「原価管理」の基本知識

原価管理とは?建設現場に必須の基本知識原価管理とは?建設現場に必須の基本知識


更新日: 2025/10/16
原価管理とは?建設現場に必須の基本知識原価管理とは?建設現場に必須の基本知識

この記事の要約

  • どんぶり勘定を卒業!建設業の利益を最大化する原価管理の基本
  • 赤字工事を防ぐ4ステップを解説!明日から使える原価管理の実践法
  • なぜ原価管理は重要?建設業の経営を安定させる必須知識を解説

建設業における原価管理とは?基本を解説

建設業における原価管理とは、工事ごとにかかるコスト(原価)を正確に把握し、計画(実行予算)と比較・分析することで、企業の利益を最大化するための一連の管理活動を指します。一つのミスが大きな損失に繋がりかねない建設プロジェクトにおいて、原価管理は企業の経営基盤を支える極めて重要な業務と言えます。本記事では、この原価管理の基本から実践的な知識までを分かりやすく紐解いていきます。

そもそも「原価」とは?建設業における原価の内訳

原価管理を理解する上で、まず「工事原価」が何で構成されているかを知る必要があります。建設業の会計において、工事原価は主に以下の4つの費用科目(材料費、労務費、外注費、経費)に分類されます。これらの費用を正確に把握することが、原価管理の第一歩となります。

工事原価を構成する4大費用
費用科目 内容 具体例
材料費 工事に直接使用される資材や物品の費用 鉄骨、セメント、木材、電線、配管、仮設材など
労務費 工事に直接従事する作業員の賃金や手当 現場作業員の給与、賞与、各種手当、法定福利費など
外注費 他の専門工事業者などに工事の一部を依頼した場合の費用 電気工事、左官工事、塗装工事、鳶工事などの費用
経費 上記3つ以外で、工事の施工に必要となるすべての費用 重機レンタル代、水道光熱費、現場事務所の賃料、設計費、保険料など

なぜ重要?建設業で原価管理が必須な3つの理由

建設業において原価管理は、企業の利益体質を左右する極めて重要な業務です。どんぶり勘定になりがちな経営から脱却し、安定した利益を確保するためになぜ不可欠なのか。ここでは、原価管理がもたらす決定的なメリットを3つの理由に分けて解説します。

建設現場でタブレットを使い原価管理の情報を共有する現場監督と作業員

1. どんぶり勘定を防ぎ、利益を正確に把握するため

原価管理の最大の目的は、工事ごとの収支を正確に数値で把握することです。建設業では、一つの工事に多数の取引が絡むため、全体の資金の流れが不透明になりがちです。原価管理を導入することで、計画(実行予算)と実績を対比させ、プロジェクト単位での正確な利益を可視化できます。

これにより、どの工事が収益の柱で、どの工事に課題があるのかが一目瞭然となり、感覚的な経営判断から脱却できます。これは、企業の健全なキャッシュフローを維持し、持続的な成長を支えるための土台となります。

2. 会社の利益を最大化するため

原価管理は、コストを記録するだけの作業ではありません。実行予算と実績を比較・分析することで、コスト超過の原因を特定し、具体的な改善策を導き出すための活動です。

例えば、「A工事では材料費が予算を10%超過したが、B工事では5%下回った」という事実が分かれば、「B工事の仕入れ先や発注方法をA工事に適用できないか」といった具体的な改善アクションに繋げられます。このような改善サイクルを継続的に回すことで、無駄なコストを削減し、会社全体の利益を最大化させることが可能です。

3. 適正な見積もり作成に役立てるため

過去の工事で蓄積された正確な原価データは、企業の貴重な財産です。国土交通省が公表する公共工事の積算基準も、過去の実績データに基づいています。同様に、社内に蓄積された原価データは、新規案件における精度の高い見積もり作成の根拠となります。

勘や経験だけに頼らないデータに基づいた見積もりは、赤字工事のリスクを大幅に低減させます。また、顧客に対して説得力のある価格提示が可能となり、受注機会の損失を防ぐことにも繋がります。

[出典:国土交通省「公共建築工事積算基準等」]

【4ステップで解説】建設現場における原価管理の進め方

効果的な原価管理は、決まったプロセスに沿って進めることが成功の鍵です。ここでは、建設現場における原価管理の基本的な流れを、実践しやすい4つのステップに分けて解説します。このサイクルを継続的に回すことで、原価管理の精度は着実に向上していきます。

1. ステップ1:実行予算の作成

目的:工事全体のコストの基準となる、精度の高い目標値を設定する。
内容:工事を受注したら、最初に行うのが「実行予算」の作成です。実行予算とは、その工事を完成させるために、実際にどれくらいの原価がかかるかを予測した、社内向けの予算計画のことです。材料費、労務費、外注費、経費の各項目について、過去のデータや最新の市場価格を元に積算します。この実行予算が、その後の原価管理におけるすべての基準となります。

2. ステップ2:原価の実績把握

目的:工事中に発生したコストを正確かつ迅速に収集・記録する。
内容:工事が始まったら、日々発生する原価を正確に収集・記録します。具体的には、材料の仕入れ伝票、作業員の日報や勤怠記録、外注先への発注書や請求書などが対象です。ここで重要なのは、できる限りリアルタイムで情報を集計することです。発生したコストを後回しにせず、迅速にデータ化する仕組みを整えることで、現状を正確に把握し、問題の早期発見に繋げることができます。

3. ステップ3:予算と実績の比較・分析

目的:計画と実績の差異を明らかにし、その原因を特定する。
内容:次に、ステップ1で作成した「実行予算」と、ステップ2で集計した「実績原価」を比較し、その差異を分析します。この比較は、工事期間中、定期的(例えば月次)に行うのが一般的です。単に予算を超えたか否かを確認するだけでなく、「なぜ差異が発生したのか」という原因を深掘りすることが重要です。

4. ステップ4:改善策の立案と実行

目的:分析結果に基づき具体的な対策を講じ、次のプロジェクトに活かす。
内容:差異分析によって明らかになった課題を解決するための、具体的な改善策を立案し、実行に移します。例えば、材料の歩留まりが悪化しているなら、現場での管理方法を見直す、といった対策が考えられます。この「計画→実行→評価→改善」というPDCAサイクルを回し続けることが、原価管理の核心です。

原価管理を成功させるための3つのポイント

原価管理の仕組みを導入しても、それが形骸化してしまっては意味がありません。成果に繋げるためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。ここでは、原価管理を成功に導き、企業の利益体質を強化するための3つのポイントを解説します。

1. 明確な目標(実行予算)を設定する

すべての原価管理の土台となるのが実行予算です。この実行予算の精度が低いと、その後の比較・分析も意味のないものになってしまいます。過去の類似工事のデータを徹底的に分析したり、現場担当者の意見を取り入れたりして、現実的かつ少し挑戦的な目標を設定することが重要です。甘すぎる予算はコスト意識を低下させ、厳しすぎる予算は現場の士気を下げてしまいます。

2. 情報をリアルタイムで共有する体制を築く

原価管理は経理担当者だけが行うものではありません。現場で発生する原価情報を、いかに迅速かつ正確に管理部門へ連携できるかが成功の鍵を握ります。日報の提出ルールを徹底したり、スマートフォンで手軽に報告できるクラウドサービスを活用したりと、情報共有をスムーズにするための仕組みづくりが不可欠です。現場と管理部門が一体となって取り組むことで、問題の早期発見と迅速な対応が可能になります。

3. 原価管理システムを活用する

小規模なうちはExcelでの管理も可能ですが、案件数や規模が大きくなるにつれて、手作業での管理には限界が訪れます。建設業に特化した原価管理システムを導入することで、情報の一元管理、集計・分析の自動化、リアルタイムな情報共有などが実現し、原価管理の効率と精度を飛躍的に向上させることができます。

Excel管理と原価管理システムの比較
Excelでの管理 原価管理システム
メリット ・低コストで始められる
・操作の自由度が高い
・入力や集計を自動化できる
・リアルタイムで情報を共有しやすい
・専門的な分析機能が充実している
デメリット ・入力ミスが起こりやすい
・ファイルが破損するリスクがある
・情報の属人化を招きやすい
・リアルタイム性に欠ける
・導入、運用にコストがかかる
・操作に慣れるまで時間が必要な場合がある

まとめ:適切な原価管理で建設業の利益を最大化しよう

本記事では、建設業における原価管理の重要性から、具体的な進め方、そして成功させるためのポイントまでを網羅的に解説しました。

原価管理は、単にコストを記録・削減するだけの守りの活動ではありません。会社の収益構造を可視化し、課題を発見して改善サイクルを回すことで、利益体質を強化していく攻めの経営管理手法です。

この記事のポイント

原価管理の目的:どんぶり勘定を防ぎ、「利益を正確に把握」し、「利益を最大化」すること。

原価管理の進め方:「実行予算の作成」「原価の実績把握」「予算と実績の比較・分析」「改善策の立案と実行」の4ステップで進める。

成功の鍵:「精度の高い目標設定」「リアルタイムな情報共有体制」「原価管理システムの活用」が不可欠。

この記事をきっかけに、自社の原価管理体制を今一度見直し、より強い経営基盤を築くための一歩を踏み出してください。

原価管理に関するよくある質問

原価管理と原価計算の違いは何ですか?

原価計算は、一つの工事を完成させるためにかかった費用を、材料費や労務費などの科目ごとに計算し、「最終的な原価がいくらだったか」を確定させるための会計上の手続きを指します。
一方、原価管理は、その原価計算によって算出された実績値と、事前に立てた実行予算とを比較・分析し、コスト削減や生産性向上などの改善活動に繋げるまでの一連のマネジメント活動全般を指します。つまり、原価計算は原価管理という大きな枠組みの中の一つのプロセスと位置づけられます。

小規模な工事でも原価管理は必要ですか?

はい、工事の規模に関わらず必要です。利益を確保し、事業を継続・成長させるという目的は、工事の大小で変わるものではありません。むしろ、小規模な工事こそ一つ一つの利益確保が重要になります。完璧なシステムでなくとも、まずは工事ごとに簡単な実行予算を立て、実績と比較してみることから始めるのがおすすめです。小さな改善の積み重ねが、会社の大きな利益に繋がります。

原価管理を行うと、どのようなメリットがありますか?

原価管理を適切に行うことで、以下のような多くのメリットが期待できます。

・工事ごとの正確な収支が明確になる
・無駄なコストを削減し、会社の利益率が向上する
・赤字工事の発生を未然に防ぎやすくなる
・実績データに基づいた、精度の高い見積もりが可能になる
・経営判断に必要なデータを迅速に把握できる
・社員一人ひとりのコストに対する意識が高まる

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