「台帳」の基本知識

工事写真台帳とは?目的と使い方をわかりやすく解説


更新日: 2025/10/02
工事写真台帳とは?目的と使い方をわかりやすく解説

この記事の要約

  • 工事写真台帳の品質証明など3つの目的と役割を解説
  • 写真撮影から整理まで、初心者向けの作成手順を3ステップで紹介
  • Excelと専用アプリの比較や、電子納品対応の注意点を網羅
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工事写真台帳とは?知っておくべき3つの目的と役割

工事写真台帳は、建設プロジェクトの品質と安全性を証明するために不可欠な書類です。このセクションでは、工事写真台帳が持つ基本的な役割と定義、なぜ作成する必要があるのかという3つの重要な目的、そしてどのような場面で提出が求められるのかを解説します。建設業務に携わる上で、まず押さえておくべき基本知識です。

工事写真台帳の役割と定義

工事写真台帳とは、工事の各工程における施工状況を時系列に沿って写真で記録し、整理・保管するための書類(アルバム)を指します。完成後にはコンクリートなどで隠れてしまい、目視で確認できなくなる基礎鉄筋の配筋状況といった箇所が、設計図通りに正しく施工されたことを証明する客観的な証拠としての役割を担います。

この台帳があることで、発注者や監理者はもちろん、将来のメンテナンス担当者も、工事の品質や過程を正確に把握できます。単なる写真の集まりではなく、プロジェクトの透明性と信頼性を担保するための公式な記録文書と言えるでしょう。

工事写真台帳を作成する3つの重要な目的

工事写真台帳の作成は、法律で定められた義務以上に、建設プロジェクトを円滑かつ適切に進めるための重要な目的を持っています。主な目的は以下の3つです。

工事写真台帳の3つの目的

1. 施工品質の証明
工事が設計図書や仕様書に記載された基準通りに、適切な材料と工法で実施されたことを客観的に証明します。特に、構造物の強度や安全性に関わる隠蔽部の施工記録は、建物の品質を保証する上で極めて重要です。

2. 安全管理の記録
工事期間中、仮設足場の設置状況や安全通路の確保など、労働安全衛生規則に基づいた安全対策が適切に講じられていたことを記録・証明します。これにより、企業の安全管理体制を示す証拠となります。

3. 維持管理・メンテナンスの資料
建物が完成し、引き渡された後の長期的な維持管理においても、工事写真台帳は重要な資料となります。将来、修繕や改修を行う際に、壁や床の内部にある配管や配線の位置などを写真で確認できるため、効率的かつ安全なメンテナンス計画に役立ちます。

工事写真台帳の提出が求められる場面

工事写真台帳は、プロジェクトの節目や関係者からの要請に応じて提出が求められます。具体的には、主に以下のような場面で必要とされます。

・ 工事完了時(竣工検査)
・ 中間検査時
・ 発注者からの請求時
・ 官公庁への届出時

初心者でもわかる工事写真台帳の作り方【全3ステップ】

工事写真台帳の作成は、正しい手順とポイントを理解すれば、決して難しい作業ではありません。ここでは、写真撮影の事前準備から、実際の撮影、そして撮影した写真の整理まで、具体的な作成手順を3つのステップに分けて解説します。初めて台帳を作成する方でも迷わず進められるよう、各工程での重要なポイントも合わせて紹介します。

ステップ1:事前準備【必要なものリスト】

質の高い工事写真を撮るためには、場当たり的な撮影ではなく、計画的な準備が不可欠です。工事着手前に、以下の準備を整えましょう。

事前準備の項目と必要なもの

1. 撮影箇所のリストアップ
設計図書や仕様書、施工計画書を確認し、「どの工程」で「どの場所」を撮影する必要があるかを事前にリストアップします。

2. 撮影計画(工程表との照らし合わせ)
リストアップした撮影箇所を工事の工程表と照らし合わせ、撮影のタイミングを計画します。

3. 道具の準備

  • 工事黒板(チョークボード)
  • デジタルカメラ、またはスマートフォン
  • スケール(メジャー、コンベックスなど)
  • (必要に応じて)三脚、フラッシュ

4. 機材確認
カメラやスマートフォンの充電、メモリーカードの空き容量、レンズの汚れなどを確認します。

ヘルメットを着用した現場作業員が、工事黒板と共に建物の基礎部分をデジタルカメラで撮影している場面

ステップ2:【撮影編】台帳作成で押さえるべき4つのポイント

後から誰が見ても写真の内容が正確に伝わるように、撮影時には以下の4つのポイントを意識することが重要です。

ポイント1:着手前・施工中・完成後の3段階で撮影する
同じ撮影箇所について、「工事を始める前」「作業の途中」「完成した状態」の3枚をセットで撮影するのが基本です。これにより、施工の過程が一目でわかります。

ポイント2:5W1Hがわかるように撮る
その写真が「いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように」撮影されたものかが明確にわかるように構図を工夫します。

ポイント3:黒板(チョークボード)に必要事項を明記して一緒に写す
準備した黒板を、撮影対象の横に置いて一緒に写します。黒板の文字が鮮明に読み取れるように、ピントや明るさに注意しましょう。

ポイント4:寸法がわかるようにスケール(メジャー)などを添えて撮影する
鉄筋の直径やコンクリートの厚さなど、寸法情報が重要な箇所では、設計通りの寸法で施工されていることを示すために、スケールを添えて撮影します。

ステップ3:【整理編】台帳に記載すべき必須項目

撮影した写真は、台帳のフォーマットに沿って整理します。これにより、情報が整理され、検索性の高い公式な記録となります。以下は、一般的に工事写真台帳に記載が求められる主な項目をまとめた表です。

表:工事写真台帳の主な記載項目

項目名 説明 記載例
写真 撮影した工事写真 (写真データを貼り付け)
工種 工事の種類 基礎工事、鉄筋工事 など
測点 (そくてん) 工事の位置を示す情報 No.1、通り芯X1-Y1 など
撮影年月日 写真を撮影した年月日 2025年10月2日
実測寸法 実際に測定した寸法 W:1500mm, H:300mm など
設計寸法 設計図書に記載されている寸法 W:1500mm, H:300mm など
略図 (豆図) 撮影箇所を簡易的に示した図 (簡単な手書き図やCAD図)
摘要 (備考) 特記事項や補足説明 設計変更箇所、使用材料 など

効率的な工事写真台帳の作成方法を比較検討

工事写真台帳の作成業務は、写真の点数が増えるほど大きな負担となります。ここでは、伝統的なExcel(エクセル)を使った方法と、近年主流になりつつある専用ソフト・アプリを利用する方法を比較検討します。それぞれのメリット・デメリットを理解し、自社の状況に合った最適なツールを選ぶことで、業務効率を大幅に改善できます。

Excel(エクセル)で台帳を作成するメリット・デメリット

多くの企業で標準的に導入されている表計算ソフトExcelは、工事写真台帳の作成ツールとしても広く利用されています。

メリット

  • 追加コストがかからないことが多い
  • 使い慣れている人が多く、操作が比較的容易
  • テンプレートが豊富でカスタマイズしやすい

デメリット

  • 写真の貼り付けやサイズ調整に手間がかかる
  • データが重くなりやすく、動作が遅くなることがある
  • 手動での入力が多く、ミスが発生しやすい

専用ソフト・アプリで台帳を作成するメリット・デメリット

建設業界のDX化に伴い、工事写真台帳の作成に特化した高機能なソフトウェアやスマートフォンアプリが登場しています。

メリット

  • 写真の取り込みや整理が自動化でき、大幅に作業時間を短縮できる
  • 黒板情報の電子化(電子小黒板)に対応しているものが多い
  • 各種電子納品要領・基準に対応している

デメリット

  • 導入や月額利用にコストがかかる
  • ツールの操作を覚える必要がある
  • 提供元によって機能やサポート体制が異なる

自分に合った台帳の作成方法の選び方

どちらの方法が良いかは、企業の規模や扱う工事の特性によって異なります。小規模な工事が中心で、写真の枚数も少ない場合は、コストのかからないExcelでも十分に対応可能でしょう。

一方で、公共工事を請け負うことが多かったり、大規模なプロジェクトで日々数百枚の写真を撮影したりする場合には、初期投資をしても専用ソフト・アプリを導入する方が、長期的には人件費の削減と生産性の向上に繋がります。

信頼性を高める工事写真台帳作成の注意点

工事写真台帳は、その内容が客観的かつ正確であることが大前提です。写真の信憑性が疑われれば、台帳そのものの価値が失われてしまいます。このセクションでは、写真の信頼性を確保するための基本的なルールと、公共工事などで必須となる「電子納品」に対応する際の重要なポイントについて、国の基準を交えながら解説します。

写真の改ざんを防ぎ、信憑性を確保するルール

工事写真は、後から編集や加工がされていないことが絶対条件です。写真の信憑性を担保するために、以下のルールを遵守しましょう。

原則として、写真の加工や編集は行わない
撮影した写真データは、明るさの調整やトリミングを含め、いかなる画像編集も行わないのが大原則です。国土交通省の「デジタル写真管理情報基準」においても、画像の信憑性を損なう編集は認められていません。

信憑性確認(改ざん検知)機能の活用
近年の工事写真管理ソフトやアプリには、信憑性確認(改ざん検知)機能が搭載されています。これは、写真撮影時の元画像と提出用の画像を比較し、編集・加工が行われていないかを検知する技術です。

「電子小黒板」を活用する
従来の木製黒板に代わり、「電子小黒板」の利用が急速に普及しています。これは、スマートフォンアプリ上で黒板情報を入力し、撮影時に写真と合成する機能です。黒板情報が画像データ(Exif情報)に直接記録され、後からの改ざんが困難になるため、写真の信憑性を飛躍的に高めることができます。

公共工事で必須!電子納品に対応した台帳作成のポイント

特に公共工事では、成果品をデータ形式で納品する電子納品が義務付けられています。電子納品には厳格なルールがあるため、事前に要領をよく確認しておく必要があります。

発注者が指定する電子納品要領・基準(CALS/EC)を遵守する
国土交通省をはじめ、各発注機関は独自の「電子納品に関する要領・基準」を定めています。これらの基準は、工事の成果品に関する電子データの標準仕様を定めたCALS/EC(キャルス・イーシー)に基づいています。

指定されたファイル形式やフォルダ構成を厳守する
電子納品では、写真のファイル形式(一般的にはJPEG)やファイル名の付け方、データを格納するフォルダの階層構造まで細かく規定されています。このルールから逸脱すると納品データが受理されないため、厳密に守る必要があります。

電子納品対応のソフトウェアを活用する
市販されている工事写真管理ソフトの多くは、主要な電子納品要領・基準に対応しています。これらのソフトを利用することで、複雑なフォルダ作成やファイル名のリネーム作業を自動化でき、ミスなく効率的に電子納品データを作成できます。

[出典:国土交通省「デジタル写真管理情報基準(令和6年3月)」]
[出典:国土交通省「電子納品に関する要領・基準」]

まとめ:工事写真台帳は施工品質を証明する重要な記録

本記事では、工事写真台帳の基本的な目的から、初心者にもわかる具体的な作り方、効率化の方法、そして信頼性を確保するための注意点までを網羅的に解説しました。

工事写真台帳は、単なる日々の作業記録ではありません。それは、自社の施工品質を客観的に証明し、発注者との信頼関係を築き、将来にわたって建物の安全を守るための非常に重要な書類です。

今回ご紹介したステップやポイントを確実に実践し、正確でわかりやすい台帳を作成することが、建設プロジェクトの成功に繋がります。日々の業務は多忙を極めますが、自社に合った作成方法を検討・導入し、業務の円滑化と品質向上を目指してください。

よくある質問

Q1. 工事写真台帳の作成は法律で義務付けられていますか?

A1. 建設業法などの法律で直接的に「工事写真台帳の作成」という行為が義務付けられているわけではありません。しかし、公共工事においては、契約図書や共通仕様書の中で成果品として提出が義務付けられている場合がほとんどです。民間工事においても、施工品質の証明や将来のトラブルを防止する観点から、作成することが一般的です。

Q2. スマートフォンで撮影した写真を使っても問題ありませんか?

A2. はい、近年ではスマートフォンのカメラ性能が向上したため、使用を認めるケースが増えています。ただし、発注者によってはデジタルカメラの使用を指定される場合もありますので、事前に確認が必要です。スマートフォンを使用する場合は、改ざん防止機能や電子小黒板機能を搭載した、信頼性の高い工事写真専用アプリの利用を推奨します。

Q3. 黒板(チョークボード)には最低限何を書けばよいですか?

A3. 記載すべき項目は仕様書で指定されることもありますが、一般的に以下の項目を記載しておけば、写真の情報が明確になります。
・ 工事名
・ 工種
・ 測点(位置情報)
・ 設計寸法・実測寸法
・ 略図(必要な場合)
・ 撮影年月日

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