「調達」の基本知識

建設現場での資材選定とは?ポイントと注意点を解説


更新日: 2025/10/22
建設現場での資材選定とは?ポイントと注意点を解説

この記事の要約

  • 建設現場の資材調達とは「要求品質の資材を最適なコスト・納期で確保すること」
  • 資材選定の基本5ステップ(仕様決定〜検収)を解説
  • 品質・コスト・納期など失敗しない選定ポイントと注意点を網羅

建設現場での資材選定(調達)とは?

建設プロジェクトにおける資材選定(調達)は、単に物品を購入する行為ではありません。プロジェクトの品質、コスト、工期(Q-C-D)のすべてを左右する中核業務です。ここでは、資材調達の基本的な定義と、なぜそれが建設プロジェクトにおいて極めて重要なのかを解説します。

資材選定(調達)の定義と目的

建設における資材調達とは、「設計図書や仕様書で定められた要求品質を満たす資材を、最適なコスト(予算内)と納期(工期通り)で、安定的に確保する一連のプロセス」を指します。

その最大の目的は、建築物の安全性と耐久性を担保しつつ、プロジェクト全体の採算性を確保し、計画通りに工事を完了させることです。一つの資材選定ミスが、重大な品質問題や工期遅延、予算超過に直結する可能性があります。

プロジェクト(Q-C-D)における資材調達の重要性

建設プロジェクト管理の3大要素は、品質(Quality)コスト(Cost)工期(Delivery)です。資材調達は、これらすべてに直接的な影響を与えます。

品質(Quality)への影響
選定した資材の品質が、そのまま建築物の強度、耐久性、安全性に反映されます。仕様書未満の資材を使えば、品質は著しく低下します。

コスト(Cost)への影響
資材費は、建設コスト全体の中で大きな割合を占めます。適切なサプライヤー選定と価格交渉は、プロジェクトの利益確保に不可欠です。

工期(Delivery)への影響
必要な資材が1日でも遅れて納品されれば、その資材を使う工程がすべてストップし、現場全体の工期遅延につながります。

資材調達が影響するプロジェクトの3要素(Q-C-D)

Quality(品質):資材の品質が建築物の安全性・耐久性に直結する。
Cost(コスト):資材費は建設コストの主要部分を占め、利益に影響する。
Delivery(工期):資材の納品遅れはプロジェクト全体の遅延につながる。

建設現場の資材選定・調達の基本的な流れ

建設現場における資材調達は、行き当たりばったりではなく、計画的かつ体系的なプロセスを経て実行されます。プロジェクトの初期段階から完了まで、各ステップを確実に実行することが、工期の遅延や品質の低下を防ぎ、スムーズなプロジェクト進行を実現する鍵となります。ここでは、資材調達における最も基本的かつ重要な5つのステップを解説します。

  1. ステップ1:必要資材のリストアップと仕様決定
    プロジェクトの根幹となる設計図書(図面、仕様書など)を精査し、必要となる資材をすべて洗い出します。ここでは単に品名を挙げるだけでなく、求められる品質(強度、材質、規格など)、性能数量といった「要求仕様」をミリ単位、あるいは規定の基準値で明確に定義することが不可欠です。この仕様決定が曖曖だと、後工程でのミスマッチやトラブルの原因となります。

  2. ステップ2:サプライヤー(供給業者)の調査と比較
    ステップ1で明確にした要求仕様を満たす資材を提供できるサプライヤー(供給業者やメーカー)をリサーチします。インターネット検索、業界のデータベース、過去の取引実績などを基に候補をリストアップします。単に価格が安いだけでなく、供給能力(安定して必要な量を供給できるか)、信頼性(過去の納品実績や評判)、技術サポートの有無なども考慮し、候補を絞り込みます。

  3. ステップ3:見積もりの取得と価格・納期の交渉
    絞り込んだ複数のサプライヤー候補に対し、同一の要求仕様書を提示し、見積書(見積もり)の提出を依頼します。これは一般に「相見積もり」と呼ばれます。取得した見積書を比較検討する際は、資材の単価だけでなく、納期(いつまでに納品可能か)、支払い条件(現金払いか、手形か)、運搬費、アフターサービスなども含めて総合的に評価します。必要に応じて、価格や納期について条件交渉を行います。

  4. ステップ4:発注と契約
    比較検討の結果、品質、コスト、納期などすべての条件において最も優れている(またはプロジェクトの要求に最も合致する)サプライヤーを選定します。選定後、正式な発注書(注文書)を発行し、必要に応じて売買契約書を締結します。この契約書には、最終決定した仕様数量単価納期納品場所検収条件(納品物をどのように確認し受け入れるか)、瑕疵担保責任(欠陥があった場合の対応)などを明確に記載します。

  5. ステップ5:納品管理と検収
    発注した資材が、契約通り指定された納期に、指定された場所へ納品されるかを継続的に管理します(納期管理)。資材が現場に到着したら、速やかに「検収」作業を行います。検収とは、納品された資材が発注内容(仕様、数量、品質など)と相違ないか、輸送中に破損や変質がないかを厳密に確認する作業です。万が一、問題が発見された場合は、直ちにサプライヤーに連絡し、交換や返品などの対応を協議します。

失敗しない資材調達!選定の重要ポイント

適切な資材を調達するためには、単に「安いもの」や「早く届くもの」を選ぶだけでは不十分です。建設プロジェクトの根幹を支える資材選定には、多角的な視点からの評価が求められます。ここでは、資材調達の成否を分ける5つの重要な判断基準(ポイント)を詳しく解説します。これらを総合的に評価し、最適な選定を行う必要があります。

ポイント1:品質と性能(要求仕様の充足)

最も優先されるべきは、資材が設計図書や仕様書で定められた品質基準性能要件を確実に満たしていることです。

これには、物理的な強度、耐久性、耐火性、安全性などが含まれます。公的な基準として、JIS(日本産業規格)への適合はもちろんのこと、特に公共工事や大規模プロジェクトでは、国土交通省が定める「公共建築工事標準仕様書」などに準拠しているかどうかが、品質を担保する上での重要な指標となります。要求仕様を満たさない資材の使用は、建物の安全性に直結する重大なリスクとなるため、決して妥協してはなりません。

[出典:国土交通省「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)」]

設計図面と仕様書を確認する建設作業員

ポイント2:コスト(イニシャルコストとライフサイクルコスト)

資材の購入費用(イニシャルコスト)は、プロジェクトの予算管理において非常に重要です。しかし、目先の安さだけで選定するのは危険です。

建設資材は長期にわたって使用されるため、メンテナンス費用、修繕の頻度、耐用年数(寿命)といった、将来的に発生する費用まで含めた「ライフサイクルコスト(LCC)」の視点で評価することが賢明です。初期費用は高くても、耐久性が高くメンテナンスが容易な資材の方が、トータルコストは安くなるケースも多々あります。

ポイント3:納期と供給の安定性

建設工事は厳密なスケジュール(工期)に基づいて進められます。必要な時期に、必要な量の資材が確実に現場に届かなければ、作業がストップし、工期全体に遅延が生じます。

そのため、サプライヤーが提示する納期の確実性(納期遵守率)は極めて重要です。また、天候不順、社会情勢の変化、物流の混乱など、不測の事態が発生しても安定的に資材を供給できるか(供給の安定性)も、サプライヤー選定の重要な判断材料となります。

ポイント4:法令遵守と環境への配慮

建設プロジェクトは、建築基準法、消防法、労働安全衛生法など、多岐にわたる法規制のもとで進められます。選定する資材が、これらの関連法規や各種基準に適合していることは絶対条件です。

近年では、法規制の遵守に加え、環境負荷の低減も強く求められています。リサイクル材の使用、有害物質の不使用、製造工程でのCO2排出量削減など、環境に配慮した資材を優先的に採用する「グリーン調達」の視点も、企業の社会的責任(CSR)として重要性を増しています。

[出典:環境省「グリーン購入法.net」]

ポイント5:サプライヤーの信頼性と実績

資材そのものの品質だけでなく、「誰から調達するか」も重要です。サプライヤーの信頼性は、過去の取引実績、業界での評判、経営の安定性などから判断します。

また、資材に関する専門的な問い合わせに対応できるか(技術的なサポート体制)、万が一、納品トラブルや品質問題が発生した際に、迅速かつ誠実に対応してくれるか(トラブル対応力)も、長期的なパートナーシップを築く上で見極めるべき重要な選定ポイントです。

資材調達における比較検討の視点とよくある悩み

複数の資材やサプライヤーを比較検討するプロセスは、資材調達業務の中核です。しかし、多くの担当者が「何を基準に比べればよいか」「コストと品質が両立しない」といった悩みに直面します。ここでは、客観的な比較を助けるツールと、調達担当者が抱えがちな具体的な悩みへの対処法を解説します。

資材・サプライヤー比較検討表の活用

価格、納期、品質、実績など、比較すべき項目は多岐にわたります。これらを個別に比較していると、判断が主観的になったり、重要な項目を見落としたりする可能性があります。

そこで有効なのが「比較検討表」です。検討すべき評価項目を縦軸に、候補となるサプライヤーや資材を横軸に設定し、情報を一覧化することで、各候補の長所・短所が可視化され、客観的かつ合理的な判断がしやすくなります。

資材・サプライヤー比較検討表(一例)

この表は、3社のサプライヤーを「品質」「コスト」「納期」などの共通基準で評価するための一例を示しています。

比較項目 サプライヤーA サプライヤーB サプライヤーC
品質・性能 ◎(要求仕様以上) ○(要求仕様通り) ○(要求仕様通り)
単価(税抜) 105,000円 100,000円 98,000円
納期 受注後3日 受注後5日 受注後7日
供給安定性 高(国内在庫) 中(一部海外) 高(国内在庫)
サポート体制 充実(専門担当者) 標準(電話窓口) 標準(電話窓口)
過去の実績 豊富 中程度 少ない
総合評価

比較検討のために倉庫に並べられた建設資材

【読者の不安解消】「コスト」vs「品質」どちらを優先すべきか?

これは、資材調達において最も頻繁に直面するジレンマです。

基本的な考え方は、「要求品質を満たすこと」が最優先です。建設プロジェクトにおいて品質は、建物の安全性、耐久性、そして利用者の生命に直結します。要求品質基準を下回る安価な資材を選定した結果、施工不良や将来的な重大な欠陥(瑕疵)につながれば、補修費用や信用失墜など、削減したコストをはるかに上回る損害が発生します。

賢明な調達とは、まず「要求品質を満たす」候補をすべてリストアップし、その中から「ライフサイクルコスト(LCC)」も含めて最もコストパフォーマンスに優れる選択肢を見つけることです。

【読者の不安解消】新規サプライヤー開拓のリスクは?

既存の取引先(サプライヤー)は、過去の実績から安心感がありますが、取引が固定化するとコスト競争力が低下したり、新しい技術や資材の情報が入りにくくなったりするデメリットもあります。コスト削減や品質向上のためには、新規サプライヤーの開拓も重要です。

ただし、新規取引には未知のリスクが伴います。リスクを管理するためには、以下のような方法が考えられます。

少量取引から開始する:まずは工期や品質への影響が少ない小規模な取引から始め、その対応力を見極める。
工場の視察や監査:可能であれば、サプライヤーの製造現場や品質管理体制を直接確認する。
第三者機関の評価や認証:ISO認証の取得状況や、信用調査会社のレポートなどを確認する。
複数の調達先を確保する:新規サプライヤーだけに依存せず、既存の取引先と併用する(リスク分散)。

建設現場の資材調達で避けるべき注意点

計画的な資材調達プロセスを構築しても、思わぬ落とし穴によってプロジェクトに支障をきたすケースがあります。ここでは、資材調達担当者が特に注意すべき、失敗に直結しやすい4つのポイントを解説します。これらを事前に把握し、対策を講じることがリスク管理の第一歩です。

過度なコストダウンによる品質低下

コスト削減は調達部門の重要な使命の一つですが、価格交渉に固執するあまり、本来必要な品質基準を妥協してしまうのは最も避けるべき事態です。サプライヤーに対して一方的かつ過度な値引きを要求すると、サプライヤーはコストを吸収するために、仕様書では見えにくい部分の品質を落としたり、安価な代替原料を使用したりする可能性があります。これは結果として、建物の安全性や耐久性を著しく損なう最大のリスク要因となります。

納期遅延のリスク管理不足

サプライヤーの提示する「納期」を鵜呑みにし、予備日(バッファ)を全く設けないタイトなスケジュールを組むのは危険です。資材の生産遅延、輸送中の事故、天候不良、通関トラブルなど、納期遅延を引き起こすリスクは常に存在します。サプライヤーの生産能力や物流体制を過信せず、重要な資材については代替調達ルートを検討しておく、あるいは最低限の在庫を確保するなど、工期全体に影響が出ないようリスク管理を行う必要があります。

仕様書の不備によるミスマッチ

発注側(調達担当者)のミスとして多いのが、仕様書の不備です。要求する品質、規格、寸法、色などが曖昧に記載されていたり、古いバージョンの仕様書を誤って送付してしまったりすると、意図したものと異なる資材が納品される原因となります。「いつも通り」という思い込みを捨て、発注前には必ず設計部門や現場担当者と連携し、最新かつ正確な仕様書であるかをダブルチェックする体制が不可欠です。

特定サプライヤーへの過度な依存

特定の資材について、調達先を1社に限定(シングルソース)することは、常にリスクを伴います。もしそのサプライヤーが、倒産、工場火災、災害、あるいは世界的な物流混乱などに見舞われた場合、資材供給が完全にストップし、プロジェクトが停止する「サプライチェーンの断絶」リスクを抱えることになります。安定供給のためには、重要な資材ほど複数のサプライヤーから調達できる体制(マルチソース)を構築し、リスクを分散させることが重要です。

まとめ:適切な資材選定(調達)が建設プロジェクト成功の鍵

建設現場における資材選定は、単なる「買い物」ではなく、プロジェクトの品質(Quality)コスト(Cost)工期(Delivery)、すなわち「Q-C-D」のすべてに直結する、極めて戦略的な業務です。

本記事で解説したように、設計図書に基づく明確な仕様決定、多角的な比較検討、そしてリスク管理を伴う計画的な調達プロセスを実行することが不可欠です。

プロジェクト成功のための資材調達 3つの鉄則
  1. 品質・性能の最優先:要求仕様を絶対に満たすこと。
  2. ライフサイクルコストでの評価:目先の購入費用だけでなく、長期的なコストで判断すること。
  3. 納期と供給安定性の確保:工期遅延リスクを徹底的に回避すること。

これらの重要なポイントを押さえた適切な資材調達を実践することが、建設プロジェクトを成功に導くための確実な一歩となります。

建設現場の資材選定・調達に関するよくある質問

Q1. 資材の「グリーン調達」とは何ですか?
A1. 「グリーン調達」とは、製品やサービスを購入する際に、価格や品質だけでなく、環境への負荷ができるだけ少ないものを優先的に選定することです。建設業界においては、具体的に以下のような資材を選ぶ活動を指します。
・リサイクル材の使用率が高い資材
・有害な化学物質を含まない、または使用を抑制している資材
・製造工程や輸送時のCO2排出量が少ない資材
・耐久性が高く、長寿命な資材
・省エネルギー性能の高い(断熱性など)資材
これらは、環境省が定める「グリーン購入法」などに基づき、公共工事だけでなく民間工事でも推進されています。

Q2. 複数のサプライヤーから見積もりを取ることを何と呼びますか?
A2. 一般的に「相見積もり(あいみつもり)」または「見積もり合わせ」と呼びます。同一の条件(仕様書、数量、納期など)で複数のサプライヤーに見積書を依頼し、提示された価格や条件を比較検討する手法です。これにより、価格や条件の妥当性を客観的に判断できるほか、競争原理が働くことで、より有利な条件での調達が期待できます。

Q3. 資材調達のコストを削減するコツはありますか?
A3. いくつかの代表的な方法があります。ただし、いずれの方法も「品質を低下させない」ことが大前提です。
相見積もりの徹底:上記Q2の通り、複数のサプライヤーを比較し、競争力のある価格を引き出します。
VE(バリュー・エンジニアリング)案の検討:要求される品質や機能を維持したまま、より安価な材料や工法への代替案(VE案)を検討・採用します。
一括発注(ボリュームディスカウント):複数の現場や将来の需要を見越して、使用量が確定している資材を一度にまとめて発注することで、数量割引(ボリュームディスカウント)を交渉します。
早期発注:資材価格の変動(高騰)リスクを避けるため、価格が安定している時期に早めに発注・契約を済ませることも有効です。

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