「入札」の基本知識

公共工事の入札とは?基本の仕組みと選ばれる条件を解説


更新日: 2025/10/21
公共工事の入札とは?基本の仕組みと選ばれる条件を解説


summaries:

  • 公共工事の入札とは?公平な仕組み
  • 入札参加から契約までの5ステップ
  • 落札するための3つの重要な条件

公共工事の「入札」とは?基本的な仕組みを解説

公共工事の契約において、なぜ「入札(にゅうさつ)」という競争手続きが必要なのでしょうか。ここでは、入札の基本的な定義、その目的(公平性・透明性・経済性)、そして主な種類(一般競争・指名競争・随意契約)について解説します。まずは、公共工事の入札に参加する上で最も基本となる仕組みを理解しましょう。

公共工事の「入札」とは、国や地方公共団体(役所など)が道路、橋、学校といった公共の施設をつくる工事(公共工事)を発注する際に、その工事を請け負いたい複数の企業から見積もりや提案を募り、最も適切な条件(価格や技術力など)を提示した企業を選ぶ手続きのことです。
この仕組みは、税金を公平かつ効率的に使うために不可欠なものです。

入札の目的:なぜ競争が必要なのか?

公共工事はその財源の多くを税金で賄っています。そのため、発注者である国や地方公共団体は、工事の実施において以下の3点を担保する責任があります。入札は、これらを実現するための透明性の高い手続きとして機能しています。

公平性:特定の企業に不当に利益が渡ることがないよう、参加資格を持つすべての企業に平等な競争の機会を与えます。
透明性:誰が、いくらで、どのような理由で選ばれたのかという選定プロセスを明確にし、外部からの監視を可能にすることで不正行為を防ぎます。
経済性:競争原理を働かせることにより、発注者はより安価で、かつ質の高い工事を期待できます。これにより、税金の効率的な執行(無駄遣いの防止)を目指します。

公共工事入札の主な種類

入札にはいくつかの方式が存在し、工事の規模、専門性、緊急性などによって使い分けられます。まずは、代表的な3つの方式の違いを理解することが重要です。

(公共工事入札の主な3方式の比較表)

種類 概要 特徴
一般競争入札 発注者が定めた参加資格(例:経営事項審査の点数、所在地など)を満たしていれば、原則として誰でも参加できる方式です。 最も公平性・透明性が高いとされ、多くの公共工事で採用されています。競争参加者が多くなる傾向があります。
指名競争入札 発注者が過去の実績や技術力などを考慮し、あらかじめ指名した優良な企業のみが参加できる方式です。 高度な技術力や専門性が求められる工事、または小規模な工事で採用されることがあります。
随意契約 競争入札を行わず、発注者が特定の企業を選んで契約する方式です。「特命随意契約」とも呼ばれます。 契約の性質や目的が競争に適さない場合、緊急を要する場合、またはその企業しか施工できない特殊な工事などに限定されます。

「入札参加資格」とは?

公共工事の入札に参加するためには、まず「入札参加資格」を取得し、発注機関の「有資格者名簿」に登録される必要があります。これは、発注者が「この企業は公共工事を任せるに足るか」を事前に審査する制度です。

審査では、主に以下の点が確認されます。これらは入札参加のための必須要件です。

建設業の許可:施工したい工事の種類に応じた建設業許可(大臣許可または知事許可)を保有していること。
経営事項審査(経審)の受審:企業の経営状態、技術力、社会性などを客観的に数値化する「経営事項審査(けいえいじこうしんさ、通称:経審)」を受けていること。
税金の完納:国税や地方税(法人税、消費税、事業税など)に滞納がないこと。
法令遵守:営業停止処分や指名停止処分を受けていないこと、反社会的勢力との関係がないこと。

これらの審査をクリアして初めて、具体的な入札案件に参加するスタートラインに立てます。

[出典:国土交通省 経営事項審査]

公共工事の入札参加から契約までの流れ

入札参加資格を取得したら、次はいよいよ実際の入札プロセスに進みます。情報収集から始まり、応札、そして契約締結までには、決まった手順があります。ここでは、公共工事の入札における一般的な流れを5つのステップで解説します。

オフィスのデスクでパソコンを使い入札情報を確認する建設作業員

ステップ1:情報収集と入札公告の確認

すべての入札は、発注情報が公開される「入札公告(にゅうさつこうこく)」から始まります。

  1. 情報収集:国や自治体のウェブサイト、または入札情報サービス(例:国土交通省の「入札情報サービス(PPI)」、日本建設情報総合センター(JACIC)など)を定期的に確認します。
  2. 公告内容の確認:参加したい案件を見つけたら、公告(公示)を熟読します。ここには、工事名、場所、工期、参加資格(経審の点数や所在地要件など)、入札方式、入札日時、設計図書の配布方法などが記載されています。
  3. 参加案件の選定:自社の技術力、人員体制、地理的条件に合った案件を選定します。

ステップ2:設計図書(仕様書)の入手と内容確認

参加する案件を決めたら、その工事の具体的な内容が記された「設計図書(せっけいとしょ)」や「仕様書(しようしょ)」を入手します。

図書の入手:公告で指定された方法(ウェブサイトからのダウンロード、窓口での購入・閲覧など)で入手します。
内容の精査:図面、仕様書、数量総括表などを詳細に確認します。どのような材料を使い、どのような工法で、どれくらいの品質を求められるのかを正確に把握します。
質疑応答:不明点や疑問点がある場合は、定められた期間内に発注者へ質問書を提出します。回答は全参加者に公開されます。

ステップ3:見積もり(積算)と入札書の作成

設計図書に基づき、その工事をいくらで請け負うかを計算します。この専門的な見積もり作業を「積算(せきさん)」と呼びます。

費用の算出:設計図書から必要な材料費、人件費(労務費)、機械の費用(機械経費)、現場運営費(現場管理費)、本社経費(一般管理費)などを細かく算出します。
利益の計上:算出した原価に適正な利益を加えます。
入札書の作成:最終的に決定した金額(入札金額)を、発注者指定の「入札書」に記入します。金額の記載ミスや押印漏れは無効となるため、細心の注意が必要です。

ステップ4:入札(応札)と開札

定められた日時と場所で、入札書を提出します。この行為を「応札(おうさつ)」と呼びます。

応札:持参、郵送、または(近年主流の)電子入札システムを通じて、期限までに入札書を提出します。
開札(かいさつ):入札締切後、発注者と入札参加者(またはその代理人)の立ち会いのもと、提出された入札書が一斉に開封(またはシステム上で開示)されます。各社がいくらで応札したかが公表されます。

ステップ5:落札者の決定と契約

開札後、発注者が定めたルールに基づき、契約する企業(落札者)が決定されます。

落札者の決定:最も有利な条件(詳細は次章)を提示した企業が落札者として選ばれます。
資格確認:落札候補者となった企業に対し、入札参加資格を改めて満たしているかどうかの確認(事後審査)が行われる場合があります。
契約:審査を通過すると正式に落札者として決定され、発注者と工事請負契約書を取り交わします。これで正式に工事を受注したことになります。

入札で選ばれる(落札する)ための重要な条件

公共工事の入札は、単に「一番安い金額」を提示した企業が必ず選ばれるわけではありません。工事の品質を担保しつつ、公正な競争を行うため、いくつかの重要なルール(条件)が定められています。落札を勝ち取るためには、これらの条件を正確に理解することが不可欠です。

落札方式の種類を理解する

落札者を決定するルールは、主に「価格」だけで決めるか、「価格と技術力」で総合的に決めるかの2種類に大別されます。

(落札者決定方式の主な種類)

落札方式 決定方法 重視される点
価格競争方式
(最低価格落札方式)
原則として、定められた価格の範囲内(後述)で、最も低い価格を提示した企業が落札します。 価格
(ただし、品質確保のため一定の下限価格(最低制限価格)が設定されるのが一般的です)
総合評価落札方式 価格だけでなく、企業の技術力(過去の実績、施工計画の品質、配置技術者の能力など)も点数化します。価格点と技術点の合計が最も高い企業が落札します。 価格 + 品質・技術力
(難易度の高い工事や、品質が特に重視される工事(例:橋梁、トンネル)で採用されます)

条件1:予定価格と最低制限価格の範囲内であること

入札には、発注者があらかじめ設定している2つの重要な「価格ライン」が存在します。これらは原則として入札参加者には公表されません。

複数の重機と作業員が稼働する大規模な公共工事の建設現場

予定価格(よていかかく):発注者が見積もった工事費の上限額です。設計図書に基づいて適正に積算された額であり、この価格を1円でも超える金額で応札すると、その時点で失格となります。
最低制限価格(さいていせいげんかかく):安すぎる価格での受注(ダンピング受注)を防ぐための下限額です。品質の低下、下請け企業へのしわ寄せ、労働環境の悪化を防ぐ目的があり、この価格を下回ると、原則として失格となります。

つまり、落札するためには「最低制限価格」以上かつ「予定価格」以下という、非常に狭い価格帯の中で、最も競争力のある価格を提示する必要があります。

条件2:正確な積算と適正な入札価格

落札の成否を分ける最大の要因は「積算」の精度です。設計図書を正確に読み解き、自社のノウハウを駆使して、適正な原価を算出する能力が求められます。

赤字受注の回避:落札したい一心で価格を下げすぎると、最低制限価格はクリアできても、いざ工事を始めたら赤字になってしまうリスクがあります。
競争力のある価格:逆に、安全を見すぎて価格が高すぎると、予定価格の範囲内であっても他社に負けてしまいます。

「適正な利益を確保しつつ、最低制限価格をわずかに上回り、かつ他社よりも安い」という絶妙な価格(適正な入札価格)を導き出すことが、特に価格競争方式において重要です。

条件3:技術力や実績(総合評価方式の場合)

近年増加している総合評価落札方式の入札では、価格以外の要素も落札を左右します。応札時には、入札書(価格)と合わせて「技術提案書」の提出を求められます。

評価される項目の例:
施工計画:その工事をいかに効率よく、安全に、高品質に実施するかの具体的な計画。
配置技術者:工事現場に配置する主任技術者や監理技術者の資格、経験、過去の表彰歴など。
同種工事の実績:過去に、今回の案件と類似した(同種の)工事を問題なく完成させた実績。
企業の技術力:保有する特許技術、ISO認証の取得状況、若手技術者の育成状況など。

これらの「技術提案」が発注者から高く評価されれば、価格点と合計した「総合評価点」がトップになり、入札価格が他社より多少高くても落札できる可能性があります。

公共工事の入札に関する注意点とよくある不安

公共工事の入札は、ルールが厳格で専門性も高いため、初めて参加する企業や、参加していてもなかなか落札できない企業にとっては多くの不安が伴います。ここでは、入札参加にあたっての注意点と、よくある課題への対策を整理します。

初めての入札で失敗しないためのポイント

入札は、一つのミスが即「失格」につながる厳しい世界です。特に初心者が注意すべき点をまとめます。

初めての入札で注意すべき4つのポイント

1. 公告内容と設計図書を徹底的に読み込む
参加資格、入札日時、提出書類の種類と様式、工事の品質基準など、細かな条件を見落とさないよう、複数人でダブルチェックしましょう。

2. 無理のない積算を心がける
「とにかく落札したい」と焦り、採算度外視で安すぎる金額を入れるのは危険です。まずは自社の適正な原価と利益を把握し、赤字受注にならない価格設定が最優先です。

3. 提出書類の不備をなくす
入札書への金額の記載ミス、社名や代表者名の誤記、押印漏れ、添付書類の不足などは、すべて失格の対象となります。提出前に完璧に確認してください。

4. 電子入札の準備を整える
現在は多くの入札が「電子入札」システムで行われます。専用のICカード(電子証明書)の取得、パソコンの設定、システムの操作練習など、事前の準備が不可欠です。

「落札できない」が続く場合の対策

入札は競争であるため、連敗することもあります。しかし、それが続く場合は、自社の取り組みに何らかの原因がある可能性が高いです。

積算精度の見直し:開札結果(落札価格や他社の応札価格)は公表されます。自社の積算価格が、落札価格や最低制限価格(推定)とどれだけ乖離していたかを分析し、積算の癖や見落としを修正します。
競合分析:いつも競合する企業はどこか、その企業はどの程度の価格帯で応札してくるか、傾向を分析します。
技術提案の強化(総合評価方式の場合):価格で勝負できない場合、技術提案書の内容を磨き上げ、技術点で加点を狙います。発注者が何を評価しているのか、過去の評価結果などを研究します。
参加案件の見直し:自社の強みが活かせない案件や、競争が激しすぎる案件ばかりに参加していないか見直します。自社の得意分野や、競合が少ない案件を戦略的に狙うことも重要です。

談合などの不正行為は厳禁

入札の公平性を著しく害する行為は、法律で厳しく禁じられています。最も代表的なものが「談合」です。

談合とは:入札に参加する企業同士が事前に話し合い、落札する企業や入札価格を不正に決めておくことです。これは競争原理を歪める重大な犯罪行為(独占禁止法違反、入札妨害罪など)です。
ペナルティ:談合が発覚した場合、課徴金や刑事罰が科されるだけでなく、発注機関から長期間の「指名停止処分(公共工事の入札に一切参加できなくなる)」を受けます。これは企業の信用を失墜させ、経営の存続自体を危うくする、非常に重い処分です。

[出典:公正取引委員会 入札談合]

まとめ:公共工事の入札の仕組みを理解し、準備を進めよう

この記事では、公共工事の入札について、その基本的な仕組みから参加の流れ、そして落札者に選ばれるための重要な条件までを網羅的に解説しました。最後に、本記事の重要なポイントをまとめます。

公共工事の入札:重要ポイントのまとめ

入札とは:公共工事を発注する際の公平・透明・経済的な契約方式である。
参加資格:建設業許可や経営事項審査(経審)などに基づき、「入札参加資格」を取得することが第一歩である。
基本的な流れ:「情報収集(公告) → 設計図書確認 → 積算 → 応札 → 開札・契約」という明確なステップで進む。
落札の条件(価格)「予定価格と最低制限価格の範囲」内で、競争力のある価格を提示することが基本である。
落札の条件(技術)「総合評価方式」では、価格に加えて、施工計画や過去の実績といった技術力も評価される。

公共工事の入札は、ルールが厳格に定められている一方で、それをクリアすればどの企業にも平等にチャンスがある世界です。正確な積算能力と、案件によっては高い技術提案能力が求められます。まずは自社の状況を確認し、入札参加資格の取得や、電子入札の準備から着実に進めてみましょう。

公共工事の入札に関するよくある質問(Q&A)

最後に、公共工事の入札に関して、特に多く寄せられる質問とその回答を紹介します。初めての入札参加や、手続き上の疑問解決にお役立てください。

Q. 入札参加資格は誰でも取れますか?

A. 誰でも取れるわけではありません。まず、施工したい業種の「建設業許可」を保有していることが大前提です。その上で、企業の経営状態や技術力を客観的に評価する「経営事項審査(経審)」を毎年受けていること、各種税金を滞納していないこと、法令違反(例:営業停止処分)などがないことといった、発注機関が定める一定の要件を満たす必要があります。まずは自社がこれらの要件を満たしているか確認することから始まります。

Q. 電子入札とは何ですか?

A. 従来、入札は指定された場所に出向き、紙の入札書を提出する方法が主流でした。しかし現在では、インターネットを利用して入札手続き(公告の確認、設計図書のダウンロード、応札、開札結果の確認など)を行う「電子入札」が一般的です。電子入札に参加するためには、多くの場合、専用のICカード(電子証明書)とカードリーダーの購入、および対応するパソコン環境の準備が別途必要になります。

Q. 落札できたら、必ず契約しなければなりませんか?

A. はい、原則として契約義務が生じます。入札書を提出(応札)するということは、「その金額と条件で工事を請け負います」という法的な意思表示をしたことになるためです。正当な理由なく契約を辞退した場合、ペナルティとして一定期間「指名停止処分」が科され、その間の入札参加が一切できなくなるなど、重大な不利益を被る可能性があります。そのため、積算は慎重に行い、実行不可能な金額で応札してはいけません。

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