「会社設立」の基本知識

経営業務管理責任者とは?要件と準備内容を解説


更新日: 2025/12/10
経営業務管理責任者とは?要件と準備内容を解説

この記事の要約

  • 建設業許可に必須な責任者の要件を解説
  • 会社設立前から行うべき人選と常勤対策
  • 確定申告書など申請に必要な書類一覧
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会社設立時に知っておくべき経営業務管理責任者の役割と重要性

建設業の会社設立において、許可取得の最大のハードルとなるのが「経営業務管理責任者(経管)」の設置です。ここでは、その定義と役割、なぜ設立準備の段階から候補者を選定し、役員として登記しておく必要があるのかを解説します。

経営業務管理責任者の定義と建設業許可との関係

経営業務管理責任者とは、建設業の適正な経営を行うために営業所に常駐する責任者のことです。建設業は請負金額が大きく工期も長いため、技術力だけでなく、強固な経営基盤と資金管理能力が求められます。

建設業許可を受けるためには、以下の「5つの要件」をすべて満たす必要がありますが、その筆頭条件が経管の配置です。

建設業許可取得のための5大要件
  • 経営業務の管理責任者等がいること
  • 専任技術者がいること
  • 誠実性があること
  • 財産的基礎または金銭的信用があること
  • 欠格要件に該当しないこと

この要件は絶対条件であり、要件を満たす責任者が1人でも欠けると許可は下りません。また、許可取得後に不在となった場合、速やかに後任を補充できなければ許可の取り消し対象となります。

会社設立段階から候補者を選定すべき理由

これから建設業の会社設立を行う場合、設立登記の準備段階から経管の候補者を確定させておく必要があります。設立後に「要件を満たす人がいなかった」という事態を防ぐためです。

特に重要なのが常勤性の確保です。単に名前だけを借りる「名義貸し」は建設業法で厳しく禁止されており、実態として毎日通勤し、業務に従事している必要があります。

建設業許可申請の要件確認をする男女

会社設立後の許可取得に必要な経営業務管理責任者の具体的要件

会社設立後の許可申請をスムーズに進めるには、複雑な要件の正確な理解が必要です。ここでは、経営経験の年数や、組織として要件を満たす場合の特例、常勤性のルールについて、法改正の内容を踏まえて整理します。

建設業における経営経験の期間と内容

原則として、経管になる人物には一定期間の経営経験が求められます。以前は業種による区別がありましたが、現在は建設業に関する経験であれば一律で評価されます。

以下の表は、主な経験要件を整理したものです。

表:経営経験の基本要件

経験の種類 必要年数 詳細な要件
建設業の経営業務の管理責任者としての経験 5年以上 法人の取締役、または個人事業主として建設業を経営していた経験。
許可を受けようとする業種以外でも合算可能です。
経営業務の管理責任者に準ずる地位での経験 5年以上 法人の役員に次ぐ地位(執行役員等)や、個人事業主の支配人として、資金調達や技術者配置などの管理業務を行った経験。
建設業以外の業種での経営経験 6年以上 建設業以外の業種で役員等の経験がある場合、6年以上の経験があれば認められるケースがあります(要確認)。

[出典:国土交通省 建設業許可事務ガイドライン]

組織としての「経営管理体制」による要件(法改正対応)

会社設立を検討する際、代表者1人では「5年の経験」を満たせないケースがあります。その場合、組織全体で管理能力を補完する「経営管理体制」の認定制度を利用できます。

これは、役員1人の経験だけでなく、補佐者を置くことで要件を満たす仕組みです。

表:経営管理体制の特例(補佐者を置く場合)

役割 要件の概要
常勤役員等(責任者) 建設業における2年以上の役員経験を含み、通算5年以上の役員等経験があること。
直接補佐者 以下の経験をそれぞれ5年以上有する者を置くこと。
・財務管理の経験
・労務管理の経験
・業務運営の経験
※1人が兼任しても、複数人で分担しても可。

常勤性の要件と社会保険への加入

会社設立において、経管の「常勤性」は書類上で厳密に審査されます。原則として、本社の営業時間中は常に業務に従事できる状態にあることが求められます。

常勤性が認められない主なケース
  • 他の会社の代表取締役を兼任している場合(その他会社で非常勤証明が出せる場合を除く)
  • 国会議員や地方公共団体の議員
  • 個人事業主として別に事業を営んでいる場合
  • 住所が勤務地から著しく遠く、通勤が不可能と判断される場合

会社設立手続きと並行して進める証明書類の準備

経営業務管理責任者の要件を満たしていても、それを客観的に証明できなければ許可は下りません。会社設立の実務と並行して収集すべき、経験と常勤性を裏付ける具体的資料をリストアップします。

建設業許可申請に必要な書類のイメージ

経営経験を証明するための確認資料

過去の経験を証明するためには、期間と実態の両方を裏付ける書類が必要です。

  • 法人の役員経験を証明する場合
    登記事項証明書(履歴事項全部証明書)。役員としての就任期間を確認します。閉鎖登記簿が必要になることもあります。

  • 個人の事業主経験を証明する場合
    確定申告書(控)。税務署の受付印があるものが必要です。事業継続の期間を証明します。

  • 建設業での実務実態を証明する場合
    工事請負契約書、注文書、請求書および入金確認ができる通帳の写し。経営経験期間の裏付けとして、1年につき1件以上(自治体により異なる)の資料が必要です。

常勤性を証明するための確認資料

会社設立後、申請時点でその会社に「常勤」していることを証明する書類です。設立手続きの中で、社会保険の加入を速やかに行う必要があります。

  • 健康保険被保険者証
    事業所名(新設会社名)が記載されたもの。

  • 標準報酬月額決定通知書
    社会保険加入時に発行される公的書類。

  • 住民票
    営業所への通勤が可能であることを確認するため。

会社設立前に確認したい経営業務管理責任者の不在リスクと対策

社内に適任者がいない場合でも、会社設立を諦める必要はありません。外部招聘のメリットやリスク、設立時の役員構成における注意点を比較・検討し、最適な体制を構築しましょう。

社内に要件を満たす人材がいない場合の対処法

自社のメンバーだけで要件を満たせない場合、大きく分けて「時間をかけて自社で育てる」か「外部から要件を満たす人を招き入れる」かの2択になります。会社設立と同時に許可を取りたい場合は、後者が現実的です。

表:外部招聘のメリット・デメリット比較

比較項目 内容
メリット 即座に許可申請が可能:会社設立直後から建設業許可業者として営業できる。
・ノウハウの獲得:経験豊富な人材から経営手法を学べる。
デメリット ・コスト増:常勤役員としての報酬支払いが必要。
・経営リスク:経営権の一部を持たせることになるため、信頼関係が必須。
・責任の所在:名義貸しにならないよう、実質的な権限を与える必要がある。

会議室で組織体制について議論する様子

会社設立時における役員構成の注意点

会社設立の登記をする際、誰をどの役職にするかは非常に重要です。

  • 代表取締役以外でも可
    経管は必ずしも社長(代表取締役)である必要はありません。平取締役でも常勤であれば要件を満たします。

  • 監査役は不可
    監査役は業務執行を行わない役職であるため、経管を兼任することはできません。

会社設立から経営業務管理責任者の設置、許可取得までの流れ

会社設立から建設業許可を取得して営業を開始するまでには、正しい順序があります。ここでは、登記、社会保険加入、許可申請という一連のプロセスを解説します。

スケジュールと手続きの全体像

  • 1.定款作成・会社設立登記
    定款の「事業目的」欄には、必ず「建築工事業」「内装仕上工事業」など、取得したい建設業種を明記してください。

  • 2.社会保険の加入手続き
    会社設立後、年金事務所で健康保険・厚生年金の加入手続きを行います。これが経管の常勤性証明の前提となります。

  • 3.経営業務管理責任者の常勤開始
    実際に出勤し、経営業務に従事します。

  • 4.建設業許可申請
    都道府県知事または国土交通大臣宛に申請書類を提出します。この時点で、経管の証明書類がすべて揃っている必要があります。

  • 5.審査・許可通知
    申請から許可が下りるまでの標準処理期間は、知事許可で約1〜2ヶ月、大臣許可で約3〜4ヶ月です。

まとめ

会社設立において、経営業務管理責任者の要件確認は、資金調達と並んで最優先すべき事項です。要件は複雑であり、個別のケース(経験年数の合算など)判断が難しいため、不安な場合は専門家への相談が近道です。

記事のポイントまとめ
  • 経営業務管理責任者は建設業許可の最重要要件であり、常勤性が必須。
  • 原則5年以上の経営経験が必要だが、法改正により補佐者を置く「経営管理体制」での申請も可能になった。
  • 会社設立の手続きと並行して、社会保険加入や過去の確定申告書の準備を進める必要がある。

よくある質問

ここでは、会社設立と経営業務管理責任者に関するよくある疑問に回答します。

Q1. 経営業務管理責任者は代表取締役でなければなりませんか?

いいえ、必ずしも代表取締役である必要はありません。取締役会設置会社であれば取締役、それ以外であれば取締役と同等以上の権限を持つ者であれば、常勤性を満たすことで経管になることができます。

Q2. 会社設立直後でも、すぐに建設業許可は取れますか?

はい、要件を満たす経営業務管理責任者と専任技術者が在籍し、資本金要件(500万円以上など)を満たしていれば、設立直後でも申請可能です。ただし、登記完了後の社会保険加入手続きなどで一定の時間は必要です。

Q3. 過去の会社が倒産していても、経営経験として認められますか?

はい、認められます。過去の会社が倒産していても、その期間中に役員として適正に経営業務を行っていた事実は消えません。ただし、当時の証明書類(閉鎖登記簿謄本など)を取得できることが前提となります。

Q4. 個人事業主時代の経験は、法人成りした後の会社設立でも有効ですか?

はい、有効です。個人事業主としての5年以上の経験があれば、それを法人設立後の経管としての経験要件に充てることができます。確定申告書が証明資料となります。

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