建設業の設立にかかる費用相場とは?

この記事の要約
- 建設業設立は登記と許可と資本金500万円の3点セットが必要
- 株式会社の法定費用は約25万円で合同会社は約10万円が目安
- 許可取得を専門家に依頼する際の報酬相場は15万円前後から
- 目次
- 建設業の会社設立にかかる費用の全体像
- 建設業設立に必要な「3つの資金」
- 【STEP】費用が発生する流れとタイミング
- 【表で整理】建設業設立にかかる費用の内訳目安
- 【形態別】建設業の会社設立に必要な法定費用
- 株式会社を設立する場合
- 合同会社を設立する場合
- 【表で整理】株式会社と合同会社の設立費用比較
- 建設業許可の取得と会社設立時の注意点
- 許可申請の手数料(知事許可と大臣許可の違い)
- 資本金要件(500万円)のクリア方法と残高証明
- 会社設立・許可申請を専門家へ依頼する場合の費用
- 行政書士・司法書士への報酬相場シミュレーション
- 【表で整理】自力申請と専門家依頼の比較マトリクス
- 会社設立後に発生する建設業ならではの費用
- 社会保険・労働保険の加入コスト
- 建設業関連団体の会費・保証金
- まとめ
- よくある質問
- Q1. 会社設立の費用を経費にする方法はありますか?
- Q2. 資本金が500万円未満でも建設業許可は取れますか?
- Q3. 助成金や補助金は使えますか?
建設業の会社設立にかかる費用の全体像
建設業で会社を設立し事業をスタートさせるためには、一般的な起業とは異なる「3階建て」の費用構造を理解する必要があります。単に「会社を作る費用」だけを用意しても、建設業許可が取れずに工事を受注できないという事態になりかねません。ここでは、読者が最も知りたい「結局、総額でいくら用意すればいいのか」という全体像について、支払いのタイミングと合わせて解説します。
建設業設立に必要な「3つの資金」
建設業の開業資金は、大きく分けて以下の3つの要素で構成されます。これらは支払う先や性質が異なるため、混同しないように注意が必要です。
- 1. 法人の設立登記費用(法定費用)
会社という「箱」を作るために法務局へ支払う税金や手数料です。株式会社か合同会社かによって金額が異なります(約10万〜25万円)。これは誰が手続きしても必ずかかる実費です。 - 2. 建設業許可の取得費用
「500万円以上の工事」を請け負うためのライセンス料です。都道府県などの行政庁へ支払います(9万〜15万円)。許可が下りなかった場合でも返還されないことが一般的です。 - 3. 資本金(財産的基礎)
会社の元手となる資金です。一般建設業許可を取得する場合、原則500万円以上の自己資本が要件となります。これは外部に支払うお金ではなく「会社の中にプールしておくお金」ですが、設立時に現金として用意する必要があります。
【STEP】費用が発生する流れとタイミング
資金ショートを防ぐため、どのタイミングで支払いが発生するかを時系列で確認しましょう。建設業許可を見据えた場合、以下のステップで資金が動きます。
- STEP1. 会社設立時(登記申請)
定款認証手数料や登録免許税を支払います。
目安:約25万円(株式会社の場合) - STEP2. 資本金の払込
発起人の個人口座へ資本金を振り込みます。
目安:500万円(建設業許可要件を満たすため) - STEP3. 建設業許可申請時
会社設立後、建設業許可を申請するタイミングで手数料を納付します。
目安:9万円(知事許可・新規の場合)
つまり、実費として出ていくお金(約35万円〜)と、見せ金ではなく実際に会社資金として拘束されるお金(500万円)を合わせて、約535万円〜の現金が手元にある状態でスタートするのが一般的です。

【表で整理】建設業設立にかかる費用の内訳目安
以下は、最も一般的な「株式会社」を設立し、「知事許可(新規)」を取得する場合の費用内訳です。
| 項目 | 費用の目安 | 支払先・備考 |
|---|---|---|
| 定款用収入印紙代 | 0円 〜 40,000円 | 電子定款なら0円(紙の定款は4万円) |
| 定款認証手数料 | 30,000円 〜 50,000円 | 公証役場(資本金額により変動) |
| 定款謄本交付手数料 | 約 2,000円 | 公証役場 |
| 登録免許税 | 150,000円 | 法務局(資本金の0.7%だが最低15万円) |
| 会社実印作成費 | 5,000円 〜 20,000円 | 印鑑業者(実費) |
| 建設業許可手数料 | 90,000円 | 都道府県(収入証紙などで納付) |
| 履歴事項全部証明書 | 約 2,000円 | 法務局(許可申請の添付書類として取得) |
| 納税証明書など | 約 2,000円 | 税務署・都税事務所など |
| 合計(実費のみ) | 約 280,000円 〜 | ※ここに資本金500万円が別途必要 |
[出典:国税庁 No.7191 登録免許税の税額表]
- 費用のポイント
- 電子定款を利用することで4万円の印紙代を節約可能
- 資本金500万円の場合、登録免許税は最低額の15万円が適用される
- この表は「実費」のみであり、専門家報酬は含まれていない
【形態別】建設業の会社設立に必要な法定費用
会社設立には大きく分けて「株式会社」と「合同会社」の2つの選択肢があります。建設業においては、対外的な信用力や人材採用の観点から株式会社が選ばれることが圧倒的に多いですが、初期コストを抑えるために合同会社を選ぶことも可能です。ここでは両者の法定費用の違いを比較します。
株式会社を設立する場合
株式会社の設立は、手続きが厳格で費用も高めに設定されています。特に定款認証というプロセスが必要であり、公証人に定款(会社のルールブック)をチェックしてもらうための手数料がかかります。
- 定款認証手数料
資本金によって3万円〜5万円。資本金500万円の場合は3万円〜4万円程度です。 - 登録免許税
資本金の0.7%がかかります。ただし、計算結果が15万円未満の場合は一律15万円となります。建設業許可のために資本金を500万円とする場合、500万円×0.7%=3.5万円ですが、最低税額が適用されるため15万円が必要です。
合同会社を設立する場合
合同会社は、所有と経営が一致している持分会社です。株式会社と比べて設立手続きが簡素化されており、費用の安さが大きなメリットです。建設業許可自体は合同会社でも問題なく取得できます。
- 定款認証が不要
公証役場に行く必要がないため、手数料がかかりません。 - 登録免許税が安い
資本金の0.7%(最低6万円)です。資本金500万円の場合、最低税額の6万円で済みます。
【表で整理】株式会社と合同会社の設立費用比較
電子定款(印紙代0円)を利用した場合の実費比較表です。
| 費目 | 株式会社の場合 | 合同会社の場合 |
|---|---|---|
| 定款用収入印紙代 | 0円(電子定款) | 0円(電子定款) |
| 定款認証手数料 | 約 30,000円 〜 50,000円 | 不要(0円) |
| 定款謄本交付手数料 | 約 2,000円 | 不要(0円) |
| 登録免許税 | 最低 150,000円 | 最低 60,000円 |
| 合計(法定費用のみ) | 約 182,000円 〜 | 約 60,000円 〜 |
- 選択のヒント
合同会社は株式会社よりも約12万円〜14万円安く設立できます。しかし、建設業は「元請け・下請け」の関係や銀行融資が重要視される業界であるため、費用の安さだけで判断せず、将来の事業拡大や信用の観点も含めて検討することをおすすめします。
建設業許可の取得と会社設立時の注意点
建設業の会社設立では、単に法人登記を完了させるだけでなく、「建設業許可が取れる状態」で設立することが求められます。ここで計画を誤ると、会社はできたものの許可が下りず、500万円以上の工事が請け負えないという事態に陥ります。許可申請に伴う費用と注意点を深掘りします。
許可申請の手数料(知事許可と大臣許可の違い)
建設業許可の申請手数料は、営業所の配置によって異なります。これから設立する会社の営業所(本店・支店)がどこにあるかを確認してください。
- 知事許可(90,000円)
対象:1つの都道府県内のみに営業所を置く場合。
例:東京都内に本店のみ、または東京都内に本店と支店がある。 - 大臣許可(150,000円)
対象:2つ以上の都道府県にまたがって営業所を置く場合。
例:東京都に本店、神奈川県に支店がある。
また、許可取得後も5年ごとの更新手数料(50,000円)や、業種を追加する場合の業種追加手数料(50,000円)が発生することも覚えておきましょう。
資本金要件(500万円)のクリア方法と残高証明
前述の通り、一般建設業許可を取得するには「自己資本500万円以上」という要件があります。これを満たす最も確実な方法は、会社設立時の資本金を500万円にすることです。もし、資本金が500万円未満で設立してしまった場合、許可申請時に以下の対応が必要となり、余計な手間と費用がかかります。
- 残高証明書の発行
会社名義の口座に500万円以上の預金があることを証明する書類を銀行で発行してもらう必要があります(発行手数料:数百円〜千円程度)。 - 有効期限の制約
残高証明書は「証明日(申請受付時)から1ヶ月以内」のものなど、有効期限が厳格です。資金繰りによっては、証明用の一時的な資金確保が必要になるリスクがあります。
会社設立・許可申請を専門家へ依頼する場合の費用
建設業の会社設立と許可申請は、書類の量が膨大で専門知識を要します。そのため、自分で行う(DIY)よりも専門家(行政書士・司法書士)へ依頼するのが一般的です。ここでは、専門家に依頼した場合の報酬相場と、自分で手続きする場合との比較を行います。

行政書士・司法書士への報酬相場シミュレーション
会社設立と建設業許可申請は、それぞれ管轄する専門家が異なります。多くの事務所ではセット依頼による割引プランを用意しています。
- 司法書士(登記代行)
業務内容:定款作成、登記申請書の作成・提出。
報酬相場:5万円 〜 10万円程度。 - 行政書士(許認可申請)
業務内容:建設業許可申請書類の作成、公的書類の収集、代理申請。
報酬相場:10万円 〜 20万円程度(知事許可・新規の場合)。
セットで依頼する場合、トータルで15万円〜25万円程度(報酬のみ)が相場となります。
【表で整理】自力申請と専門家依頼の比較マトリクス
自分で手続きを行えば「報酬」分は節約できますが、建設業許可申請は非常に難易度が高く、書類の不備で何度も役所に通うことになりかねません。以下のマトリクスで費用対効果を比較検討してください。
| パターン | 費用の目安(実費+報酬) | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 自分で手続き(自力) | 約 28万円 (法定費用のみ) |
・専門家報酬がかからない ・会社の仕組みを深く理解できる |
・数百時間の作業時間が必要 ・書類不備で許可が遅れるリスク ・本業の営業活動ができない |
| 専門家へ依頼 | 約 43万円 〜 (法定費用28万+報酬15万〜) |
・最短・確実に許可が取れる ・本業に専念できる ・定款印紙代(4万円)が節約できる場合が多い |
・専門家への報酬が発生する |
- 注意点
電子定款に対応していない個人が自力で行う場合、定款印紙代4万円が別途かかるため、専門家との差額は実質的に縮まります。コストパフォーマンスを考えると、専門家への依頼が合理的であるケースが多いです。
会社設立後に発生する建設業ならではの費用
無事に会社を設立し許可を取得した後にも、建設業として事業を継続するために発生する特有の費用があります。資金ショートを防ぐために、以下のランニングコストも想定しておきましょう。
社会保険・労働保険の加入コスト
建設業許可を取得した事業者は、社会保険(健康保険・厚生年金)および労働保険(雇用保険・労災保険)への加入義務を厳格にチェックされます。
- 加入義務
法人の場合、社長1人でも社会保険への加入が必須です。 - 費用負担
保険料は会社と従業員で折半します。従業員の給与額にもよりますが、給与の約15%程度が会社負担分として毎月発生します。
2020年の建設業法改正により、社会保険未加入の企業は建設業許可が受けられなくなっているため、これは避けて通れないコストです。
建設業関連団体の会費・保証金
公共工事の入札に参加したり、業界内での信用を高めたりするために、任意の団体へ加入する費用も考慮します。
- 建設業協会への会費
都道府県や支部によって異なりますが、入会金や年会費(数万円〜数十万円)がかかります。 - 経営事項審査(経審)の費用
公共工事を直接請け負う場合に必須の審査です。手数料として数万円〜がかかります。
まとめ
建設業の会社設立にかかる費用は、単純な登記費用だけでなく、許可取得を見据えたトータルの資金計画が不可欠です。
- 記事の要点まとめ
- 法定費用:株式会社で約25万円〜、合同会社で約10万円〜(許可手数料含む)。
- 資本金:一般建設業許可のために500万円の現金準備が必須。
- 専門家報酬:確実な許可取得のためには約15〜25万円の投資価値がある。
建設業許可申請は要件が複雑で、ミスがあると事業開始が大幅に遅れるリスクがあります。貴重な開業資金と時間を無駄にしないためにも、まずは建設業専門の行政書士や司法書士に見積もりを依頼し、具体的なスケジュールを確認することをおすすめします。
よくある質問
Q1. 会社設立の費用を経費にする方法はありますか?
はい、可能です。会社設立のためにかかった費用(定款認証代、登録免許税、司法書士報酬など)は「創立費」、事業開始までにかかった費用(広告宣伝費、許可申請費用など)は「開業費」として計上できます。これらは繰延資産として、任意の年度に償却(経費化)することが認められています。
Q2. 資本金が500万円未満でも建設業許可は取れますか?
可能です。資本金が500万円未満の場合でも、「自己資本の額」が500万円以上あること、または「500万円以上の資金調達能力」があることを証明できれば許可は下ります。ただし、500万円以上の預金残高証明書(申請受付日前1ヶ月以内のもの)の提出が必要になるなど、証明の手続きが複雑になります。
Q3. 助成金や補助金は使えますか?
要件に合致すれば活用可能です。例えば、創業時に利用できる「地域創造的起業補助金」や、自治体の「特定創業支援等事業」を受けることで登録免許税が半額になる制度などがあります。ただし、建設業許可特有の補助金というよりは、創業全般に関するものが多いため、最寄りの商工会議所や専門家に確認してください。





