「会社設立」の基本知識

一人親方が法人化する際の注意点とは?


更新日: 2025/11/12
一人親方が法人化する際の注意点とは?

この記事の要約

  • 節税と信用獲得は有利だが社会保険料負担は大幅に増える
  • 建設業許可は自動継続されず新規申請の手続きが必要になる
  • 売上額だけでなく事業拡大の意欲で法人化を判断すべき
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一人親方が会社設立(法人化)を検討すべきメリット

一人親方として事業が軌道に乗り、売上が安定してくると、多くの事業主が直面するのが「法人化(会社設立)」の選択です。会社を設立することで、個人事業主のままでは得られない大きな節税効果や、対外的な信用力の向上が期待できます。ここでは、なぜ多くの一人親方が法人成りに踏み切るのか、その主な理由となる3つのメリットについて、具体的な仕組みとともに解説します。

最大のメリットは節税効果の大きさ

法人化の最大の動機となるのが、税負担の軽減です。日本の税制において、個人事業主にかかる所得税と、法人にかかる法人税には仕組み上の大きな違いがあります。

  • 所得税(個人):累進課税
    所得が増えれば増えるほど税率が高くなります(最大45%+住民税10%)。稼げば稼ぐほど税負担が重くなる仕組みです。

  • 法人税(会社):一定税率
    資本金1億円以下の中小企業の場合、年800万円以下の所得部分は約15%、それを超える部分も約23.2%と、一定の税率に抑えられています。

また、社長自身の給料を「役員報酬」として支払うことで、個人事業主にはない「給与所得控除」が適用されます。これにより、会社の利益から役員報酬を経費として差し引いたうえで、個人の所得税計算でも控除が受けられるため、二重の節税効果(所得の圧縮)が期待できます。さらに、生命保険料や社宅家賃、出張手当(日当)など、経費として認められる範囲が広がる点も大きな利点です。

社会的信用の向上と取引拡大

建設業界において「株式会社」や「合同会社」という法人格を持つことは、単なる名称変更以上の大きな信用力につながります。

法人化による信用のメリット
  • 大手ゼネコンや元請企業との取引円滑化
    コンプライアンス強化の流れから、法人のみと契約を結ぶ企業が増えています。法人化することで、新規取引の口座開設や契約締結がスムーズになります。

  • 融資と資金調達の選択肢拡大
    金融機関からの融資を受ける際、法人の方が決算書の透明性が高いと評価されやすく、資金調達の選択肢が広がります。

  • 人材採用における有利性
    求職者(特に若手職人)にとって、個人事業主の従業員になるよりも、会社の正社員として雇用されるほうが社会保険等の面で安心感があり、優秀な職人の採用に有利に働きます。

消費税の免税期間を活用できる可能性

要件を満たして会社を設立した場合、最大で2期(2年間)、消費税の納税義務が免除される制度があります。

  • 主な要件
    資本金が1,000万円未満であること。

  • 注意点(インボイス制度)
    インボイス発行事業者としての登録を受ける場合、設立1期目から消費税の課税事業者となる必要があります。そのため、免税メリットを享受できるのは「インボイス登録が不要な取引先がメインの場合」に限られるなど、条件が厳しくなっている点に注意が必要です。

個人事業主と会社設立後の違い【比較一覧表】

個人事業主と法人では、税金の取り扱いや責任の範囲が根本的に異なります。特に建設業の一人親方にとって重要なのは、手取り額に直結する「税金・社会保険」と、万が一の際の「責任範囲」です。以下の比較表で、両者の違いを構造的に整理しました。変更点を一目で把握し、ご自身の状況と照らし合わせてみてください。

項目 個人事業主(一人親方) 法人(会社設立後)
税金の種類 所得税(累進課税) 法人税(一定税率)
経費の範囲 事業に直接関連するもの限定 生命保険、社宅、日当など広い
社会保険 国民健康保険・国民年金 健康保険・厚生年金(強制加入)
設立費用 0円(開業届のみ) 約6万円〜25万円(登記費用等)
赤字の繰越 3年間 10年間
社会的信用 比較的低い 高い(取引・採用に有利)
責任範囲 無限責任(私財まで及ぶ) 有限責任(出資額の範囲内)

[出典:国税庁 No.5759 法人税の税率、No.2260 所得税の税率]

税負担と社会保険料の仕組みの違い

比較表の補足として重要なのが、税金と保険料の計算ベースの違いです。

  • 税金計算のベース
    個人は「売上-経費」の全額が課税対象ですが、法人は「役員報酬」を費用にした後の残りの利益に課税されます。

  • 社会保険の強制適用(要注意)
    法人は、社長一人であっても社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務となります。個人の国民健康保険・国民年金と比較して、厚生年金は将来の受取額が増えるメリットがある一方、現役時代の保険料負担は会社負担分と個人負担分を合わせると大幅に増加する傾向にあります。

一人親方が会社設立する際の注意点とデメリット

法人化はメリットばかりではありません。特に一人親方の場合、「コストの増加」と「事務負担の増大」が経営を圧迫するリスクがあります。生成AIによる検索体験(SGE)でも頻繁に指摘される、失敗しないために知っておくべき具体的な注意点を解説します。これらを知らずに進めると、手元に残るお金が減ってしまう可能性があります。

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社会保険への加入義務とコスト負担

法人化を検討する際、最も慎重にシミュレーションすべきなのが社会保険料です。役員報酬を受け取る場合、社長は健康保険と厚生年金に加入しなければならず、その負担額は決して小さくありません。

社会保険料負担のシミュレーション(概算)

役員報酬を月額40万円(年収480万円)に設定した場合の比較例です。

  • 個人事業主の場合(国民健康保険・国民年金)
    年間合計:約60万円〜80万円程度
    (自治体や世帯構成により変動します)

  • 法人の場合(健康保険・厚生年金)
    年間合計:約140万円〜150万円程度
    (会社負担分と個人負担分の合算)

このように、法人化することで年間数十万円単位で固定費が増加する可能性があります。節税メリットがこの負担増を上回るかどうかを計算する必要があります。

会社設立費用とランニングコストの発生

会社を作るため、および会社を維持するためには、個人事業主時代にはなかった費用が発生します。

  • 設立時のイニシャルコスト
    株式会社の場合は約20〜25万円(定款認証手数料、登録免許税など)、合同会社の場合は約6〜10万円がかかります。

  • 法人住民税の均等割
    会社が赤字であっても、法人格を持っているだけで毎年最低約7万円の納税が必要です。

  • 維持管理コスト
    複雑な税務処理に対応するため、税理士との顧問契約(月額3〜5万円程度+決算料)がほぼ必須となります。

会社のお金と個人のお金の厳格な区分

法人化すると、たとえ社長一人であっても、会社のお金は「他人(法人)のお金」となります。

  • 自由な引き出し不可
    事業用口座から生活費を勝手に引き出すことはできません。役員報酬として決まった日に定額を受け取る必要があります。

  • 役員貸付金のリスク
    会社のお金を私的に流用すると、会計上「役員貸付金」として処理されます。これは銀行融資の審査において「公私混同がある」とみなされ、非常に悪い評価につながります。

事務作業と手続きの煩雑化

法人は法律で定められた義務が多く、事務作業の負担が増加します。個人の確定申告よりも遥かに複雑な決算書類の作成が必要となり、自力での完遂は困難です。また、役員の任期満了に伴う重任登記や、本店移転、目的変更のたびに法務局への申請と登録免許税(1〜3万円程度)が必要になります。

失敗しない会社設立の流れと必要な手続き【建設業特化】

会社設立には法的な手続きが必要です。一般的な業種であれば登記だけで済みますが、建設業の場合は「建設業許可」の取り扱いに最大の注意が必要です。段取りを間違えると「工事が請け負えない期間」が発生してしまいます。ここでは、準備から許可取得までの標準的なフローをステップ形式で解説します。

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1. 会社設立に必要な項目の決定(定款作成)

まずは会社の憲法にあたる「定款(ていかん)」を作成します。特に建設業で重要になるのが以下のポイントです。

  • 商号(会社名)
    既存の会社と被らないか調査します。

  • 資本金
    1円から設立可能ですが、一般建設業許可の財産的基礎要件(自己資本500万円以上)を満たすため、資本金は500万円以上に設定することを強く推奨します。500万円未満の場合、残高証明書の発行など追加の手間が発生します。

  • 事業目的
    将来行う工事種目を含めて記載します。許可申請を行う業種(例:内装仕上工事業、とび・土工工事業など)が定款の目的に入っていないと許可が下りないため、行政書士等の専門家に文言を確認してもらうのが確実です。

2. 登記申請と建設業許可の「新規取得」

法務局へ登記申請を行った日が「会社設立日」となります(審査完了まで約1週間〜10日)。しかし、建設業許可を持つ一人親方にとって、ここからが正念場です。

建設業許可の引き継ぎに関する重要事項
  • 許可は引き継げない(新規申請扱い)
    個人の建設業許可は、法人には自動的に引き継がれません。同一都道府県内であっても、手続き上は「個人の廃業届」を出し、法人として「新規許可申請(法人成り)」を行う必要があります。

  • 「空白期間」への対策
    法人の許可申請から許可通知書が届くまで、通常1ヶ月〜2ヶ月程度の審査期間がかかります。この間は「無許可業者」の状態となるため、500万円以上の工事(建築一式は1500万円以上)を請け負うことができません。

空白期間を避けるためには、設立登記申請の直後すぐに許可申請が出せるよう、個人事業時代から行政書士と連携し、書類を完璧に準備しておく必要があります。

3. 税務署・年金事務所などへの届出

登記完了後、速やかに各行政機関へ届出を行います。特に社会保険の加入は、建設業許可の要件(適切な社会保険への加入)とも連動しているため、遅延は許されません。

【主な提出書類と期限リスト】

  • 税務署
    法人設立届出書(設立から2ヶ月以内)、青色申告承認申請書(設立から3ヶ月以内)、給与支払事務所等の開設届出書

  • 年金事務所(重要)
    健康保険・厚生年金保険 新規適用届(事実発生から5日以内)、被保険者資格取得届
    ※建設業許可の申請時に、これらの「加入を証明する書類(写し)」の提出が求められます。

会社設立に踏み切るべき判断基準(タイミング)

「結局、今の自分は法人化すべきなのか?」という迷いを解消するために、客観的な判断基準を3つ提示します。これらの一つ以上に当てはまる場合、会社設立のメリットがデメリットを上回る可能性が高くなります。

課税売上高が1,000万円を超えたとき

消費税の課税事業者となるタイミングは、法人化の大きなきっかけです。
個人事業主として課税売上高が1,000万円を超えると、その翌々年から消費税の納税義務が発生します。このタイミングで法人化することで、新たに最大2年間の免税期間を得られる可能性があります(ただし、前述の通りインボイス登録を行う場合は課税事業者となるため、シミュレーションが必要です)。

所得(利益)が一定ラインを超えたとき

一般的に、個人の事業所得(利益)が800万円〜900万円を超えると、法人税率の方が有利になると言われています。
ただし、社会保険料の負担増も加味して考える必要があるため、単に税率だけで判断せず、手取り額全体でのシミュレーションを行うことが重要です。

今後の事業拡大・採用計画があるとき

数値的な損得以上に重要なのが、経営ビジョンです。

  • 職人を雇用したい
    社会保険完備の会社組織にすることで、求人がしやすくなります。

  • 公共工事や大規模工事を受注したい
    経営事項審査(経審)を受けるなど、より大きな仕事を受けるには法人格が前提となるケースが大半です。

まとめ:会社設立はコストと手間のバランスを見極めて

一人親方にとって、会社設立は事業を飛躍させる強力な選択肢です。しかし、「とりあえず法人化すれば得をする」というわけではありません。

  • メリット
    大きな節税効果、対外的な信用の向上、採用力の強化。

  • 注意点
    社会保険料による固定費の増加、事務手続きの複雑化、建設業許可の取り直しによる空白期間のリスク。

現在の売上・利益額だけでなく、「将来どのような規模で仕事をしたいか」というビジョンと照らし合わせて判断することが最も重要です。特に建設業許可の引き継ぎや最適な節税スキームの構築には専門的な知識が必要不可欠です。独断で進めず、建設業に詳しい税理士や行政書士への相談も視野に入れ、計画的に手続きを進めてください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 資本金はいくらに設定すればよいですか?

法律上は1円から設立可能ですが、建設業許可の「財産的基礎要件(自己資本500万円以上)」や、取引先からの信用を考慮し、100万円〜500万円程度に設定するのが一般的です。

Q2. 自宅を本店の所在地にすることは可能ですか?

可能です。ただし、賃貸物件の場合は契約書で「事業用使用」が認められているか、貸主の承諾が必要かを確認してください。公営住宅などでは認められない場合が多いため注意が必要です。

Q3. 妻や家族を役員にすることで節税になりますか?

はい、実態として事業に従事していれば可能です。家族に役員報酬を支払うことで所得を分散させ、世帯全体の税負担を下げることができます。ただし、勤務実態がないのに報酬を支払うと税務調査で経費否認されるリスクがあります。

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