「安全管理」の基本知識

安全管理の流れとは?やるべきことを時系列で整理


更新日: 2025/10/16
安全管理の流れとは?やるべきことを時系列で整理

この記事の要約

  • 安全管理の始め方から改善まで、PDCAの5ステップを解説
  • リスクの具体的な洗い出し方(リスクアセスメント)がわかる
  • 形骸化させないための計画の立て方や成功の秘訣も網羅

そもそも安全管理とは?目的と活動の土台を理解する

安全管理とは、職場で働く人々の安全と健康を確保し、労働災害を未然に防ぐための組織的な活動全般を指します。単に事故発生後に対処するのではなく、潜在的な危険を予見し、計画的にリスクを低減させることが重要です。法令遵守はもちろん、従業員が安心して働ける環境の構築は、企業の持続的な成長に不可欠であり、その根幹を支えるのが安全管理です。

安全管理の目的:事故防止と企業価値の向上

安全管理の第一の目的は、労働災害を防止し、従業員の生命と健康を守ることです。しかし、その効果は従業員の安全確保にとどまりません。安全な職場環境は生産性の向上に直結し、企業の社会的評価を高めることにも繋がります。結果として、安全管理への取り組みは、多角的に企業価値を向上させる重要な経営課題といえます。

安全管理がもたらす5つの主要な効果

労働災害の防止: 従業員の負傷や疾病を防ぎ、安全な労働環境を確保します。
従業員の安全と健康の確保: 物理的な危険だけでなく、心身の健康維持も目的とします。
企業のコンプライアンス(法令遵守): 労働安全衛生法などの関連法規を遵守する責任を果たします。
生産性の維持・向上: 事故による業務停止や従業員の離脱を防ぎ、安定した生産活動を支えます。
企業の社会的責任(CSR)と信頼性の向上: 安全への取り組みは、顧客や取引先、地域社会からの信頼獲得に繋がります。

安全管理の根幹「リスクアセスメント」とは?

効果的な安全管理活動の出発点であり、中心的な考え方となるのが「リスクアセスメント」です。これは、職場に潜む危険性や有害性(リスク)を体系的に特定し、そのリスクの大きさを評価し、対策の優先度を決定してリスクを低減していく一連の手法を指します。感覚的な安全対策ではなく、客観的な評価に基づいて計画的に危険を取り除くことで、安全管理の実効性を高めることができます。

【図解】安全管理の基本的な5つの流れ(PDCAサイクル)

「何から手をつければいいか分からない」という悩みを解決するため、ここでは安全管理の具体的な流れを5つのステップで解説します。この流れは、厚生労働省も推奨する労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)の考え方の基本でもある「PDCAサイクル」に基づいています。この章を読めば、自社でやるべきことが時系列で明確になり、明日からの具体的なアクションプランを描けるようになります。

工場内で機械の危険箇所について指摘し、リスクアセスメントを行う安全管理担当者

ステップ1:【Plan】職場の危険をすべて洗い出す(リスクアセスメント)

  • 目的: 対策の土台となる、職場に潜む潜在的な危険を漏れなく可視化する。
  • やること: 作業や設備を調査し、危険性・有害性を特定後、リスクの大きさを評価して優先順位を付ける。

安全管理の第一歩は、現状を正しく知ることから始まります。「うちの職場は大丈夫だろう」という思い込みを捨て、あらゆる作業や環境に潜むリスクを客観的に特定することが、効果的な対策の土台となります。

  • 1. 危険性・有害性の特定:
    機械設備、化学物質、作業手順、作業環境(騒音、粉じん等)など、あらゆる要素をリストアップし、そこに潜む「挟まれる」「墜落する」「有害物質を吸い込む」といった危険性・有害性を具体的に洗い出します。過去のヒヤリハット報告や事故事例も重要な情報源です。

  • 2. リスクの見積もり:
    特定した危険が「どのくらいの頻度で発生しうるか(可能性)」と「発生した場合にどの程度のケガや病気に繋がるか(重篤度)」をマトリクスで評価します。

  • 3. 評価と優先度の決定:
    見積もったリスクの大きさに応じて、「許容できないリスク(最優先で対策)」「許容できるリスク」などに分類し、取り組むべき対策の優先順位を決定します。

これはリスクの大きさを「発生の可能性」と「災害の重篤度」から評価し、対策の優先度を判断するための一例です。

発生の可能性 災害の重篤度(ケガや疾病の程度)
致命的 重い 軽い
高い 最優先で対策 高リスク 中リスク
中程度 高リスク 中リスク 低リスク
低い 中リスク 低リスク 許容可能

ステップ2:【Plan】具体的な安全目標と活動計画を立てる

  • 目的: リスクアセスメントの結果に基づき、達成すべき具体的な安全目標と、それを実現するための実行計画を立てる。
  • やること: リスク低減措置を検討し、測定可能な安全目標を設定後、具体的な活動計画(5W1H)を作成する。

リスクの評価が終わったら、次はそのリスクをどう低減していくかを具体的に計画します。目標は精神論ではなく、誰が見ても達成度がわかるような具体的な指標で設定することが重要です。

  • 1. リスク低減措置の検討:
    評価したリスクに対し、法律で定められた事項を最優先としつつ、「危険な作業そのものをなくす」「より安全な機械や物質に代替する」「工学的な対策(安全カバーの設置など)」「マニュアルの整備や教育」といった優先順位で対策を検討します。

  • 2. 安全衛生目標の設定:
    「高所作業における墜落リスクを、安全帯の100%使用徹底によりゼロにする」「ヒヤリハット報告件数を前年比10%増やす(報告文化の醸成)」など、具体的で測定可能な目標(SMARTゴール)を設定します。

  • 3. 活動計画の作成:
    設定した目標を達成するために、「誰が(担当者)」「いつまでに(期限)」「何を(具体的な活動内容)」「どのように(手段)」行うのかを明確にした、具体的なアクションプランを作成します。

ステップ3:【Do】安全対策を実行し、全従業員に浸透させる

  • 目的: 策定した活動計画に基づき、具体的なリスク低減措置や安全衛生活動を職場に展開・実行する。
  • やること: 計画に沿って改善策を実行し、変更点やルールを全従業員に教育・周知徹底する。

計画は実行されて初めて意味を持ちます。このステップでは、策定した計画を確実に実行に移すとともに、変更点やルールが全従業員に正しく理解され、実践されるように徹底することが求められます。

  • 1. リスク低減措置の実行:
    活動計画書に従い、設備の改善、作業マニュアルの改訂、保護具の導入・使用徹底、作業環境の整備などを着実に実行します。進捗状況は定期的に確認し、計画通りに進んでいない場合はその原因を特定し、対策を講じます。

  • 2. 従業員への周知・教育:
    新しいルールや改善策について、朝礼やミーティングの場で全従業員に周知します。なぜそれを実施するのかという背景や目的も併せて伝えることで、従業員の理解と協力を得やすくなります。また、安全な作業手順や危険予知に関する教育・訓練を定期的に実施し、安全意識の定着を図ります。

ステップ4:【Check】活動の成果を客観的なデータで評価する

  • 目的: 実施した安全対策が計画通りに進捗し、意図した効果を上げているかを客観的に評価・検証する。
  • やること: 日常点検やパトロールを実施し、活動の進捗を確認後、対策前後のデータを比較して効果を測定する。

「やりっぱなし」にせず、実施した活動の効果を正しく評価することが、次の改善に繋がる重要なステップです。データや現場の状況を基に、多角的な視点から評価を行います。

  • 1. 日常点検・パトロール:
    安全管理者や担当者が定期的に職場を巡視し、ルールが守られているか、新たな危険箇所が発生していないかなどをチェックします。チェックリストを用いて、客観的な視点で確認することが重要です。

  • 2. 活動の進捗確認:
    活動計画書に記載された各項目が、スケジュール通りに実施されているかを確認します。遅延や未実施の項目があれば、その理由を分析します。

  • 3. 効果測定:
    対策実施の前後で、労働災害やヒヤリハットの発生件数、各種安全指標がどのように変化したかをデータで比較・分析します。従業員へのアンケート調査で、安全意識の変化を測定することも有効です。

ステップ5:【Action】評価結果を次の改善サイクルに繋げる

  • 目的: 評価結果から明らかになった課題や問題点を分析し、活動計画全体を見直して、次のPDCAサイクルに繋げる。
  • やること: 評価結果から課題を抽出し、新たな改善策を立案して、次期の計画に反映させる。

評価ステップで得られた結果をもとに、安全管理の仕組み全体をさらに良いものへと改善していきます。このステップこそが、安全レベルを継続的に高めていくための原動力となります。

  • 1. 課題の抽出:
    評価によって明らかになった「計画通りに進まなかった点」「効果が不十分だった対策」「新たに発見されたリスク」などの問題点や課題を具体的に整理します。

  • 2. 改善策の立案:
    抽出された課題を解決するための具体的な改善策を検討します。例えば、「マニュアルが複雑で守られていない」のであれば、「図や写真を使って分かりやすく改訂する」といった対策を考えます。

  • 3. 情報共有:
    一連のPDCAサイクルの結果(成果と課題)を経営層や全従業員にフィードバックします。成功体験はモチベーション向上に、課題は組織全体の新たな気づきに繋がり、安全管理活動への参画意識を高めます。

安全管理を形骸化させない!担当者が押さえるべき3つの秘訣

安全管理のPDCAサイクルを回す流れを理解しても、それが形骸化してしまっては意味がありません。活動を組織文化として根付かせ、実効性のあるものにするためには、特に意識すべき3つの秘訣があります。これらは安全管理活動の成否を分ける鍵となります。

秘訣1:経営トップを巻き込み、全社的な取り組みにする

安全管理は、担当部署だけの仕事ではありません。経営トップ自らが「安全はすべてに優先する」という明確な方針を示し、その実現に向けた強いリーダーシップを発揮することが不可欠です。トップが安全活動に積極的に関与し、必要な経営資源(予算、人員、時間)を十分に配分する姿勢を見せることで、安全管理が単なるコストではなく、企業の未来への重要な投資であるという認識が全社に浸透します。

秘訣2:現場の従業員が主役になる仕組みを作る

職場の危険を最もよく知っているのは、日々そこで働く現場の従業員です。そのため、安全管理はトップダウンの指示だけでなく、従業員一人ひとりが主体的に参加するボトムアップの活動が極めて重要になります。ヒヤリハット報告制度の活性化や、安全に関する意見交換会(ツールボックスミーティングなど)を定期的に開催し、従業員が気軽に危険に関する情報を報告・相談できる風通しの良い職場風土を醸成することが、隠れたリスクの発見に繋がります。

秘訣3:ITツールを活用し、報告・管理を効率化する

近年、安全管理の分野でもデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいます。従来は紙ベースで行われていたヒヤリハット報告、パトロール記録、教育履歴の管理などを、クラウドサービスや専用アプリを用いてデジタル化することで、業務効率は飛躍的に向上します。これにより、報告や集計にかかっていた時間をデータ分析や本質的な改善活動に充てられるようになり、より質の高い安全管理を実現できます。

【お悩み別】安全管理担当者のよくある不安と解決策

安全管理の重要性は理解していても、実際に推進する上では様々な壁に直面します。ここでは、多くの担当者が抱えがちな具体的な悩みを取り上げ、その解決策を提示します。自社の状況と照らし合わせながら、取り組みのヒントにしてください。

不安①:「何から手をつければいいかわからない」

  • 解決策: まずは「リスクアセスメント」から始めましょう。

安全管理の範囲は広く、一度にすべてを完璧に進めようとすると、どこから手をつければ良いか分からなくなりがちです。その場合は、まず特定の作業(例:プレス作業)や特定の部署に絞って、ステップ1で解説したリスクアセスメントを実施することをお勧めします。小さな範囲でも危険の洗い出しから対策までの一連の流れを経験することで、活動の全体像が見え、次のステップに進みやすくなります。小さな成功体験の積み重ねが、全社展開への大きな力となります。

不安②:「専門知識がなく、進め方に自信がない」

  • 解決策: 外部の専門家や公的機関の情報を活用しましょう。

安全管理には、労働安全衛生法などの専門的な知識が求められる場面もあります。自社内に知見が不足している場合は、無理に内製化しようとせず、外部のリソースを積極的に活用しましょう。労働安全コンサルタントや安全衛生診断機関といった専門家に相談するほか、厚生労働省のウェブサイト「職場のあんぜんサイト」や、各都道府県の労働局が提供するガイドライン、マニュアルなども非常に参考になります。

不安③:「活動がマンネリ化・形骸化してしまう」

  • 解決策: PDCAサイクルを意識し、目標を更新し続けましょう。

安全管理活動が長くなると、どうしても当初の緊張感が薄れ、マンネリ化しやすくなります。これを防ぐためには、PDCAサイクルを意識的に回し続けることが重要です。定期的に活動内容を評価し、その結果に基づいて安全目標を見直しましょう。新たな課題を設定したり、活動の重点テーマを変えたりすることで、常に新鮮な気持ちで取り組むことができます。また、安全活動で成果を上げた部署や個人を表彰する制度を設けるなど、従業員のモチベーションを維持する工夫も効果的です。

安全管理システムの比較検討(ツール導入を考える方へ)

安全管理の質と効率をさらに高めたいと考えるなら、専用の安全管理システムの導入は非常に有効な選択肢です。これらのツールは、情報の一元管理、リアルタイムな共有、データ分析などを可能にし、担当者の負担を大幅に軽減します。システムを選定する際には、自社の業種や規模、解決したい課題を明確にし、必要な機能を備えたツールを選ぶことが重要です。

これは、システム選定時にチェックすべき主な機能とポイントを整理したものです。

機能分類 主な機能 選定時のチェックポイント
報告・管理 ・ヒヤリハット、労災報告
・是正措置の進捗管理
・スマートフォンで現場から手軽に報告できるか
・入力フォームを自社に合わせてカスタマイズできるか
リスクアセスメント ・リスクの特定、見積もり、評価支援
・危険源データベース
・自社の業種に合った評価基準が設定できるか
・過去のデータと比較分析ができるか
教育・情報共有 ・教育訓練の受講履歴管理
・安全マニュアルの共有
・KYT(危険予知訓練)シート作成
・eラーニング機能があるか
・誰が何を見たか(既読管理)がわかるか
データ分析 ・災害データの集計・グラフ化
・パトロール結果の分析
・ダッシュボードが見やすく、直感的に操作できるか
・必要なレポートを簡単に出力できるか

まとめ:安全管理は継続的な改善活動。まずはリスクの可視化から

本記事では、職場の安全性を高めるための安全管理について、その基本的な流れをPDCAサイクルに沿った5つのステップで解説しました。

安全管理のPDCAサイクル:5つのステップ
  • 1. 現状把握とリスクアセスメント(Plan): 職場に潜む危険を洗い出す
  • 2. 安全目標と活動計画の策定(Plan): 具体的な目標と計画を立てる
  • 3. 安全対策と教育の実施(Do): 計画を実行に移す
  • 4. 活動状況の評価(Check): 実施した対策の効果を検証する
  • 5. 見直しと継続的改善(Action): 評価結果を次の計画に活かす

安全管理で最も重要なのは、このサイクルを一度きりで終わらせず、継続的に回し続けることです。経営トップから現場の従業員まで、組織の全員が「安全はすべてに優先する」という共通の意識を持ち、一丸となって取り組むことで、形骸化しない実効性のある安全管理が実現します。まずは自社の職場に潜む小さなリスクを見つけ、改善への第一歩を踏出しましょう。

よくある質問

  • Q1. 安全管理者を選任する法的な義務はありますか?
    A1. はい、労働安全衛生法により、特定の業種および事業場の規模に応じて、安全管理者を選任することが義務付けられています。例えば、建設業、製造業、運送業などの指定された業種では、常時使用する労働者が50人以上の事業場で選任が必要です。自社が対象となるかどうかの詳細は、所轄の労働基準監督署や以下の資料でご確認ください。
    出典:厚生労働省 東京労働局「安全管理者について」

  • Q2. ヒヤリハット報告を集めても、なかなか事故が減りません。なぜでしょうか?
    A2. ヒヤリハット報告は、集めること自体が目的ではありません。集まった情報を分析し、「なぜそれが起きたのか」という根本原因を特定し、具体的な再発防止策を講じて初めて意味を持ちます。報告された事象の背景にある危険源(不安全な状態や不安全な行動を誘発する要因)を除去・低減する活動に繋がっていない場合、同様のヒヤリハットや事故が繰り返される可能性があります。集まった情報の分析と対策への活用というプロセスが重要です。

  • Q3. 小規模な事業所でも、本格的な安全管理は必要ですか?
    A3. はい、事業所の規模にかかわらず、従業員の安全と健康を守ることはすべての事業者の法的かつ社会的な責任であり、安全管理は必要です。大規模な事業所と同じ体制を組むことは難しいかもしれませんが、事業所の実態に合った形で取り組むことが大切です。例えば、全従業員で話し合ってリスクアセスメントを実施したり、KYT(危険予知訓練)を取り入れたりするなど、コストをかけずに始められる活動も多くあります。

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