進にはこちらが適しています。 - オンプレミス型
自社サーバーに構築します。カスタマイズ性は高いですが、初期コストが高く、社外からのアクセスに制限がある場合があります。
既存システムとの連携可否とサポート体制
導入後の運用を見据えた確認ポイントです。
- API連携
既存の経理システムや積算ソフトとデータ連携ができるか確認します。連携できない場合、二重入力の手間が発生します。 - 定着サポート
導入時に説明会を開いてくれるか、チャットや電話でのサポート窓口が充実しているかを確認します。建設業界の商習慣を理解しているベンダーを選ぶのが安心です。
ツール選定のチェックリスト
ツールを比較検討する際に使えるチェックリストです。
| 確認項目 | チェックポイント |
|---|---|
| 操作性 | スマホ・タブレットで直感的に操作できるか(文字サイズ、ボタン配置) |
| コスト | 初期費用だけでなく、ID数に応じた月額ランニングコストのバランス |
| 機能 | 「あれもこれも」ではなく、自社の優先課題を解決する機能があるか |
| サポート | 電話・チャット・オンライン講習会など、現場への定着支援があるか |
| セキュリティ | 通信の暗号化(SSL)、データのバックアップ体制、ISO認証の有無 |
| 無料トライアル | 本導入前に、現場で実際に試用期間を設けられるか |
建設DXやIT導入におけるよくある不安と対策
新しいシステムの導入には、現場からの反発やコスト面での不安がつきものです。これらは多くの企業が直面する課題であり、適切な対策を講じることで乗り越えることが可能です。ここでは代表的な3つの不安とその解決策を提示します。
「ITツールを導入しても現場が使ってくれない」への対策
現場からの「今のままでいい」「スマホ操作が面倒」という反発は想定内として進める必要があります。
- 目的の共有
「会社のため」ではなく「皆さんの残業を減らすため」「楽にするため」という、現場にとってのメリットを伝えます。 - スモールスタート
全現場一斉導入ではなく、ITに強い社員がいるモデル現場から試験導入し、成功事例を作ってから広げます。 - リーダーの選定
現場の中で推進役となる「DXリーダー」を任命し、現場目線での普及を図ります。
「コスト対効果(ROI)が見えにくい」への対策
IT投資の効果はすぐには見えにくいため、数値化の工夫が必要です。
- 定量的評価
「移動時間が月間◯時間削減」「コピー用紙代が月◯万円削減」など、測定可能な指標(KPI)を設定します。 - 機会損失の回避
コスト削減だけでなく、「人手不足による受注辞退を防げた(売上維持)」「施工ミスによる手戻り損失を防げた」という観点も評価に含めます。
「セキュリティや情報漏洩が心配」への対策
クラウド利用に対する漠然とした不安に対しては、客観的な基準で判断します。
- セキュリティ基準の確認
選定するサービスが「ISO27001(ISMS)」などの国際的なセキュリティ認証を取得しているか確認します。 - 権限設定
「誰がどのデータにアクセスできるか」というアクセス権限を細かく設定できるツールを選び、内部からの漏洩リスクを管理します。
まとめ:建設DXはITツールの導入がゴールではない
建設DXにおいて、ITツールやシステムはあくまで「手段」に過ぎません。高価なツールを導入しても、現場で活用されず、業務プロセスが変わらなければ、それは単なるコスト増になってしまいます。重要なのは、ツール導入をきっかけに働き方の変革を行うことです。
- 建設DX成功のポイント
- 課題の明確化
自社が解決したい課題(残業削減、情報共有、安全管理など)を明確にする。 - 現場ファースト
現場が使いやすく、メリットを感じられるツールを選定する。 - プロセス改革
「情報の共有方法を変える」「無駄な移動をなくす」「データを意思決定に活かす」という行動変容を促す。
- 課題の明確化
よくある質問
Q1. 建設DXのITツール導入に使える補助金はありますか?
はい、活用できる可能性があります。主に中小企業を対象とした「IT導入補助金」や、革新的なサービス開発を支援する「ものづくり補助金」、小規模事業者向けの「小規模事業者持続化補助金」などが代表的です。各補助金には公募期間や要件があるため、経済産業省や中小企業庁の公式サイト、またはITツールのベンダーへ相談することをお勧めします。
[出典:経済産業省関連資料等]
Q2. 小規模な工務店でもIT導入の効果はありますか?
小規模な企業こそ、高い効果が期待できます。少人数で経営している工務店では、一人が営業・施工管理・事務を兼務することが多く、業務負荷が高くなりがちです。ITツールで事務作業や移動時間を削減できれば、その分を「お客様対応」や「現場管理」などのコア業務に集中できるため、経営効率が大きく改善します。
Q3. 無料のITツールから始めても良いですか?
導入のきっかけとしては有効ですが、注意点もあります。無料のチャットツールやストレージサービスは、手軽に始められる利点があります。しかし、ビジネス利用を前提としていない場合、「過去のデータが消える」「容量制限がある」「セキュリティ機能が不十分」といったリスクがあります。本格運用には、建設業向けに設計された有料ツールの導入を推奨します。





