「入札」の基本知識

一般競争・指名競争・随意契約の違いとは?特徴を整理


更新日: 2025/10/23
一般競争・指名競争・随意契約の違いとは?特徴を整理

この記事の要約

  • 入札の3基本方式(一般競争・指名競争・随意契約)を解説
  • 各方式のメリット・デメリットを発注者・受注者別に整理
  • 方式決定の理由や契約までの流れ、比較表で違いが明確に

一般競争入札とは?最も透明性の高い入札方式

一般競争入札(いっぱんきょうそうにゅうさつ)とは、国や地方公共団体などの公的機関が契約を行う際の最も基本的な入札方式です。原則として、公告で定められた参加資格を満たしていれば、不特定多数の事業者が参加できるため、最も競争性、公平性、透明性が高いとされています。

一般競争入札の基本的な特徴

一般競争入札の最大の特徴は、その「門戸の広さ」「透明性の高さ」にあります。発注者は、契約に必要な資格要件(例:業種、過去の実績、技術者の配置など)をあらかじめ「公告」として公表します。

その要件を満たす事業者であれば、企業の規模や過去の取引実績に関わらず、誰でも入札に参加する機会が与えられます。これにより、特定の業者との癒着を防ぎ、公正な競争を促進することが目的とされています。国の会計法においても、契約は原則として一般競争入札によるものと定められています。

[出典:e-Gov法令検索「会計法(昭和二十二年法律第三十五号)」第九章 契約 第二十九条の三]

一般競争入札のメリット・デメリット

この方式は、発注者側・受注者側それぞれに異なる利点と欠点があります。

発注者側のメリット・デメリット

メリット:
 ・競争性の確保: 多くの事業者が参加するため、競争原理が働き、より有利な価格(コスト削減)や優れた条件での契約が期待できます。
 ・公平性・透明性の担保: 手続きが公明正大であるため、社会的な説明責任を果たしやすく、不正や癒着の防止につながります。
デメリット:
 ・手続きの煩雑さ: 公告、参加資格の確認、多数の入札者の審査など、契約締結までに多くの時間と事務的コストがかかります。
 ・品質の担保が難しい場合がある: 価格のみで判断する場合、技術力や信頼性が低い事業者でも落札する可能性があり、契約履行の品質に懸念が生じることがあります。

受注者側のメリット・デメリット

メリット:
 ・新規参入の機会: 発注者との取引実績がなくても、資格要件を満たし、優れた提案や価格を提示できれば、公平に落札のチャンスがあります。
 ・公正な競争: 恣意的な選定がなく、ルールに基づいて競争が行われるため、自社の実力を試す場となります。
デメリット:
 ・競争の激化: 参加者が多いため、落札できる確率が低くなりがちです。特に価格競争が激しくなり、利益率が低下するリスクがあります。
 ・入札参加の負担: 落札できるかどうかにかかわらず、仕様書の確認や入札書類の作成に一定のコストと労力が必要です。

入札書類を確認するビジネスパーソンたち

一般競争入札の基本的な流れ

一般競争入札は、公告から契約締結まで、主に以下の7ステップで進められます。

  1. 公告(入札情報の公開):
    発注者が、契約内容、参加資格、入札日時、場所などの情報を、官報、掲示板、ウェブサイトなどで公表します。
  2. 参加資格の確認・申請:
    受注希望者は、公告された参加資格(例:全省庁統一資格や自治体独自の資格)を有しているか確認し、必要な場合は資格確認申請書を提出します。
  3. 仕様書・設計書などの交付:
    発注者から、業務の詳細が記載された仕様書や設計書などを受け取ります。
  4. 質問・回答:
    仕様書などに関して不明点がある場合、指定された期間内に質問書を提出します。発注者は後日、全参加希望者に対して公平に回答を公開します。
  5. 入札(入札書の提出):
    指定された日時・場所で、金額などを記載した入札書を提出(または郵送・電子入札システムで送信)します。
  6. 開札・落札者の決定:
    発注者が入札書を開封し、原則として予定価格の範囲内で最も有利な条件(通常は最低価格)を提示した事業者を落札者として決定します。
  7. 契約締結:
    落札者と発注者の間で正式な契約書を取り交わし、契約が成立します。

指名競争入札とは?特定の参加者による入札

指名競争入札(しめいきょうそうにゅうさつ)とは、発注者側が、特定の基準(技術力、信頼性、実績など)に基づき、入札に参加できる事業者をあらかじめ「指名」する方式です。指名された事業者間でのみ競争が行われる点が最大の特徴です。

指名競争入札の基本的な特徴

指名競争入札は、「競争性」「品質の担保」を両立させるために用いられる方式です。一般競争入札では参加者の質が担保しにくい場合や、逆に契約の性質上、一般競争に付する必要がない、または不適当と認められる場合に採用されます。

発注者は、過去の実績、経営状況、技術力などを勘案し、「この業務を任せられる」と判断した複数の事業者をリストアップして指名します。指名されなかった事業者は、原則としてその入札に参加することはできません。

指名競争入札のメリット・デメリット

参加者が限定されるため、発注者・受注者双方にとって一般競争入札とは異なるメリット・デメリットが生じます。

発注者側のメリット・デメリット

メリット:
 ・品質の担保: あらかじめ信頼できる事業者や高い技術力を持つ事業者を選定するため、契約の履行における品質や信頼性が一定レベル以上で期待できます。
 ・手続きの簡素化: 参加者が限定されるため、一般競争入札に比べて資格審査や開札などの事務手続きが簡略化できます。
デメリット:
 ・競争性・透明性の低下: 参加者が限られるため、一般競争ほどの価格競争は期待できず、コスト削減効果が薄れる可能性があります。
 ・指名理由の説明責任: なぜ特定の事業者だけを指名したのか、その選定理由の公平性・妥当性を問われる可能性があり、客観的な基準の整備が必要です。

受注者側のメリット・デメリット

メリット:
 ・落札の可能性向上: 指名された時点で競争相手が限定されるため、一般競争入札に比べて落札できる確率が高まります。
 ・実績・信頼の証: 発注者から指名されること自体が、その事業者の実績や信頼性が評価されている証となります。
デメリット:
 ・参加機会の制限: 発注者から指名されなければ、そもそも入札に参加する機会を得ることができません。新規参入事業者にはハードルが高い方式です。
 ・指名業者間の競争: 指名される事業者は、いずれも一定の実力を持っているため、指名業者間での競争が厳しくなる場合もあります。

指名競争入札の基本的な流れ

指名競争入札の手続きは、主に以下の6ステップで進められます。「公告」の代わりに「指名」が行われる点が特徴です。

  1. 指名業者の選定・通知:
    発注者が内部基準に基づき、入札に参加させる事業者を選定し、対象事業者へ「指名通知」を送付します。
  2. 仕様書・設計書などの交付:
    指名通知を受けた事業者は、発注者から仕様書や設計書などを受け取ります。
  3. 質問・回答:
    仕様書などに関して不明点がある場合、指定された期間内に質問を行います。発注者は指名業者全員に回答を共有します。
  4. 入札(入札書の提出):
    指定された日時・場所で、入札書を提出します。
  5. 開札・落札者の決定:
    発注者が入札書を開封し、予定価格の範囲内で最も有利な条件(通常は最低価格)を提示した事業者を落札者として決定します。
  6. 契約締結:
    落札者と発注者の間で正式な契約書を取り交わします。

随意契約とは?入札を行わない契約方式

随意契約(ずいいけいやく)とは入札(競争)を行わず、発注者が任意で特定の事業者を選定し、交渉の上で契約を締結する方式です。「特命契約」と呼ばれることもあります。競争原理が働かないため、会計法令上、その適用は限定的なケースに限られています。

随意契約の基本的な特徴

随意契約の最大の特徴は、「非競争性」「迅速性」です。一般競争入札や指名競争入札が「競争」を前提としているのに対し、随意契約は特定の相手方と直接交渉して契約内容を決定します。

ただし、公平性やコスト削減の観点から、随意契約の採用は厳しく制限されています。国や地方公共団体の契約においては、法令(会計法や地方自治法施行令など)で定められた特定の要件を満たさなければ、原則として随意契約は認められません。

随意契約が認められる主なケース

随意契約が例外的に認められるのは、競争入札に適さない、または競争入札を行うことが不利になる合理的な理由がある場合です。

[出典:e-Gov法令検索「地方自治法施行令(昭和二十二年政令第十六号)」第百六十七条の二]

主なケースとして以下のようなものが挙げられます。
・契約の性質や目的が競争入札に適さない場合(例:特定の者しか履行できない技術、著作権など)
・緊急の必要がある場合(例:災害対応など、入札手続きを踏む時間的余裕がない)
・競争入札に付することが不利と認められる場合(例:現在使用している機器の部品交換など)
少額の契約である場合(少額随意契約):
 ・契約金額が法令で定める一定の基準額に満たない場合。事務手続きの効率化のために認められます。

随意契約のメリット・デメリット

競争を行わないこの方式は、他の2方式とは大きく異なるメリット・デメリットがあります。

発注者側のメリット・デメリット

メリット:
 ・迅速な契約締結: 入札手続きが不要なため、契約相手の選定から契約締結までを迅速に行うことができます。緊急時に有効です。
 ・信頼できる相手の選定: 過去の実績や技術力を熟知している、信頼できる特定の事業者と確実に契約できます。
デメリット:
 ・コストが高くなる可能性: 競争原理が働かないため、提示された価格が適正であるかの判断が難しく、コストが割高になるリスクがあります。
 ・透明性・公平性の欠如: 契約相手の選定プロセスが不透明になりがちで、癒着や不正の温床となるリスクがあり、選定理由の明確な説明責任が求められます。

受注者側のメリット・デメリット

メリット:
 ・競争なしでの契約: 発注者から選定されれば、競争を経ずに契約を獲得できる可能性があります。
 ・安定した取引: 高い技術力や特殊なノウハウが評価されれば、継続的な取引につながる可能性があります。
デメリット:
 ・機会の不透明性: どのような基準で選定されるかが不透明であり、発注者との関係性や実績がない新規事業者は、契約機会を得ることが極めて困難です。
 ・価格交渉力: 発注者側の言い値に近い形での契約となりやすく、適正な利益を確保するための価格交渉が難しい場合があります。

【比較表】一般競争入札・指名競争・随意契約の違い

ここまで解説した3つの契約方式(一般競争入札、指名競争入札、随意契約)の特徴と違いを明確にするため、一覧表にまとめます。それぞれの方式がどのような場面で使われるのかを比較検討してください。

3つの契約方式を一覧で徹底比較

以下は、3つの契約方式の主な違いを比較した表です。

比較項目 一般競争入札 指名競争入札 随意契約
競争の有無 あり(原則自由参加) あり(指名業者間) なし(原則)
参加者 不特定多数(資格要件あり) 発注者が指名した少数・多数 発注者が選定した特定者
透明性・公平性 非常に高い 中程度(指名過程による) 低い(理由の明確化が必要)
手続きの迅速性 時間がかかる(煩雑) 中程度 早い(簡素)
コスト削減効果 高い(競争により期待できる) 中程度 低い(競争がないため)
適した場面 公平性・透明性を最重視する場合、広く技術や価格を募る場合 一定の品質・技術力を担保したい場合、一般競争に適さない場合 緊急時、契約相手が特定される場合、少額の場合

3つの契約方式の選択肢を比較検討するビジネスパーソン

受注者(参加者)側から見た各方式への向き合い方

受注を目指す事業者としては、それぞれの入札・契約方式の特性を理解し、異なる戦略で臨む必要があります。

方式別:受注者側の戦略ポイント

一般競争入札の場合:
 ・情報収集力: 各省庁や自治体の調達ポータルサイトを常にチェックし、公告を見逃さないことが重要です。
 ・価格競争力: 多くのライバルと競争するため、自社のコスト競争力を高めておく必要があります。
 ・資格要件の確認: 「全省庁統一資格」や自治体ごとの参加資格をあらかじめ取得・更新しておくことが大前提です。
指名競争入札の場合:
 ・実績作りと信頼関係: 発注者から「指名したい」と思われる存在になるため、関連業務での着実な実績作りや、発注機関との良好な関係構築が求められます。
 ・技術力のアピール: 価格だけでなく、自社の技術力や専門性を日頃から発信し、認知度を高めておくことが有効です。
随意契約の場合:
 ・独自の強みの保持: 「この会社でなければ無理だ」と言われるような、特許技術、特殊なノウハウ、専門知識を保持・強化することが鍵となります。
 ・迅速な対応力: 緊急時などに「すぐに動ける」体制を整えておくことも、選定理由の一つとなり得ます。

初めての入札・契約でよくある不安

入札や契約方式に関して、特に経験の浅い担当者が抱きがちな疑問や不安について、基本的な考え方をQ&A形式で解説します。

Q. どの契約方式が一番使われていますか?

A. 発注者(国、地方公共団体など)や契約の目的・金額によって異なりますが、国の会計法や地方自治法では「一般競争入札」が原則と定められています。これは、公平性、透明性、経済性を最も確保できる方式だからです。

ただし、実際には手続きの効率化のため、一定金額以下の契約では「少額随意契約」が適用されたり、専門性が求められる業務では「指名競争入札」や後述する「企画競争(プロポーザル方式)」が採用されたりするケースも多く見られます。

Q. 公平性はどのように担保されているのですか?

A. 公平性を損なう最大の要因は「入札談合」(参加業者間で事前に落札者や価格を取り決める不正行為)です。これを防ぐため、以下のような制度が設けられています。

法令による規制: 独占禁止法や入札談合等関与行為防止法により、談合は厳しく禁じられており、違反した場合は課徴金や指名停止、刑事罰の対象となります。
情報公開: 入札結果(落札者、落札金額)や、随意契約の場合はその理由を公表することが義務付けられている場合が多く、透明性を高めています。
通報・苦情処理制度: 不正が疑われる場合の通報窓口や、入札手続きに対する苦情申し立ての仕組みが整備されています。

[出典:公正取引委員会「入札談合の防止に向けて」]

Q. 参加資格がないと入札には参加できませんか?

A. はい、一般競争入札や指名競争入札では、原則として参加資格が必要です。これは、契約を確実に履行できる能力があるかを事前に審査するためです。

例えば、国の機関の入札に参加するには「全省庁統一資格」の取得が必要です。これは、事業者の業種、経営状況、実績などを審査し、A, B, Cなどの等級(ランク)を付与するものです。地方公共団体の場合も、各自治体が独自に定める参加資格(物品、工事、コンサルなど)の登録が必要となります。これらの資格は定期的に更新が必要なため注意が必要です。

[出典:デジタル庁「統一資格審査申請受付サイトのご案内」]

まとめ:自社にあった入札・契約方式を理解しよう

本記事では、公的機関などの契約で用いられる3つの基本方式、「一般競争入札」「指名競争入札」「随意契約」について、それぞれの定義、特徴、メリット・デメリット、手続きの流れを比較・解説しました。

3つの契約方式のまとめ

一般競争入札:
 公平性・透明性が最も高い、開かれた競争方式。
指名競争入札:
 発注者が信頼できる業者を選んで競争させる、品質担保重視の方式。
随意契約:
 競争を行わず特定の相手と契約する、迅速性・専門性重視の方式。

発注者側は、契約の目的、金額、緊急性、法令の定めに基づき、これらの方式を適切に使い分ける必要があります。

受注者側にとっては、これらの入札方式の違いを正しく理解することが、公共調達ビジネスで成果を上げるための第一歩です。自社の強み(価格競争力、技術力、専門性)がどの方式で最も活きるのかを見極め、戦略的に取り組んでいきましょう。

入札に関するよくある質問

Q. 企画競争(プロポーザル方式)との違いは何ですか?

A. 一般競争入札や指名競争入札が、主に「価格」によって落札者を決定する(価格競争)のに対し、企画競争(プロポーザル方式)は、価格だけでなく「提案内容」を重視して契約相手を選定する方式です。特にコンサルティング業務やシステム開発など、成果物の品質が価格以上に重要な場合に用いられます。参加者から企画提案書を提出させ、その内容(技術力、実施体制、創造性など)を総合的に評価して最も優れた提案を行った事業者を選定します。

Q. 予定価格とは何ですか?

A. 予定価格とは、発注者(国や自治体など)が、その契約を締結するにあたって「上限」としてあらかじめ設定する価格のことです。この価格は、仕様書や設計書に基づき、適正な原価を積み上げて算出されます。開札の結果、入札価格がこの予定価格を超過していた場合、その入札は原則として無効となります。入札の公平性を保つため、予定価格は通常、開札時まで公表されません。

Q. 最低制限価格とは何ですか?

A. 最低制限価格とは、予定価格とは逆に、発注者が設定する「下限」の価格のことです。公共工事や一部の業務委託において、過度な価格競争による品質の低下(手抜き工事、不当な労働条件など)を防ぐ目的で設けられます。入札価格がこの最低制限価格を下回った場合、その事業者は(たとえ最低価格であっても)落札者となれない(失格となる)のが一般的です。すべての入札で設定されるわけではありません。

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