「会社設立」の基本知識

建設業の会社設立に必要な資本金はいくら?


更新日: 2025/12/18
建設業の会社設立に必要な資本金はいくら?

この記事の要約

  • 建設業許可取得には資本金500万円以上での設立が推奨される
  • 特定建設業許可を目指すなら資本金2,000万円以上が必要
  • 会社設立費用は株式会社で約25万円、合同会社で約10万円
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建設業の会社設立における資本金の目安と「500万円」の壁

建設業において会社を設立する際、資本金の額は単なる元手以上の意味を持ちます。特に「建設業許可」の取得を見据えた場合、法律上の最低額ではなく、許可要件を満たすための戦略的な設定が必要です。本セクションでは、建設業ならではの資本金の考え方と、実務上で壁となる「500万円」「2,000万円」の基準について詳しく解説します。

建設業の会社設立に向けた資本金の計算と事業計画の作成

法律上の会社設立は「資本金1円」から可能

2006年の会社法改正により、株式会社であっても資本金1円から設立が可能となりました。このルールは建設業で会社を作る場合にも適用されます。しかし、実務的な観点から見ると、建設業における1円設立は現実的ではありません。

資本金が少なすぎる場合のリスク
  • 運転資金の不足
    建設業は資材費や外注費の支払いが先行するため、手元資金がないとすぐに資金ショートします。
  • 対外信用の低下
    取引先や金融機関から「事業基盤が脆弱」と判断され、取引口座の開設や融資が難しくなります。
  • 許可要件の不備
    後述する建設業許可の財産的基礎要件を満たせず、許可が取得できません。

一般建設業許可を取得するなら「500万円以上」が必要

多くの建設業者が最初に目指す「一般建設業許可」には、財産的基礎要件(金銭的な信用力)が定められています。これから会社を設立する場合、この要件を最も確実かつスムーズにクリアするための目安が資本金500万円以上です。

一般建設業許可の財産的基礎要件

次のいずれかに該当すること

  • 自己資本の額が500万円以上であること
  • 500万円以上の資金調達能力があること
  • 許可申請直前の過去5年間許可を受けて継続して営業した実績があること(更新時など)

設立時の資本金を500万円以上に設定すれば、第1期目の決算を迎える前であっても、登記簿謄本によって「自己資本500万円以上」を証明できます。これにより、銀行の残高証明書などを別途用意する必要がなくなり、手続きが簡素化されます。

特定建設業許可を目指す場合は「2,000万円以上」が必要

元請として、総額4,500万円以上(建築一式工事の場合は7,000万円以上)の下請契約を締結して工事を施工する場合、「特定建設業許可」が必要です。この許可を取得するための財産要件は非常に厳格であり、以下のすべてを満たす必要があります。

  • 資本金の額が2,000万円以上であること
  • 自己資本の額が4,000万円以上であること
  • 欠損の額が資本金の20%を超えていないこと
  • 流動比率が75%以上であること

特に注意すべきは、資本金2,000万円以上かつ自己資本4,000万円以上という点です。設立直後から特定建設業許可を取得するには、資本金を4,000万円以上にするなどの高い財務基準が求められます。

表:許可区分ごとの必要資本金・財産要件まとめ

許可区分 目安となる資本金額 具体的な財産的基礎要件 想定される工事規模
一般建設業 500万円以上 ・自己資本が500万円以上
・または500万円以上の資金調達能力証明
・請負金額500万円以上の工事
・下請契約総額が4,500万円未満の元請工事
特定建設業 2,000万円以上
(推奨4,000万円)
・資本金2,000万円以上
・自己資本4,000万円以上
・流動比率75%以上
・欠損比率20%以下
・下請契約総額が4,500万円以上
(建築一式は7,000万円以上)となる大規模な元請工事

[出典:国土交通省「建設業許可の要件」等に基づく一般的な基準]

建設業の会社設立にかかる法定費用とその他初期費用

会社設立には、資本金とは別に国に納める税金や手数料などの「法定費用」がかかります。また、建設業許可を申請する際にも別途手数料が必要です。ここでは、株式会社と合同会社の設立費用の違いや、許可申請にかかる具体的なコストについて比較・解説します。

株式会社と合同会社の設立費用の違い

会社形態によって設立にかかる法定費用は異なります。株式会社は社会的信用が高い反面、初期費用が高くなります。一方、合同会社は費用を抑えられますが、建設業界での認知度や信用面を考慮する必要があります。

表:会社形態別の設立費用比較

項目 株式会社の場合 合同会社の場合 備考
定款印紙代 0円 または 40,000円 0円 または 40,000円 電子定款なら0円
定款認証手数料 約30,000円〜50,000円 不要(0円) 公証役場での認証
登録免許税 150,000円〜 60,000円〜 資本金の額×0.7%が最低額を上回る場合その額
合計目安 約200,000円〜250,000円 約60,000円〜100,000円 電子定款利用の場合

[出典:日本公証人連合会および国税庁の情報を基に作成]

建設業許可の申請にかかる手数料

会社設立登記が完了した後、建設業許可を申請する際に行政庁へ納める手数料です。知事許可か大臣許可かによって金額が異なります。

表:建設業許可申請の手数料一覧

区分 新規申請の手数料 更新・業種追加の手数料
知事許可 90,000円 更新:50,000円
業種追加:50,000円
大臣許可 150,000円 更新:50,000円
業種追加:50,000円

※知事許可の手数料は都道府県の収入証紙、大臣許可は登録免許税(収入印紙)での納付が一般的です。

建設業で起業する場合、専門家の多くが「資本金500万円での株式会社設立」を推奨します。これは単なる形式的な目安ではなく、許可取得の確実性、資金繰りの安定、そして将来的な公共工事参入において明確なメリットがあるためです。それぞれの理由を深掘りします。

許可要件(財産的基礎)を最もスムーズに満たせるため

前述の通り、一般建設業許可には「500万円以上の資金力」が求められます。資本金が500万円未満の場合、申請のたびに銀行発行の「残高証明書」を取得し、一時的にでも口座に500万円以上の現金があることを証明しなければなりません。

資本金500万円のメリット
  • 残高証明書が不要
    設立時の貸借対照表(または登記簿)で自己資本要件を証明できるため、現金をかき集める手間がなくなります。
  • 更新時も安心
    純資産が500万円以上維持されていれば、5年ごとの更新時もスムーズに要件をクリアできます。

銀行融資や対外的な信用力を確保するため

建設業は工事完成から入金までの期間(サイト)が長く、材料費や人件費の立替払いが発生しやすいビジネスモデルです。そのため、創業融資などの資金調達が経営の生命線となります。

金融機関が融資審査を行う際、自己資金の額(資本金)は計画性と安全性を測る重要な指標です。資本金500万円を用意できた事実は「事業への本気度」と「返済能力の基礎」として高く評価され、融資審査の通過率を高める要因となります。

公共工事(経審)の加点評価につながるため

将来的に公共工事への入札参加を検討している場合、経営事項審査(経審)を受ける必要があります。経審の評価項目の一つである「経営状況分析(Y点)」では、財務内容が数値化されます。

十分な資本金があることは、自己資本比率などの財務指標を改善し、経審の点数アップに寄与します。公共工事の受注を目指すのであれば、設立段階から財務体質の強化を意識した資本金設定が望ましいです。

建設業の会社設立手続きと資本金払込みの注意点

会社設立の手続き、特に資本金の払込みプロセスには厳格なルールがあります。不適切な方法で資金を動かすと、登記ができないだけでなく、建設業許可の審査で否認されるリスクもあります。ここでは正しい手順と注意点を解説します。

会社設立手続きにおける資本金の払込みと通帳記帳の確認

建設業許可を見据えた会社設立フロー(5ステップ)

建設業許可の取得を前提とした、標準的な株式会社設立の流れは以下の通りです。

  • 1. 基本事項の決定
    商号、本店所在地、事業目的(「土木工事業」など許可業種を明記)、資本金額(500万円以上推奨)を決定します。

  • 2. 定款の作成・認証
    公証役場で定款の認証を受けます。電子定款を利用すれば印紙代4万円を節約可能です。

  • 3. 資本金の払込み
    発起人(代表者個人)の銀行口座に、定めた資本金全額を振り込みます。その後、通帳のコピーを取ります。

  • 4. 設立登記申請
    法務局へ登記申請書を提出します。この提出日が「会社設立日」となります。

  • 5. 建設業許可の申請
    会社設立後、登記簿謄本を取得し、これを持って都道府県知事または地方整備局へ許可申請を行います。

資本金の払込みタイミングと見せ金(みせがね)のリスク

資本金の払込みに関して最も注意すべきなのが「見せ金」です。

見せ金(みせがね)とは?

会社設立や許可申請のためだけに、一時的に知人や消費者金融から借りたお金を口座に入れ、審査や登記が終わった直後に返済する行為のこと。

見せ金は違法行為であり、絶対に行ってはいけません。
公正証書原本不実記載等の罪に問われる可能性があるほか、建設業許可の審査においても、不自然な資金移動は厳しくチェックされます。実態のない資本金と判断されれば、許可は下りません。

現物出資(車両や機械など)を利用する場合

現金で500万円を用意するのが難しい場合、保有している資産を資本金に充てる現物出資という方法があります。建設業では、トラック、ダンプ、重機、資材置き場の土地などが対象になります。

現物出資のポイント
  • メリット
    手元の現金を温存しつつ、資本金の額面を増やすことができます。
    (例:現金200万円+トラック評価額300万円=資本金500万円)
  • 注意点
    現物出資の総額が500万円を超える場合、裁判所が選任する検査役の調査が必要となり、手続きが複雑化します。実務上は「総額500万円以下」に抑えるのが一般的です。

建設業で個人事業主から会社設立(法人成)する際の判断基準

個人事業主(一人親方)として活動している方が、会社設立(法人成り)を検討するタイミングは、売上規模や税制メリット、社会的信用のバランスで判断する必要があります。

売上高や利益による税制メリットの分岐点

一般的に、法人化による節税メリットが出始めるのは、課税所得(利益)が800万円〜900万円を超えたあたりと言われています。

  • 税率の差
    個人の所得税は累進課税で最大45%(住民税込み55%)ですが、法人税の実効税率は約23%〜33%程度で、一定額以上では法人の方が税負担が低くなります。
  • インボイス制度への対応
    課税事業者になるタイミングで法人化することで、経理処理を一元化できるメリットがあります。
  • 消費税の免税期間
    資本金1,000万円未満で設立すれば、原則として最大2年間、消費税の納税義務が免除される可能性があります(※インボイス登録状況等により異なる場合があります)。

社会保険加入の義務とコスト負担

法人化の大きなデメリットとして挙げられるのが、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への強制加入です。

個人事業所(従業員5人未満)では任意加入であった場合も、法人になれば社長1人であっても加入義務が発生します。会社は保険料の半額を負担する必要があるため、法定福利費という固定費が大幅に増加します。法人成りをする際は、税金の削減効果だけでなく、社会保険料の負担増も含めたトータルコストでのシミュレーションが不可欠です。

まとめ

建設業における会社設立では、事業の継続性と発展を見据えた資本金設定が重要です。

この記事の要点
  • 許可取得の最適解
    一般建設業許可を取得するなら、手続きの簡略化と信用の観点から「資本金500万円以上の株式会社」が王道です。
  • 特定建設業への備え
    大規模工事を請け負う特定建設業許可には、資本金2,000万円・自己資本4,000万円という高いハードルがあります。
  • 資金計画の重要性
    設立費用(約25万円)だけでなく、運転資金や社会保険料の負担増も考慮した資金計画を立てましょう。

資本金は会社の「体力」を示す指標です。目先の設立コストだけでなく、将来の許可取得や融資、公共工事への参入まで見据えて、適切な金額を設定してください。

よくある質問

Q. 資本金500万円を用意できない場合はどうすればいいですか?

設立時の資本金が500万円未満でも、建設業許可の取得自体は可能です。その場合、許可申請の直前にご自身の名義の銀行口座に500万円以上の預金残高を用意し、銀行から残高証明書を発行してもらうことで「資金調達能力」を証明します。
ただし、証明書発行時点の残高が必要となるため、一時的な資金繰りが必要になる点に注意してください。

Q. 会社設立後に資本金を使ってしまっても許可は取れますか?

はい、問題なく許可は取れます。
資本金は会社の中に現金のまま保管しておく必要はありません。会社設立後は、資材購入、給与支払い、家賃などの事業経費として自由に使って構いません。
許可申請時に「自己資本の額(純資産)」で要件を満たす場合は決算書の数字が基準となり、「資金調達能力」で満たす場合は残高証明書の金額が基準となります。

Q. 1人親方でも会社設立して建設業許可は取れますか?

はい、可能です。社長1人の会社でも建設業許可は取得できます。
ただし、許可を受けるためには「経営業務の管理責任者(経管)」や「専任技術者(専技)」といった人的要件を満たす必要があります。社長自身がこれらの実務経験や資格要件を満たしているか、事前に確認することが重要です。

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