「サステナビリティ」の基本知識

建設業における持続可能性とは?基本知識をわかりやすく解説


更新日: 2025/10/15
建設業における持続可能性とは?基本知識をわかりやすく解説

この記事の要約

  • 建設業界の課題解決に不可欠なサステナビリティの基本を解説
  • 環境・社会・経済の3つの側面から具体的な取り組み方法がわかる
  • コストや人材面のよくある不安を解消し、最初の一歩を後押し

建設業で今なぜ「サステナビリティ」が重要なのか?

建設業界は今、大きな変革の時期を迎えています。資源の枯渇や気候変動、労働人口の減少、エネルギーコストの上昇など、従来のビジネスモデルでは対応が困難な課題に直面しています。こうした複雑な課題への包括的な解決策がサステナビリティ(持続可能性)です。本章では、建設業が置かれている現状と、サステナビリティがもたらす未来の可能性について解説します。

建設業を取り巻く現状と課題

現代の建設業は、環境・社会・経済の各側面で多岐にわたる課題に直面しています。これらは相互に影響し合っており、個別対処では根本的な解決に至りません。

建設業が直面する3つの課題

環境への影響:建設活動は、天然資源の大量消費、建設・解体時に排出される大量のCO2、そして建設廃棄物の問題など、地球環境に大きな負荷をかけています。

社会的な課題:少子高齢化に伴う労働者不足は深刻化しており、長時間労働の是正や現場の安全性の確保といった労働環境の改善が急務となっています。

経済的な側面:世界情勢の変動による資材価格の高騰や、エネルギーコストの上昇は、企業の収益を直接的に圧迫する要因となっています。

最新技術が導入されたサステナブルな建設現場で、多様な作業員が協力して働く様子

サステナビリティがもたらす未来の建設業

サステナビリティへの取り組みは、単なるコストや義務ではなく、企業に新たな価値をもたらす成長戦略です。

サステナビリティが拓く3つの可能性

環境負荷の低減と企業価値の向上
省エネ技術の導入や再生可能エネルギーの活用は、環境負荷を低減するだけでなく、光熱費などのランニングコスト削減に繋がります。環境に配慮する企業姿勢は、顧客や投資家からの評価を高め、企業全体のブランドイメージと価値を向上させます。

新しい技術革新とビジネス機会の創出
サステナビリティを追求する過程で、環境配慮型の建材開発や、エネルギー効率を高める設計手法など、新たな技術革新が生まれます。これらは、グリーンビルディング市場といった成長分野への参入を可能にし、新たなビジネスチャンスを創出します。

働きがいのある職場環境と人材確保
労働者の安全や健康、公正な待遇に配慮した職場環境は、従業員の満足度と生産性を高めます。魅力的な職場は、深刻化する人材不足の中で優秀な人材を惹きつけ、定着させるための重要な要素となります。

建設業におけるサステナビリティの3つの柱

建設業におけるサステナビリティは、単に「環境にやさしい」だけを指すものではありません。「環境(Environment)」「社会(Social)」「経済(Economy)」という3つの側面が相互に関連し合っており、これらのバランスを取ることが持続可能な発展に不可欠です。この3つの柱は、企業の長期的な成長を評価するESG投資の観点とも密接に結びついています。

環境(Environment):地球にやさしい建設

地球環境への負荷を最小限に抑え、自然との共生を目指す取り組みです。

省エネ・創エネ技術の導入(ZEBなど)
建物の断熱性能を高め、高効率な設備を導入してエネルギー消費を抑える「省エネ」と、太陽光発電などでエネルギーを創り出す「創エネ」を組み合わせ、エネルギー消費量を実質ゼロにするZEB(Net Zero Energy Building)の推進が求められます。
[出典:資源エネルギー庁「ZEB(ゼブ)」]

建材のリサイクル・アップサイクルの推進
建設廃棄物を単に再利用(リサイクル)するだけでなく、より価値の高い製品へと再生させるアップサイクルの視点が重要です。また、設計段階から解体時のことを考え、再利用しやすい材料や工法を選ぶことも求められます。

生物多様性への配慮
建設プロジェクトが周辺の生態系に与える影響を評価し、在来種の保護や緑地の確保など、生物多様性の保全に貢献する取り組みもサステナビリティの重要な要素です。

社会(Social):人や社会との共存

建設業に関わるすべての人々の人権や労働環境、そして地域社会に配慮する取り組みです。

働き方改革と「2024年問題」への対応
2024年4月から建設業にも適用された時間外労働の上限規制、いわゆる「建設業の2024年問題」への対応は喫緊の課題です。この解決策として、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が鍵となります。例えば、BIM/CIMなどの3次元モデルを活用して情報を一元管理し、業務の非効率をなくすことで、長時間労働の是正と生産性向上を両立させます。
[出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務」]

用語解説:BIM/CIM(ビム/シム)とは?

構造物の3次元モデルに、コストや仕上げ、管理情報などの属性データを追加したデータベースを構築し、設計から施工、維持管理までのあらゆる工程で情報を活用する仕組みです。関係者間の情報共有を円滑にし、生産性向上に大きく貢献します。

サプライチェーン全体での人権への配慮
資材の調達から建設、解体に至るまで、サプライチェーンの全段階で強制労働や児童労働といった人権侵害が発生していないかを確認し、責任ある調達を徹底することが求められます。

地域社会への貢献とコミュニケーション
建設工事における騒音や振動など、地域住民への影響を最小限に抑えることはもちろん、防災協定の締結や地域の清掃活動への参加などを通じて、地域社会の一員として信頼関係を築くことが、企業の持続可能な活動基盤を強固にします。

経済(Economy):持続可能な経営

短期的な利益だけでなく、長期的な視点で安定した経営基盤を築く取り組みです。

LCC(ライフサイクルコスト)の最適化
建設時の初期費用(イニシャルコスト)だけでなく、建物の運用、維持管理、そして最終的な解体までの全期間にかかる総費用であるLCC(ライフサイクルコスト)を算出し、これを最適化する視点が重要です。省エネ性能の高い建物は、初期費用が高くても光熱費が抑えられ、結果的にLCCは低くなる場合があります。
[出典:国土交通省「ライフサイクルコスト(LCC)活用の手引き」]

ESG投資への対応と資金調達
環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)への配慮を重視するESG投資が世界的に拡大しています。サステナビリティへの取り組みを積極的に情報開示することで、新たな資金調達の機会が広がり、企業の財務的安定に繋がります。

グリーンビルディング認証の取得メリット
CASBEEやLEEDといった環境性能評価認証(グリーンビルディング認証)を取得することで、建物の環境価値が客観的に証明され、不動産価値の向上やテナント誘致における優位性確保に繋がります。

建設業でサステナビリティに取り組む具体的な方法

サステナビリティ経営への移行は、体系的なステップを踏むことで、どんな規模の企業でも着実に推進することが可能です。ここでは、企業が明日から実践できる具体的なアクションを3つのステップに分けて、HowTo形式で分かりやすく紹介します。

1. ステップ1:現状の把握と目標設定

目的:自社のサステナビリティに関する現在地を正確に理解し、目指すべきゴールを明確にすること。

自社の環境負荷や社会課題を可視化する
まずは、自社の事業活動が環境・社会にどのような影響を与えているかを洗い出します。具体的には、CO2排出量、廃棄物の量、エネルギー使用量、労働災害の発生件数、従業員の労働時間などをデータとして収集し、現状を客観的に把握します。

具体的な数値目標(KPI)を設定する
現状分析の結果に基づき、「CO2排出量を2030年までに〇%削減する」「再生可能エネルギーの利用率を〇%まで高める」といった、具体的で測定可能な目標(KPI:重要業績評価指標)を設定します。目標は、企業の経営戦略と連動させることが重要です。

2. ステップ2:計画の策定と実行

目的:設定した目標を達成するための具体的なロードマップを描き、全社的に実行に移すこと。

サステナビリティ推進体制の構築
経営層を含む専門のチームや担当者を設置し、誰が責任を持って推進するのかを明確にします。全社的な協力体制を築くことが成功の鍵です。

具体的な施策の洗い出しと優先順位付け
目標達成のために必要な施策(省エネ設備の導入、再生材の利用拡大、安全教育の強化など)をリストアップします。その上で、効果の大きさ、実行のしやすさ、コストなどを考慮して優先順位をつけ、実行計画を策定します。

3. ステップ3:情報開示と改善

目的:取り組みの進捗と成果を内外に報告し、得られたフィードバックを次の活動に活かすこと。

サステナビリティレポートなどの作成
取り組みの進捗状況やKPIの達成度を、サステナビリティレポートや統合報告書、自社ウェブサイトなどを通じて定期的に公表します。透明性の高い情報開示は、ステークホルダーからの信頼獲得に繋がります。

ステークホルダーとの対話とフィードバック
顧客、従業員、取引先、投資家、地域社会といったステークホルダー(利害関係者)と積極的に対話し、取り組みに対する意見や要望をヒアリングします。得られたフィードバックを分析し、次の目標設定や計画の見直しに活かすことで、活動を継続的に改善していきます(PDCAサイクル)。

サステナビリティと従来のアプローチとの違いを比較

サステナビリティを重視した建設は、従来のコストや工期を最優先する考え方とは根本的に異なります。この違いを理解することは、自社の取り組みの方向性を定める上で非常に重要です。以下の表は、設計から企業目標に至るまでの各項目で、従来のアプローチとサステナビリティの考え方を比較しまとめたものです。

項目 従来の考え方 サステナビリティの考え方
設計思想 初期コストの最小化 ライフサイクルコスト(LCC)の最適化
資材調達 価格と供給の安定性 環境負荷が低く、倫理的に調達された資材
建設プロセス 工期とコストの遵守 安全性、省エネ、廃棄物削減を最優先
建物評価 機能性、デザイン、利便性 環境性能、健康・快適性、社会貢献度
企業目標 短期的な利益の最大化 長期的な企業価値の向上と社会貢献

読者のよくある不安とその解消法

サステナビリティへの取り組みの重要性は理解できても、いざ自社で実践するとなると様々な不安や疑問が生じるものです。特に「コスト」「ノウハウ」「人材」に関する悩みは多くの企業が共通して抱えています。ここでは、そうした典型的な不安を取り上げ、具体的な解消法を提示します。

「コストがかかりすぎるのでは?」

不安の内容:省エネ設備や環境配慮型建材の導入には、初期投資(イニシャルコスト)がかさむのではないか、という懸念。

初期投資と長期的なリターンの関係
確かに初期投資は必要ですが、長期的な視点で見ることが重要です。例えば、高性能な断熱材や省エネ設備は、運用段階での光熱費を大幅に削減し、ライフサイクルコスト(LCC)の観点ではむしろ経済的メリットが大きくなります。投資対効果を正しく評価することが大切です。

補助金や助成金の活用方法
国や地方自治体は、企業のサステナビリティへの取り組みを支援するため、様々な補助金や助成金制度を用意しています。例えば、ZEB化支援事業や省エネ設備導入補助金などを活用することで、初期投資の負担を大幅に軽減することが可能です。

「何から手をつければいいかわからない」

不安の内容:取り組むべき課題が多岐にわたり、どこから着手すれば良いのか判断が難しい。

小規模でも始められる取り組みの紹介
最初から大きな目標を掲げる必要はありません。「現場事務所のLED化」「節水の徹底」「廃棄物の分別ルールの厳格化」など、すぐに始められて効果が見えやすい小さな取り組みからスタートしましょう。成功体験を積み重ねることが、全社的な意識改革に繋がります。

外部の専門家やパートナーの活用
自社だけで全てを解決しようとせず、サステナビリティに関するコンサルティング会社や、環境認証の取得を支援する専門家など、外部の知見を積極的に活用するのも有効な手段です。

「専門知識を持つ人材がいない」

不安の内容:ZEBやLCC、ESGなど専門的な知識を持つ従業員がおらず、推進体制が作れない。

社内研修や資格取得支援
関連するセミナーや研修に従業員を派遣したり、資格取得を奨励・支援する制度を設けたりすることで、社内の人材育成を進めることができます。従業員のスキルアップは、企業の持続的な成長の基盤となります。

DXツールの導入による業務効率化
エネルギー使用量を自動で「見える化」するシステムや、BIM/CIMのようなデジタルツールを導入することで、専門知識をある程度カバーし、業務を効率化することが可能です。ツールを使いこなすことで、従業員のデジタルリテラシー向上にも繋がります。

まとめ

本記事では、建設業におけるサステナビリティの重要性から、その根幹をなす「環境・社会・経済」の3つの柱、そして企業が実践するための具体的なステップまでを網羅的に解説しました。

建設業が直面する数々の課題は、見方を変えれば新たな成長の機会でもあります。サステナビリティへの取り組みは、もはや社会貢献活動の一環ではなく、企業が未来を生き抜くための必須の経営戦略です。環境負荷を低減し、働く人々や社会に配慮し、長期的な視点で経済的合理性を追求する。このバランスの取れたアプローチこそが、企業の競争力を高め、持続的な成長を実現する鍵となります。

まずは自社の現状を正しく把握し、できることから一歩ずつ始めてみましょう。

よくある質問

Q. サステナビリティとSDGsの違いは何ですか?
A. SDGs(持続可能な開発目標)は、2030年までに達成すべき「17の具体的な目標」と「169のターゲット」を定めた世界共通のゴールです。一方、サステナビリティは、それらの目標達成の根底にある「将来の世代のニーズを損なうことなく、現代の世代のニーズを満たす」という考え方や概念そのものを指します。つまり、SDGsはサステナビリティを実現するための具体的な行動指針と捉えることができます。

Q. 中小企業でもサステナビリティに取り組むべきですか?
A. はい、企業の規模に関わらず取り組むべきです。近年、大手企業はサプライチェーン全体でのサステナビリティを重視しており、取引先に環境や人権への配慮を求めるケースが増えています。対応が遅れると、取引機会を失うリスクもあります。また、サステナビリティへの積極的な姿勢は、金融機関からの融資や人材採用の面でも有利に働くため、中小企業にとっても重要な経営課題です。

Q. ZEB(ゼブ)とは何ですか?
A. ZEBとはNet Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称です。建物の断熱性能の向上や高効率な設備の導入によりエネルギー消費を極力抑え、さらに太陽光発電などでエネルギーを創り出すことにより、年間の一次エネルギー消費量の収支を正味(ネット)でゼロ以下にすることを目指した建築物のことです。サステナブルな建築を代表する重要な概念の一つです。

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