「補助金」の基本知識

補助金の使い道には制限がある?建設業での注意点とは


更新日: 2025/10/23
補助金の使い道には制限がある?建設業での注意点とは

この記事の要約

  • 補助金の使い道は「対象経費」のみ
  • 建設業は重機や人件費の扱いに注意
  • 不正受給のリスクと「後払い」の流れ

そもそも補助金とは?助成金との違いを理解しよう

補助金制度は、国の政策目標を達成するために事業者を支援する重要な仕組みです。しかし、似た制度に「助成金」があり、これらを混同しているケースも少なくありません。まずは、補助金がどのようなものか、助成金とどう違うのかを正確に把握しましょう。自社の目的に合った制度を見極めるための基礎知識です。

補助金の基本的な仕組みと目的

補助金は、主に経済産業省や地方自治体などが管轄しています。その主な目的は、国の政策目標(例:生産性向上、DX推進、新規事業の創出、グリーン化など)を達成するために、事業者の新たな取り組み(投資)を支援することです。

最大の特徴は、公募期間内に申請された事業計画を審査し、優れたものだけを採択する「審査型」である点です。予算と採択件数があらかじめ決まっているため、申請しても必ず受給できるとは限りません。

助成金との違いとは?

一方、助成金は、主に厚生労働省が管轄し、雇用の安定(例:雇用維持、非正規社員の正社員化)や職場環境の改善などを目的としています。

補助金とは異なり、定められた要件を満たし、適切な申請を行えば原則として支給されます。

「補助金」と「助成金」の主な違い
比較項目 補助金 助成金
主な管轄 経済産業省、地方自治体 など 厚生労働省 など
主な目的 事業拡大、設備投資、技術革新の促進 雇用の安定、労働環境の改善
受給難易度 予算と採択枠があり、審査が必要(比較的高い) 要件を満たせば原則支給(比較的低い)
申請期間 公募期間が限定的(例:年数回) 通年で募集しているものが多い
財源 主に税金 主に雇用保険料

補助金の使い道に関する基本的なルール

記事タイトルにある通り、補助金の使い道には厳格な制限が設けられています。このルールを理解することが、補助金活用の第一歩であり、後のトラブルを避ける最大の防御策となります。なぜなら、補助金の原資は国民の税金であり、公平かつ適正な使用が絶対条件だからです。

補助金には「対象経費」が厳密に定められている

補助金は、申請者が自由に使えるお金ではありません。申請時に提出し、審査を経て採択された「事業計画書」に基づき、その計画の実行に直接必要であると認められた経費にのみ使用できます。

この、補助金で支払うことが認められた経費のことを「補助対象経費(または単に対象経費)」と呼びます。事業計画書に記載されていない経費や、計画と関連性のない支出に補助金を使うことは一切認められません。

なぜ使い道に制限があるのか?

前述の通り、補助金の原資は税金です。そのため、申請された事業が国の政策目的に合致しているか、投資対効果が見込めるかなどが厳しく審査されます。

もし使い道に制限がなければ、補助金が事業計画とは無関係な私的な支出や、本来の目的とは異なる汎用的な備品の購入に使われてしまう可能性があります。それでは、政策目標の達成にも、国民の理解も得られません。公平性と透明性を担保し、税金を適正に執行するために、厳格な使い道のルールが設けられています。

対象外の経費(使えない費用)の具体例

多くの補助金において、共通して「補助対象外」とされる経費の代表例です。これらの費用は、原則として補助金で賄うことはできません。

汎用性の高いもの:
パソコン、タブレット、スマートフォン、プリンター、文房具など。
(ただし、申請する事業計画の遂行に「のみ」使用することが明確で、他の業務に流用できないと証明できる場合は、例外的に対象となる補助金もあります)

事業運営の基本的な費用:
事務所の家賃、水道光熱費、通信費、保険料など(いわゆるランニングコスト)。
(※対象となる場合もありますが、補助事業専用のスペースとして明確に区分され、按分計算が必要など、非常に厳格な条件が課されます)

公租公課:
消費税、法人税、住民税、印紙代、各種手数料など。

その他:
飲食・接待費、交際費、福利厚生費。
不動産(土地・建物)の購入費。
車両(※例外あり。次の章で詳述します)。
振込手数料、代引き手数料。

建設業で補助金を利用する際の特有の注意点

建設業は、高額な設備投資や深刻な人手不足、2024年問題への対応(DX化・業務効率化)など、多くの課題を抱えています。これらの課題解決のために補助金は非常に有効な手段です。しかし、建設業ならではの「使い道」に関して、特に注意すべき点が存在します。

建設業で「補助対象経費」となりやすい費用

建設業向けの補助金(例:事業再構築補助金ものづくり補助金IT導入補助金など)において、事業計画の内容次第で対象経費として認められやすい費用の例を挙げます。

機械装置・システム構築費:
生産性向上に直結する新型の重機、ドローン(測量・点検用)、高所作業車など。
施工管理ソフト、BIM/CIMソフト、原価管理システム、勤怠管理システムなどの導入・構築費用。

技術導入費:
特許技術や特定のノウハウの導入にかかる費用。

専門家経費:
DX推進のためのITコンサルタントへの相談費用。
新しい施工管理技術に関する外部専門家からの指導料、研修費用。

外注費:
業務効率化のためのシステム開発を外部企業に委託する費用など(※丸投げは不可)。

建設現場でタブレットを操作する現場監督と建設機械

【重要】重機や車両の購入・リースは可能か?

建設業にとって重機や車両は不可欠な資産ですが、補助金での取り扱いは非常に慎重な判断が必要です。

購入の場合:
原則として「汎用性が高い」ものは対象外です。例えば、一般的なダンプトラック、軽トラック、営業用の乗用車などは、補助事業以外にも容易に転用できるため、対象外となるケースがほとんどです。
一方で、クレーン付きトラックや特定の工事専用のアタッチメントを装着した重機など、「事業計画の遂行に不可欠」であり「汎用性が低い(その事業専用である)」と明確に説明できる場合は、対象となる可能性があります。

リースの場合:
購入が難しい場合でも、リース(特にファイナンス・リース)であれば対象経費として認められる補助金も増えています。リース料のうち、補助事業期間に対応する部分が対象となるのが一般的です。購入に比べて初期費用を抑えられるメリットもあります。

人件費や外注費の取り扱い

人に関する費用も、厳格なルールがあります。

人件費:
既存の従業員の通常の給与は対象外です。
対象となる可能性があるのは、あくまで補助事業(申請した新しい取り組み)のために「新たに従業員を雇用した」場合や、その事業に「専属」で従事する場合の人件費です。その場合も、業務日報などで厳格な管理が求められます。

外注費:
業務の一部を外部に委託する費用です。例えば、自社では開発できない専門的なシステムの構築を委託する場合などです。
ただし、自社で実施すべき中核的な業務の「丸投げ」は認められません。あくまで自社が主体となり、補助的な業務を委託するという立て付けが必要です。

中古品の購入に関する制限

新品の機械装置は高額なため、中古品を検討するケースもあるでしょう。補助金によっては、中古の機械装置の購入も対象となる場合があります。

ただし、その場合は厳格な条件が課されることが一般的です。
例えば、「新品の市場価格の3分の2以下の価格であること」「年式や性能が確認できること」「異なる2社以上から相見積もり(同等品)を取得すること」などが求められます。新品を購入するよりも手続きが煩雑になる点に注意が必要です。

補助金の使い道で絶対に避けるべきNG行動

補助金のルールを軽視したり、意図せず違反したりすると、事業の存続に関わる重大なペナルティが課される可能性があります。読者の皆様が抱える「もし間違えたらどうしよう」という不安を解消するためにも、絶対に避けるべきNG行動とそのリスクを理解しておきましょう。

目的外利用(不正受給)のリスク

最も重い違反が「目的外利用」です。これは、申請した事業計画とは異なる目的や、対象外とされている経費(例:私的な飲食費、汎用的なパソコンの購入など)に補助金を使うことです。

これは国の法律(補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律)にもとづき「不正受給」とみなされ、発覚した場合は法律に基づき非常に厳しい措置が取られます。
[出典:補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(e-Gov法令検索)]

発覚した場合のペナルティ:
1. 補助金交付決定の取り消し
2. 補助金の全額(または一部)の返還命令
3. 法律に基づく高率の「加算金」および「延滞金」の支払い
4. 事業者名や不正内容の公表(社会的信用の失墜)
5. 悪質な場合は、刑事告発(詐欺罪など)の対象

「これくらいバレないだろう」という軽い気持ちが、事業の存続を揺るがす事態につながりかねません。

補助金申請のために証拠書類を整理する建設業の経理担当者

経費の計上ミスや証拠書類の不備

不正の意図がなくても、事務処理のミスで「不適正」と判断されるケースも多発しています。補助金は、支払った経費の証拠書類(エビデンス)がすべて揃っていなければ、1円も認められません。

よくあるミスの例:
・ 領収書や発注書の日付が、補助事業の対象期間「外」だった。
・ 銀行振込ではなく、現金手渡しで支払ってしまい、客観的な支払いの証拠(振込控など)が残っていない。
・ 見積書、発注書、納品書、請求書、振込控など、一連の書類が揃っていない(どれか一つでも欠けるとNG)。
・ 相見積もりが必要な金額(例:100万円以上)なのに、1社からしか見積もりを取っていなかった。

補助金交付決定「前」の発注・支払い

これは、補助金申請で最も多いミスのひとつです。「フライング発注」とも呼ばれます。

原則として、補助金は「交付決定通知書」が事務局から届いた日以降に、発注・契約・支払いした経費のみが対象です。

「もうすぐ採択されるだろう」と見越して、交付決定通知が届く前に機械を発注したり、システム開発を契約したりすると、その経費は全額、補助対象外となります。採択されたとしても、その費用には補助金を使えなくなるため、全額自己負担となってしまいます。

(※一部の補助金では、例外的に「事前着手申請」という制度が設けられている場合もありますが、あくまで例外的な措置であり、別途申請と承認が必要です)

補助金の申請から支払いまでの流れと「使い道」の管理

補助金は、採択されたらすぐにお金がもらえるわけではありません。原則「後払い(精算払い)」です。つまり、先に事業者が全額を立て替えて支払い、事業完了後に報告書を提出し、審査を経てようやく振り込まれます。この流れを理解していないと、資金繰りに窮する可能性もあります。

ここでは、申請から受領までの流れと、「使い道」を管理する上でのポイントをSTEP形式で解説します。

STEP 1: 公募・申請
自社の課題に合う補助金を探し、公募要領を熟読します。
目的: 補助金を使って実行する「事業計画書」を作成し、申請します。
注意点: この段階で「何に、いくら使うか」という対象経費の計画を具体的に詰めておく必要があります。

STEP 2: 採択・交付決定
事務局による審査を経て、採択結果が通知されます。
採択後、正式な経費の内訳などを提出し、事務局から「交付決定通知書」を受け取ります。
注意点: 経費の発注・契約が可能になるのは、この「交付決定日」以降です。

STEP 3: 事業実施(経費の支払い)
事業計画に基づき、機械の発注、システムの導入、支払いなどを行います。
目的: 計画した事業を実行し、必要な経費を立て替えて支払います。
必要なもの(証拠書類): 見積書、相見積書、発注書、契約書、納品書、検収書、請求書、銀行の振込控など、一連の証拠書類すべて。
注意点: すべての証拠書類を完璧に保管します。支払いは原則として銀行振込とし、現金払いは避けてください。

STEP 4: 実績報告
事業計画の期間が終了したら、「計画通りに事業を実施し、これだけ経費を使いました」という「実績報告書」を、STEP 3で集めたすべての証拠書類一式とともに事務局へ提出します。

STEP 5: 確定検査・補助金の受領
事務局が実績報告書と証拠書類を厳しくチェックします(確定検査)。使い道や書類に不備がないか、日付は正しいかなどが精査されます。
不備があれば差し戻しや修正指示があり、最悪の場合は対象経費として認められません。
目的: 審査を経て、最終的な補助金額が「確定」します。
結果: 補助金額の確定後、指定した口座に補助金が振り込まれます。

補助金の重要原則:「後払い(精算払い)」

補助金は、事業完了後の実績報告と確定検査を経て、実際にかかった経費(の補助対象分)が支払われる「後払い」が原則です。事業実施期間中は、事業者がすべての経費を一時的に立て替える必要があります。この間の資金繰り計画を事前に立てておくことが極めて重要です。
[出典:中小企業庁 事業再構築補助金ウェブサイト(補助金交付候補者の採択後の流れ)]

まとめ:建設業こそ、補助金の使い道のルールを厳守しよう

補助金の使い道には、その原資が税金であるため、非常に厳格な制限が設けられています。特に建設業においては、高額な設備投資や、対象経費になるかどうかの判断が難しい重機・車両・人件費などが多いため、ルールの正確な理解が不可欠です。

補助金活用のための3つの重要ポイント

ポイント1: 補助金は「対象経費」として認められたものにしか使えない。
申請した事業計画と無関係な支出や、汎用性の高い備品、運営コストには原則使えません。

ポイント2: 建設業特有の経費(重機、外注費など)は、各補助金の公募要領で詳細を確認する。
車両や重機は「汎用性」が問われます。リースが対象になるか、中古品は可能かなど、個別のルール確認が必須です。

ポイント3: 不正受給や計上ミスを防ぐため、「交付決定後の発注」「証拠書類の徹底管理」を遵守する。
補助金は原則「後払い」です。フライング発注を避け、見積書から振込控までの一連の書類を完璧に揃えることが絶対条件です。

ルールを正しく理解し、補助金を適正に活用することで、建設業が直面する人手不足や生産性向上の課題を乗り越える大きな力となります。専門家の支援も受けながら、確実に事業革新につなげましょう。

補助金の使い道に関するよくある質問

Q. 補助金は消費税の支払いに使えますか?
A. 原則として使えません。
補助金の対象となるのは、消費税抜きの「本体価格」のみです。実績報告の際も、消費税額は補助対象経費から除外して計算するのが一般的です。
(※ただし、申請事業者が免税事業者や簡易課税事業者であり、消費税の仕入税額控除ができない場合は、例外的に消費税込みの金額を対象とできる場合があります。必ず申請する補助金の公募要領をご確認ください)

Q. 補助金が余った場合はどうすればよいですか?
A. 補助金が「余る」という概念は基本的に発生しません。
補助金は、交付決定時に「(上限)〇〇円」と決まりますが、これはあくまで上限額です。事業完了後、実際に使った経費(対象経費)を実績報告し、審査を経て「支払額(確定額)」が決まります。
例えば、上限1,000万円で採択されても、実際に使った対象経費が800万円であれば、支払われる補助金額は800万円(またはそれに補助率をかけた額)となります。計画より安く済んだ場合は、単に受給額がその分だけ少なくなる(確定する)だけです。

Q. 建設業で、複数の補助金を併用できますか?
A. 「同じ事業内容(同一の経費)」に対して、国の複数の補助金(国費が充当されるもの)を重複して受給することはできません。
例えば、「Aという重機の購入」という一つの経費に対して、X補助金とY補助金の両方からお金をもらうことは不可能です。
ただし、「Aの重機購入にはX補助金」「Bのシステム導入にはY補助金」といったように、事業内容や対象経費(購入するモノ)が明確に分かれていれば、それぞれに異なる補助金を申請し、併用できる場合があります。

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