「会社設立」の基本知識

法人設立と建設業許可の取得タイミングとは?


更新日: 2025/12/04
法人設立と建設業許可の取得タイミングとは?

この記事の要約

  • 会社設立が先、許可申請は後が鉄則。空白期間に注意が必要
  • 資本金500万円以上なら残高証明書不要で許可要件をクリア
  • 個人の許可は法人に引き継げないため新規申請が必要になる
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建設業許可取得を見据えた会社設立の最適なスケジュール

建設業で独立開業する場合、原則として「会社設立(法人登記)」を完了させてから、その法人名義で「建設業許可申請」を行います。会社の実体(登記簿謄本)がなければ、許可の審査自体を受けられないためです。ここでは、手戻りを防ぎ最短で許可を取得するための標準的なフローと、無許可期間を短縮するためのコツについて解説します。

建設業許可申請のスケジュールを確認する打ち合わせ風景

基本は「会社設立」が先、「許可申請」が後

建設業許可を法人で取得する場合、申請書類に登記事項証明書(登記簿謄本)の添付が必須となります。そのため、まずは法務局での登記手続きを完了させなければなりません。一般的な流れは以下の通りです。

標準的な申請フロー
  • 1.定款の作成・認証
    事業目的(建築工事業等)や資本金を決定します。

  • 2.資本金の払込み
    発起人の口座へ資本金を入金します。

  • 3.会社設立登記の申請
    法務局へ申請した日が「会社成立日」となります。

  • 4.会社設立完了
    登記簿謄本や印鑑証明書が取得可能になります(申請から約1週間)。

  • 5.建設業許可の申請
    都道府県の窓口へ書類を提出します。

  • 6.審査・許可通知
    申請から許可が下りるまで、自治体によりますが30日〜45日程度(標準処理期間)かかります。
空白期間の注意点

会社設立から建設業許可が下りるまでの間(トータルで約2ヶ月程度)は、法人は存在していても無許可業者の状態です。この期間中は、税込500万円以上(建築一式工事の場合は1,500万円以上)の工事を請け負うことは法律で禁止されています。「許可が下りる見込み」であっても、契約や着工はできません。

会社設立と許可申請を同時進行する場合のポイント

許可取得までの「待ち時間」を少しでも短縮するためには、会社設立の手続きと並行して、許可申請の準備を進めることが重要です。

  • 証明書類の先行収集
    経営業務の管理責任者(経管)や専任技術者(専技)の実務経験を証明する書類(過去の注文書や請求書、確定申告書など)は、会社設立前でも集めることができます。特に過去の勤務先からハンコをもらう必要がある場合、時間がかかるため早めの着手が鍵となります。

  • 定款案の事前確認
    作成する定款の内容が、建設業許可の要件と矛盾していないか、行政書士等を通じて事前に管轄の土木事務所等へ確認しておくと安心です。

許可要件を満たすための会社設立時の重要ポイント

一般的な会社設立であれば自由に決められる項目でも、建設業許可を取得する前提であれば許可要件を意識した設定にしなければなりません。後から変更登記を行うと、登録免許税(3万円〜)や司法書士報酬などの追加コストがかかるため、設立段階で以下のポイントを網羅しておきましょう。

項目 一般的な会社設立 建設業許可前提の会社設立
資本金 1円から可能 500万円以上が強く推奨される
事業目的 自由 申請する業種が具体的に明記されている必要あり
役員構成 1名でも可 常勤役員に経営業務の管理責任者の要件を満たす人が必要
本店所在地 バーチャルオフィス等も可 独立した営業所の実態が必要(バーチャルオフィスは原則不可)

会社設立時の「資本金」は500万円以上が推奨される理由

建設業許可(一般建設業)を取得するための要件の一つに、財産的基礎(金銭的信用)があります。これには以下のいずれかを満たす必要があります。

  • 1.自己資本の額が500万円以上であること
  • 2.500万円以上の資金調達能力があること

会社設立時の資本金を500万円以上にしておけば、1の要件を自動的に満たすことができ、追加の証明書類は不要です(設立初年度の決算を迎えるまで有効)。

会社設立時の資本金払込みと残高証明書の手続き

資本金が500万円未満の場合のリスク

もし資本金100万円などで設立した場合、許可申請の直前に金融機関から500万円以上の残高証明書を発行してもらう必要があります。ここで注意すべきは残高証明書の有効期限です。多くの自治体で「証明日から1ヶ月以内の申請」が求められます。書類不備などで申請が遅れると、残高証明書の取り直し(再度500万円を入金し直す手間)が発生するため、実務上は資本金でクリアしておくのが最も安全です。

定款の「事業目的」には適切な記載が必要

会社の憲法である「定款」や「登記簿謄本」の事業目的欄には、これから許可を取ろうとする建設業種が明確に記載されていなければなりません。

  • 適切な記載例
    「建築工事業」「内装仕上工事業」「とび・土工工事業」

  • 不適切な記載例
    「建設業」「リフォーム業」(※曖昧な表現だと自治体によっては認められない場合があります)

また、将来的に業種追加(例:内装工事だけでなく、電気工事もやりたい)を考えている場合は、設立当初からそれらの業種もあわせて記載しておくことを推奨します。後から目的を追加するには、株主総会の決議と変更登記が必要です。

個人事業主からの法人成りと会社設立の比較

現在すでに個人事業主として建設業を営んでいる方が法人化する場合(法人成り)と、実績ゼロからいきなり法人を設立する場合では、戦略が異なります。特に注意すべきは許可の承継に関するルールです。

建設業許可は原則として引き継げない(新規取り直し)

もっとも多い誤解の一つが、「個人で持っている建設業許可は、法人になってもそのまま使える」というものです。建設業許可は「人(個人)」または「法人」という人格に対して与えられるため、人格が変わる法人化のタイミングで、許可はリセットされます。

基本的な手続きは以下のようになります。

  • 1.個人事業の建設業許可について廃業届を提出する。
  • 2.新設した法人で、新たに建設業許可申請(新規)を行う。

※2020年の法改正により「譲渡及び譲受け」「合併・分割」「相続」による事前認可制度(事業承継)が新設されましたが、審査期間が長く手続きも非常に複雑であるため、多くのケースでは依然として「廃業+新規」のルートが選ばれています。

最初から会社設立をして許可を取るべきケース

これから建設業を始める方で、将来的に法人化を視野に入れているのであれば、最初から会社を設立して許可を取る方が、トータルのコストと手間を削減できます。

比較項目 いきなり法人で許可取得 個人で許可取得後に法人化
許可申請手数料 9万円(1回分) 9万円(個人)+9万円(法人)=18万円
申請の手間 1回で完了 2回の申請と廃業届が必要
実績の継続性 法人実績として積み上げ可能 個人の実績は法人の決算書に反映されない
許可番号 ずっと同じ番号 法人化のタイミングで番号が変わる

二度手間や無駄な出費を防ぐため、資本金などの条件が整うのであれば、最初から法人化して許可申請を行うのが合理的な選択と言えます。

建設業で会社設立(法人化)するメリットとデメリット

許可取得の手続き面以外でも、建設業において「個人」か「法人」かは経営に大きな影響を与えます。ここでは主なメリットとデメリットを整理します。

会社設立による社会的信用の向上と受注拡大

建設業界は、他業界に比べても「法人であること」への信用度が高い傾向にあります。

  • 大手元請からの受注
    コンプライアンス重視の大手ゼネコンやハウスメーカーでは、法人でなければ下請契約を結ばないという規程を持つ企業が増えています。

  • 経営事項審査(経審)への影響
    公共工事の入札参加に必要な経審において、法人は財務諸表の明確さなどから評価されやすい傾向にあります。

  • 資金調達
    銀行融資において、個人事業主よりも法人の方が審査対象として透明性が高く、融資を受けやすいケースがあります。

社会保険加入義務とコスト面の負担

法人化における最大の懸念点はコストです。法人は、社長1人であっても社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務となります。

  • コスト増
    会社負担分の保険料が発生するため、個人事業の国民健康保険・国民年金に比べて負担額は大きくなります。

  • コンプライアンス(法令順守)
    しかし現在、建設業許可の要件として社会保険への加入は事実上の必須事項となっています(未加入業者は許可が取れない、または指導対象となる仕組みが強化されています)。

つまり、建設業許可を取得して事業を拡大しようとするならば、法人化による社会保険加入は「避けて通れない道」であり、早めに対応して人材確保のアピールポイントにする方が得策です。

[出典:国土交通省「建設業許可事務ガイドライン」]
[出典:e-Gov法令検索「建設業法」]

まとめ

本記事では、建設業許可取得を見据えた会社設立のタイミングについて解説しました。

記事の要点まとめ
  • 順序
    会社設立が先、建設業許可申請が後という流れが基本。

  • 設立準備
    資本金500万円以上、事業目的に許可業種を記載、常勤役員の確保を設立前に行うことが最短ルート。

  • 法人成り
    個人の許可は引き継げないため、新規取り直しとなる点に注意。

スムーズに許可を取得するためには、定款作成の段階から建設業許可の専門家である行政書士に相談し、要件を満たした会社設計を行うことをおすすめします。まずは「どのような業種の許可を取りたいか」を明確にし、要件チェックから始めてみましょう。

よくある質問(FAQ)

建設業許可と会社設立に関して、頻繁に寄せられる質問をまとめました。

Q1. 会社設立前に個人時代に積んだ実務経験は、許可申請で使えますか?

可能です。
経営業務の管理責任者や専任技術者の要件となる「経験年数」は、個人事業主としての期間や、他社での従業員としての期間を通算してカウントすることができます。ただし、その期間を証明するための書類(確定申告書や過去の契約書、源泉徴収票など)が必要です。

Q2. 資本金100万円で会社設立しましたが、許可は取れますか?

可能です。
資本金が500万円未満であっても、「500万円以上の資金調達能力」があれば許可は取得できます。具体的には、会社名義の銀行口座に500万円以上の預金を用意し、金融機関から預金残高証明書を発行してもらうことで要件を満たせます。ただし、証明書には有効期限があるため申請時期との調整が必要です。

Q3. 会社設立から許可が下りるまでの間、500万円以上の工事はできませんか?

できません。
許可が下りるまでは「軽微な建設工事」しか請け負うことができません。具体的には、建築一式工事以外であれば請負代金の額が税込500万円未満の工事に限られます。この金額には材料費も含まれるため注意してください。

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