「原価管理」の基本知識

原価の内訳とは?労務・材料・経費の基本知識を解説


更新日: 2025/10/21
原価の内訳とは?労務・材料・経費の基本知識を解説

この記事の要約

  • 原価は「材料費」「労務費」「経費」の3つに分類される
  • 原価には「直接費」と「間接費」という重要な分類もある
  • 原価の内訳把握は、コスト削減など原価管理の第一歩

原価とは? なぜ内訳の理解が「原価管理」に必要なのか

企業の利益確保において、売上向上と並んで重要なのがコストの最適化です。その中核をなす「原価」について、まずは基本的な定義と、その内訳を理解することの重要性を解説します。適切な原価管理を行うためには、コストが何にどれだけかかっているかを正確に把握することが不可欠であり、それが経営判断の質を高める第一歩となります。

原価の基本的な定義

原価とは、製品やサービスを生み出すために直接的・間接的にかかった費用(コスト)の合計を指します。一般的に「仕入れ値」や「材料費」だけをイメージしがちですが、実際にはそれだけではありません。

例えば、製造業であれば製品を作るためにかかった材料費、工場で働く人々の人件費、工場の家賃や電気代などが含まれます。サービス業であれば、サービスを提供するためにかかった人件費や諸経費が原価となります。

[出典:企業会計審議会「原価計算基準」]

原価の内訳を把握する3つのメリット

なぜ原価の内訳を細かく知る必要があるのでしょうか。原価の内訳を正確に「見える化」することで、以下のような3つの大きなメリットが得られます。

メリット1:正確な利益の把握
企業の利益は「売上 − 費用」で計算されますが、この「費用」の大部分を原価が占めます。売上から原価を差し引いたものが売上総利益(粗利)です。原価の内訳を正確に把握することで、どの製品・サービスがどれだけ儲かっているのか(あるいは損しているのか)を正しく知ることができ、経営判断の精度が上がります。

メリット2:コスト削減のヒント発見
「何に」「どれだけ」コストがかかっているかが分かれば、「どこに無駄があるか」「どの費用を削減できるか」といった具体的な改善策を検討できます。例えば、材料費が高いのであれば仕入先を見直す、労務費の効率が悪いのであれば作業工程を改善するなど、具体的なアクションにつながります。

メリット3:適切な価格設定
原価は、製品・サービスの販売価格を決める上での最低ラインとなります。原価を把握できていなければ、感覚的な価格設定になりかねません。内訳を正確に理解することで、確保すべき利益を乗せた、戦略的かつ根拠のある価格設定が可能になります。

原価の3大要素「材料費・労務費・経費」を徹底解説

原価は、その発生形態によって大きく「材料費」「労務費」「経費」の3つに分類されます。これは原価計算における最も基本的な分類であり、コスト構造を理解する上で欠かせません。それぞれがどのような費用なのか、具体的な項目を見ていきましょう。

1. 材料費:製品の「モノ」にかかる費用

材料費は、製品の製造のために消費された物品のコストです。「何を使って作ったか」にかかる費用全般を指します。材料費は、その使われ方によってさらに細かく分類されます。

主要材料費(原料費):製品の主要な構成要素となる物品。
(例:パン製造の小麦粉、家具製造の木材、自動車製造の鋼板)
補助材料費:製品の製造を補助するために使用する物品。製品の一部にはなりますが、主要ではありません。
(例:パン製造の包装材、家具製造の塗料や釘、製品を接合する接着剤)
買入部品費:外部から購入してそのまま製品に取り付ける部品。
(例:自動車のタイヤ、パソコンのメモリ、電化製品の基盤)
工場消耗品費:製造過程で消費される消耗品。製品そのものにはなりませんが、製造に必要です。
(例:機械の潤滑油、作業用手袋、清掃用具)

2. 労務費:製品の「ヒト」にかかる費用

労務費は、製品の製造に関わる人々に支払われるコスト、すなわち人件費です。「誰が作ったか」にかかる費用であり、給与や賞与だけでなく、社会保険料なども含まれます。

直接工賃金:特定の製品の製造ラインで、直接作業に従事する作業員(直接工)に支払われる給与や手当。
間接工賃金:製造ラインの監督者、機械の保守担当者、工場内の運搬作業員など、直接製造には関わらないが製造を補助・管理する作業員(間接工)に支払われる給与。
給料:工場の管理者や事務職員など、製造部門全体の管理業務に従事する従業員に支払われる給与(月給制の場合)。
賞与・手当:製造部門の従業員に支払われる賞与(ボーナス)や各種手当(通勤手当、家族手当、残業手当など)。
法定福利費:製造部門の従業員に関する社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料など)のうち、法律で定められた会社負担分の費用。

3. 経費:製品の「ソレ以外」にかかる費用

経費は、原価のうち材料費と労務費以外、つまり「モノ」と「ヒト」以外にかかった全ての費用を指します。製造活動をサポートするために発生する多様なコストが含まれます。

減価償却費:工場の建物や製造機械、車両などの固定資産の取得費用を、法律で定められた耐用年数にわたって分割して計上する費用。
水道光熱費:工場の電気代、ガス代、水道代など、製造活動で使用したインフラ費用。
外注加工費:製品の一部(または全部)の加工や組み立てを、外部の企業に委託した際にかかる費用。
賃借料(地代家賃):工場の土地や建物を借りている場合の家賃。
旅費交通費:製造部門の従業員が、材料の仕入れ先との打ち合わせや、技術習得のために出張した際にかかる費用。
通信費:工場の電話代やインターネット利用料など。

製造工場内で原材料、作業員、機械が稼働している様子

材料費・労務費・経費の違い(一覧表)

これら3つの要素の違いを一覧表で整理します。この分類は、コスト構造を大局的に把握するために役立ちます。

表:原価の3大要素の比較

項目 概要 具体例
材料費 製品の製造のために消費された「モノ」の費用 原料、部品、補助材料、工場消耗品 など
労務費 製品の製造に関わった「ヒト」の費用(人件費) 賃金、給料、賞与、法定福利費 など
経費 材料費・労務費以外の製造にかかった「ソレ以外」の費用 減価償却費、水道光熱費、外注加工費、賃借料 など

もう一つの重要な分類方法:「直接費」と「間接費」

原価の内訳は、発生形態による分類(材料費・労務費・経費)の他に、製品との関連性によって「直接費」と「間接費」に分ける方法も非常に重要です。この分類は、製品ごとの正確な原価を計算するために不可欠です。

直接費とは?

直接費は、「どの製品のために」「いくらかかったか」が明確に分かる費用です。特定の製品(またはサービス)に直接紐づける(専門用語で「賦課(ふか)」する)ことができます。

例えば、製品Aを作るためだけに購入した特殊な部品や、製品Aの組み立てだけを行った作業員の作業時間分の賃金がこれにあたります。

直接材料費:特定の製品のために使用されたことが明らかな材料費。(例:A製品専用の部品、A製品に使う木材)
直接労務費:特定の製品の製造に直接従事した作業員の賃金。(例:A製品の組み立て作業時間分の賃金)
直接経費:特定の製品のためにのみ発生した経費。(例:A製品専用の金型製作を外注した場合の外注加工費、A製品の特許使用料)

間接費とは?

間接費は、複数の製品に共通して発生した費用であり、「どの製品のために」「いくらかかったか」がすぐには分からない費用です。例えば、工場全体の電気代や、複数製品の製造ラインを監督する管理者の給与などが該当します。

これらの費用は、そのままでは特定の製品の原価にできないため、一定の基準(例:作業時間、機械の稼働時間、使用面積など)に基づいて、各製品に割り当てる(専門用語で「配賦(はいふ)」する)必要があります。

間接材料費:複数の製品に共通して使用される材料費。(例:複数の製品に使う接着剤、機械の潤滑油、作業用手袋)
間接労務費:複数の製品の製造に関わる監督者や間接作業員(保守・運搬担当者)の賃金、工場の事務職員の給料。
間接経費:工場全体の減価償却費、水道光熱費、工場の家賃など、製造部門全体で発生する経費の多く。

なぜ直接費と間接費に分ける必要があるのか?

結論から言うと、製品ごとの「正確な原価」を計算するためです。この分類がなければ、どの製品が本当に利益を生んでいるのかを正しく把握できません。

直接費は「どの製品にいくらかかったか」が明確なため、そのまま該当する製品の原価として計算(賦課)できます。

一方、間接費は複数の製品に共通で発生するため、そのままでは特定の製品の原価にできません。そのため、間接費は「どの製品にどれだけ負担させるか」という合理的な基準(例:作業時間、機械の稼働時間など)で振り分ける(配賦する)プロセスが必要です。

もし、製造が簡単なA製品と難しいB製品を作っている工場で、すべての原価(間接費)を単純に2で割ってしまうとどうなるでしょうか。A製品は原価が高くなりすぎて価格競争力を失い、B製品は原価が安すぎる見積もりになってしまい、売れば売るほど赤字になる、といった事態を招きかねません。

製品ごとの正しい原価を算出し、適切な価格設定や利益管理を行うために、直接費と間接費の分類は不可欠なのです。この間接費の「配賦」の精度が、原価計算の正確性を左右します。

原価の内訳理解から始める「原価管理」の基本

原価の内訳を正しく把握することは、単にコストを計算するだけでなく、そのコストを適切にコントロールし、利益を最大化する活動、すなわち「原価管理」のスタートラインです。内訳が分からなければ、どこに手を打つべきかが見えてきません。

原価管理とは?

原価管理とは、単に原価を計算する(原価計算)だけでなく、目標とする原価(標準原価)と実際に発生した原価(実際原価)を比較・分析し、その差(原価差異)の原因を突き止め、コスト削減や生産性向上のための改善活動(PDCAサイクル)を行うことです。

経営の「体温計」とも言える原価を日々チェックし、異常があればすぐに対策を講じるためのマネジメント活動全般を指します。

内訳把握から始める原価管理の基本ステップ

原価の内訳に関する知識は、実際の原価管理において以下のステップで活用されます。

1. 原価の把握(見える化)
目的:現状のコスト構造を正確に把握する。
手順:まず、発生したコストを「材料費・労務費・経費」や「直接費・間接費」に分類し、製品ごと、部門ごと、費目ごとに集計します。

2. 標準原価の設定
目的:目指すべきコストの目標値を設定する。
手順:過去の実績や生産計画に基づき、製品ごと、あるいは工程ごとに「本来あるべき原価(目標値)」を科学的・統計的に設定します。

3. 実際原価との比較・差異分析
目的:目標と現実のギャップの原因を特定する。
手順:実際にかかった原価と設定した標準原価を比較し、なぜ差が出たのか(例:材料の使いすぎ、歩留まりの悪化、作業効率の低下、経費の無駄遣いなど)を、原価の内訳(材料費、労務費など)ごとに分析します。

4. 改善アクションの実行
目的:分析結果を次のコスト削減活動に活かす。
手順:差異分析の結果に基づき、具体的な対策(例:仕入先や材料の見直し、作業手順の改善、省エネ活動の徹底)を実行します。そして、その結果を次のステップ1の把握にフィードバックし、継続的に改善サイクルを回します。

オフィスの会議で、モニターのデータを見ながら議論するビジネスパーソン

原価管理でよくある課題と対策

原価管理の重要性は分かっていても、実践には困難が伴います。ここでは、初心者が抱えがちな課題と、その対策の方向性を示します。

課題1:「そもそも内訳データの集計が大変」

対策
すべてのデータを完璧に集計しようとすると挫折しがちです。まずは会計ソフトや販売管理ソフトのデータを活用し、Excelなど身近なツールで、原価に占める割合が大きく影響の大きい項目(例:主要材料費、外注加工費)から集計を始めるのが現実的です。将来的には、原価管理システムや生産管理システムの導入を検討し、データ集計を自動化・効率化することも視野に入れます。

課題2:「どこからコスト削減に手をつければいいか分からない」

対策
原価の内訳を分析し、「金額の大きい項目(インパクトが大きい)」「前回や計画と比べて増加している項目(異常値)」に注目します。特に、生産量に応じて変動する変動費(材料費、外注加工費など)は削減努力が比較的反映されやすく、また、消耗品費や水道光熱費などの経費(間接費)は、全社的な意識改革で見直しやすい項目です。優先順位をつけて着手することが重要です。

最後に、原価の内訳を考える上で混同しやすい会計上の用語や、製造業以外での原価の考え方について補足します。自社の業態に合わせて原価の内訳を理解することが重要です。

「製造原価」と「売上原価」の違いは?

「原価」とつく言葉には似たものが多くありますが、「製造原価」と「売上原価」は特に混同しやすい用語です。これらは、費用を集計する「タイミング」と「範囲」が異なります。

用語の違い:製造原価 vs 売上原価

製造原価
当期(例:当月や当年度)に「製造した」製品にかかった原価の総額です。材料費、労務費、経費を合計したもので、その期に完成した製品すべてのコストを指します。期末に売れ残った(在庫となった)製品の原価も含まれます。

売上原価
当期に「売れた」製品にかかった原価です。これは、企業の業績を見るための損益計算書(P/L)上で、売上高から直接差し引かれ、売上総利益(粗利)を計算するために使われます。
(計算式:売上原価 = 期首製品在庫高 + 当期製品製造原価 − 期末製品在庫高)

結論
簡単に言えば、「製造原価」は“作ったモノ”のコスト、「売上原価」は“売れたモノ”のコスト、と区別できます。

サービス業やIT業における「原価」の内訳

原価の内訳は、製品という「モノ」を作る製造業が基本ですが、サービス業やIT業など、業種によってその構成は大きく異なります。

サービス業(例:コンサルティング、飲食業、理美容業)
コンサルティング業などでは、物理的な材料費はほとんど発生しません。サービスの提供に直接かかるコンサルタントの人件費、すなわち労務費が原価の大部分を占めるのが特徴です。
飲食業では、食材の仕入れ費が材料費(または仕入原価)として大きな割合を占めますが、同時に調理や接客スタッフの労務費、店舗の経費(家賃、水道光熱費)も重要な要素となります。

IT業(例:ソフトウェア開発、SaaS提供)
受託開発(SIerなど)では、開発に携わるエンジニアやプログラマーの労務費が原価の中心となります。
開発の一部を外部に委託した場合は、その外注費(経費の一種)が大きな割合を占めることもあります。
SaaS(サブスクリプション)ビジネスでは、サービスを稼働させるためのサーバー費用や、システム保守に関わる人件費、ライセンス費用などが継続的に原価として発生します。

まとめ:原価の内訳を理解し、利益を生む経営体質へ

本記事では、原価の内訳である「材料費」「労務費」「経費」の3大要素と、もう一つの重要な分類である「直接費」「間接費」について、その基本知識を解説しました。

原価の内訳を正しく把握することは、自社のコスト構造を「見える化」することです。それにより、以下のような経営上重要なアクションが可能になります。

・ 製品・サービスごとの正確な利益計算
・ 根拠に基づいた適切な価格設定
・ 無駄を特定し、効果的なコスト削減活動の実行

これら一連の活動が、まさに「原価管理」です。原価の内訳を理解することは、感覚的な経営から脱却し、データに基づいた利益を生む経営体質へと変革するための第一歩です。まずは自社の原価が何にどれだけかかっているのか、その内訳を分析することから始めてみましょう。

原価の内訳に関するよくある質問(Q&A)

原価の内訳や原価管理に関して、初心者の方が抱きやすい疑問についてQ&A形式で回答します。

Q1. 原価計算の方法にはどのような種類がありますか?

A1. 原価計算には様々な方法がありますが、目的や計算のタイミングによって大きく分かれます。

タイミングによる分類
実際原価計算:実際にかかった費用を集計して計算する方法。
標準原価計算:あらかじめ設定した目標値(標準原価)で計算し、実際との差異を分析する方法。原価管理に適しています。

製品の生産形態による分類
個別原価計算:顧客ごとのオーダーメイド品や受注生産(例:船舶、特注機械、システム開発)に適した方法。製品(案件)ごとに直接費と間接費を集計します。
総合原価計算:同じ規格の製品を大量生産(例:食品、化学薬品、製紙)に適した方法。一定期間の総製造費用を総生産量で割って平均単価を計算します。

Q2. 減価償却費は、なぜ経費になるのですか?

A2. 減価償却費は、工場の建物や製造機械など、高額で長期間使用する資産(固定資産)の購入費用を、その資産が使用できる期間(耐用年数)にわたって分割して費用計上する会計処理です。

これは、製品の製造活動のために必要なコストであることは間違いありませんが、特定の「モノ」(材料費)でも、特定の「ヒト」(労務費)でもないため、「経費」に分類されます。実際にお金(キャッシュ)が出ていくのは購入時の一度だけですが、会計上は、その資産が価値を生み出す期間(=製造活動を行う期間)に合わせて、費用を分割して計上するルールになっているためです。

Q3. 原価の内訳はどの程度細かく把握すべきですか?

A3. 理想を言えば細かいほど良いですが、管理の手間(コスト)も増大します。したがって、企業の規模や業種、管理の目的によって最適な細かさは異なります

大企業ではシステム化が進んでおり、非常に細かく分類・把握しています。しかし、中小企業や原価管理の導入期においては、まず「材料費・労務費・経費」や「直接費・間接費」といった大枠で捉えることから始めるのが現実的です。

重要なのは、管理の手間と、それによって得られる改善効果のバランスです。まずは自社のコストの中で金額の大きい項目や、変動の激しい項目(例:主要材料費、外注費、残業代など)から重点的に管理し、徐々に精度を高めていくことをおすすめします。

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