写真台帳の保存ルールとは?様式・電子化・保管期間まで解説

この記事の要約
- 工事写真台帳の保存期間は法律と契約により最長10年が目安
- 電子帳簿保存法の要件を満たせば紙を廃止し完全電子化が可能
- 専用ソフトやアプリの導入で台帳作成と管理時間を大幅に短縮
- 目次
- 工事写真台帳とは?その役割と重要性
- 工事の証拠としての役割
- 検査や監査における必要性
- 工事写真台帳の保存期間は?法律と契約に基づくルール
- 公共工事における保存期間
- 税法(法人税法)における保存期間
- 民法(瑕疵担保責任・契約不適合責任)との関係
- 写真台帳の電子化と「電子帳簿保存法」への対応
- 電子データでの保存は認められるか
- 電子帳簿保存法における要件
- 小黒板電子化(電子小黒板)のメリット
- 写真台帳の様式と効率的な作成方法
- Excel(エクセル)での作成とテンプレート
- 工事写真台帳作成ソフト・アプリの活用
- 台帳に必要な記載項目
- アナログ管理とデジタル管理、どっちの台帳運用が良い?
- 紙・アナログ保存が向いているケース
- デジタル・クラウド管理が向いているケース
- よくある質問(FAQ)
- Q1. 工事写真台帳の保存期間を過ぎたらすぐに捨てても良いですか?
- Q2. 民間の小規模工事でも写真台帳は必要ですか?
- Q3. スマホで撮影した写真をそのまま台帳に使っても良いですか?
工事写真台帳とは?その役割と重要性
工事写真台帳とは、工事の施工過程を写真で記録し、説明書きや図面と合わせて整理した資料のことです。これは単なるアルバムではなく、工事が契約通りに、かつ適切な品質で行われたことを証明する証拠書類としての極めて高い重要性を持ちます。建設業法や公共工事の仕様書においても、その作成と保管は必須とされており、企業の信頼性を担保する基礎資料となります。
工事の証拠としての役割
工事現場では、施工が進むにつれてコンクリートの中や土の中など、完成後には目視できなくなる隠蔽部(いんぺいぶ)が数多く発生します。これらの箇所が設計図書通りに施工されたか、鉄筋の本数は足りているか、適切な材料が使われているかを証明できる唯一の手段が写真です。
また、各工程が正しい手順(フロー)で行われたことを時系列で示すことで、施工品質を客観的に裏付ける役割を果たします。万が一、建物に不具合が生じた際、適切な施工を行っていたことを主張するための自己防衛の資料にもなります。
検査や監査における必要性
公共工事においては、工事完了後の「完成検査」や、会計検査院による「実地検査」において、工事写真台帳は必ずチェックされる最重要書類の一つです。
- 主な検査とそのリスク
- 完成検査
発注者が成果物の品質を確認し、引き渡しを受けるための検査。不備があれば引き渡しが遅れる原因となります。 - 会計検査
税金が適正に使われたかを確認する国の検査。写真の不備が発覚した場合、最悪のケースでは破壊検査(完成部分を壊して確認する)や手直し工事を命じられるリスクがあります。
- 完成検査
管理不十分として工事成績評定点が下がると、次回の入札参加資格や企業の社会的信用(指名停止など)に大きな悪影響を及ぼす可能性があります。

工事写真台帳の保存期間は?法律と契約に基づくルール
写真台帳の保存期間は、一つの法律だけで決まっているわけではありません。「公共工事の仕様書」「法人税法」「民法」など、適用されるルールによって期間が異なります。実務上は、トラブル防止の観点から最も長い期間(10年)に合わせて保存することがリスク管理上推奨されます。ここでは、それぞれの根拠となるルールと期間の数え方について解説します。
公共工事における保存期間
公共工事の場合、国や地方自治体が定める「共通仕様書」や契約約款によって保存期間が規定されています。一般的には、工事目的物の引き渡しが完了した翌日から起算して5年間と定められているケースが多いですが、発注者や書類の種類によって異なります。また、建設業法上の営業に関する図書としては10年間の保存が求められることもあります。
以下の表は、公共工事に関連する主な保存期間の目安を整理したものです。
| 区分・根拠 | 書類の種類 | 保存期間 | 起算日(いつから) |
|---|---|---|---|
| 公共工事標準仕様書 | 完成図書(台帳含む) | 5年間 | 工事目的物の引渡しの翌日 |
| 建設業法(営業図書) | 完成図、発注書控え | 10年間 | 目的物の引渡し日 |
| 会計検査院法 | 計算証明書類 | 5年間 | 検査完了などの翌日 |
[出典:国土交通省「工事完成図書の電子納品要領」および建設業法関連規定]
- 会計検査への対応
会計検査院の実地検査は、工事終了後数年経ってから行われることもあります。5年の保存期間が過ぎた直後に廃棄してしまうと、万が一の確認要請に対応できないリスクがあるため、余裕を持った保管が望まれます。
税法(法人税法)における保存期間
企業の経理・税務において、工事写真台帳は売上の根拠や経費の実態を証明する「取引証憑書類(とりひきしょうひょうしょるい)」に該当します。
法人税法では、確定申告書の提出期限の翌日から7年間の保存を義務付けています。なお、青色申告で欠損金(赤字)を繰り越す場合は、その期間が10年間に延長されます。税務調査において、工事の実在性や進捗度合い(進行基準の売上計上時期など)が問われた際、写真台帳は決定的な証拠となります。
民法(瑕疵担保責任・契約不適合責任)との関係
2020年の民法改正により、「瑕疵担保責任」は契約不適合責任へと変更されました。これは、引き渡した建物等の品質が契約内容と適合しない場合、発注者が受注者に対して修理や損害賠償を請求できる権利です。
- 権利行使期間(消滅時効)
権利を行使できる時から10年間とされています。
特に住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)では、新築住宅の基本構造部分(柱や梁、雨水の侵入防止部分)について10年間の責任が義務付けられています。引き渡しから9年後に雨漏りが発生した場合など、自社の施工が適正であったことを証明するためには、当時の写真台帳が不可欠です。
写真台帳の電子化と「電子帳簿保存法」への対応
近年、働き方改革や業務効率化の流れを受け、紙の台帳ではなく電子データでの保存が主流になりつつあります。しかし、単にハードディスクに保存するだけでは不十分です。国税関係書類として認められるためには、電子帳簿保存法が定める要件をシステム的に満たす必要があります。ここでは電子化のルールと最新トレンドについて解説します。
電子データでの保存は認められるか
結論から言えば、認められます。国土交通省はCALS/EC(公共事業支援統合情報システム)を推進しており、電子納品が一般的になっています。
ただし、電子データとして保存・納品するためには、各発注機関が定める「電子納品要領(案)」や「デジタル写真管理情報基準」に準拠する必要があります。これには、フォルダ構成のルールや、改ざん検知機能を有した形式での保存などが含まれます。
電子帳簿保存法における要件
写真台帳を電子データとして保存し、かつ税務上の証憑として認めてもらうためには、以下の詳細な要件を満たす必要があります。これらは専用のクラウドストレージや工事管理ソフトを使用することでクリアできる場合がほとんどです。
- 電子保存の必須要件
- 真実性の確保(改ざん防止)
データにタイムスタンプが付与されていること、または訂正・削除の履歴が残る(もしくは訂正・削除ができない)クラウドシステム等を利用することが求められます。 - 可視性の確保(検索機能など)
ディスプレイやプリンタで速やかに整然とした形式で出力できること。さらに、「取引年月日」「取引金額」「取引先」などで検索でき、日付や金額の範囲指定検索や、2つ以上の項目を組み合わせた検索(AND検索)が可能であることが条件です。
- 真実性の確保(改ざん防止)
小黒板電子化(電子小黒板)のメリット
現場撮影の効率を劇的に変えるのが電子小黒板です。従来の木製黒板と異なり、タブレットやスマホの画面上にデジタルで黒板を表示させ、写真に合成して撮影します。
- 台帳作成の自動化
撮影データに「工種」「測点」「立会者」などの情報が埋め込まれるため、ソフトに取り込むだけで台帳のレイアウトが自動完成します。 - 改ざん検知
J-COMSIA(一般社団法人施工管理ソフトウェア産業協会)の検定に合格したアプリを使用することで、画像の信憑性が担保され、公共工事でも安心して使用できます。

写真台帳の様式と効率的な作成方法
写真台帳の作成には大きく分けて、汎用的な表計算ソフトを使う方法と、建設業専用のソフトを使う方法があります。それぞれの特徴を理解し、自社の規模や予算に合った方法を選びましょう。ここでは、Excelと専用ソフトのメリット・デメリットを比較し、必要な記載項目を整理します。
Excel(エクセル)での作成とテンプレート
Excelは導入コストがかからず、多くの人が操作に慣れているため、小規模な現場でよく利用されます。インターネット上には無料のテンプレートも多く存在します。
以下の表は、Excelで管理する場合のメリットとデメリットをまとめたものです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| メリット | ・追加コストがかからない ・自由なレイアウト変更が可能 ・PCがあればどこでも編集できる |
| デメリット | ・写真の貼り付けやリサイズに手間がかかる ・写真枚数が増えるとファイル容量が重くなり、動作が遅くなる ・電子納品の基準(XML形式など)に対応させるのが難しい ・リンク切れなどの管理リスクがある |
工事写真台帳作成ソフト・アプリの活用
工事写真の管理に特化した有料ソフトやアプリです。多くの製品が電子小黒板アプリと連動しています。
以下の表は、専用ソフトやアプリを導入する場合の特徴です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| メリット | ・写真をドラッグ&ドロップするだけで自動レイアウトされる ・電子納品要領や最新の基準に自動対応している ・クラウド共有により、事務所と現場でリアルタイム連携が可能 ・黒板情報の自動読み取りで入力ミスが減る |
| デメリット | ・導入コスト(初期費用や月額利用料)がかかる ・操作方法を覚える必要がある |
台帳に必要な記載項目
どのようなツールを使う場合でも、写真台帳として機能させるために必須となる記載項目があります。以下は最低限網羅すべき情報です。
- 台帳の必須項目リスト
- 工事名:契約上の工事名称
- 工事場所:施工箇所の住所や測点
- 撮影年月日:いつ撮影されたか
- 工種・種別・細別:工事の分類(例:道路土工>掘削工>床掘)
- 撮影状況・説明:何をしている写真か(例:施工前、施工中、完了、寸法計測状況)
- 立会人:段階確認などで立会者がいる場合はその氏名
- 実測値・設計値:寸法管理写真の場合、設計値に対する実測値の記載
アナログ管理とデジタル管理、どっちの台帳運用が良い?
自社にはどちらの管理方法が適しているのか、判断に迷う場合の基準を整理します。工事の規模、発注者の要件、社内のIT環境などを総合的に考慮して選択することが重要です。ここでは、それぞれの管理方法が推奨される具体的なケースを提示します。
紙・アナログ保存が向いているケース
以下の条件に当てはまる場合は、従来の紙ベースやExcelでの管理でも対応可能です。
- 年間工事数が少ない
年に数件程度の小規模工事であれば、手作業でも負担は少なく、高額なシステム投資をする費用対効果が薄いためです。 - 発注者の指定がある
民間工事などで、紙のアルバム形式での提出のみが求められている場合。 - コスト最優先
ITツールの導入予算が全く取れない場合。
デジタル・クラウド管理が向いているケース
以下の条件に当てはまる場合は、デジタル管理(専用ソフト・クラウド)への移行を強く推奨します。
- 公共工事を受注している
電子納品への対応や、CALS/EC基準の遵守が必要不可欠であり、手作業での対応は困難です。 - 写真枚数が膨大
数百〜数千枚の写真をExcelで管理するのは、動作の重さや管理の手間から実質不可能です。 - チームで共有したい
複数人で現場を担当したり、事務所と現場で分業したりする場合、クラウドでのリアルタイム共有が必須となります。 - テレワーク対応
事務所に戻らずに台帳作成を行いたい場合、どこからでもアクセスできるクラウド環境が有効です。
よくある質問(FAQ)
工事写真台帳の管理に関して、現場から頻繁に寄せられる疑問をまとめました。
Q1. 工事写真台帳の保存期間を過ぎたらすぐに捨てても良いですか?
法律上の義務期間が過ぎていれば廃棄は可能です。しかし、建物が存在する限りメンテナンスや改修工事の依頼が来る可能性があります。また、万が一のクレーム対応に備え、紙媒体は廃棄しても、スキャンデータ等の電子データとして可能な限り残しておくことを推奨します。
Q2. 民間の小規模工事でも写真台帳は必要ですか?
法的な義務が曖昧な場合もありますが、作成・保存しておくのが一般的です。発注者との間で「言った言わない」のトラブルを回避するためや、追加工事費用の根拠資料として、写真台帳は強力な証拠となります。
Q3. スマホで撮影した写真をそのまま台帳に使っても良いですか?
基本的には可能ですが、注意が必要です。公共工事の電子納品では、画素数や改ざん防止措置(CALSモードなど)の要件が指定されています。専用の工事写真アプリ(電子小黒板機能付き)を使用すれば、これらの要件を自動的に満たすことができ、台帳作成もスムーズになります。





