建設業法に基づく施工計画の必須項目とは?

この記事の要約
- 施工計画が建設業法で重要な理由を解説
- 施工計画書に必須の項目一覧と詳細な内容
- 施工要領書や作業手順書との明確な違い
- 目次
- 施工計画とは?建設業法における重要性と目的
- 施工計画の基本的な定義
- なぜ建設業法で施工計画が求められるのか
- 施工計画を作成する主な目的
- 建設業法に基づく施工計画の必須項目【一覧と解説】
- 施工計画に含めるべき主要項目
- ① 工事概要・施工範囲
- ② 施工体制(現場組織表)
- ③ 工程管理(計画工程表)
- ④ 品質管理計画
- ⑤ 安全衛生管理計画
- ⑥ 環境管理計画
- 施工計画と関連書類の比較
- 「施工計画書」と「施工要領書」の違いは?
- 「施工計画書」と「作業手順書」の違いは?
- 失敗しない施工計画の作成ポイントと注意点
- ① 建設業法違反にならないためのチェックポイント
- ② 具体的かつ実行可能な内容にする
- ③ 関係者間での情報共有と合意形成
- ④ 施工計画の変更が必要な場合の手続き
- まとめ:建設業法を遵守した適切な施工計画で工事を成功させよう
- 施工計画に関するよくある質問
施工計画とは?建設業法における重要性と目的
施工計画は、建設工事を契約図書(設計図や仕様書)に基づき、安全かつ効率的に、定められた品質と工期で完成させるための中核的な計画です。この記事では、建設業法や関連法規の観点から、施工計画の重要性、目的、そして必ず含めるべき必須項目について詳しく解説します。
施工計画の基本的な定義
施工計画とは、工事の着手前に、その工事の「全工程をどのように進めるか」を具体的に定めた計画、およびそれを文書化した「施工計画書」を指します。
これは単なるスケジュール表ではなく、使用する材料、機械、人員の配置、具体的な施工方法、品質管理や安全管理の体制まで、工事全体を網羅する総合的な設計図です。発注者の要求仕様を満たしつつ、安全・品質・工程・原価のすべてを最適化するための戦略書と言えます。
なぜ建設業法で施工計画が求められるのか
建設業法自体に「施工計画書を作成せよ」という直接的な条文はありませんが、法律の根本的な目的である「建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発達を促進する」(建設業法 第一条)を達成するために、施工計画は不可欠な手段と位置づけられています。
特に公共工事においては、「公共工事標準請負契約約款」(国土交通省 中央建設業審議会)において、受注者が施工計画書を作成し、発注者に提出・承諾を得ることが契約上の義務として定められています。これは、税金によって賄われる公共工事の品質と安全性を担保するための重要なプロセスです。
建設業法は、工事の品質や安全を確保するために主任技術者や監理技術者の配置を義務付けており、これらの技術者が行うべき重要な職務の一つが、まさにこの施工計画の作成と実行管理です。

[出典:国土交通省「公共工事標準請負契約約款」(令和5年4月1日以降適用版)第9条]
施工計画を作成する主な目的
法律や契約上の義務を果たすこと以外にも、施工計画には以下の実務的な目的があり、これらは「施工管理の4大要素」とも密接に関連しています。
・ 工程管理 (Process Control):
工事全体と各作業のスケジュールを明確にし、遅延なく計画通りに工事を完了させるため。
・ 品質管理 (Quality Control):
設計図書や仕様書で定められた品質基準を満たすため、どのような材料を使い、どのような手順・検査を行うかを具体的に定めるため。
・ 原価管理 (Cost Control):
定められた予算内で工事を完成させるため、人件費、材料費、機械経費などを精査し、無駄のない計画を立てるため。(※施工計画書自体に詳細な金額を記載することは少ないですが、計画の前提となります)
・ 安全管理 (Safety Control):
工事現場での労働災害や公衆災害(第三者の事故)を防止するため、危険箇所を予測し、具体的な安全対策や教育計画を定めるため。
建設業法に基づく施工計画の必須項目【一覧と解説】
施工計画書に記載すべき項目は、工事の規模や種類、発注者によって異なりますが、ここでは国土交通省の「公共建築工事標準仕様書」などを基準とした、多くの工事で共通して求められる主要な必須項目を解説します。これらの項目は、適正な施工計画を立てる上で欠かせません。
施工計画に含めるべき主要項目
一般的に、施工計画書は以下の項目で構成されます。これらを網羅することで、工事の全体像と管理体制が明確になります。
- 施工計画書の主要構成項目
・ 工事概要
・ 計画工程表
・ 現場組織表(施工体制)
・ 指定機械(主要な建設機械)
・ 主要資材(および搬入計画)
・ 施工方法(主要工種ごとの手順)
・ 施工管理計画(品質管理、出来形管理、写真管理など)
・ 安全衛生管理計画
・ 環境管理計画(建設リサイクル、騒音・振動対策など)
・ 緊急時の体制及び対応
・ その他(交通管理、地元対策、官公庁への届出など)
[出典:国土交通省「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)」(令和4年版) 1.1.5 施工計画書]
① 工事概要・施工範囲
工事の基本情報を記載します。誰が、どこで、いつからいつまで、何をするのかを明確にする、施工計画書の「表紙」にあたる部分です。
・ 主な記載項目:
・ 工事名称
・ 工事場所(住所、地図)
・ 発注者名
・ 設計監理者名
・ 請負者名(元請業者)
・ 契約工期(着工日と完成日)
・ 工事内容の概要
・ 施工範囲(どこからどこまでを本工事で行うか)
② 施工体制(現場組織表)
工事を誰が責任を持って管理・実行するのか、その体制を明確に示す項目です。建設業法で定められた主任技術者または監理技術者の配置を明記することが特に重要です。
・ 主な記載項目:
・ 現場組織表: 現場代理人、監理(主任)技術者、専門技術者、安全管理者、品質管理者など、各担当者と指揮命令系統を図示します。
・ 各担当者の職務: それぞれの役割と責任範囲を明記します。
・ 下請業者の編成: 主要な専門工事業者(下請業者)の名称と、その担当工種を記載します。
・ 施工体系図との関連: 大規模工事で作成が義務付けられる「施工体系図」(工事に関わる全ての下請業者の関係性を示した図)との整合性をとります。
③ 工程管理(計画工程表)
工事着工から完成までの全作業スケジュールを視覚的に示したものです。全体の流れを把握する「全体工程表」と、特定の作業を詳細に示す「詳細工程表」があります。
・ 全体工程表:
工事全体の流れを月単位や週単位で示します(例:バーチャート形式)。主要な工種(土工事、躯体工事、仕上工事など)の開始日と終了日が一目でわかるようにします。
・ 詳細工程表:
特定の工種や、特に管理が必要な作業について、日単位で詳細な手順とスケジュールを示します。
④ 品質管理計画
設計図書や仕様書で要求される「品質」を確保するための具体的な計画です。「どのような基準で」「どのように検査し」「どのように記録するか」を定めます。
・ 主な記載項目:
・ 品質管理体制: 品質管理の責任者と組織を定めます。
・ 管理項目と基準: コンクリートの強度、鉄筋の配置間隔など、工種ごとに管理すべき項目と、その合格基準(許容誤差)を定めます。
・ 試験・検査計画: 材料の受入検査、施工中の段階検査(配筋検査など)、完成時の社内検査や発注者検査のタイミングと方法を定めます。
・ 出来形管理: 完成した構造物が設計図書通りの寸法・形状であるかを確認(検測)する方法と基準を定めます。
・ 写真管理: 施工の各段階や、完成後に見えなくなる箇所(鉄筋や配管など)を写真で記録・管理する計画を定めます。
⑤ 安全衛生管理計画
建設現場における労働災害および公衆災害(第三者の巻き込み事故)を防止するための、最も重要な計画の一つです。
・ 主な記載項目:
・ 安全衛生管理体制: 総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者などの配置と組織図を定めます。
・ リスクアセスメント: 工事に潜む危険性や有害性を事前に洗い出し、その対策(重機の使用方法、高所作業の墜落防止措置など)を定めます。
・ 安全教育・訓練: 作業員への新規入場時教育、定期的な安全ミーティング(KY活動)、避難訓練などの計画。
・ 安全点検: 重機、足場、電気設備などの定期点検・日常点検の計画。
・ 使用する重機・機械: クレーンや掘削機など、特に危険を伴う機械の安全な使用計画。
⑥ 環境管理計画
工事に伴う周辺環境への負荷を最小限に抑え、関連法規(建設リサイクル法、騒音規制法など)を遵守するための計画です。
・ 主な記載項目:
・ 建設副産物(廃棄物)対策: 発生するコンクリートがら、木くず、廃プラスチックなどの分別、保管、運搬、処理(リサイクル)計画。
・ 建設リサイクル法への対応: 特定建設資材(コンクリート、アスファルトなど)の再資源化計画。
・ 周辺環境対策: 騒音、振動、粉塵の発生を抑制するための対策(例:防音シートの設置、散水、作業時間の調整)。
・ 水質汚濁防止: 現場からの泥水の流出を防ぐための沈砂槽の設置など。
施工計画と関連書類の比較
建設現場では「施工計画書」の他にも、「施工要領書」や「作業手順書」といった多くの書類が作成されます。これらはしばしば混同されますが、目的と詳細度が異なります。施工計画が工事全体の「戦略」だとすれば、これらは「戦術」や「戦闘マニュアル」にあたります。
「施工計画書」と「施工要領書」の違いは?
施工計画書が工事全体の管理方針を示す「上位の計画書」であるのに対し、施工要領書は特定の「工種」(例:鉄筋工事、防水工事)について、具体的な施工方法や品質基準を詳細に記した「下位のマニュアル」です。
▼ 施工計画書と施工要領書の比較表
| 比較項目 | 施工計画書 | 施工要領書 |
|---|---|---|
| 目的 | 工事全体の計画・管理方針の明示 | 特定の工種・作業の具体的な施工方法・手順の明示 |
| 内容 | 工事概要、工程、体制、安全、品質など全般 | 使用材料、機械、施工手順、品質基準、検査方法など詳細 |
| 作成単位 | 工事全体(通常1件) | 工種ごと(複数作成される場合あり) |
| 位置づけ | 上位の計画書(全体の設計図) | 施工計画書を補完する下位の詳細マニュアル |
「施工計画書」と「作業手順書」の違いは?
作業手順書は、施工要領書よりもさらに具体的で、個々の「作業」レベルまで落とし込んだ指示書です。特に、作業に伴う危険性を洗い出し、安全対策を具体的に示す「危険予知(KY)」の要素が強いのが特徴です。
▼ 施工計画書と作業手順書の比較表
| 比較項目 | 施工計画書 | 作業手順書 |
|---|---|---|
| 目的 | 工事全体の計画・管理方針の明示 | 個々の作業の安全かつ効率的な実施 |
| 内容 | 工事概要、工程、体制、安全、品質など全般 | 具体的な作業手順、使用工具、危険予知(KY)、安全対策 |
| 作成単位 | 工事全体(通常1件) | 個別の作業ごと(非常に多く作成される) |
| 位置づけ | 上位の計画書(全体の設計図) | 最も具体的・現場的な安全指示書 |
失敗しない施工計画の作成ポイントと注意点
建設業法や契約約款の要求を満たす必須項目を盛り込むのは当然として、実務で本当に役立つ「精度の高い」施工計画を作成するには、いくつかの重要なポイントがあります。形式を整えるだけでなく、内容の実行可能性と法令遵守が鍵となります。
① 建設業法違反にならないためのチェックポイント
施工計画の不備は、そのまま建設業法違反や重大な契約不適合につながるリスクがあります。以下の点は特に注意深くチェックする必要があります。
・ 技術者の適正配置:
工事の規模や種類(公共性のある一定額以上の工事など)に応じて、建設業法で定められた資格を持つ主任技術者または監理技術者を配置し、施工計画書に明記していますか? また、その技術者は他の現場と重複して専任配置されていないか(専任義務違反)の確認も必要です。
・ 安全管理体制の不備:
安全衛生管理計画が形式的なもので、具体的なリスク(高所作業、重機作業など)に対する対策が欠如している場合、万が一事故が発生した際に安全配慮義務違反を問われる可能性があります。
・ 下請への丸投げの明記:
施工計画書の内容が、元請としての主体的な管理計画になっておらず、実質的に下請業者に丸投げしている(一括下請負の禁止に抵触する)ような内容になっていないか注意が必要です。
② 具体的かつ実行可能な内容にする
施工計画は、机上の空論であってはなりません。現場の実際の状況(立地条件、周辺環境、利用可能な人員、搬入経路など)を正確に反映し、「誰が、いつ、何を、どのように行うか」が具体的にわかる内容にする必要があります。
抽象的な精神論(「安全第一で頑張る」など)ではなく、例えば「開口部周りには高さ90cm以上の手すりを設置し、安全帯使用を徹底する」といった具体的な行動計画を記載することが重要です。

③ 関係者間での情報共有と合意形成
施工計画書は、作成して発注者に提出すれば終わりではありません。その計画を現場で実行するのは、元請の社員だけでなく、多くの下請業者や作業員です。
作成した施工計画の内容は、着工前の全体会議や、日々のミーティングを通じて、工事に関わるすべての人員に周知・徹底されなければなりません。計画と実態が乖離しないよう、関係者全員が「共通の設計図」として理解し、合意形成を図ることが不可欠です。
④ 施工計画の変更が必要な場合の手続き
工事を進める中で、天候不順、予期せぬ地中障害物の発見、発注者からの仕様変更などにより、当初の施工計画通りに進まない事態は頻繁に発生します。計画に変更が生じた場合は、速やかに以下の手順を踏む必要があります。
- 変更事由の把握: なぜ計画を変更する必要があるのか、現状と原因を正確に把握します。
- 変更計画の立案: 当初の計画のどの部分(工程、施工方法、安全対策など)を変更するかを具体的に検討し、「変更施工計画書」を作成します。
- 発注者への提出と承諾: 変更施工計画書を発注者(または設計監理者)に提出し、その内容について協議し、承諾を得ます。
- 関係者への周知: 承諾を得た変更内容を、下請業者や作業員を含む全関係者に速やかに周知徹底し、現場の混乱を防ぎます。
まとめ:建設業法を遵守した適切な施工計画で工事を成功させよう
施工計画(および施工計画書)は、単に建設業法や契約上の義務を果たすための提出書類ではありません。それは、工事という複雑なプロジェクトを、安全に、高品質を保ちながら、期限内に、予算内で完成させるための最も重要な「羅針盤」です。
建設業法が求める「適正な施工」を実現するためには、今回解説した「工事概要」「施工体制」「工程」「品質」「安全」「環境」といった必須項目を漏れなく網羅し、現場の実態に即した実行可能な施工計画を立てることが不可欠です。
そして、その計画を関係者全員で共有し、状況の変化に応じて適切に変更・管理していくことこそが、工事を成功に導く鍵となります。
施工計画に関するよくある質問
Q. 施工計画書はすべての工事で必要ですか?
A. 建設業法で厳密に「すべて」の工事で作成が義務付けられているわけではありません。しかし、公共工事では契約約款に基づきほぼ必須です。また、民間工事であっても、一定規模以上の工事や、発注者との請負契約によって提出が義務付けられることが一般的です。工事の規模に関わらず、安全や品質を確保する上で、施工計画を作成することは建設業者の重要な責務として推奨されます。
Q. 施工計画書は誰が作成するのですか?
A. 工事を請け負った元請業者が作成するのが一般的です。特に、建設業法に基づき現場に配置される主任技術者または監理技術者が中心となり、専門工事業者(下請業者)の意見も取り入れながら、工事全体の計画として取りまとめます。
Q. 施工計画書の提出先はどこですか?
A. 基本的には発注者(施主)に提出し、内容について説明し、承諾を得る必要があります。工事の種類や契約内容によっては、発注者が委託した設計監理者を経由して提出したり、特定の行政機関(例:道路使用許可に関する警察署など)への届出書類の添付資料として部分的に使用したりする場合もあります。




