工程管理とは?建設現場での基本と役割を解説

この記事の要約
- 建設業の要である工程管理の目的「QCD」を解説
- 具体的な業務内容を「PDCAサイクル」でSTEP解説
- 代表的な工程表の種類と成功させる3つのポイント
- 目次
- 工程管理の基本|建設業における目的と重要性
- 工程管理とは?
- 工程管理の目的は「QCD」の最適化
- 建設業で特に工程管理が重要視される理由
- 工程管理と関連業務との違いを比較
- 工程管理の具体的な業務内容を4つのSTEPで解説【PDCAサイクル】
- STEP1:工程計画の策定(Plan)
- STEP2:計画に基づく施工(Do)
- STEP3:進捗状況の確認と分析(Check)
- STEP4:計画の修正と改善(Action)
- 工程管理で用いられる代表的な工程表の種類
- 建設現場の工程管理を成功させるための3つのポイント
- ポイント1:無理のない実現可能な工程計画を立てる
- ポイント2:関係者との密な情報共有を徹底する
- ポイント3:トラブル発生時に迅速に対応・調整する
- まとめ:適切な工程管理で建設プロジェクトを成功に導こう
- 工程管理に関するよくある質問
工程管理の基本|建設業における目的と重要性
工程管理は、建設プロジェクトを計画通りに完遂させるための羅針盤ともいえる重要な業務です。単にスケジュールを管理するだけでなく、工事の品質やコスト、安全性にも深く関わっています。このセクションでは、工程管理の基本的な定義から、建設業においてなぜこれほどまでに重要視されるのか、その目的と理由を掘り下げて解説します。
工程管理とは?
工程管理とは、建設工事を計画通りに、安全かつ効率的に進めるための管理活動全般を指します。具体的には、定められた工期(納期)内に建物を完成させるために、個々の作業の順序や日程を計画し、その進捗を日々管理・調整することです。
もし計画に遅れが生じた場合は、その原因を分析し、リカバリープランを立てて実行することも工程管理の重要な役割に含まれます。
工程管理の目的は「QCD」の最適化
建設業における管理業務の基本となるのが「QCD」と呼ばれる3つの要素です。優れた工程管理は、これら3つの要素を高いレベルで満たし、最適化することを主な目的としています。
- 建設業におけるQCDとは
・Q(Quality):品質
定められた設計図書や仕様書に基づき、要求される品質基準を満たす構造物を建設すること。適切な工期と作業手順は、高い品質を確保するための大前提となります。・C(Cost):原価
工事にかかる人件費、材料費などの費用(原価)を、定められた予算内に収めること。工期が延長すれば、その分だけ余計なコストが発生するため、工程管理は原価管理と密接に関連します。・D(Delivery):工期
契約で定められた期日までに、工事を完了させ、発注者に引き渡すこと。工期遵守は発注者の信頼を得る上で最も重要な要素の一つです。
建設業で特に工程管理が重要視される理由
建設業は他の産業と比較して、工程管理の重要性が非常に高いと言われます。その背景には、一品一様の製品を屋外の厳しい環境下で、多くの人間が関わりながら作り上げるという、建設業特有の事情があります。
・工期が長く、関係者が多い
数ヶ月から数年にわたるプロジェクトが多く、設計者、発注者、元請け、多数の専門工事業者など、非常に多くの関係者が関わります。これらの関係者がスムーズに連携するためには、全体を俯瞰した緻密な工程管理が不可欠です。
・天候など不確定要素の影響を受けやすい
建設工事の多くは屋外で行われるため、大雨や台風、猛暑といった天候の変化によって作業が中断・遅延するリスクが常に伴います。これらの不確定要素を考慮に入れた、柔軟な工程管理が求められます。
・一つ一つのプロジェクトがオーダーメイド
建設される建物や構造物は、土地の形状や法規制などがすべて異なる「一品受注生産」です。工場での大量生産とは異なり、毎回異なる条件下で最適な施工計画を立てる必要があるため、工程管理の難易度が高くなります。
・安全管理と密接に関わる
無理な工期での作業は、注意力の散漫や危険な作業の強行につながり、労働災害のリスクを増大させます。適切な余裕を持った工程管理を行うことは、作業員の安全を守る「安全管理」の土台となります。
工程管理と関連業務との違いを比較
建設現場の管理業務は多岐にわたりますが、工程管理はその中でも中核的な役割を担います。ここでは、工程管理と特に密接に関連する「品質管理」「原価管理」「安全管理」との違いを比較し、それぞれの役割と関係性を明確にします。これらの業務は独立しているのではなく、相互に影響を与えながらプロジェクト全体を支えています。

以下の表は、建設現場における主要な4つの管理業務の目的と管理対象をまとめたものです。
| 管理業務 | 目的 | 主な管理対象 |
|---|---|---|
| 工程管理 | 工期遵守 | 作業のスケジュール、進捗状況、人員配置 |
| 品質管理 | 品質の確保 | 設計図書通りの品質、材料の品質、施工精度 |
| 原価管理 | 利益の確保 | 材料費、人件費、外注費などのコスト |
| 安全管理 | 労働災害の防止 | 危険箇所の把握、安全設備の設置、作業員の健康管理 |
このように、工程管理が計画通りに進むことで、品質の安定、無駄なコストの削減、そして安全な作業環境の確保が可能になります。逆に工程管理が破綻すれば、他のすべての管理業務に悪影響が及ぶため、これら4つの管理は「四位一体」で進めることが重要です。
工程管理の具体的な業務内容を4つのSTEPで解説【PDCAサイクル】
工程管理の実務は、一度立てた計画に固執するのではなく、継続的な改善サイクルを回すことが不可欠です。多くの建設現場では、建設業法で作成が求められる施工計画を軸に、「PDCAサイクル」というフレームワークが用いられます。ここでは、計画から改善までの流れを4つの明確なSTEPで解説します。
STEP1:工程計画の策定(Plan)
工事全体の品質やコスト、安全を左右する最も重要な段階です。ここでは、国土交通省の「公共建築工事標準仕様書」などを参考に、実現可能で精度の高い計画を策定します。
・施工手順の決定:設計図書に基づき、どの作業から着手し、どのような順序で工事を進めていくかを決定します。
・作業ごとの所要期間の算出:過去のデータや専門業者の意見を参考に、各作業にどれくらいの期間が必要かを算出します。
・工程表の作成:決定した手順と所要期間を基に、全体のスケジュールをバーチャート工程表などの形式で視覚化します。
・人員・資材・重機などの手配計画:工程表に合わせ、必要な職人、資材、建設機械などをいつ、どれだけ投入するかを計画・手配します。
STEP2:計画に基づく施工(Do)
策定した工程表に基づき、実際の工事を進める実行段階です。現場監督者は、計画通りに作業が進むよう、現場の職人へ的確な指示を出し、関係各所との円滑な連携を図ります。日々の進捗を正確に記録し、計画との乖離がないかを確認しながら作業を進めることが重要です。
STEP3:進捗状況の確認と分析(Check)
計画と実績のズレを客観的に評価し、問題点を早期に発見する段階です。週次の定例会議や日々の巡回を通じて、以下の点を確認・分析します。
・現場の巡回による進捗の目視確認
・定例会議での情報共有と課題の抽出
・計画と実績の差異分析(遅延・前倒しの原因特定)
・潜在的なリスク(天候、資材不足など)の洗い出し
STEP4:計画の修正と改善(Action)
進捗の遅れや問題点が発覚した場合、それを放置せず、具体的な対策を講じて計画を修正する改善段階です。例えば、天候不順による遅延に対しては予備日を充当し、特定の作業がボトルネックになっている場合は人員を再配置するなど、状況に応じた最適な改善策を実行します。この改善データは次のプロジェクトの計画(Plan)にも活かされ、組織全体の工程管理の精度が向上していきます。
[出典:e-Gov法令検索 建設業法]
[出典:国土交通省 公共建築工事標準仕様書]
工程管理で用いられる代表的な工程表の種類
工程管理を視覚的に行い、多くの関係者間で工事全体の流れや進捗状況を共有するために「工程表」は不可欠なツールです。プロジェクトの規模や複雑さ、管理の目的に応じて、いくつかの種類の工程表が使い分けられます。ここでは、建設現場で用いられる代表的な3種類の工程表の特徴、メリット、デメリットを解説します。
以下の表は、各工程表の特徴を比較したものです。
| 工程表の種類 | 特徴 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| バーチャート工程表 | 縦軸に作業項目、横軸に日時をとり、作業期間を棒(バー)で示す最もシンプルで一般的な形式。 | ・作成が容易 ・全体の流れを直感的に把握しやすい |
・各作業の関連性が分かりにくい ・重要な作業が不明確 |
| ガントチャート工程表 | バーチャートに加え、計画と実績を二段のバーで表示できる形式。進捗率を書き込むことも多い。 | ・計画と実績の差異が一目で分かる ・進捗状況の管理がしやすい |
・作業間の関連性が把握しにくい |
| ネットワーク式工程表 | 作業の関連性を矢印と結合点で結んで表現する形式。どの作業が遅れると工期全体に影響するかを分析できる。 | ・各作業の関連性が明確になる ・工期に影響する重要作業が分かる |
・作成・修正に専門知識が必要 ・全体の流れが直感的に分かりにくい |
小規模な工事ではシンプルで分かりやすいバーチャート工程表が、進捗管理を重視する場合にはガントチャート工程表が適しています。一方、多数の作業が複雑に絡み合う大規模なプロジェクトでは、ネットワーク式工程表を用いてクリティカルパス(工期に最も影響を与える作業経路)を特定し、重点的な管理を行うことが有効です。
建設現場の工程管理を成功させるための3つのポイント
緻密な工程表を作成しても、それが計画通りに進まなければ意味がありません。ここでは、日々の工程管理を円滑に進め、プロジェクトを成功に導くために現場で実践すべき3つの重要なポイントを紹介します。これらのポイントを意識することで、トラブルを未然に防ぎ、万が一発生した際にも迅速に対応することが可能になります。
- 工程管理成功のための3原則
- 実現可能な計画を立てる
- 関係者との情報共有を徹底する
- トラブルには迅速に対応・調整する
ポイント1:無理のない実現可能な工程計画を立てる
工程管理の成功は、計画段階でその大半が決まると言っても過言ではありません。利益を優先するあまり、実現不可能なタイトなスケジュールを組むと、現場に過度な負担がかかり、品質の低下や労働災害を招きます。計画段階で、天候による作業中断や予期せぬトラブルを想定し、ある程度のバッファ(予備日)を設けておくことが、結果的にスムーズな工事進行につながります。
ポイント2:関係者との密な情報共有を徹底する
建設現場は、現場監督者だけでなく、多くの専門工事業者や作業員、発注者など、様々な立場の人間が関わります。工程管理を成功させるには、関係者全員が同じ情報(工程表や進捗状況)を共有し、同じ目標に向かうことが不可欠です。日々の朝礼や週次の定例ミーティング、そして近年では情報共有ツールなどを活用し、認識のズレを防ぎましょう。
ポイント3:トラブル発生時に迅速に対応・調整する
どれだけ綿密に計画しても、建設現場でトラブルの発生を完全にゼロにすることは困難です。重要なのは、トラブルが発生した際に、それをいかに迅速に検知し、適切に対応するかです。問題の発見が遅れるほど、その影響は大きくなります。問題が発生した際には、原因を迅速に特定し、影響を最小限に抑えるための代替案を検討・実行する対応力と決断力が、現場の管理者には求められます。
まとめ:適切な工程管理で建設プロジェクトを成功に導こう
本記事では、建設現場における工程管理の基本から、その目的であるQCDの最適化、具体的な業務内容、代表的な手法、そして成功させるためのポイントまでを網羅的に解説しました。
工程管理は、単にスケジュールを管理するだけでなく、工事の品質を確保し、コストを最適化し、安全な作業環境を維持するための要となる、極めて重要な業務です。適切な工程管理なくして、建設プロジェクトの成功はありえません。
今回紹介したPDCAサイクルの考え方や各種工程表の特徴を深く理解し、担当するプロジェクトの規模や特性に合わせて適切に活用することで、建設プロジェクトを成功に導くことができます。まずは自社や自身の工程管理の現状を見直し、改善できる点から着手してみてはいかがでしょうか。
工程管理に関するよくある質問
Q1. 工程管理に役立つツールはありますか?
A1. はい、あります。従来はExcelなどで工程表を作成するのが一般的でしたが、近年では工程管理に特化したソフトウェアやクラウドサービスが多数提供されています。これらは、ガントチャートの簡単な作成、タスクの進捗管理、関係者とのリアルタイムな情報共有、写真管理などを効率化する便利な機能を備えており、多くの建設会社で導入が進んでいます。
Q2. 工程管理を行う上で、必要な資格はありますか?
A2. 工程管理業務そのものに必須となる特定の資格はありません。しかし、建設業法に基づく「施工管理技士(建築、土木など)」の資格は、工程管理を含む施工管理全般に関する高い知識と技術を持っていることの公的な証明になります。特に公共工事の入札に参加する場合や、大規模な工事で監理技術者・主任技術者として配置される際には、この資格が必要不可欠となるケースが多くあります。




