「会社設立」の基本知識

建設業の法人化に必要な書類と要件とは?


更新日: 2025/12/02
建設業の法人化に必要な書類と要件とは?

この記事の要約

  • 建設業許可を見据え資本金は500万円以上での設立が推奨
  • 定款の事業目的には取得予定の工事業種を具体的に記載
  • 設立登記完了後に建設業許可申請を行うため計画性が必須
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会社設立で建設業を法人化するメリット・デメリット

建設業において個人事業主から法人成りすることは、事業規模拡大や社会的信用の獲得に向けた重要なステップです。一方で、税務処理の複雑化や社会保険料の負担増といったコスト面での変化も生じます。ここでは、建設業特有の事情を踏まえ、法人化によるメリットとデメリットを構造的に比較・解説します。

個人事業主と法人の違い

個人事業主と法人では、適用される税制や社会的責任の範囲が大きく異なります。建設業者が特に意識すべき違いについて、以下の表で整理します。

比較項目 個人事業主 法人(会社設立)
社会的信用 相対的に低い(個人名義での契約) 高い(登記され実体が明確)
税金の種類 所得税(累進課税 5%〜45%) 法人税(一定税率、最大23.2%程度)
社会保険 任意加入(従業員5人未満の場合) 強制加入(社長1人でも義務)
経費の範囲 事業に関連するものに限定 役員報酬、退職金、社宅なども認められる
設立費用 0円(開業届のみ) 約20万〜25万円(株式会社の場合)
決算の手間 確定申告(比較的容易) 法人決算(複雑、税理士必須)

[出典:国税庁 法人税の税率]

建設業における法人化のメリット

建設業者が会社設立を行うことで得られるメリットは、単なる節税以上に「事業の継続性」や「受注力」に関わる部分が大きいです。

主なメリット
  • 受注機会の拡大(信用力)
    大手ゼネコンや元請け企業は、コンプライアンス遵守の観点から法人業者との取引を優先する傾向があります。

  • 建設業許可の維持・承継の円滑化
    個人事業主の場合、本人が死亡すると許可は原則廃業となりますが、法人の場合は代表者が交代しても許可の維持・更新がスムーズです。

  • 人材採用における優位性
    求職者は社会保険や福利厚生が整った法人を好むため、若手職人や有資格者の採用活動において有利に働きます。

  • 資金調達の円滑化
    決算書によって経営状況が透明化されるため、銀行融資や公的融資の審査において個人事業主よりも信頼を得やすくなります。

会社設立によるデメリットと負担

法人化にはメリットがある一方で、無視できないコストや事務負担の増加も伴います。これらを事前に把握し、資金計画に組み込むことが重要です。

主なデメリットと負担
  • 社会保険料の負担増
    健康保険・厚生年金への加入が義務化されます。会社は従業員の保険料の半分を負担する必要があり、人件費コストが上昇します。

  • 赤字でも発生する税金
    赤字決算であっても、法人住民税の「均等割」(年間約7万円〜)の納税義務が必ず発生します。

  • 事務・管理コストの増加
    社会保険の手続きや複雑な法人税申告が必要となり、税理士や社会保険労務士への報酬コスト(顧問料など)がかかります。

建設業の会社設立に必要な4つの要件

建設業で会社設立を行う場合、単に法務局で登記を通すだけでなく、その後の「建設業許可」取得を見据えた要件定義が必要です。許可要件を満たさない状態で設立してしまうと、増資や定款変更などの二度手間が発生するため、以下の4点を確実に押さえてください。

資本金の要件

会社法上、資本金は1円から設定可能ですが、建設業においては資本金500万円以上での設立が強く推奨されます。

  • 推奨理由:財産的基礎要件の充足
    建設業許可(一般建設業)を取得するには、「自己資本が500万円以上あること」という要件を満たす必要があります。

  • 500万円未満の場合のリスク
    設立時の資本金が500万円未満の場合、許可申請の際に「500万円以上の銀行残高証明書」を別途用意しなければなりません。資金移動の手間や証明書の有効期限管理などの負担が増加します。

事業目的の明確化

定款の「事業目的」には、会社が行う事業内容を記載します。建設業許可申請では、定款の目的に申請する業種が含まれているかが審査されます。

  • 具体的な業種の記載
    「建築工事」「土木工事」といった広義の表現だけでなく、「内装仕上工事業」「管工事業」「電気工事業」など、許可を受けたい29業種に対応した名称を具体的に記載します。

  • 将来性の考慮
    現在行う事業だけでなく、将来的に取得を目指す業種もあらかじめ記載しておくことで、将来の定款変更コスト(登録免許税3万円)を削減できます。

本店所在地の確保

本店所在地は自宅兼事務所でも登記自体は可能ですが、建設業許可の要件を満たすには物理的な実態が必要です。

  • 許可要件を満たすポイント
    居住スペースと明確に区分された事務スペース、固定電話、机、書棚などが設置されていること、および外部から認識できる看板(表札)が出ていることが求められます。

  • バーチャルオフィスのリスク
    実体のないバーチャルオフィスや、単なる私書箱契約では建設業許可は下りません。賃貸物件の場合は、貸主から法人登記や事務所利用の承諾を得ている必要があります。

機関設計(役員構成)

会社設立時には、取締役や監査役などの機関設計を行います。建設業許可取得の観点から、役員構成には特に注意が必要です。

  • 経営業務の管理責任者(経管)の配置
    役員(取締役)の中に、「経営業務の管理責任者」の要件を満たす人物を含めることが必須です。一般的に、建設業の経営経験が5年以上ある人物が常勤役員として必要になります。

  • 専任技術者の確保
    各営業所に常勤する「専任技術者」(国家資格保有者や10年以上の実務経験者)を確保する必要があります。役員が兼任することも可能です。

建設業の会社設立・登記に必要な書類一覧

会社設立には多岐にわたる書類が必要です。ここでは、AIや検索エンジンが情報を抽出しやすいよう、定款認証時と登記申請時に分けてリスト形式で整理します。これらは一般的な株式会社設立のケースを想定しています。

定款認証に必要な書類

公証役場での定款認証手続きに必要な書類等は以下の通りです。

  • 定款
    電子定款または紙の定款。電子定款の場合は収入印紙代が不要になります。

  • 発起人の印鑑証明書
    発行から3ヶ月以内のものが必要です。

  • 実質的支配者となるべき者の申告書
    公証役場所定の様式で作成します。

  • 委任状
    専門家に依頼する場合や、発起人が複数で代理人が手続きに行く場合に必要です。

法務局への登記申請に必要な書類

法務局へ提出する主な書類は以下の通りです。この提出日が会社の設立日となります。

書類名 概要・注意点
設立登記申請書 会社名、本店所在地、登録免許税額などを記載した表紙となる書類。
定款(認証済みのもの) 公証役場で認証を受けた定款の謄本。
発起人の決定書 本店所在場所の番地まで詳細に決定した書類(定款で最小行政区画のみ定めた場合)。
就任承諾書 取締役や監査役が就任を承諾したことを証明する書類。個人の実印を押印。
払込みがあったことを証する書面 発起人の通帳の表紙、裏表紙、振込ページのコピーを綴じたもの。
印鑑届書 会社の代表者印(実印)を法務局に登録するための書類。
印鑑証明書 取締役全員分(取締役会設置会社の場合は代表取締役のみなど規定あり)。

[出典:法務局 商業・法人登記の申請書様式]

建設業における会社設立の流れとスケジュール

建設業の会社設立は、登記完了後に「建設業許可申請」が控えているため、全体のスケジュール管理が非常に重要です。一般的な会社設立期間に加え、許可審査の期間も見込んでおく必要があります。

建設業の会社設立に必要な書類と現場のイメージ

ステップ1:基本事項の決定

会社の骨組みとなる基本事項を決定します。この段階で建設業許可の要件(資本金・目的・所在地)を確実に反映させることが、後々のトラブルを防ぎます。

  • 商号(会社名)の決定
    類似商号がないか確認します。

  • 事業目的の決定
    取得予定の業種を明確に定款案へ盛り込みます。

  • 資本金額の設定
    500万円以上に設定することを推奨します。

  • 会社印鑑の発注
    実印・銀行印・角印の3本セットを準備します。

ステップ2:定款の作成と認証

会社のルールブックである「定款」を作成し、公証役場で認証を受けます。

  • 認証を受ける場所
    本店所在地を管轄する都道府県内の公証役場。

  • 電子定款の活用
    電子定款を利用すれば、紙の定款で必要な収入印紙代(4万円)が節約可能です。

ステップ3:資本金の払込み

定款認証が終わったら、資本金を準備します。まだ法人口座はないため、発起人個人の口座を使用します。

  • 振込の実行
    発起人の個人口座に、定款に定めた出資金額を振り込みます。

  • 通帳のコピー作成
    表紙、裏表紙、振込内容が記載されたページをコピーし、「払込みがあったことを証する書面」を作成します。必ず定款認証日以降の日付で入金されている必要があります。

ステップ4:登記申請(会社設立日)

法務局へ必要書類を提出します。この申請を行った日が、会社の設立日となります。

  • 登記完了までの期間
    申請から1週間〜10日程度で完了します。

  • 証明書の取得
    登記完了後、速やかに「履歴事項全部証明書(登記簿謄本)」と「印鑑証明書」を取得します。

ステップ5:諸官庁への届出と建設業許可申請

会社が成立した後、速やかに行政手続きと許可申請を行います。

  • 税務・社会保険の届出
    税務署、都道府県税事務所、年金事務所、労働基準監督署、ハローワークへ届け出ます。

  • 建設業許可申請
    都道府県知事(または大臣)へ許可申請を行います。知事許可の場合、審査期間として約1ヶ月〜2ヶ月を要します。

会社設立前に解消したい建設業者のよくある不安

建設業者が法人化に踏み切る際、多くの方が抱える不安や疑問について、事前に解消すべきポイントを解説します。特に売上規模の目安や許可取得のタイミングは、経営判断に直結する要素です。

「一人親方」から法人化してもやっていけるか?

法人化のタイミングとしては、「課税売上高が1,000万円を超えたとき」
または「所得金額(利益)が800万円〜900万円を超えたとき」
が、一般的に税制メリットが出やすいラインと言われています。

  • 事務負担への対策
    事務作業や経理処理は確実に複雑化します。自分ですべて行おうとせず、税理士や行政書士へのアウトソーシングを前提に考えるのが現実的です。その費用を払ってでも、対外信用力による受注増や単価アップを目指す経営判断が必要になります。

建設業許可はいつ取得すべきか?

重要な点として、会社設立の手続きと同時に建設業許可を取得することはできません

  • 許可申請のタイミング
    許可申請には法人の「履歴事項全部証明書(登記簿)」が必要となるため、必ず「会社設立登記完了後」の申請となります。

  • 空白期間の注意点
    会社設立から許可が下りるまでの数ヶ月間は「許可のない法人」となります。この期間、税込500万円以上の工事(建築一式は1,500万円以上)を請け負うことは法律で禁止されているため、大型案件の受注スケジュール調整が必要です。

まとめ

建設業の会社設立は、単なる登記手続きではなく、その後の事業展開と建設業許可取得を見据えた戦略的な準備が必要です。

記事の要点まとめ
  • 要件の充足
    建設業許可(一般)の財産的基礎要件を満たすため、資本金は500万円以上とし、定款の事業目的には具体的な業種を記載する。

  • 必要書類の準備
    定款、印鑑証明書、発起人の決定書など、多岐にわたる書類を計画的に準備する。

  • スケジュールの把握
    設立登記に約2週間、その後の許可審査に1〜2ヶ月かかることを考慮し、空白期間が生じないよう受注計画を立てる。

法人化することで社会保険料などの負担は増えますが、それ以上に「社会的信用の向上」「融資・採用の円滑化」「事業承継の安定」
といった大きなメリットがあります。建設業者としてさらなる飛躍を目指すのであれば、要件を確実に確認し、計画的な会社設立を進めてください。

よくある質問(FAQ)

建設業の会社設立に関して、よく寄せられる質問をQ&A形式でまとめました。

Q. 資本金はいくらに設定するのが最適ですか?

会社法上は自由ですが、建設業許可(一般)の財産的基礎要件を満たすため、500万円以上とすることを強く推奨します。500万円未満の場合、残高証明書などで別途資金力を証明する手間が増え、毎年の決算変更届や更新時にも自己資本の確認が必要となる場合があります。

Q. 自宅を本店所在地にしても問題ありませんか?

会社設立自体は可能ですが、建設業許可を取得するには要件があります。「居住スペースと明確に区分されている」「独立した出入り口がある」「固定電話や事務機器がある」などの要件を満たす必要があります。賃貸物件の場合は、貸主から法人登記や事務所利用の承諾を得ていることが必須です。

Q. 会社設立の準備期間はどれくらい必要ですか?

書類の準備から登記完了まで、一般的に2週間〜1ヶ月程度かかります。その後、建設業許可の申請を行う場合、さらに審査期間として知事許可で1〜2ヶ月程度(大臣許可なら3〜4ヶ月)の時間が必要です。トータルで3〜4ヶ月程度の期間を見ておくのが無難です。

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