「工事写真」の基本知識

工事写真とは?目的・種類・撮影ルールを解説


更新日: 2025/10/02
工事写真とは?目的・種類・撮影ルールを解説

この記事の要約

  • 工事写真に求められる5つの重要な目的を解説
  • 工事写真の種類と役割を一覧表で分かりやすく紹介
  • 初心者でも分かる工事写真の基本ルールと撮影のコツ

工事写真とは?その重要性と5つの目的を徹底解説

工事写真とは、工事の着工前から完成までの各工程において、施工状況や品質、使用材料、安全管理の状況などを記録するために撮影された写真のことです。単なる記録以上に、契約内容が適切に履行されたことを証明する客観的な証拠資料として極めて重要な役割を担います。特に公共工事では、会計検査院法や各発注機関が定める仕様書に基づき、工事写真の撮影と提出が厳格に義務付けられています。

工事写真が果たす5つの重要な目的

工事写真は、単に現場の様子を写すだけのものではありません。工事全体の品質と信頼性を担保するために、主に以下の5つの重要な目的を持っています。それぞれの目的を理解することで、なぜ特定のタイミングや対象を撮影する必要があるのかが明確になります。

1. 契約通りの施工を証明するため
発注者と受注者間で交わされた契約書や設計図書通りに工事が施工されたことを証明する、最も基本的な目的です。特に、壁の内部や地中など、工事が完了すると見えなくなってしまう箇所の施工状況を写真で記録しておくことは、契約履行を証明する上で不可欠です。

2. 施工品質の記録・確認のため
鉄筋の配置間隔やコンクリートの厚みといった「出来形(できがた)」や、材料の強度試験などの「品質」が、定められた基準や規格を満たしていることを記録します。これにより、工事全体の品質が確保されていることを客観的に示し、発注者の検査を円滑に進めることができます。

3. 工事の進捗状況を報告するため
遠隔地にいる発注者や関係者に対して、工事が計画通りに進んでいることを視覚的に報告する目的があります。定期的に施工状況写真を提出することで、関係者間の円滑なコミュニケーションを促進し、信頼関係を構築します。

4. 将来の維持管理・修繕のため
建物や構造物が完成した後、将来的なメンテナンスや修繕工事が必要になった際に、工事写真は非常に役立ちます。壁や床下にどのような配管が通っているか、どのような材料が使われているかなどを写真で確認できるため、効率的かつ的確な修繕計画を立てることが可能になります。

5. 事故やトラブル発生時の証拠保全のため
万が一、工事中に事故が発生した場合や、完成後に瑕疵(かし)などのトラブルが起きた際に、工事写真は原因究明のための重要な証拠となります。施工状況や安全管理の記録が、自社の正当性を主張し、責任の所在を明確にするための客観的な資料として機能します。

【一覧】知っておくべき工事写真の主な種類

工事の工程や目的に応じて、撮影すべき工事写真には様々な種類があります。すべての写真を闇雲に撮影するのではなく、どの段階でどの種類の写真が必要なのかを把握しておくことが重要です。ここでは、国土交通省の「デジタル写真管理情報基準」などでも分類されている代表的な写真の種類と、それぞれの撮影対象や役割について解説します。

建設現場で工事写真を撮影する様子

工事写真の種類と撮影内容

以下の表は、代表的な工事写真の種類とそれぞれの役割をまとめたものです。工事の各フェーズでどのような写真を撮るべきかを確認しましょう。

種類 主な撮影内容 役割・目的
①着工前・完成写真 工事着手前の現況、工事完了後の全景・細部 施工前後の変化を明確にし、契約内容の履行を証明する
②施工状況写真 各工程の施工中の状況(配筋、掘削、コンクリート打設など) 目視で確認できなくなる部分の施工状況を記録する
③使用材料写真 設計図書で指定された材料の品番、メーカー、数量などがわかる写真 仕様通りの材料が使用されたことを証明する
④品質管理写真 材料の品質試験の様子や、構造物の寸法測定(出来形)の結果 設計図書や仕様書で定められた品質・規格が確保されていることを証明する
⑤安全管理写真 安全設備の設置状況(仮設足場、安全帯、消火設備など) 適切な安全対策が講じられていることを記録する
⑥災害・事故写真 災害発生後の被害状況、事故発生時の現場の状況 被害の程度を記録し、原因究明や保険請求の資料とする

【国土交通省基準準拠】工事写真の基本的な撮影ルール

工事写真は、後から第三者が見ても「いつ、どこで、何をしたか」が正確に伝わる客観性が求められます。そのため、国土交通省が定める「公共工事標準仕様書」や「デジタル写真管理情報基準」によって詳細なルールが規定されています。ここでは、これらの基準に基づき、すべての工事で共通して押さえるべき基本ルールを解説します。

[出典:国土交通省「デジタル写真管理情報基準(令和5年3月)」]

撮影前に必ず確認すべき3つのこと

撮影を始める前に、発注者から渡される設計図書や特記仕様書を読み込み、以下の3項目を必ず確認してください。事前の確認を怠ると、撮り直しや写真の再提出を求められる可能性があります。

1. 撮影が必要な工種・箇所の確認
どの工事段階で、どの部分の写真を撮影する必要があるのかをリストアップします。これを「撮影計画」や「撮影リスト」として文書化し、関係者と共有することで撮り忘れを組織的に防ぎます。

2. 写真の提出仕様の確認
写真の画素数、ファイル形式(JPEGが一般的)、ファイル名の付け方、提出枚数など、発注者が指定する仕様を確認します。特に電子納品が求められる場合は、フォルダ構成などのルールも厳密に定められているため注意が必要です。

3. 黒板(チョークボード)の記載事項の確認
工事黒板に記載すべき項目は、工事の種類や発注者によって異なります。測点(そくてん:工事における位置を示す座標や距離)や寸法表示のルールなど、記載すべき必須項目を事前に仕様書で確認しておきましょう。

工事黒板の正しい書き方と撮影のポイント

工事写真の信憑性を高めるために、工事黒板(チョークボード)は不可欠なアイテムです。以下の必須項目とポイントを押さえ、誰が見ても分かりやすい黒板を作成しましょう。

黒板への必須記載項目

工事名:契約書に記載されている正式名称を記入します。
工種:「掘削工」「鉄筋工」など、何の作業を行っているかを示します。
測点(撮影箇所):工事全体のどの場所で撮影したかを示します(例:通り芯、高さなど)。
設計寸法・実測寸法:出来形管理写真などで、設計上の寸法と実際の測定値を併記します。
略図:撮影している箇所が構造物のどの部分にあたるか、簡単な図で示します。

撮影時のポイント

鮮明さ:黒板の文字がかすれたり、小さすぎたりせず、写真上で鮮明に読み取れるように撮影します。
反射防止:光が黒板に反射して文字が見えなくならないよう、撮影角度や立ち位置を工夫します。
設置場所:撮影対象のすぐ近くに、写真の邪魔にならないように設置します。

写真整理を楽にする撮影のコツ「5W1H」

撮影時に以下の「5W1H」を意識することで、写真の撮り忘れを防ぎ、後の膨大な写真データを整理する作業が格段に楽になります。これは、写真一枚一枚が持つべき情報を整理するための考え方です。

写真撮影の5W1H

When(いつ):施工日、撮影日
Where(どこで):撮影箇所、測点
Who(誰が):施工業者名、立会者
What(何を):工種、材料
Why(なぜ):撮影目的(出来形、品質、安全など)
How(どのように):施工状況、測定結果

【STEP式】撮影後の工事写真の整理・管理方法

撮影した工事写真は、提出できる状態に整理・管理して初めてその価値を発揮します。撮影後のデータを適切に扱うことは、撮り忘れの確認や報告書作成の効率化に直結する重要な業務です。ここでは、基本的な写真整理の手順を3つのステップで解説します。

STEP1:工種ごとにフォルダを分ける

まず、PC上に工事ファイルを作成し、その中に「着工前」「基礎工」「鉄筋工事」といったように、工種や工程ごとにフォルダを分けます。こうすることで、後から特定の写真を探しやすくなり、電子納品の際の仕分け作業もスムーズになります。

STEP2:ファイル名をルールに沿って変更する

撮影したままのファイル名(例:DSC_0001.JPG)では、どの写真か一目で分かりません。発注者の指定する命名規則に従って、ファイル名を変更(リネーム)します。「撮影年月日_工種_箇所.JPG」のように、ファイル名だけで写真の内容がある程度推測できるようにするのが理想です。

STEP3:台帳を作成し、バックアップを取る

撮影した写真の一覧をExcelなどで「写真管理台帳」としてまとめます。ファイル名、撮影日、工種、撮影箇所、黒板の記載内容などを記録しておくことで、写真の提出漏れや重複を防げます。また、万が一のデータ破損に備え、整理したデータは外付けHDDやクラウドストレージなどに必ずバックアップを取りましょう。

【比較】工事写真の撮影・管理方法の選び方

工事写真の撮影・管理方法は、大きく分けて2つあります。一つは従来からの「デジタルカメラ+物理的な黒板」を使う方法、もう一つは近年急速に普及している「工事写真アプリ(電子小黒板)」を利用する方法です。それぞれのメリット・デメリットを理解し、自社の規模や現場の状況に合わせて最適な方法を選びましょう。

従来の方法(デジカメ+黒板)のメリット・デメリット

これは多くの現場で長年使われてきた、最も基本的な方法です。

メリット デメリット
・導入コストが低い ・黒板の準備、持ち運び、書き換えに手間がかかる
・操作に慣れている人が多い ・雨天時に黒板が使えない、文字が消えることがある
・撮影後の写真整理に時間がかかる

工事写真アプリ(電子小黒板)のメリット・デメリット

スマートフォンやタブレットにアプリをインストールして使用する方法です。黒板の情報が写真データに埋め込まれるため、業務効率が大幅に向上します。

メリット デメリット
・黒板が不要で身軽に撮影できる ・導入にコストがかかる場合がある
・黒板情報の入力・編集が容易 ・操作に慣れるまで時間が必要な場合がある
・撮影と同時に写真が自動で整理される ・スマートフォンの充電切れに注意が必要
・データの改ざん防止機能がある

まとめ:正確な工事写真は信頼性の証

本記事では、工事写真の目的から種類、具体的な撮影ルール、そして効率的な整理・管理方法までを網羅的に解説しました。

工事写真は、単なる記録ではなく、工事の品質を証明し、発注者や関係者との信頼を築くための重要なコミュニケーションツールです。特に、コンクリートの中など、完成後には見えなくなってしまう部分の施工状況を正確に示すことは、技術者の誠実さの証です。

今回ご紹介した基本的なルールとコツを押さえ、正確で分かりやすい工事写真を作成することで、円滑な検査や将来の維持管理に貢献し、企業の信頼性向上につなげましょう。

工事写真に関するよくある質問(FAQ)

ここでは、工事写真に関して初心者や現場担当者からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。日々の業務で生じる疑問の解決にお役立てください。

Q1. 工事写真はスマートフォンで撮影しても問題ありませんか?
A1. はい、問題ありません。国土交通省のガイドラインでも、一定の画素数(100万画素以上を推奨)を満たしていればスマートフォンの使用が認められています。ただし、事前に発注者の承諾を得ておくとより安心です。電子小黒板機能付きの工事写真アプリを利用すると、撮影から整理まで効率的に行えます。

Q2. 工事黒板の必須項目は何ですか?
A2. 一般的に「工事名」「工種」「測点(撮影箇所)」「設計寸法と実測寸法」は必須とされることが多いです。これに加えて、施工状況が分かるような簡単な「略図」を入れると、より分かりやすい写真になります。ただし、最終的な判断はせず、必ず発注者から提供される仕様書や特記仕様書で確認してください。

Q3. 撮り忘れた写真があった場合はどうすればよいですか?
A3. まずは、正直に発注者や監督職員に報告し、指示を仰ぐことが重要です。代替資料(他の写真や施工記録など)で説明が可能な場合もありますが、場合によっては工事をやり直す必要が出てくる可能性もゼロではありません。撮り忘れを防ぐために、本記事で紹介した「撮影リスト」を作成し、作業完了ごとにチェックする習慣をつけることが大切です。

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