建設業法における工程管理の考え方とは?実務への影響も解説

この記事の要約
- 建設業法が定める工程管理の定義と目的
- 工程管理の義務内容と実務への影響
- 法律遵守と効率化を両立するポイント
- 目次
- 建設業法が求める「工程管理」の定義とは?
- まずは基本から:工程管理の一般的な意味
- 建設業法における「工程管理」の法的な位置づけ
- 「施工管理」と「工程管理」はどう違う?
- 建設業法で「工程管理」が重視される理由と目的
- 適正な施工の確保と品質担保
- 受注者・発注者間のトラブル防止
- 公共の安全と福祉への貢献
- 建設業法が定める「工程管理」の具体的な義務内容
- 施工体制台帳と工程管理の関係
- 施工計画書(工程表)の作成と管理
- 下請業者への指導監督
- 主任技術者・監理技術者の役割
- 「工程管理」が建設業の実務に与える具体的な影響
- 書類作成・管理業務の明確化
- 現場監督者(技術者)の責任範囲
- コンプライアンス違反のリスクと防止
- 建設業法の「工程管理」に関するよくある不安と対策
- 不安①:どこまで詳細な工程表が必要?
- 不安②:急な仕様変更や天候不良で工程が遅れたら?
- 不安③:下請けが工程を守らない場合はどうする?
- 法律遵守と効率化を両立する「工程管理」のポイント
- ITツール・施工管理アプリの活用
- 定期的な進捗会議と情報共有の徹底
- リスクの洗い出しとバッファ(余裕)の設定
- まとめ:建設業法を理解し、実務に活かす「工程管理」
- 建設業法の「工程管理」に関するよくある質問
- Q. 工程管理を怠った場合の直接的な罰則はありますか?
- Q. 小規模な工事でも工程管理は必要ですか?
- Q. 工程表のフォーマットに法律上の決まりはありますか?
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建設業法が求める「工程管理」の定義とは?
建設業法における「工程管理」は、単なるスケジュール管理以上の法的な意味を持ちます。これは、工事を契約通りに適正に完成させるための根幹的な義務として位置づけられています。一般的な工程管理との違いや、法律が何を求めているのかを正確に理解することが、コンプライアンスの第一歩です。ここでは、その基本的な定義と法的位置づけ、類似用語との違いを明確にします。
まずは基本から:工程管理の一般的な意味
一般的なビジネスや製造業において、工程管理(Process Management)とは、製品やサービスが完成するまでの一連の流れ(プロセス)を管理することです。具体的には、作業の手順を標準化し、各段階での進捗や品質、コストを監視・分析します。
目的は、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)を回すことで、業務のムダを省き、生産性を向上させ、最終的な品質を安定させることです。この時点では、主に「効率化」や「品質安定化」といった企業内部の管理手法としての側面が強いと言えます。
建設業法における「工程管理」の法的な位置づけ
建設業法における工程管理は、一般的な意味合いに加え、より重い「法的な義務」としての側面を持ちます。建設業法は、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発達を促進することを目的としています(建設業法 第1条)。
この目的を達成するため、法律は建設業者に対し、適正な施工を行うための具体的な義務を課しています。例えば、建設業法第24条の8(施工体制台帳及び施工体系図の作成等)では、下請負人を使う場合にその施工範囲や工期を明確にすることを求めており、これは工程管理の基礎となります。また、第26条の4では、主任技術者及び監理技術者の職務として、施工計画の作成や工程管理、品質管理等を行うことを明確に定めています。
つまり、建設業法における工程管理は、単なる努力目標ではなく、「適正な施工を確保するために建設業者が必ず実施すべき義務」として法的に位置づけられているのです。
[出典:e-Gov法令検索 建設業法]
「施工管理」と「工程管理」はどう違う?
建設実務において、「施工管理」と「工程管理」は混同されがちですが、その範囲が異なります。
施工管理とは、建設工事全体を円滑に進めるための総合的な管理業務を指します。工事の計画から完成に至るまで、品質、コスト、工期、安全、環境など、あらゆる側面を管理下に置く活動です。
一方で、工程管理は、その施工管理を構成する中核的な要素の一つです。施工管理は、一般的に「四大管理」と呼ばれる要素で構成されており、工程管理はその一つとされています。
- 施工管理における四大管理
管理項目 主な内容 工程管理 計画通りに工事を進めるための進捗管理、スケジュール調整 品質管理 求められる品質・仕様を満たしているかの管理、検査 原価管理 予算内で工事を完了させるためのコスト管理 安全管理 現場での事故を防止するための環境整備、安全教育
このように、施工管理という大きな枠組みの中に、工期(スケジュール)に関する専門的な管理業務として「工程管理」が存在しています。
建設業法で「工程管理」が重視される理由と目的
建設業法が、数ある管理項目の中でも特に「工程管理」を重視し、技術者の職務として明記しているのには明確な理由があります。それは、工期が建設工事の根幹をなす要素であり、その遅延が多方面に深刻な影響を及ぼすためです。法律は、適正な工程管理を通じて、工事の品質確保、トラブル防止、そして公共の利益を守ることを目的としています。
適正な施工の確保と品質担保
建設工事は、多種多様な専門業者が複雑な手順を踏んで進められます。もし適正な工程管理が行われなければ、現場は混乱し、無理なスケジュールでの作業(突貫工事)が発生しがちです。
焦った作業は、必要な手順の省略や確認不足を招き、結果として手抜き工事や施工不良といった重大な品質低下につながります。建設業法は、計画的な工程管理を義務付けることで、各作業に必要な時間を確保させ、もって建設工事全体の品質を担保することを目的としています。
受注者・発注者間のトラブル防止
建設工事において、「工期の遅れ」は発注者(施主)との間で発生する最も深刻なトラブル原因の一つです。工期が遅れれば、発注者はその建物の使用開始が遅れ、営業上の損失や追加の費用(例:仮住まいの延長費用)が発生する可能性があります。
建設業法は、建設業者が契約に基づき、誠実に工程を管理し、工期を遵守することを求めています。適正な工程管理は、契約履行の証であり、工期遅延による損害賠償リスクを回避し、発注者との信頼関係を維持するために不可欠です。
公共の安全と福祉への貢献
特に学校、病院、道路、橋梁といった公共工事において、工程管理の重要性はさらに高まります。これらのインフラ整備が計画通りに進まなければ、市民生活や経済活動に多大な支障をきたし、公共の安全や福祉が損なわれる恐れがあります。
法律が工程管理を厳しく規定している背景には、個々の契約遵守という側面だけでなく、建設業が社会インフラを支えるという公共的な使命を負っているという認識があります。計画的な施工を通じて、社会全体の利益を守ることも、法律が重視する目的の一つです。
建設業法が定める「工程管理」の具体的な義務内容
建設業法は、適正な工程管理を実現するために、建設業者(特に元請負人)や技術者に対して具体的な義務を定めています。これらは単なる推奨事項ではなく、法律に基づいて実施すべき実務です。施工体制台帳の整備から施工計画書の作成、そして現場での指導監督に至るまで、法律が求める具体的なアクションを解説します。
施工体制台帳と工程管理の関係
元請負人が下請負人を用いて工事を行う場合、施工体制台帳の作成が義務付けられています(建設業法第24条の8)。この台帳には、下請負人の名称や許可番号などに加え、「下請負人に負わせる建設工事の範囲及び期間」を記載する必要があります。
これは、元請負人が工事全体の工程を把握する上で、どの業者が、いつ、どの部分を担当するのかを明確に管理することを求めている証左です。施工体制台帳を正しく整備することは、複雑な工事における工程管理の第一歩となります。
[出典:e-Gov法令検索 建設業法]
施工計画書(工程表)の作成と管理
工事に着手する前には、施工計画書を作成する必要があります。施工計画書は、工事をどのように進めるかを具体的に記した設計図であり、その中核をなすのが「工程表」です。
工程表には、工事全体の流れ、各工種の作業順序、開始日、終了日、所要日数などを明記します。法律で特定の様式が定められているわけではありませんが、実務では以下のような工程表が工事の規模や特性に応じて使われます。
・バーチャート(ガントチャート)工程表: 最も一般的で、縦軸に作業項目、横軸に日時をとり、各作業の期間を棒グラフで示す形式。
・ネットワーク式工程表(PERT図): 作業の関連性(どの作業が終わらないと次が始められないか)を矢印と結合点で示す形式。クリティカルパス(工期全体に影響する最重要経路)の把握に適しています。
重要なのは、作成した工程表に基づき、実際の進捗を日々管理することです。
下請業者への指導監督
元請負人は、自らが作成した施工計画(工程表)に基づき、工事が適正に行われるよう、下請負人を適切に指導監督する義務を負っています(建設業法第24条の9)。
これは、工程表を下請けに渡して終わり、という意味ではありません。元請負人は、下請負人の作業が計画通りに進んでいるか日常的に確認し、遅れが生じている場合や、他の工種との調整が必要な場合には、積極的に介入して指導・調整を行わなければなりません。工程管理は、元請負人の重要なマネジメント責任です。
[出典:e-Gov法令検索 建設業法]
主任技術者・監理技術者の役割
建設業法第26条の4は、工事現場に配置される主任技術者または監理技術者の職務を明確に定めています。その職務の中核に「工程管理」が含まれています。

技術者が担うべき工程管理に関する法的な役割は、具体的に以下の通りです。
- 技術者に求められる工程管理の役割
・施工計画(工程表)の作成: 工事の仕様書や設計図に基づき、合理的かつ実行可能な工程表を含む施工計画を作成します。
・工事全体の進捗状況の把握と管理: 日々の作業進捗を工程表と照らし合わせ、計画との差異(ズレ)を正確に把握します。
・下請業者間の工程調整: 複数の下請負人が関わる作業(例:電気工事と内装工事)がスムーズに連携できるよう、作業の順番やタイミングを調整します。
・遅延発生時の対策立案と実行: 天候不良やトラブルで遅れが発生した場合、その原因を分析し、工程を組み直す(リスケジュール)などの回復策を立案し、実行に移します。
「工程管理」が建設業の実務に与える具体的な影響
建設業法に基づく工程管理の義務化は、建設業者の日々の実務に直接的な影響を及ぼします。これは単に「やらなければならないこと」が増えるという負担だけではありません。法律を遵守することで、現場監督者の責任が明確になり、コンプライアンス違反のリスクを回避できるという側面もあります。ここでは、実務への具体的な影響を3つの側面に分けて解説します。
書類作成・管理業務の明確化
適正な工程管理を行うためには、その前提となる計画と、進捗を記録する証拠(エビデンス)が必要になります。これにより、現場では以下のようなドキュメント作成・管理業務が必須となります。
・施工計画書(工程表): 工事開始前に、全体のスケジュールを可視化した書類の作成。
・実行予算書: 工程計画に基づき、各作業にどれだけのコストがかかるかを算出した書類。
・作業日報・進捗報告書: 日々の作業内容と進捗状況を記録し、計画との差異を確認するための書類。
・打ち合わせ議事録: 発注者や下請負人との工程に関する調整・決定事項の記録。
これらの書類を適切に作成・管理することは、工程管理を客観的に行うための基礎であり、万が一トラブルが発生した際に自社を守るための重要な証拠資料ともなります。
現場監督者(技術者)の責任範囲
法律によって工程管理が主任技術者・監理技術者の職務として明確に定められたことで、現場監督者が負うべき「管理責任」の範囲が法的に裏付けられました。
現場監督者は、単に作業の指示を出すだけでなく、「工事全体の進捗に責任を持つ管理者」としての役割が求められます。工期が遅延した場合、その原因が技術者による工程管理の不備(例:不合理な計画、進捗把握の怠慢、業者間調整の失敗)にあると判断されれば、技術者個人およびその所属企業が責任を問われる可能性が明確になりました。
コンプライアンス違反のリスクと防止
もし、法律が求める適正な工程管理を怠った場合、企業は重大なリスクを負うことになります。
最も直接的なリスクは、工期遅延による発注者からの損害賠償請求や契約不履行の追及です。しかし、リスクはそれだけではありません。
工程管理の不備が原因で重大な施工不良や事故が発生した場合、あるいは下請負人への不適切な指導監督(例:無理な工期短縮の強要)が明らかになった場合、建設業法に基づく行政処分の対象となる可能性があります。これには、国土交通大臣や都道府県知事による指示処分(業務改善命令)や、さらに重い営業停止処分などが含まれます。適正な工程管理は、こうしたコンプライアンス違反のリスクを防止するための防衛策でもあるのです。
建設業法の「工程管理」に関するよくある不安と対策
建設業法が工程管理を義務付けていることは理解できても、実務に落とし込む上では「どこまでやれば良いのか」「計画通りにいかない場合はどうするのか」といった不安がつきものです。ここでは、現場の技術者や経営者が抱きがちな典型的な不安に対し、法令遵守の観点から具体的な対策と考え方を解説します。
不安①:どこまで詳細な工程表が必要?
「法律を守るために、非常に詳細な工程表を作らなければならないのか」という不安は多いですが、建設業法は工程表の厳密なフォーマットや細かさを規定していません。
重要なのは、その工事の規模や特性、関係者の数に応じて、「管理」の目的を果たせるレベルであることです。実務上、最低限求められるレベル感は以下の通りです。
・主要な工種(マイルストーン)が明確であること:
工事全体の節目となる重要な作業(例:「基礎工事完了」「上棟」「内装工事開始」など)がいつ終わるのかが明確になっている。
・各作業の開始日と終了日がわかること:
個々の作業がいつ始まり、いつ終わる予定なのかが具体的に示されている。
・下請け業者の担当範囲がわかること:
(下請けを使う場合)どの作業をどの業者が担当するのかが、工程表上で関連づけられている。
小規模な工事であればシンプルなバーチャートで十分ですし、大規模で複雑な工事であればネットワーク式が適している場合もあります。目的は「関係者全員が進捗を共有し、管理できること」にあります。
不安②:急な仕様変更や天候不良で工程が遅れたら?
建設工事において、計画通りに進まない事態は日常茶飯事です。「計画と実績がズレたら、すぐに法律違反になるのでは?」と心配する必要はありません。
法律が求めているのは、「計画とズレた場合に、それを放置せず、適切に対応すること」です。
- 原因の特定:
遅延の理由が、発注者都合の仕様変更、設計図書の不備、予期せぬ天候不良(台風、豪雨)、資材の納入遅れなど、正当な理由(不可抗力含む)であるかを明確にします。 - 工程の修正(リスケジュール):
現状を踏まえ、最も合理的かつ最短で工事を完了できる新しい工程表(変更工程表)を作成します。 - 関係者との合意形成:
変更後の工程表について、速やかに発注者(施主)の了承を得ることが最も重要です。同時に、下請負人とも新しいスケジュールについて合意します。
遅延を隠蔽したり、発注者に無断で工程を変更したりすることが問題となります。遅延が発生した際は、速やかに報告・連絡・相談(報連相)を行い、関係者間で合意の取れた「新しい計画」に基づいて管理を継続することが適法な対応です。
不安③:下請けが工程を守らない場合はどうする?
元請負人には下請負人への指導監督責任がありますが、下請負人が指示に従わず、工程遅延の原因となるケースもあります。
この場合、元請負人としては「指導監督責任を果たした」という客観的な証拠を残すことが重要です。
・定期的な進捗確認の実施:
下請負人との定例会議や日々の朝礼で、工程の進捗確認を「行った」記録(議事録、日報など)を残します。
・文書による是正指示:
遅延が常態化する場合は、口頭での注意に加え、文書(打ち合わせ議事録、指示書など)で「いつまでに、何を、どう改善すべきか」を具体的に指示し、記録します。
・リソース調整の支援:
単に「遅れるな」と指示するだけでなく、遅延の原因が下請けの人手不足や資材の問題であれば、元請けとして他業者との調整や資材調達の支援を行うなど、具体的な「管理」アクションを取ることが求められます。
「言った・言わない」のトラブルを防ぎ、万が一の際に指導監督義務を果たしていたことを証明できるようにしておくことが、元請けのリスク管理となります。
法律遵守と効率化を両立する「工程管理」のポイント
建設業法が求める工程管理は、遵守すべき「義務」であると同時に、実行すれば現場の生産性を高める「武器」にもなります。法律を守る(コンプライアンス)ことと、現場を効率的に回す(生産性向上)ことは、決して相反するものではありません。ここでは、法律遵守と効率化を両立させるための実務的なポイントを3つ紹介します。
ITツール・施工管理アプリの活用
従来の手書きの工程表や、事務所のPCでしか更新できないExcelでの管理には限界があります。特に、現場と事務所、あるいは元請けと下請け間での情報共有のタイムラグは、工程遅延の大きな原因となります。
近年普及している施工管理アプリやクラウドベースのプロジェクト管理ツール、あるいはBIM/CIMといったIT技術を活用することで、以下のメリットが期待できます。
・現場の誰もが、スマートフォンやタブレットで最新の工程表をリアルタイムに確認できる。
・写真や図面を含めた進捗報告が容易になり、情報共有が迅速化する。
・工程表の変更や修正が即座に全関係者へ通知され、認識のズレを防げる。
・日報や報告書作成などの事務作業が効率化される。
ITツールへの投資は、法律が求める「適時適切な進捗管理」を効率的に実現するための有効な手段です。

定期的な進捗会議と情報共有の徹底
工程管理は、工程表を「作って終わり」ではありません。計画(Plan)と実績(Do)を比較し、ズレを是正する(Check・Action)プロセスこそが本質です。
そのためには、関係者間での定期的な情報共有が不可欠です。
・日々の朝礼・夕礼: その日の作業予定と実績を確認し、細かなズレを即時修正します。
・週次の工程会議: 元請けと主要な下請負人が集まり、週単位での進捗を確認し、翌週以降の作業調整を行います。
・月次の発注者報告: 発注者に対し、工事全体の進捗状況を報告し、必要に応じて工程の見直しについて協議します。
こうした会議体を定期的に運営し、関係者全員が「今、工事がどの段階にあるのか」「何が問題なのか」を常に共有している状態を作ることが、大きな遅延を防ぐ鍵となります。
リスクの洗い出しとバッファ(余裕)の設定
実行可能な工程管理を行うには、計画段階での「現実的な見通し」が重要です。どれほど精緻な計画を立てても、予期せぬトラブルは必ず発生します。
そこで重要になるのが、計画初期段階でのリスクの洗い出しです。
・資材の納期遅れは発生しないか?
・梅雨や台風の時期と重なっていないか?
・他の工種(例:電気と水道)が同じ場所で作業する「輻輳(ふくそう)」が発生しないか?
・周辺住民からのクレームで作業が中断する可能性はないか?
これらの潜在的なリスクをあらかじめ洗い出し、工程表に意図的な「バッファ(予備日・余裕期間)」を持たせることが、結果的に工期全体を守ることにつながります。ギリギリの計画は、わずかな遅れが全体に波及する脆い計画です。法律を守るためにも、現実的なリスクを織り込んだ余裕のある工程管理が求められます。
まとめ:建設業法を理解し、実務に活かす「工程管理」
建設業法における工程管理の考え方と、それが実務に与える影響について解説しました。この記事の要点を改めて整理します。
- この記事のまとめ
・建設業法における工程管理は、単なるスケジュール管理ではなく、適正な施工と品質を担保するための「法的な義務」です。
・法律は、主任技術者・監理技術者に対し、施工計画(工程表)の作成、工事全体の進捗管理、下請負人への指導監督といった具体的な役割を明確に求めています。
・工程管理を怠ると、工期遅延による損害賠償リスクだけでなく、建設業法違反として行政処分(指示処分、営業停止など)を受ける可能性があります。
・一方で、適正な工程管理を実務に活かすことは、現場の生産性向上、トラブルの未然防止、そして発注者からの信頼獲得に直結します。
・法律の意図を正しく理解し、施工管理アプリなどのITツールも活用しながら、自社の「工程管理」体制を整備・見直すことが、現代の建設業者にとって不可欠です。
建設業法の「工程管理」に関するよくある質問
最後に、建設業法の工程管理に関して、実務担当者から寄せられることの多い疑問についてQ&A形式で回答します。
Q. 工程管理を怠った場合の直接的な罰則はありますか?
A. 建設業法には、「工程管理をしなかった」という行為そのものに対する直接的な罰則(例:懲役刑や罰金刑)は定められていません。
しかし、適正な工程管理の懈怠(けたい)が原因で、「著しく不適当な工事」(例:重大な施工不良)を行ったと認められた場合や、配置技術者(主任技術者・監理技術者)がその職務(工程管理を含む)を「著しく怠った」と判断された場合、建設業法に基づく行政処分の対象となります。具体的には、国土交通大臣や都道府県知事による指示処分(業務改善命令)や、より重い営業停止処分、許可の取消処分に発展する可能性があります。
Q. 小規模な工事でも工程管理は必要ですか?
A. はい、必要です。
建設業の許可を受けて建設工事を請け負う以上、その工事の請負金額や規模の大小に関わらず、建設業法を遵守する義務があります。したがって、適正な施工(品質管理、原価管理、工程管理、安全管理)を行う責任は、すべての許可業者が負っています。
もちろん、工事の規模や複雑さに応じたレベルの管理で問題ありません。例えば、数日で終わる小規模なリフォーム工事で、大規模工事と同じネットワーク式工程表は不要です。しかし、作業の順序や完了予定日を明確にし、関係者間で共有するといった、その規模に応じた「工程管理」は必ず行う必要があります。
Q. 工程表のフォーマットに法律上の決まりはありますか?
A. 法律上、特定のフォーマット(様式)は定められていません。
どのような形式の工程表を使うかは、各企業の判断に委ねられています。実務上は、工事の規模、特性、関係者の数などに応じて、以下のような形式が使い分けられています。
・バーチャート(ガントチャート)式:
最も一般的で視覚的にわかりやすい形式。小~中規模の工事に適しています。
・ネットワーク式(PERT図など):
各作業間の関連性や、工期全体に影響する作業(クリティカルパス)を把握しやすいため、大規模で複雑な工事に適しています。
・曲線式(バナナ曲線・Sカーブ):
工事の進捗率(出来高)を時間軸でグラフ化し、計画と実績の差異を視覚的に管理する手法。
重要なのは、フォーマットの種類ではなく、「誰が見ても工事の順序と進捗状況が客観的に理解できる」内容であることです。




