人材不足が変える建設キャリアの価値とは?市場ニーズと併せて解説

この記事の要約
- 建設業界の人材不足がキャリア価値を高める理由
- 建設DXや施工管理など市場価値が高いキャリア
- 将来のキャリアパス構築と働き方改革の現状
- 目次
- 建設業界の深刻な人材不足とキャリアへの影響
- 建設業界で「人材不足」が叫ばれる背景
- 人材不足が現場にもたらす課題とは?
- なぜ今、建設業界の「キャリア」が注目されるのか
- 人材不足がもたらす建設業界のキャリア価値の変化
- 1. 専門性を持つ人材の市場価値が急上昇
- 2. 多様な働き方とキャリアパスの容認
- 3. 未経験者・若手にも広がるキャリアの門戸
- 市場ニーズから見る!今、建設業界で求められるキャリアとは?
- 建設DX・ICT化を推進できるキャリア
- 高まる需要①:プロジェクト全体を動かす「施工管理」
- 高まる需要②:インフラ維持・改修分野の専門キャリア
- 【比較】建設業界で求められるキャリアの変化
- 価値が高まる建設業界で築くべき将来のキャリアパス
- ステップ1:基礎となる「資格」の取得
- ステップ2:「専門性」×「α」のキャリアを意識する
- ステップ3:変化を恐れず「新しい技術」を学ぶ姿勢
- 建設業界のキャリアに関するよくある不安と疑問(読者の不安解消)
- Q. 「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージがありますが、実際は?
- Q. 未経験からでも本当にキャリアアップできますか?
- Q. 将来性はある?AIに仕事は奪われませんか?
- まとめ:人材不足をチャンスに変える建設キャリアの築き方
- 建設業界のキャリアに関するよくある質問
- Q1. 建設業界でキャリアアップするために、まず何をすべきですか?
- Q2. 建設業界の給与水準は、他の業界と比べてどうですか?
- Q3. 建設業界のキャリアに向いている人の特徴は?
建設業界の深刻な人材不足とキャリアへの影響
建設業界は現在、深刻な人材不足に直面しています。これは単なる労働力不足の問題ではなく、業界で働く人々のキャリアの価値観や市場ニーズを大きく変える転機となっています。なぜ人材が不足し、それが現場や個人のキャリアにどのような影響を与えているのか、その背景と構造を解説します。
建設業界で「人材不足」が叫ばれる背景
建設業界の人材不足は、供給(働き手)の減少と需要(仕事量)のミスマッチによって発生しています。特に以下の3点が主な背景です。
・要因1:熟練技術者の高齢化と大量退職
建設業就業者は高齢化が著しく、全体の約3分の1(36.0%)を55歳以上が占めています(※)。長年業界を支えた熟練技術者が大量退職の時期を迎えており、高度な技術やノウハウの継承が喫緊の課題です。
・要因2:若年層の入職者減少
全産業と比較して若年層の割合が低く、29歳以下の就業者は全体の約12%に留まっています(※)。これは、かつての「3K」といった労働環境への懸念や、他産業への人材流出が影響していると考えられます。
・要因3:継続的な建設需要(インフラ老朽化対策、再開発など)
働き手が減少する一方、国内では高度経済成長期に建設されたインフラの老朽化対策や修繕が待ったなしの状態です。加えて、都市部の再開発プロジェクトや防災・減災対策など、建設投資は底堅く推移しています。
[出典:国土交通省「最近の建設業を巡る状況について(参考資料)」]
人材不足が現場にもたらす課題とは?
人材が足りない状況は、建設現場の運営に直接的な課題をもたらします。
第一に、一人あたりの業務負荷増大です。少ない人数で従来の業務量をこなさなければならず、結果として長時間労働や休日出勤の常態化を招きやすくなります。
第二に、工期の遅延リスクです。必要な人員や技術者を配置できなければ、計画通りに工事を進めることが難しくなり、工期の遅延が発生しやすくなります。
そして最も深刻なのが、技術・ノウハウの継承問題です。熟練技術者が退職する前に若手に技術を伝える時間が十分に確保できず、建設業界が誇る高い技術力が失われてしまう恐れがあります。
なぜ今、建設業界の「キャリア」が注目されるのか
このような深刻な人材不足は、逆説的ですが、現在働いている人やこれから業界を目指す人にとって「個人の価値」を高める要因となっています。
企業側は、一人でも多くの優秀な人材を確保し、長く働いてもらうために、待遇改善(給与アップ)や働き方改革(週休二日制の導入など)を本気で推進せざるを得ません。
その結果、建設業界は「キャリアを見直す、または新たに築くチャンスが拡大している」市場へと変化しています。個人のスキルや経験が正当に評価され、より良い条件や働き方を求めてキャリアを構築しやすい環境が整いつつあるのです。
人材不足がもたらす建設業界のキャリア価値の変化
人材不足という大きな課題は、建設業界における「働き方」と「キャリア」の価値を根本から変えつつあります。これまで当たり前とされてきた慣習が見直され、個人のスキルや多様性が重視される時代へと移行しています。
1. 専門性を持つ人材の市場価値が急上昇
企業が最も求めているのは、即戦力となる専門性の高い人材です。特に、施工管理技士(1級・2級)や建築士(一級・二級)といった業務独占資格や必置資格の保有者は、転職市場において非常に優位な立場にあります。これらの資格がなければ進められない工事や事業所運営があるため、企業は好待遇を用意してでも確保しようと動きます。
また、資格だけでなく、特定の工法に精通した熟練技能者など、「替えのきかない」スキルを持つ人材の価値も再評価されています。結果として、専門性を持つ人材の給与水準は上昇傾向にあり、より良い条件を提示する企業への転職も活発化しています。
2. 多様な働き方とキャリアパスの容認
人材を確保・定着させるため、企業は働き方の多様化にも取り組んでいます。かつての長時間労働の是正は、業界全体の大きな目標となっています。
・週休二日制の普及と残業削減の動き
国土交通省が推進する「[建設業働き方改革加速化プログラム]」などに基づき、公共工事を中心に週休二日制の導入が進んでいます。2024年4月からは時間外労働の上限規制も適用され、業界全体で労働時間の短縮が強く意識されています。
・テレワーク(現場管理の一部など)の導入
ICT(情報通信技術)の活用により、従来は現場常駐が必須だった業務の一部(書類作成、図面確認、遠隔臨場など)がオフィスや自宅でも可能になりつつあります。
・時短勤務や柔軟な雇用形態(業務委託など)の広がり
育児や介護との両立を支援するための時短勤務制度や、特定のプロジェクト単位で専門性を発揮する業務委託(フリーランス)といった、柔軟な働き方やキャリアパスも徐々に容認され始めています。
3. 未経験者・若手にも広がるキャリアの門戸
熟練技術者の退職が進む一方で、企業は将来の担い手を育成することにも注力しています。そのため、経験の有無を問わず、意欲ある人材をポテンシャル採用する動きが活発です。
多くの企業が、入社後の充実した研修・教育制度を用意し、ゼロから技術や知識を学べる環境を整備しています。資格取得支援制度(受験費用や講習費用の補助など)を導入し、社員のスキルアップ=キャリア形成を積極的に後押ししています。
こうした背景から、他業種(例:IT、営業、サービス業)で培ったコミュニケーション能力や管理能力を活かし、建設業界へキャリアチェンジする人も増える傾向にあります。
市場ニーズから見る!今、建設業界で求められるキャリアとは?
人材不足と働き方改革が進む中、建設業界で求められる人材像=市場ニーズも明確に変化しています。従来の経験則や体力といった要素に加え、新しい技術への対応力や高度なマネジメント能力が、今後のキャリアを築く上で不可欠です。
建設DX・ICT化を推進できるキャリア
建設業界の生産性を飛躍的に向上させる鍵として、「建設DX(デジタルトランスフォーメーション)」とICT(情報通信技術)の活用が国策(i-Construction)として進められています。
[出典:国土交通省「i-Construction」]
- BIM/CIM(ビムシム)とは
BIM (Building Information Modeling) / CIM (Construction Information Modeling, Management) の略称。計画、調査、設計段階から3次元モデルを導入し、その後の施工、維持管理の各段階においても3次元モデルを連携・発展させて事業全体にわたる関係者間の情報共有を容易にし、一連の建設生産・管理システムの効率化・高度化を図る取り組みです。
[出典:国土交通省「BIM/CIMとは」]
・BIM/CIMオペレーターおよびマネージャー
上記のBIM/CIMを使いこなし、3Dモデルを作成・運用できる人材は、公共工事を中心に需要が急増しています。
・ドローンやICT建機を扱える技術者
ドローンによる測量、ICT建機(情報通信技術を搭載した建設機械)による自動化施工など、現場の省人化・効率化に直結する技術を扱えるオペレーターの価値は非常に高いです。
・現場の生産性向上をITで支援できる人材
施工管理アプリの導入、クラウドでの情報共有、遠隔臨場システムの構築など、現場の課題をITの力で解決し、生産性向上を推進できる人材も強く求められています。

高まる需要①:プロジェクト全体を動かす「施工管理」
建設プロジェクトを円滑に進める「施工管理」のポジションは、人材不足が最も深刻な職種の一つであり、常に高い需要があります。
求められるのは、品質・工程・安全・原価管理(4大管理)を遂行する高度なスキルです。特に、発注者や多くの協力会社(職人など)と円滑に調整を行うコミュニケーション能力が重要視されます。
さらに、限られた人材や資材の中でプロジェクトを成功させるため、現場全体を俯瞰し、効率的な人員配置や業務指示を行うマネジメント能力の重要性が一層高まっています。
高まる需要②:インフラ維持・改修分野の専門キャリア
日本の社会資本は、新設(ゼロから造る)の時代から、既存のものを長く安全に使う「維持管理・補修・改修」の時代へと大きくシフトしています。
橋梁、トンネル、上下水道などの点検・診断を行う診断技術や、最新の補修・補強工法に関する専門知識を持つ技術者のニーズは、今後ますます高まります。
これは、社会インフラを守るという社会貢献性の高いキャリアであり、安定した需要が見込める分野です。
【比較】建設業界で求められるキャリアの変化
人材不足と技術革新を背景に、建設業界で求められるキャリア像は以下のように変化しています。
▼ 建設業界におけるキャリア像の比較表
| 観点 | 従来のキャリア像 | 今後さらに求められるキャリア像 |
|---|---|---|
| 主なスキル | 現場経験、伝統的工法、体力 | 専門技術 + ICTスキル、マネジメント能力 |
| 働き方 | 長時間労働、現場常駐 | 効率化、生産性向上、働き方改革(テレワーク含む) |
| 価値 | 従順さ、経験年数 | 専門性、問題解決能力、多様性への対応力 |
| 知識 | 担当分野の深い知識 | 担当分野 + IT、法律(時間外規制など)、環境知識 |
価値が高まる建設業界で築くべき将来のキャリアパス
人材不足と市場ニーズの変化を背景に、建設業界で自身の価値を高め、将来性のあるキャリアを築くためには、戦略的なステップが必要です。ここでは、そのための3つのステップを紹介します。
ステップ1:基礎となる「資格」の取得
建設業界において、資格は自身のスキルと知識を客観的に証明する最も強力な武器です。
特に施工管理技士や建築士などの国家資格は、特定の業務を行うために法律で定められており、キャリアの土台として不可欠です。これらの資格を保有していることは、企業からの信頼に直結し、資格手当による給与アップや、主任技術者・監理技術者への昇進・昇給にも直接的な影響を与えます。
また、転職市場においても、資格保有者は明確なアピールポイントとなり、キャリア選択の幅を大きく広げることができます。
ステップ2:「専門性」×「α」のキャリアを意識する
これからの建設業界では、一つの専門性だけでは不十分です。既存のスキルに、付加価値(α)を掛け合わせることが、市場価値の高い人材になるための鍵となります。
- キャリアの掛け合わせ(例)
・例1:現場経験 × ITスキル(施工管理+BIM/CIM)
現場を知る施工管理者がBIM/CIMを扱えれば、設計と施工の橋渡し役として、生産性向上に大きく貢献できます。・例2:専門技術 × マネジメントスキル(技術者+プロジェクトリーダー)
高度な技術力に加え、チームをまとめ、プロジェクト全体を動かすマネジメント能力を身につければ、より大規模で重要な役割を担えます。・例3:設計 × 環境知識(ZEBやSDGs対応)
設計スキルに加え、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)やSDGs(持続可能な開発目標)に関する知見を持つことで、環境配慮が求められる現代の建築ニーズに応えられます。
ステップ3:変化を恐れず「新しい技術」を学ぶ姿勢
建設業界は今、i-Constructionや建設DXの推進により、急速な技術革新の渦中にあります。
継続的な学習(リスキリング)の重要性は、どの業界よりも高まっています。

AIによる工程管理の最適化、IoTによる現場の安全監視、ロボティクスによる自動施工など、最新技術の動向を常にキャッチアップする姿勢が求められます。
時には、建設業界以外(例:IT業界、製造業)の効率化手法や知見を取り入れる柔軟な視点も、新しいキャリアを切り開く上で役立つでしょう。
建設業界のキャリアに関するよくある不安と疑問(読者の不安解消)
建設業界へのキャリアチェンジや、業界内でのステップアップを考えたとき、多くの方が抱く不安や疑問について、Q&A形式で客観的にお答えします。
Q. 「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージがありますが、実際は?
A. 確かにかつてのイメージは根強くありますが、現在は業界全体で働き方改革が急速に進んでいます。
国土交通省や業界団体は、従来の3Kを払拭し、「給与・休暇・希望」の「新3K」を実現するために様々な施策を推進しています。
・週休二日制の導入義務化の動き
2024年4月からの時間外労働上限規制の適用に伴い、工期の適正化とセットで週休二日制の確保が強く求められています。
・ICT活用による現場作業の安全性・快適性の向上
危険な場所での作業はドローンやロボットが代替し、BIM/CIMの活用で手戻り作業が減少するなど、ICT技術が「きつい・危険」を大幅に軽減しています。
・空調服やアシストスーツなどの導入
夏の猛暑対策としての空調服や、重量物運搬の負担を軽減するアシストスーツの導入も進み、作業環境(汚い・きつい)は大きく改善されています。
Q. 未経験からでも本当にキャリアアップできますか?
A. 可能です。深刻な人材不足のため、多くの企業が育成を前提としたポテンシャル採用を増加させています。
未経験者を歓迎する企業は、以下のような体制を整えていることが多いです。
・入社後の研修制度の充実
ビジネスマナーから専門知識、CAD操作まで、基礎から学べる研修プログラムが用意されています。
・資格取得支援制度(費用補助、勉強会など)
業務に必要な資格(例:施工管理技士補)の取得を、費用面や学習面で全面的にバックアップします。
・まずはアシスタント業務から始められる求人の増加
最初は先輩社員の補助(写真撮影、書類整理など)からスタートし、徐々に現場を学ぶことができるため、安心してキャリアをスタートできます。
Q. 将来性はある?AIに仕事は奪われませんか?
A. 非常に高い将来性があります。AIは仕事を「奪う」のではなく、人間の業務を「補助する」存在です。
建設業界の仕事がなくなることは考えにくい理由は以下の通りです。
・インフラ維持・更新、防災・減災など需要は尽きない
日本国内のインフラは老朽化が進んでおり、その維持・更新は必須です。また、自然災害に備える防災・減災対策も継続的に必要とされます。
・AIやロボットは単純作業や危険作業を代替
AIが得意とするのはデータ分析やパターン化された作業、ロボットが得意なのは危険な場所での作業や単純な繰り返し作業です。これらを任せることで、人間はより高度な業務に集中できます。
・人間にしかできない判断、マネジメント、コミュニケーションの価値が向上
現場の突発的なトラブルへの対応、発注者との折衝、職人との細やかな調整など、AIには代替できない人間にしかできない仕事の価値は、むしろ高まっていきます。
まとめ:人材不足をチャンスに変える建設キャリアの築き方
建設業界が直面する「人材不足」は、危機であると同時に、そこで働く個人のキャリア価値を高める大きなチャンスです。市場ニーズは、従来の経験や技術だけでなく、「ICT・DXスキル」や「高度なマネジメント能力」へと明確にシフトしています。働き方改革も進み、資格取得や新技術の学習を通じて自身の市場価値を高めることで、主体的にキャリアを築くことが重要な時代になっています。
建設業界のキャリアに関するよくある質問
最後に、建設業界のキャリアに関して特に多く寄せられる質問3点にお答えします。
Q1. 建設業界でキャリアアップするために、まず何をすべきですか?
A1. まずはご自身の現状(経験、スキル)と、将来の目標(どのような技術者になりたいか、どのくらいの収入を得たいか)を明確にしましょう。
・未経験者の場合:
業界の基礎知識と意欲を示すために、「2級施工管理技士(の学科試験にあたる「第一次検定」)」や、電気工事分野であれば「第二種電気工事士」などの資格取得を目指すのが一般的です。
・経験者の場合:
より上位の「1級施工管理技士」や「建築士」の資格取得、あるいはBIM/CIMのような新しい技術の習得が、具体的なキャリアアップに繋がります。
Q2. 建設業界の給与水準は、他の業界と比べてどうですか?
A2. 全体として、他の全産業平均よりも高い傾向にあります。特に人材不足が深刻な施工管理職や、高度な専門資格を持つ技術者の給与水準は上昇傾向が顕著です。
多くの企業で資格手当(例:1級施工管理技士で月額数万円など)が充実していることも、給与水準を押し上げる要因となっています。時間外労働(残業)については削減傾向にありますが、規制の範囲内で行われた分については適正に支給されます。
Q3. 建設業界のキャリアに向いている人の特徴は?
A3. 以下のような特徴を持つ人は、建設業界のキャリアに向いていると言えます。
・モノづくりが好きで、成果が形に残ることにやりがいを感じる人
・多くの人と協力して一つの目標を達成するのが得意な人(コミュニケーション能力)
・日々状況が変わる現場に対応できる柔軟性や問題解決能力がある人
・新しい技術や知識を学ぶことに意欲的な人




