建設業で株式会社と合同会社の違いとは?

この記事の要約
- 建設業での会社設立、費用と信用の違いを解説
- 株式会社と合同会社のメリット・デメリットを比較
- 事業規模や将来像に合わせた最適な形態がわかります
- 目次
- 建設業で「会社設立」するなら知っておきたい!株式会社と合同会社の基本
- 一目でわかる!株式会社と合同会社の主な違い
- 比較表:設立費用から責任の範囲まで
- 【徹底比較】建設業における株式会社のメリット・デメリット
- 株式会社を選ぶメリット
- 株式会社を選ぶデメリット
- 【徹底比較】建設業における合同会社のメリット・デメリット
- 合同会社を選ぶメリット
- 合同会社を選ぶデメリット
- 建設業許可と「会社設立」形態の関係性
- 許可申請時に株式会社・合同会社で違いはある?
- 対外的な信用力(元請け・金融機関)はどちらが有利?
- 迷ったらチェック!株式会社・合同会社どちらを選ぶべきか
- 会社設立後に形態を変更することは可能?
- まとめ:建設業での会社設立は、事業の将来像で選ぼう
- 建設業の会社設立に関するよくある質問
建設業で「会社設立」するなら知っておきたい!株式会社と合同会社の基本
建設業でこれから会社設立をお考えの方にとって、株式会社と合同会社のどちらを選ぶかは最初の重要な決断です。どちらの形態も「法人」として事業を行え、出資者は有限責任(出資額までの責任)である点は共通しています。しかし、設立コスト、社会的信用力、経営の自由度など、多くの面で決定的な違いがあります。この記事では、建設業の特性を踏まえながら、両者の基本的な違いをわかりやすく解説します。
一目でわかる!株式会社と合同会社の主な違い
会社設立を進める前に、株式会社と合同会社の根本的な違いを把握することが重要です。特に建設業では、取引先や金融機関からの「信用力」や、設立・維持にかかる「コスト」が経営に直結します。まずは以下の比較表で、全体像を掴んでください。
比較表:設立費用から責任の範囲まで
| 比較項目 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 設立費用(法定費用) | 約20万円~(定款認証+登録免許税) | 約6万円~(登録免許税のみ) |
| 出資者 | 株主 | 社員(原則として経営者) |
| 出資者の責任 | 有限責任(出資額まで) | 有限責任(出資額まで) |
| 経営者 | 取締役(出資者と一致しなくてもよい) | 社員(出資者=経営者) |
| 利益の配分 | 原則、出資比率(株式数)に応じる | 定款で自由に決定可能(貢献度など) |
| 役員の任期 | 原則2年(非公開会社は最長10年) | 制限なし(定款で定める) |
| 決算公告の義務 | あり(毎期必要) | なし |
| 社会的信用力 | 高い傾向にある | 株式会社に比べると低い傾向 |
| 意思決定 | 株主総会・取締役会 | 原則として社員全員の同意 |
【徹底比較】建設業における株式会社のメリット・デメリット
株式会社は、日本で最も多く設立されている会社形態であり、その「知名度」と「信用力」は大きな武器となります。建設業においては、公共工事の入札や大手ゼネコンとの取引、金融機関からの融資など、信用が求められる場面が多々あります。ここでは、建設業で株式会社を選ぶ具体的なメリットとデメリットを整理します。
株式会社を選ぶメリット
株式会社の最大の強みは、その社会的な信用力にあります。
・社会的信用力が高い
建設業において信用は非常に重要です。株式会社という形態は、厳格な法律(会社法)に基づいた運営が求められるため、一般的に合同会社よりも高い信用を得やすい傾向があります。これは、公共工事の入札や大手ゼネコンとの取引、金融機関からの融資審査において、ポジティブな影響を与える可能性が高いです。
・資金調達の手段が豊富
事業拡大に伴い多額の資金が必要になった場合、株式会社は「株式の発行」による増資が可能です。これは金融機関からの借入(負債)とは異なり、返済不要の自己資本を調達できる手段です。
・事業承継がしやすい
経営者の高齢化に伴う事業承継において、株式を後継者に譲渡(売却や贈与)することで、比較的スムーズに経営権を移転できます。
・経営と所有の分離
出資者である「株主」と、経営を行う「取締役」を分離できます。これにより、専門の経営者を外部から招聘するなど、柔軟な経営体制を構築することが可能です。

株式会社を選ぶデメリット
高い信用力の一方で、株式会社はコスト面や手続き面での負担が合同会社よりも大きくなります。
・設立費用・維持コストが高い
設立時において、合同会社には不要な「定款認証手数料(約3万円~5万円)」が必要です。また、登録免許税も最低15万円(資本金の0.7%)がかかり、合同会社の最低6万円と比較して高額です。
さらに、維持コストとして、役員の任期(最長10年)ごとに役員変更登記(登録免許税1万円~)が必要であり、毎年の決算公告も義務付けられています。
・手続きが煩雑
法律で定められた厳格な運営が求められます。例えば、重要な意思決定のためには「株主総会」を招集・開催し、議事録を作成・保管する必要があります。これらの手続きを怠ると法的な問題に発展するリスクもあります。
・利益配分が出資比率による
原則として、利益の配当は出資比率(持ち株数)に応じて行われます。そのため、特定の人物が多大な貢献をしたとしても、その貢献度を利益配当に直接反映させることは困難です(役員報酬での調整は可能)。
【徹底比較】建設業における合同会社のメリット・デメリット
合同会社(LLC)は、2006年の会社法施行により導入された比較的新しい形態です。最大の魅力は、設立・維持コストの圧倒的な安さと、経営の自由度の高さにあります。特に、一人親方からの法人成りや、コストを抑えてスモールスタートを切りたい場合に適しています。建設業で合同会社を選ぶ具体的なメリットとデメリットを見ていきましょう。
合同会社を選ぶメリット
合同会社の強みは、「コスト」と「自由度」に集約されます。
・設立・維持コストが安い
設立時の法定費用は、登録免許税の最低6万円のみです(株式会社に必要な定款認証手数料は不要)。これは株式会社の最低約20万円と比べて大幅に安価です。
また、維持コスト面でも、株式会社で義務付けられている「決算公告」の義務がありません。さらに、役員(社員)の任期にも定めがないため、任期満了ごとの役員変更登記(登録免許税1万円~)も原則不要です。
・経営の自由度が高い(定款自治)
合同会社は「定款自治(ていかんじち:定款で会社のルールを自由に決められること)」が広く認められています。例えば、利益の配分方法を、出資比率に関わらず「事業への貢献度」に応じて決定するなど、社員(出資者)間の合意によって柔軟に設計できます。
・意思決定が迅速
原則として「出資者=経営者(社員)」です。そのため、株式会社のように株主総会を招集する形式的な手続きを経ずに、経営に関する重要な意思決定を迅速に行うことが可能です。

合同会社を選ぶデメリット
手軽さの半面、特に建設業においては「信用力」の面で株式会社に劣る可能性がある点を理解しておく必要があります。
・社会的信用力が比較的高くない
合同会社は株式会社と比べると歴史が浅く、一般的な知名度もまだ高くありません。建設業界、特に古くからの慣習を重視する元請け企業や金融機関からは、「株式会社よりも信用力が低い」と見なされる場合があります。
・資金調達の手段が限定的
株式会社のような「株式の発行(第三者からの出資)」による大規模な資金調達はできません。資金調達の手段は、主に金融機関からの借入(融資)、または社員(出資者)からの追加出資となります。
・意思決定で対立すると停滞しやすい
原則として社員全員の同意(または定款で定めた方法)で意思決定を行います。もし社員間で意見が対立し、合意形成ができない場合、経営がストップしてしまうリスクが株式会社よりも高くなります。
・代表者の肩書き
株式会社の「代表取締役」という肩書きは使用できません。合同会社の代表者は「代表社員」となります。取引先への信用力という観点では、代表取締役の方が馴染み深く、有利に働く可能性があります。
建設業許可と「会社設立」形態の関係性
建設業を営む上で、一定規模以上の工事(軽微な建設工事を除く)を請負うためには建設業許可が必須です。この建設業許可の取得において、株式会社と合同会社で違いがあるのかは、会社設立にあたり非常に重要なポイントです。
許可申請時に株式会社・合同会社で違いはある?
結論から言えば、建設業許可の申請要件において、株式会社と合同会社による有利不利は一切ありません。
建設業許可を取得するためには、主に以下の要件を満たす必要があります。
- 経営業務の管理責任者(常勤役員等)がいること
- 専任技術者を営業所ごとに配置していること
- 財産的基礎(例:自己資本500万円以上など)を有すること
- 欠格要件に該当しないこと
これらの要件は、申請者が株式会社であっても合同会社であっても等しく求められます。法人形態の違いが審査に影響することはありません。
[出典:e-Gov法令検索「建設業法」第七条(許可の基準)]
対外的な信用力(元請け・金融機関)はどちらが有利?
許可申請上は平等ですが、実務上の対外的な信用力においては、株式会社の方が有利に働く傾向があります。
前述の通り、株式会社は設立・維持にコストと手間がかかる分、厳格に運営されているというイメージが定着しています。
特に、公共工事の入札(経営事項審査)や、大手ゼネコンの一次下請けとして取引口座を開設する際、あるいは金融機関が高額な融資(設備投資など)を審査する際には、合同会社よりも株式会社の方がスムーズに進む可能性があります。これは法的な優劣ではなく、あくまで一般的な認知度や取引慣行上の傾向です。
迷ったらチェック!株式会社・合同会社どちらを選ぶべきか
ここまで解説した内容を踏まえ、建設業で会社設立する際に、ご自身の事業計画がどちらの形態に適しているかの判断基準をまとめます。どちらが絶対的に正しいということはなく、事業のフェーズや将来の展望によって最適解は異なります。
- 株式会社が向いているケース
以下のようなビジョンをお持ちの場合、初期コストがかかっても株式会社を選択するメリットは大きいです。
・将来的に公共工事の入札や大手ゼネコンの元請け・一次下請けの仕事を受注したい
・金融機関からの融資や外部からの出資を積極的に活用し、信用力を最重視したい
・従業員を多く雇用し、事業規模を大きく拡大していく(将来的な上場も視野に入れる)予定がある
・将来、子供や第三者に事業承継(株式譲渡)をスムーズに行いたい
- 合同会社が向いているケース
まずはコストを抑えてスタートしたい場合や、柔軟な経営を望む場合は合同会社が適しています。
・まずはスモールスタートで、設立・維持コストを最小限に抑えたい
・一人親方からの法人成りや、気心の知れた少人数の仲間内で事業を行う
・迅速な意思決定や、貢献度に応じた利益配分など、経営の自由度を重視したい
・当面は特定の元請けからの仕事が中心で、不特定多数からの信用力は最重要ではない
会社設立後に形態を変更することは可能?
はい、可能です。
例えば、最初はコストを抑えて「合同会社」として設立し、事業が軌道に乗って信用力が必要になった段階で「株式会社」へ組織変更(商号変更)することができます。
ただし、組織変更には、債権者保護手続きや登記申請など、煩雑な法務手続きと費用(登録免許税など)が発生します。そのため、設立時に将来のビジョンをある程度見据えて選択することが、結果的にコストと手間の削減につながります。
まとめ:建設業での会社設立は、事業の将来像で選ぼう
建設業で会社設立する際、株式会社と合同会社には、それぞれ明確なメリット・デメリットが存在します。ご自身の事業計画や将来のビジョン(どれくらいの規模を目指すか、どのような相手と取引したいか)を明確にし、最適な会社形態を選択してください。
・株式会社:
最大の強みは社会的な信用力と資金調達手段の多様性です。設立・維持コストはかかりますが、公共工事の受注や大手企業との取引、高額融資を目指すなど、将来的な事業拡大を見据える場合に適しています。
・合同会社:
最大の魅力は設立・維持コストの安さと経営の自由度の高さです。一人親方からの法人成りやスモールスタート、ランニングコストを抑えたい場合に適しています。
建設業許可の取得要件自体に法人形態による有利不利はありませんが、取引先や金融機関からの「見え方(信用)」は異なる点を理解しておきましょう。
建設業の会社設立に関するよくある質問
Q. 役員の任期に違いはありますか?
A. はい、大きな違いがあります。株式会社の取締役の任期は原則2年です(株式譲渡制限会社の場合、定款で最長10年まで伸長可能)。任期が満了すると、同じ人が継続する場合でも「重任登記」が必要で、登録免許税(1万円)がかかります。一方、合同会社の社員(役員)には法律上の任期の定めがなく、定款で定めない限り、登記変更の手間やコストは発生しません。
Q. 決算公告の義務はどちらにありますか?
A. 株式会社には、会社法第440条に基づき、毎年の決算公告(官報や日刊新聞紙、自社ウェブサイトなど)が義務付けられています。これには数万円程度の費用がかかります。一方、合同会社には決算公告の義務はありません。これも維持コストの大きな差となります。
[出典:e-Gov法令検索「会社法」第四百四十条(計算書類の公告)]
Q. 社会保険の加入義務に違いはありますか?
A. いいえ、違いはありません。株式会社でも合同会社でも、法人を設立すれば、役員1名であっても(役員報酬が発生する場合)、健康保険や厚生年金保険といった社会保険への加入が法律で義務付けられています。建設業の一人親方から法人成り(法人化)する際は、国民健康保険や国民年金からの切り替え手続きと、保険料の会社負担分が発生する点に特に注意が必要です。
Q. 建設業の一人親方から法人成りするタイミングはいつが良いですか?
A. 一概には言えませんが、主に2つのタイミングが目安となります。
1. 売上が安定して高額(例:年間1,000万円)を超え、消費税の課税事業者になるタイミング
法人化により消費税の免税期間(最大2年)を活用できる場合があります。
2. 建設業許可(500万円以上の工事)が必要になったタイミング
法人として許可を取得することで、社会的信用力が高まり、より大きな工事を受注しやすくなります。
コストと信用力のバランスを見て判断することが重要です。




