「電子納品」の基本知識

公共工事における電子納品とは?要件と対応フローを解説


更新日: 2025/10/23
公共工事における電子納品とは?要件と対応フローを解説

この記事の要約

  • 公共工事における電子納品の基本概要を解説
  • 電子納品で準拠すべき要領・基準の要点
  • データ作成から提出までの4ステップを解説
台帳を自動で作成できる『蔵衛門御用達DX』

公共工事における電子納品とは?基本を解説

公共工事の受発注業務において、電子納品は今や標準的なプロセスです。このセクションでは、電子納品の基本的な定義と、なぜ国土交通省をはじめとする発注機関がこれを推進しているのかを解説します。従来の紙による納品と比較しながら、電子納品がもたらす業務変革の全体像を掴みましょう。

電子納品の定義と目的

電子納品とは、公共工事の調査、設計、施工、管理といった各段階で作成される成果品(図面、書類、写真、調査データなど)を、従来の紙媒体ではなく、指定された仕様に基づく電子データ(CD-R、DVD-R等の電子媒体)で提出・納品することです。

この目的は、単なるデジタル化(ペーパーレス化)にとどまりません。主な目的は以下の4点に集約されます。

業務効率化: データの検索性、閲覧性、共有性が飛躍的に向上し、受発注者双方の確認・検査業務が効率化されます。
コスト削減: 紙への大量印刷、製本、物理的な保管スペース、輸送にかかるコストを大幅に削減できます。
品質確保: 統一された基準でデータが作成・管理されるため、成果品の品質が標準化され、長期的な維持管理においてもデータの欠損や劣化を防ぎます。
データ活用: 蓄積された電子データを「CALS/EC(キャルスイーシー)※」の一環として活用し、将来の類似工事での再利用や、維持管理段階での情報参照、i-Constructionの推進基盤とすることが期待されています。

用語解説:CALS/EC(キャルスイーシー)

CALS/EC (Continuous Acquisition and Lifecycle Support / Electronic Commerce)の略。
公共事業支援統合情報システムのことを指します。事業の企画から設計、施工、維持管理に至る全プロセスで情報を電子化し、関係者間で共有・活用する仕組みです。

なぜ今、電子納品が求められるのか?背景とメリット

電子納品が急速に普及した背景には、国の政策が大きく関わっています。2000年代初頭から推進されてきた「e-Japan戦略」や公共事業のコスト縮減、透明性確保の流れを受け、国土交通省が「CALS/EC」を本格的に導入したことがきっかけです。

近年では、建設業界全体の生産性向上を目指す「i-Construction(アイ・コンストラクション)」の推進においても、ICT(情報通信技術)の全面的な活用が求められており、その基盤となる電子データ管理の重要性が一層高まっています。

受発注者双方のメリットとしては、前述の目的に加え、情報の検索性向上や保管スペースの削減が挙げられます。特に発注者側にとっては、膨大な紙の成果品を管理する負担が軽減され、過去のデータを迅速に参照できるメリットは計り知れません。

電子納品と従来の紙納品との違い【比較検討】

電子納品によって、成果品の取り扱いは根本的に変わります。従来の紙納品との違いを以下の比較表で整理します。

従来の紙納品(図面ファイル)と電子納品(CD-R)を比較する建設技術者

表:電子納品と紙納品の比較

比較項目 従来の紙納品 電子納品
納品形態 紙の図面、書類(製本)、写真アルバム 等 CD-R/DVD-R等の電子媒体(指定形式データ)
保管 物理的な保管スペース(書庫など)が必要 サーバーや外部ストレージに保管(省スペース)
検索性 目視での確認、索引頼り(時間がかかる) PCによるデータ検索(キーワード、属性で即時)
修正・複製 手間とコスト(再印刷・再製本)がかかる データの修正・複製が比較的容易(※管理は必要)
標準化 発注者や案件ごとに仕様が異なる場合がある 国土交通省等の統一基準(要領・基準)に準拠
データ活用 困難(スキャン等の再電子化が必要) 維持管理や別工事へのデータ再利用が容易

公共工事の電子納品で押さえるべき必須要件

電子納品は、単に書類をPDFにしたり、写真をJPEGにするだけでは完了しません。国土交通省などが定める厳格な「要領・基準(案)」に基づき、データのファイル形式、ファイル名、フォルダ構成、管理情報(XML)までを正確に作成する必要があります。ここでは、電子納品対応に不可欠な必須要件を解説します。

対象となる工事と適用範囲

電子納品の対象となるのは、原則として国土交通省(地方整備局など)が発注する直轄の土木工事や業務委託です。ただし、近年では都道府県、市区町村、その他の公的機関(NEXCO、UR都市機構など)が発注する公共工事においても、国の基準に準拠、または独自の基準を定めて電子納品を適用するケースが一般的になっています。

すべての工事で一律に適用されるわけではなく、工事の規模(予定価格)や種類、特記仕様書によって対象範囲が定められています。業務や工事を受注した際は、まず特記仕様書を確認し、電子納品の対象であるか、どの基準が適用されるかを把握することが必須です。

「電子納品要領(案)」とは?

電子納品における最も大元のルールブックが、国土交通省が策定・公開している「電子納品要領(案)」および関連する各種基準(案)です。これらは、電子成果品を作成する際の統一的な仕様を定めたもので、工事や業務の種類によって参照すべき文書が異なります。

(例)
・土木工事:「工事完成図書の電子納品等要領(案)」
・設計業務:「土木設計業務等の電子納品要領(案)」
・地質調査:「地質・土質調査成果電子納品要領(案)」

これらの要領(案)は定期的に改訂されるため、必ず契約時点で適用される最新のバージョンを発注者に確認する必要があります。

[出典:国土交通省「電子納品に関する要領・基準」]

準拠すべき主要な基準・仕様

「電子納品要領(案)」のもと、具体的なデータの作成方法を定めた「基準(案)」が存在します。特に以下の基準は、多くの土木工事で参照されるため、内容を理解しておく必要があります。

CAD製図基準(案)

目的: 図面データの互換性と標準化。
主なルール: 図面データのファイル形式(SXF形式(P21, SFC)またはPDF)、レイヤ(画層)の分類方法・名称、ファイル命名規則などを定めています。
[出典:国土交通省「CAD製図基準(案)」]

デジタル写真管理情報基準(案)

目的: 工事写真の品質確保と管理情報の標準化。
主なルール: 工事写真のファイル形式(JPEGが基本)、有効画素数、ファイル命名規則、写真に付随する管理情報(撮影日、工種、測点など)をXMLファイルで管理する方法を定めています。
[出典:国土交通省「デジタル写真管理情報基準」]

地質・土質調査成果電子納品要領(案)
ボーリング柱状図や土質試験結果などのデータ形式(XML)や管理方法を定めています。

この他にも、工事内容に応じて測量成果や機械設備など、様々な基準(案)が存在します。

データ形式とフォルダ構成のルール

電子納品の核心部分は、「決められたデータを、決められたフォルダ構成で格納する」ことにあります。

データ形式:
・図面:SXF(.p21 / .sfc)
・写真:JPEG(.jpg)
・書類:PDF(.pdf)
・管理ファイル:XML(.xml)
・その他、要領で定められた形式

フォルダ構成:
電子納品では、電子媒体(CD-Rなど)のルートディレクトリ(一番上の階層)から、どのフォルダにどのファイルを入れるかが厳格に定められています。
例えば、「DRAWING」フォルダには図面データ、「PHOTO」フォルダには写真データ、「REPORT」フォルダには報告書データ、といった具合です。
さらに、工事の基本情報(工事件名、受注者、発注者など)を記載した「索引ファイル(INDEX_C.XMLなど)」をルートディレクトリに配置する必要があります。

この構造を一つでも間違えると、後述するチェックシステムでエラーとなり、納品が受理されません。

電子納品データの作成と提出までの対応フロー

電子納品の要件を理解したら、次は実際の作業フローです。電子納品は「最後にまとめてやればよい」というものではなく、工事着手から竣工までの日々の業務プロセスに組み込む必要があります。

具体的には、以下の4つのステップで進めます。

  1. 事前協議(仕様の確認)
  2. 電子データの作成・整理(日々の業務)
  3. チェックシステムによる検証(エラー修正)
  4. 電子媒体への格納・提出

ここでは、各ステップで「何をすべきか」を順に解説します。

ステップ1. 事前協議(受発注者間の確認)

目的: 電子納品の仕様に関する「認識のズレ」を防ぐ。

工事着手時(または契約後速やかに)、発注者と受注者の間で必ず「事前協議」を行います。これは電子納品をスムーズに進める上で最も重要なステップです。

事前協議での主な確認事項

1. 適用する要領・基準(案)のバージョン確認: 契約時点での最新版を確認します。
2. 電子納品の対象範囲: どの成果品を電子化し、どれを紙で提出するか(または併用するか)を明確にします。
3. 使用する電子納品支援ソフト: 受発注者間で使用ソフトが異なる場合の互換性を確認します。
4. ローカルルールの有無: 国の基準とは異なる、発注者(都道府県や市町村)独自のルールがないか確認します(後述)。
5. 納品媒体: CD-RかDVD-Rか、提出部数などを確認します。

ステップ2. 電子データの作成と整理

目的: 日々の業務において、電子納品基準に準拠したデータを作成・蓄積する。

事前協議で決定した仕様に基づき、日々の業務の中でデータを整理します。

CAD図面: 「CAD製図基準(案)」に基づき、レイヤ分けを正しく行いながら作図します。ファイル名も規定に従います。
工事写真: 「デジタル写真管理情報基準(案)」に基づき、撮影時に黒板情報を正確に記入(または電子小黒板を活用)し、写真管理ソフトで工種や測点などの管理情報を入力していきます。
各種書類: 報告書や打合せ議事録などをPDF化し、所定のフォルダに格納します。

この段階で、電子納品支援ソフトを活用し、指定されたフォルダ構成(例:「PHOTO」フォルダ、「DRAWING」フォルダなど)を意識してデータを振り分けていくと、最後のとりまとめ作業が格段に楽になります。

ステップ3. 電子納品チェックシステムによる検証

目的: 作成したデータが要領・基準(案)に適合しているか客観的に検証し、エラーを修正する。

成果品データが一通り揃ったら、電子媒体に書き込む前に「電子納品チェックシステム」による検証を行います。このシステムは、国土交通省などが無償で提供しており、電子納品データの「車検」のような役割を果たします。

チェックシステムの主な検証内容

・必須ファイル(INDEX_C.XMLなど)の有無
・フォルダ構成の正当性
・ファイル名の命名規則
・XMLファイル内の記述エラー(管理情報の入力漏れや誤り)
・CADデータのレイヤ名や使用禁止文字のチェック
・写真データの管理情報(撮影日など)の整合性

チェックを実行すると、基準に適合しない箇所がエラーまたは警告として一覧表示されます。受注者は、すべてのエラーを解消する必要があります。エラーが残ったままでは、原則として納品は受理されません。

[出典:国土交通省「電子納品チェックシステム」]

ステップ4. 電子媒体への格納と提出

目的: 検証済みのデータを正しく電子媒体に格納し、発注者に納品する。

すべてのエラー修正が完了し、チェックシステムで「エラーなし」となったら、いよいよ納品の最終工程です。

  1. ウイルスチェック: 納品データ全体がコンピュータウイルスに感染していないか、最新のウイルス対策ソフトで必ずスキャンします。
  2. 電子媒体への書き込み: CD-RやDVD-R(発注者指定の媒体)にデータを書き込みます。この際、追記(パケットライト方式)は禁止されているため、必ずディスクアットワンス方式(一括書き込み)で行います。
  3. 媒体へのラベル貼付: 媒体の表面(レーベル面)やケースには、工事件名、発注者名、受注者名、作成年月日、媒体番号(例:1/3枚目)などを明記したラベルを貼付します。
  4. 提出: 完成図書として、他の紙の成果品(必要な場合)とともに発注者に提出します。

電子納品でつまずかないための注意点と対策

電子納品はルールが複雑なため、特に経験の浅い担当者にとってはハードルが高い業務です。しかし、つまずきやすいポイントは決まっています。ここでは、読者のよくある不安への対策と、手戻りを防ぐための注意点を解説します。

【読者のよくある不安】「基準が複雑でわからない」

「適用すべき要領(案)がどれか不明」「基準の解釈が発注者と食い違う」といった不安は、多くの担当者が抱える悩みです。

対策:
最大の対策は、ステップ1の「事前協議」を徹底することです。不明点は自己判断せず、必ず発注者の監督職員に確認し、協議内容を議事録として書面に残しましょう。
また、国土交通省や各地方整備局、ソフトウェアベンダーが開催する電子納品の講習会やセミナーに参加し、最新の知識を習得することも有効です。まずは契約した工事に適用される「要領・基準(案)」を熟読することから始めましょう。

電子納品の仕様について事前協議を行う発注者と受注者の担当者

【読者のよくある不安】「チェックシステムでエラーが多発する」

いざチェックシステムにかけたら、数百件のエラーが発生して途方に暮れる、というケースは少なくありません。

原因と対策:
エラーが多発する主な原因は、「日々のデータ整理の怠り」にあります。

CADデータのエラー: レイヤ分けを基準通りに行っていない、不要なレイヤが残っている、使用禁止文字を使っている、などが原因です。作図の初期段階から基準を意識することが重要です。
写真データのエラー: 写真管理ソフトへの情報(工種、測点など)の入力漏れや誤り、撮影日の不整合がほとんどです。写真は溜め込まず、撮影したその日のうちに整理・入力する習慣をつけることが最善の策です。

エラーが出た際は、エラーメッセージを一つずつ読み解き、原因を特定して修正します。多くの電子納品支援ソフトには、こうしたエラーを効率的に修正する機能が搭載されています。

必要なソフトウェアやツールの準備

電子納品を効率的かつ正確に行うためには、適切なソフトウェアの導入が事実上必須となります。手作業(テキストエディタでのXML編集など)での対応は、膨大な手間とミスの原因になります。

主な必要ソフトウェア

CADソフト(SXF形式対応): SXF形式(.p21/.sfc)の入出力に対応したCADソフト。
電子納品対応の写真管理ソフト: 「デジタル写真管理情報基準(案)」に準拠した写真帳と管理ファイル(XML)を作成できるソフト。
電子納品統合ソフト(支援ソフト): 各データを集約し、要領(案)に沿ったフォルダ構成の作成、管理ファイル(XML)の自動生成、チェックシステム連携などを行う、電子納品業務の中核となるソフト。
電子納品チェックシステム: 国土交通省などから無償提供されている検証用ソフト(必須)。
PDF作成ソフト: 書類をPDF化するためのソフト。

発注者(自治体)ごとのローカルルールの確認

最も注意すべき点の一つが、「ローカルルール」の存在です。
国土交通省の要領・基準(案)はあくまで国の基準であり、都道府県や市区町村といった地方自治体が発注する工事では、国の基準をベースにしつつ、独自の追加ルールや簡素化ルールを設けている場合があります。

(ローカルルールの例)
・フォルダ構成の簡略化
・特定の管理項目の入力不要
・独自のCADレイヤ名の追加

これらのローカルルールを見落とし、国の基準だけでデータを作成してしまうと、納品間際にすべてやり直し(手戻り)となる最悪の事態を招きかねません。必ず事前協議の段階で、発注者独自の「電子納品運用ガイドライン」や「手引き」の有無を確認してください。

まとめ:電子納品への対応は業務効率化の鍵

本記事では、公共工事における電子納品の基本概要から、準拠すべき必須要件(要領・基準)、データ作成から提出までの具体的な対応フロー、そしてつまずきやすい注意点までを網羅的に解説しました。

電子納品は、一見するとルールが複雑で手間のかかる作業に思えるかもしれません。しかし、その本質は「情報を標準化し、デジタルデータとして活用する」ことにあります。
要件を正しく理解し、事前協議を徹底し、日々の業務プロセスに組み込むことで、手戻りを防ぎ、受発注者双方の業務効率化に大きく貢献します。

本記事で紹介した要件とフローを押さえ、正確でスムーズな電子納品対応を目指しましょう。

電子納品に関するよくある質問

Q. 電子納品はすべての公共工事で必須ですか?
A. いいえ、必須とは限りません。発注者(国、自治体など)や工事の規模(契約金額)、工事の種類によって適用範囲が異なります。近年は適用が拡大していますが、小規模な工事などでは対象外となる場合もあります。必ず契約時の特記仕様書を確認するか、発注者との事前協議で適用対象かどうかを確認してください。

Q. どのようなソフトを使えばよいですか?
A. 電子納品データ(特に管理ファイルXMLの作成やフォルダ構成の構築)を手作業で作成するのは非常に困難です。市販されている「電子納品支援ソフト」または「電子納品統合ソフト」を使用するのが一般的です。また、CADソフトや写真管理ソフトも、それぞれ電子納品の基準(SXF形式、デジタル写真管理情報基準)に対応した製品を選ぶ必要があります。提出前の必須作業として、国土交通省などが無償提供する「電子納品チェックシステム」も必要です。

Q. チェックシステムのエラーが解消できない場合はどうすればよいですか?
A. まずはエラーメッセージをよく読み、どの要領・基準のどの項目に違反しているのかを具体的に特定します。多くの場合、CADデータのレイヤ設定ミス、写真管理情報の入力漏れ・不整合、ファイル名の命名規則違反が原因です。使用している電子納品支援ソフトの修正機能で対応できるか試みてください。それでも解消しない場合や原因が特定できない場合は、使用しているソフトのサポートセンター、または発注者の監督職員に速やかに相談してください。

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