建設業における入札とは?種類と流れを解説

この記事の要約
- 建設業における入札の目的と法的根拠を解説
- 主流の総合評価落札方式など主要な入札方式を比較
- 公共工事の入札参加から契約までの流れを8ステップで紹介
建設業における入札の基本知識
公共工事の受注や大規模プロジェクトへの参画を目指す上で、「入札(にゅうさつ)」は避けて通れないプロセスです。この章では、入札の基本的な目的と、なぜこの制度が重要視されているのかを、その根拠となる法律にも触れながら解説します。事業拡大を目指す上で、まず押さえておくべき最も重要な知識です。
そもそも入札とは?目的と仕組み
入札とは、国や地方公共団体などの工事発注者が、複数の受注希望業者に対して契約内容や技術的な要求事項を提示し、各業者から価格などを記載した入札書を提出させ、最も有利な条件を提示した業者と契約を結ぶための一連の手続きを指します。
その最大の目的は、税金を原資とする公共事業などにおいて、以下の3つの原則を確保することにあります。
- 入札の3大原則
・公平性:特定の業者に偏ることなく、参加資格を持つすべての業者に均等な機会を提供する。
・競争性:複数の業者間で健全な価格・技術競争を促し、コストの適正化を図る。
・透明性:発注から契約までのプロセスを公開し、不正行為(談合や癒着)を防止する。
これらの原則に基づき、公的な資金を最も効率的かつ適正に執行することを目指しています。
なぜ建設業で入札が行われるのか【法的根拠】
建設工事、特に公共事業で入札が原則とされるのは、それが法律によって厳格に定められているためです。国の機関が契約を締結する際は会計法、地方公共団体では地方自治法により、「契約は原則として一般競争入札によらなければならない」と明確に規定されています。
これは、建設工事が国民の生活に不可欠な社会資本であり、その原資の多くが税金であるため、発注プロセスに極めて高い透明性と公平性が求められるからです。もし特定の業者との随意契約(任意で相手を選ぶ契約)が横行すれば、不正の温床となりかねません。入札制度は、こうしたリスクを法的に排し、健全な競争環境を通じて、より質の高い工事をより経済的な価格で実現するために不可欠な仕組みなのです。
[出典:e-Gov法令検索「会計法」第二十九条の三]
[出典:e-Gov法令検索「地方自治法」第二百三十四条]

種類を比較!建設工事の主要な入札・契約方式
建設業の入札には、会計法などに基づき、案件の性質や規模に応じていくつかの方式が存在します。特に近年では価格だけでなく技術力も評価する方式が主流です。ここでは代表的な4つの方式を取り上げ、それぞれの特徴を比較します。自社がどの方式の入札に参加すべきかを見極めるための判断材料としてください。
以下は、主要な入札・契約方式とそれぞれの特徴をまとめた比較表です。
| 方式名 | 概要 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 一般競争入札 | 参加資格を満たせば、原則として希望する全ての事業者が参加できる方式。 | ・機会均等で公平性・透明性が最も高い | ・参加者が多く手続きが煩雑 ・価格競争が激しくなりやすい |
| 指名競争入札 | 発注者が実績や技術力等を評価し、指名した事業者のみが参加できる方式。※ | ・参加者の技術力が担保されやすい ・不良不適格業者の参入を防止 |
・公平性に欠けるとの批判がある ・競争性が限定されやすい |
| 総合評価落札方式 | 価格と価格以外の要素(技術力、品質確保策など)を総合的に評価して落札者を決定する方式。 | ・価格と技術の両面で競争が促される ・安かろう悪かろうの事態を防止 |
・評価基準が複雑で、提案書の作成に手間がかかる ・評価の客観性・透明性が求められる |
| 随意契約 | 競争入札によらず、発注者が特定の1社を選んで契約する方式。※ | ・緊急時などに迅速な対応が可能 ・特許技術を持つ業者に確実に発注 |
・競争性がなく、透明性・公平性に課題 ・契約金額が割高になる可能性 |
※指名競争入札や随意契約は、工事の性質や目的が一般競争入札に適さない場合など、法令で定められた特定の条件下でのみ例外的に認められます。
公共工事における入札の基本的な流れ【8ステップ】
入札に参加してから契約に至るまでには、定められた手順を踏む必要があります。ここでは、公共工事を例に、入札公告から契約締結までの一般的な流れを8つのステップに分けて解説します。各ステップで何をすべきかを正確に把握することが、スムーズな手続きの鍵となります。
- 公共工事入札の基本フロー
- ステップ1:入札公告
- ステップ2:設計図書等の確認
- ステップ3:現場説明会への参加
- ステップ4:質問回答
- ステップ5:入札参加資格の確認申請
- ステップ6:入札・開札
- ステップ7:落札者の決定
- ステップ8:契約の締結
ステップ1:入札公告
国や自治体などの発注機関が、工事の名称、場所、概要、参加資格、入札の日時・場所などを公式に発表(公告)します。これらの情報は、各機関のウェブサイトや、入札情報を専門に扱うサービスサイトで確認できます。ステップ2:設計図書等の確認
公告内容を確認し、参加を希望する案件が見つかったら、工事の詳細な仕様が記載された設計図書、仕様書、積算資料などを入手します。内容を精査し、自社の技術力や体制で施工が可能か、採算が取れるかを慎重に検討します。ステップ3:現場説明会への参加
発注者が主催する現場説明会に参加し、現地の状況や工事を進める上での留意点について直接説明を受けます。参加が入札参加の条件となっている場合もあるため、公告内容をよく確認する必要があります。(近年は開催されない、または資料の閲覧のみで代替されるケースも増えています)ステップ4:質問回答
設計図書などの内容に不明な点や疑義がある場合、指定された期間内に発注者へ質問書を提出します。発注者からの回答は、公平を期すため、原則としてすべての入札参加希望者へ公開されます。ステップ5:入札参加資格の確認申請
入札に参加するための資格(後述)を有していることを証明する書類を提出し、発注者の審査を受けます。これを「競争参加資格確認申請」と呼びます。ステップ6:入札・開札
指定された日時・場所(または電子入札システム上)で、見積もった工事金額を記載した入札書を提出します。提出期限後、全参加者の前で入札書が開封され(開札)、各社の入札価格が読み上げられます。ステップ7:落札者の決定
発注者があらかじめ定めた予定価格の範囲内で、最も有利な条件(価格や技術評価点など)を提示した事業者が落札者として決定されます。ステップ8:契約の締結
落札者が決定した後、発注者との間で正式な工事請負契約を締結します。契約書には、工事内容、請負代金額、工期、支払い条件などが明記されます。

建設業の入札参加に必要な準備とは?
入札は、参加したいと考えたときに誰でもすぐに参加できるわけではありません。特に公共工事の入札に参加するには、法令に基づいたいくつかの資格や手続きを事前に完了させておく必要があります。ここでは、入札参加のスタートラインに立つための、特に重要な3つの準備について解説します。
建設業許可の取得
まず大前提として、請け負う工事の種類と金額に応じた「建設業許可」を取得している必要があります。これは建設業法で定められた義務であり、軽微な建設工事を除き、この許可なくして建設工事を請け負うことはできません。入札参加においては、まさに最低条件と言えます。
[出典:e-Gov法令検索「建設業法」]
経営事項審査(経審)の受審
公共工事の入札に参加する建設事業者は、必ず「経営事項審査(経審)」を受けることが法律で義務付けられています。経審とは、事業者の経営状況、経営規模、技術力、社会性などを客観的な指標で評価・点数化する審査です。この結果は、発注者が事業者を格付けする際の重要な資料となります。
[出典:国土交通省「経営事項審査」]
入札参加資格審査の申請
経審を受けた上で、実際に入札に参加したい発注機関(国、都道府県、市町村など)ごとに「入札参加資格審査」の申請を行う必要があります。この申請が承認されて初めて、その機関が発注する入札に参加できる「有資格者名簿」に登録され、具体的な案件への参加が可能になります。
まとめ:建設業の入札制度を理解し、事業機会を掴もう
この記事では、建設業における入札の法的根拠から、その主要な種類、公共工事における具体的な流れ、そして参加に不可欠な準備までを網羅的に解説しました。
入札は、公平性と競争性を担保することで、税金の適正な執行と質の高い社会資本整備を実現するための重要な制度です。手続きは一見すると複雑ですが、一つひとつのステップを正確に理解し、必要な準備を計画的に進めることで、公共工事という安定的で大規模な市場への参入が現実のものとなります。本記事で得た知識を元に、入札への挑戦を具体的に検討し、新たな事業拡大の機会を掴んでください。
建設業の入札に関するよくある質問
Q. 初めてでも入札に参加できますか?
A. はい、事業規模や設立年数にかかわらず参加は可能です。ただし、本記事で解説した「建設業許可」「経営事項審査」「入札参加資格審査」といった一連の手続きをすべて完了していることが大前提となります。まずはこれらの資格取得や申請から計画的に準備を進めることが、入札参加への第一歩です。
Q. 落札価格はどのように決まるのですか?
A. 発注者があらかじめ非公開で設定した「予定価格」の範囲内で、最も有利な条件を提示した事業者が落札者となります。ただし、品質確保の観点から、あまりにも低い価格での入札を防ぐため、一定の基準価格(調査基準価格や最低制限価格)が設けられています。これを下回る価格で入札した場合は、調査の対象となったり、失格となったりすることがあります。
Q. 電子入札とは何ですか?
A. 従来、指定された場所に出向いて紙の書類で行っていた入札手続きを、インターネットを利用して電子的に行うシステムのことです。移動時間や書類作成・郵送のコスト削減、事務処理の効率化といったメリットがあり、現在では国や多くの自治体で導入が進んでいます。参加するには、電子証明書(ICカード)やICカードリーダーなどの準備が別途必要になります。




