「サステナビリティ」の基本知識

建設業がESG経営で重視すべき視点とは?


更新日: 2025/10/22
建設業がESG経営で重視すべき視点とは?

この記事の要約

  • 建設業が取り組むべきESG経営の基本と重要性がわかる
  • 環境・社会・ガバナンス(ESG)の視点別に行動計画がわかる
  • ESG導入のメリットと企業が直面しがちな課題と対策がわかる

建設業におけるESG経営とサステナビリティの基本

近年、建設業界においてもESG経営サステナビリティ(持続可能性)への関心が急速に高まっています。これは、単なる社会貢献活動という枠を超え、企業の長期的な成長と存続に不可欠な経営戦略として認識され始めたためです。本セクションでは、ESG経営の基本的な考え方と、なぜ今、建設業界でその重要性が叫ばれているのか、その背景を具体的に解説します。

ESG経営とは?3つの構成要素を解説

ESG経営とは、環境(Environment)社会(Social)ガバナンス(Governance)という3つの要素を重視した経営アプローチのことです。これらの非財務的な要素が、企業の長期的な成長とリスク管理において極めて重要であるという考え方に基づいています。建設業においても、これら3つの視点は事業活動のあらゆる側面に深く関わっています。

ESGの3つの構成要素

E (Environment | 環境):気候変動対策、省エネルギー、建設廃棄物の削減、生物多様性の保全など、事業活動が環境に与える影響への配慮。
S (Social | 社会):従業員の安全衛生、人権尊重、働きがいのある職場環境、地域社会への貢献など、すべてのステークホルダーに対する社会的責任。
G (Governance | ガバナンス):法令遵守(コンプライアンス)、リスク管理、経営の透明性確保、公正な取引など、健全な企業統治体制。

なぜ今、建設業でESGやサステナビリティが求められるのか

建設業界でESGやサステナビリティへの取り組みが急務となっている背景には、社会や市場からの多角的な要請があります。これらはもはや無視できない経営課題であり、対応の有無が企業の未来を左右すると言っても過言ではありません。

主な理由は以下の4点です。
1.投資家・金融機関からの評価
近年、企業のESGへの取り組みを評価し、投融資の判断基準とするESG投資が世界の潮流となっています。建設会社が大規模なプロジェクトの資金調達を行う際、ESG評価が低いと不利になる可能性があります。

2.公共事業の入札条件
国や地方自治体が発注する公共工事において、企業の環境配慮や社会貢献活動を評価項目に加える動きが広がっています。ESGへの取り組みが、受注機会の拡大に直結します。

3.人材確保と定着
特に若い世代を中心に、企業の社会課題への姿勢を就職先選びの重要な基準とする傾向が強まっています。働きがいのある職場環境や企業のサステナビリティへの貢献は、優秀な人材を惹きつけ、定着させる上で重要な要素です。

4.法規制の強化
気候変動対策や人権尊重に関する国内外の法規制は年々強化されています。これらの規制に対応できない企業は、事業活動に制約を受けたり、罰則を科されたりするリスクがあります。

【E:環境】建設業のサステナビリティを支える環境的視点

建設業は、その事業活動の性質上、環境に与える影響が大きい産業です。だからこそ、環境(Environment)への配慮は、企業のサステナビリティを追求する上で最も重要な柱の一つとなります。本章では、建設業が取り組むべき環境的視点と具体的なアプローチを3つの側面から掘り下げて解説します。

  1. 脱炭素社会に向けたCO2排出量の削減
  2. 資源の有効活用と廃棄物管理の徹底
  3. 生物多様性の保全と自然環境への配慮

脱炭素社会に向けたCO2排出量の削減

結論として、建設プロセス全体でのCO2排出量削減が、環境(E)における最重要課題です。建設機械の使用や資材の製造・輸送など、多くのプロセスでCO2を排出しており、脱炭素社会への移行が世界的な課題となる中、この取り組みは企業の社会的責任であり、競争力を維持するための必須条件です。

具体的な取り組みとしては、以下のようなものが挙げられます。
建設機械の電動化・燃料転換:従来のディーゼルエンジンから、電動式や水素燃料電池式の建設機械への切り替えを進める。
省エネルギー技術の導入ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)など、建物の断熱性能やエネルギー効率を高める設計・施工技術を積極的に採用する。
再生可能エネルギーの活用:工事現場の仮設事務所や施設で、太陽光発電などの再生可能エネルギーを導入する。

建設現場における再生可能エネルギー活用のイメージ

資源の有効活用と廃棄物管理の徹底

大量の資材を消費し、建設副産物を排出する建設業にとって、資源の循環利用は極めて重要なテーマです。限りある地球の資源を持続的に利用するため、3R(リデュース・リユース・リサイクル)を基本とした徹底的な資源管理が求められます。

建設業における3Rの取り組み

リデュース(発生抑制):プレキャストコンクリート製品の活用による現場での廃棄物発生抑制。
リユース(再利用):解体時に発生したコンクリート塊を再生砕石として再利用。
リサイクル(再資源化):アスファルトや木材などを分別し、新たな資材として再資源化。

これらの取り組みは、循環型社会に対応した工法の採用と合わせて推進することで、環境負荷の低減とコスト削減の両立に繋がります。

生物多様性の保全と自然環境への配慮

建設プロジェクトは、時に地域の生態系に影響を与える可能性があります。そのため、事業活動を行う地域の生物多様性を保全し、自然環境への影響を最小限に抑える配慮が不可欠です。

工事計画の段階で周辺の生態系調査を実施し、希少な動植物の生息地を避けるルートを選定したり、工事中の騒音・振動を低減したりする対策が求められます。さらに、地域の在来種を用いた緑化やビオトープ(生物生息空間)の創出など、自然環境の再生に積極的に貢献する取り組みも、企業のサステナビリティを高める上で重要です。

[出典:国土交通省 グリーンインフラポータルサイト]

【S:社会】建設業界の持続可能性(サステナビリティ)に関わる社会的視点

企業の持続可能性(サステナビリティ)は、社会(Social)との良好な関係性の上に成り立ちます。建設業においては特に、以下の3つの視点が不可欠です。

  1. 安全な労働環境の構築
  2. サプライチェーン全体での人権尊重
  3. 地域社会への貢献と連携
    本章では、企業の社会的責任を果たし、ステークホルダーからの信頼を築くための具体的なアクションを解説します。

建設現場における安全で多様性のある労働環境とDX推進のイメージ

労働環境の改善と従業員の安全衛生

結論として、従業員の安全と健康(ウェルビーイング)を守ることが、社会(S)の観点で最も重要な経営課題です。これを実現するためには、長時間労働の是正と安全管理体制の強化という2つの軸で、具体的なアクションプランを実行する必要があります。

アクションプランの例は以下の通りです。
長時間労働の是正:週休2日制の定着はもちろんのこと、BIM/CIMといったICT技術を積極的に活用し、設計・施工プロセスの生産性を向上させます。これにより、実効性のある時間外労働の削減と、魅力ある職場環境の創出を目指します。
安全衛生管理の徹底労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)を導入し、リスクアセスメントに基づいた継続的な安全活動を展開します。特に墜落・転落といった建設業特有の重大災害を防止するための物理的な対策と、ヒューマンエラーを防ぐための安全教育の両輪が不可欠です。
ウェルビーイングの推進:身体的な安全確保だけでなく、ストレスチェック制度の活用や相談窓口(EAP)の設置といったメンタルヘルス対策にも注力します。従業員一人ひとりが心身ともに健康で、いきいきと働ける環境を構築することが、企業の持続的な成長に繋がります。

サプライチェーン全体での人権への配慮

企業の社会的責任は、自社の従業員だけに留まりません。資材の調達先や下請けの協力会社など、サプライチェーン全体における人権への配慮も極めて重要です。

「人権デュー・ディリジェンス」の考え方に基づき、自社の事業活動が人権に与える負の影響を特定・評価し、その防止・軽減に努めることが、グローバルに事業を展開する上でのスタンダードとなりつつあります。特に、外国人技能実習生の労働環境や、不適切な労働条件がないかなどを定期的に確認し、問題があれば是正を求める姿勢が求められます。

地域社会への貢献とステークホルダーとの連携

建設業は、道路や橋、ビルといった社会インフラを整備することで、人々の生活を支え、地域社会の発展に直接的に貢献する役割を担っています。この本来の役割に加え、工事期間中の騒音・振動対策や、近隣住民への丁寧な説明といったコミュニケーションを通じて、ステークホルダーとの良好な関係を築くことが重要です。

また、地域の清掃活動への参加や、災害時の復旧支援協定の締結など、事業活動を通じて培った技術やノウハウを活かして地域社会に貢献することも、企業の信頼を高め、サステナビリティの基盤を強固なものにします。

【G:ガバナンス】サステナビリティ経営の基盤となるガバナンス的視点

環境(E)や社会(S)への取り組みが優れたものであっても、それを支える企業統治(Governance)が脆弱では、ESG経営は成り立ちません。ガバナンスは、経営の健全性と透明性を確保し、企業の持続的な成長を支える土台となるものです。本章では、企業の信頼性を高めるガバナンスの視点を解説します。

コンプライアンスの徹底とリスク管理体制の構築

企業の信頼を根底から支えるのは、法令遵守(コンプライアンス)の徹底です。建設業界においては、談合や贈収賄といった不正行為を防止するための厳格な内部規程の策定と、従業員への継続的な教育が不可欠です。

同時に、自然災害、労働災害、サイバー攻撃といった、事業の継続を脅かす様々なリスクを予測し、備える体制を構築することもガバナンスの重要な役割です。事業継続計画(BCP)を策定し、定期的な訓練を行うことで、不測の事態が発生した際にも損害を最小限に抑え、迅速な復旧を目指します。

経営の透明性と情報開示の重要性

株主、投資家、顧客、従業員といったステークホルダーに対して、企業の経営状況や意思決定プロセスを明確に説明することは、信頼関係を築く上で欠かせません。特にESG経営においては、環境負荷のデータや社会貢献活動の実績、ガバナンス体制といった非財務情報を積極的に開示することが重要視されます。

ウェブサイトや統合報告書などを通じて、自社のESGに関する目標、進捗、実績を具体的かつ客観的なデータに基づいて開示することで、経営の透明性を示し、ステークホルダーからの適切な評価と信頼を得ることができます。

取締役会の監督機能と多様性の確保

ガバナンスの中核を担うのが取締役会です。経営陣の業務執行を客観的な立場から監督し、企業の持続的な成長と企業価値の向上を促す役割を持ちます。この監督機能を実効性のあるものにするためには、社外取締役の適切な選任が重要です。

さらに、性別、国籍、経歴といった多様性(ダイバーシティ)を取締役会の構成員に確保することも、現代のガバナンスにおいて重視されています。多様な視点や価値観を取り入れることで、複雑化する経営課題に対して、より多角的で適切な意思決定を下すことが可能になります。

建設業がESG経営を導入するメリットと課題【比較検討】

ESG経営の導入は、建設会社に多くの恩恵をもたらす一方で、乗り越えるべき課題も存在します。ここでは、ESG経営を導入することで得られる具体的なメリットと、多くの企業が直面しがちな課題を比較検討します。これらを正しく理解することが、自社に合ったサステナビリティ戦略を推進するための第一歩となります。

ESG経営のメリットと課題の比較

観点 メリット(得られる価値) 課題(乗り越えるべき障壁)
財務・資金調達 ESG融資など有利な条件での資金調達 省エネ設備導入などに伴う初期投資の増加
企業価値 ブランドイメージと社会的信頼の向上 短期的な利益と長期的な投資との両立
人材 優秀な人材の獲得・定着 ESGを推進できる専門人材の不足
事業機会 公共工事での加点や新規顧客の獲得 取り組みの成果を定量的に評価する難しさ
リスク管理 環境・社会問題に起因する事業リスクの低減 サプライチェーン全体を管理する複雑さ

まとめ:建設業が未来のサステナビリティを実現するために

本記事では、建設業がESG経営で重視すべき「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」の3つの視点について、具体的な取り組みとともに解説しました。

建設業がESG経営に取り組むことは、もはや単なる社会貢献やイメージアップ戦略ではありません。それは、気候変動や労働人口の減少、社会からの要請の高度化といった外部環境の大きな変化の中で、企業がリスクを管理し、新たな事業機会を捉え、持続的に成長するための不可欠な経営戦略です。

環境負荷の低減、安全で働きがいのある職場の提供、そして公正で透明性の高い経営体制の構築。これらの取り組みは、未来の社会基盤を支える建設業としての社会的使命を果たすと同時に、企業のサステナビリティそのものを盤石にするものです。今こそ、ESGの視点を経営の中核に据え、未来へと続く確かな一歩を踏み出すことが求められています。

[出典:国土交通省 国土交通省 ESG経営 実践支援ツール]

よくある質問

Q. ESG経営は中小の建設会社でも取り組むべきですか?
A. はい、取り組むべきです。大手企業だけでなく、サプライチェーン全体でESGへの対応が求められるため、中小企業も無関係ではありません。まずは「従業員の安全管理の徹底」「建設廃棄物の適正処理」「コンプライアンス教育の実施」など、自社の事業に密接に関連し、着手しやすい範囲から始めることが重要です。これらの基本的な取り組みが、結果として取引先や金融機関からの信頼向上にも繋がります。

Q. ESGへの取り組みを外部にアピールする効果的な方法は何ですか?
A. 効果的なアピールには、透明性と具体性が鍵となります。

  1. 情報発信の基盤を作る:自社の公式ウェブサイトに「サステナビリティ」や「ESGへの取り組み」といった専門ページを設けるのが第一歩です。
  2. 具体的な内容を開示する:「CO2排出量を前年比〇%削減」「安全パトロールの年間実施回数」など、具体的な活動内容や目標を数値で示すことが説得力を高めます。
  3. レポートを発行する:より本格的に取り組む場合は、統合報告書やサステナビリティレポートを発行することも有効な手段です。まずは、自社の取り組みを整理し、ステークホルダーに分かりやすく情報発信することから始めましょう。

Q. ESGの取り組みを評価する具体的な指標にはどのようなものがありますか?
A. 世界には様々なESG評価指標が存在しますが、代表的なものとして以下が挙げられます。
GRIスタンダード:サステナビリティ報告書の国際的な標準。
SASBスタンダード:業界別に重要なESG課題と指標を特定。
TCFD提言:気候関連の財務情報開示のフレームワーク。
これらの中から、自社の事業内容や規模、ステークホルダーの関心に合わせて、開示する情報や目標設定の参考とするのが一般的です。

NETIS
J-COMSIA信憑性確認
i-Construction
Pマーク
IMSM

株式会社ルクレは、建設業界のDX化を支援します