建設業に必要な届出とは?一覧と提出先をまとめて解説

この記事の要約
- 建設業で必須の届出を事業段階別に一覧で解説します
- 届出・許可・認可の違いや主な提出先をわかりやすく整理
- 届出を忘れた場合のリスクや専門家への相談先も紹介
建設業における「届出」とは?許可や認可との違い
建設業を営む上で、「届出」は避けて通れない重要な手続きです。しかし、似たような言葉である「許可」や「認可」との違いが分からず、混乱してしまう方も少なくありません。この章では、まず建設業における届出の基本的な意味と、なぜ多くの届出が必要とされるのかについて、その法的な位置づけや目的を明確に解説します。

届出・許可・認可の基本的な違い
「届出」「許可」「認可」は、いずれも行政庁に対する手続きですが、その性質は大きく異なります。届出は、法令で定められた事項を行政庁に通知する行為であり、要件さえ満たしていれば受理されます。一方、許可は本来禁止されている行為を特定の場合に解除してもらうもので、行政庁の審査が必要です。認可は、当事者間の契約などの法律行為を補充し、その効力を完成させる行為を指します。これらの違いを以下の表で確認しましょう。
届出・許可・認可の比較表
| 項目 | 届出 | 許可 | 認可 |
|---|---|---|---|
| 意味 | 行政庁に対して、特定の事項を通知する行為 | 特定の事業を行うために、行政庁から禁止を解除してもらう行為 | 第三者間の法律行為を、行政庁が補充し、法律上の効果を完成させる行為 |
| 行政庁の裁量 | なし(要件を満たしていれば受理される) | あり(要件を満たしていても許可されない場合がある) | あり(内容を審査し、認可の可否を判断する) |
| 具体例 | ・労働保険関係成立届 ・道路使用許可申請 |
・建設業許可 ・産業廃棄物収集運搬業許可 |
・農地転用の認可 ・協同組合設立の認可 |
なぜ建設業では多くの届出が必要なのか
建設業は、その業務の性質上、労働者の安全、公衆への影響、環境への配慮など、多岐にわたる法律や規制が関わってきます。そのため、関係各所への届出が義務付けられています。これらの届出は、以下のような目的を持っています。
・労働者の安全確保: 労働基準監督署への届出により、安全な労働環境が確保されているかを行政が把握します。
・適正な社会保険の加入: 年金事務所やハローワークへの届出を通じて、労働者の社会保障が守られます。
・納税義務の履行: 税務署への届出により、適正な納税が行われていることを示します。
・周辺環境への配慮: 道路や河川を使用する際の届出は、工事による公衆への影響を最小限に抑えるために必要です。
これらの届出を怠ると、罰則が科されたり、公共工事の受注に影響が出たりする可能性があるため、確実な対応が求められます。
【事業の段階別】建設業で必要な届出の一覧
建設業で必要となる届出は、事業の開始から現場での作業、従業員の雇用まで、様々な段階で発生します。ここでは、会社の創業期から実際の工事、日々の労務管理に至るまで、事業のフェーズごとに必要となる主な届出を網羅的に整理してご紹介します。自社が今どの段階にあり、次に何を備えるべきかのチェックリストとしてご活用ください。
創業・会社設立時に必要な届出
法人を設立して建設業を始める場合、または個人事業主として開業する場合に、まず必要となる基本的な届出です。事業の土台を固めるための重要な手続きとなります。
創業・会社設立時の主な届出
| 届出の種類 | 提出先 | 提出期限の目安 |
|---|---|---|
| 法人設立届出書 | 税務署 | 設立後2ヶ月以内 |
| 青色申告の承認申請書 | 税務署 | 設立後3ヶ月以内 or 事業年度終了日のいずれか早い日 |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 税務署 | 事務所開設から1ヶ月以内 |
| 都道府県税事務所・市町村役場への届出 | 各自治体 | 自治体の条例による |
[出典:国税庁 内国普通法人等の設立の届出]
建設業許可申請前後で必要な届出
建設業許可を取得する際、また許可を維持するために必要な届出です。特に社会保険への加入は、建設業許可の要件としても重要視されています。
建設業許可に関連する主な届出
| 届出の種類 | 提出先 | 提出期限の目安 |
|---|---|---|
| 労働保険関係成立届 | 労働基準監督署 | 保険関係成立の翌日から10日以内 |
| 雇用保険適用事業所設置届 | ハローワーク | 設置の翌日から10日以内 |
| 健康保険・厚生年金保険新規適用届 | 年金事務所 | 事実発生から5日以内 |
| 決算変更届(事業年度終了報告書) | 許可を受けた行政庁 | 事業年度終了後4ヶ月以内 |
[出典:厚生労働省 労働保険関係成立届の提出]
[出典:日本年金機構 新規適用の手続き]
現場作業で必要となる主な届出
工事現場で作業を行う際に、その都度必要となる可能性のある届出です。工事の内容や規模、場所によって必要なものが異なるため、着工前に必ず確認が必要です。
・道路使用許可申請書: 公道上で工事車両の駐車や資材の搬出入などを行う場合に、管轄の警察署へ提出します。
・足場設置届: 足場の高さが10m以上で、かつ組立から解体までの期間が60日以上の場合に、管轄の労働基準監督署へ提出します。
・特定建設作業実施届出書: 騒音規制法や振動規制法で定められた重機(杭打機など)を使用する作業を行う場合に、作業開始の7日前までに市区町村役場へ提出します。
・建設工事計画届: 高さ31mを超える建築物や、特定の橋梁などの建設工事を行う場合に、工事開始の30日前までに労働基準監督署へ提出します。
・建設リサイクル届: 解体工事や新築工事などで、対象となる建設資材を用いた一定規模以上の工事の場合、工事着手の7日前までに都道府県等へ提出します。
[出典:環境省 建設リサイクル法]
労働者の雇用・安全衛生に関する届出
従業員を雇用した際や、労働安全衛生法に関わる届出です。労働者の権利と安全を守るために不可欠な手続きです。
・雇用保険被保険者資格取得届: 従業員を雇用した際に、翌月10日までにハローワークへ提出します。
・健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届: 従業員を雇用した際に、事実発生から5日以内に年金事務所へ提出します。
・安全管理者選任届: 常時50人以上の労働者を使用する事業場などで、選任すべき事由が発生した日から14日以内に労働基準監督署へ提出します。
・労働者死傷病報告: 労働災害により労働者が死亡または休業した場合に、遅滞なく労働基準監督署へ提出します。
主な届出の提出先と概要
建設業で必要な届出は、その内容によって提出先が多岐にわたります。ここでは、主要な提出先である「労働基準監督署」「ハローワーク」「年金事務所」「税務署」の4つに分類し、それぞれがどのような役割を担い、どのような届出を管轄しているのかを具体的に解説します。どこに何を提出すれば良いのかを正確に把握しておきましょう。

労働基準監督署へ提出する届出
労働基準監督署は、労働者の安全や健康を守るための届出を管轄しています。労働安全衛生法や労働基準法に基づく手続きが中心となります。
・労働保険関係成立届: 労働者(パート・アルバイト含む)を一人でも雇用した場合に、保険関係が成立したことを届け出ます。これが労働保険手続きのスタートとなります。
・時間外労働・休日労働に関する協定届(36協定): 従業員に法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて労働させる場合や、法定休日に労働させる場合には、事前に労使協定を締結し、届け出る義務があります。
・足場設置届: 足場の高さが10m以上で、かつ組立から解体までが60日以上の場合に提出が義務付けられています。工事の安全性を確保するための重要な届出です。
ハローワーク(公共職業安定所)へ提出する届出
ハローワークは、雇用保険に関する手続きの窓口です。従業員の入社から退社まで、様々なタイミングで届出が必要になります。
・雇用保険適用事業所設置届: 労働者を雇用し、雇用保険の適用事業所となった場合に提出します。
・雇用保険被保険者資格取得届: 新たに従業員を雇用し、その従業員が雇用保険の被保険者となる場合に提出します。週の所定労働時間が20時間以上などの加入要件があります。
年金事務所へ提出する届出
年金事務所は、健康保険や厚生年金保険といった社会保険に関する手続きを行います。法人は強制適用事業所となり、加入が義務付けられています。
・健康保険・厚生年金保険新規適用届: 法人事業所や、常時5人以上の従業員を使用する個人事業所が、健康保険・厚生年金の適用事業所となった場合に提出します。
・健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届: 従業員が社会保険の加入要件を満たした場合に提出します。これにより、従業員は健康保険証を受け取ることができます。
税務署へ提出する届出
税務署には、法人税や所得税、消費税といった国税に関する届出を行います。会社の設立時や個人事業の開業時に必ず必要となる手続きです。
・法人設立届出書: 法人を設立した際に、納税地を管轄する税務署へ提出します。会社の基本情報を国に登録する手続きです。
・個人事業の開業・廃業等届出書: 個人事業主として建設業を開業した際に提出します。
・給与支払事務所等の開設届出書: 従業員に給与を支払う事務所を開設した場合に必要です。源泉徴収義務者になったことを届け出ます。
- ご注意
本記事に記載されている提出期限や要件は、記事執筆時点のものです。法改正などにより変更される可能性があるため、実際に手続きを行う際は、必ず各行政機関の公式サイトで最新の情報をご確認ください。
建設業の届出に関する読者のよくある不安と解決策
届出の手続きは種類が多く、提出期限も様々で複雑なため、多くの事業者が不安や疑問を抱えています。ここでは、「手続きを忘れたらどうなる?」「いつ何を出せばいいか分からない」「書類作成が難しい」といった、現場でよく聞かれるお悩みとその具体的な解決策をステップ形式で解説します。
届出を忘れてしまった場合どうなる?
届出にはそれぞれ提出期限が定められており、これを過ぎてしまうと罰則が科される可能性があります。例えば、労働保険関係の届出が遅れると、さかのぼって保険料を支払う際に追徴金が課されることがあります。また、建設業許可の決算変更届を怠ると、許可の更新ができない、あるいは許可が取り消されるといった重大なペナルティにつながる場合もあります。
- 提出漏れに気づいた時の3ステップ
万が一、届出を忘れてしまった場合は、以下の手順で冷静に対処してください。
1. すぐに管轄の行政機関へ連絡する
まずは、提出すべきだった届出の管轄機関(労働基準監督署、年金事務所など)へ速やかに電話で連絡します。提出漏れに気づいた経緯を正直に伝え、今後の手続きについて指示を仰ぎましょう。2. 指示に従い、速やかに書類を提出する
行政機関の担当者から、必要な書類や添付資料、提出方法について指示があります。指摘された内容に従い、可及的速やかに書類を作成・提出してください。3. 再発防止策を検討する
同じミスを繰り返さないために、なぜ提出が漏れたのか原因を究明しましょう。管理体制を見直し、手続きを専門家(行政書士や社会保険労務士など)に依頼することを検討するのが有効です。
どの届出をいつまでに出せば良いか分からない
「事業の段階別」でご紹介したように、建設業の届出は多岐にわたり、タイミングも様々です。事業の状況や工事内容によって必要な届出が異なるため、全体像を正確に把握するのは容易ではありません。
- 届出管理の2ステップ
1. チェックリストを作成する
会社の設立、従業員の雇用、新規現場の開始など、イベントごとに必要な届出をリストアップし、担当者と提出期限を明記したチェックリストを作成・共有して管理することをお勧めします。2. 専門家や窓口に確認する
不明な点は、自己判断せずに各届出の提出先窓口に直接問い合わせるか、顧問の専門家に確認するのが最も確実な方法です。
書類の作成や手続きが複雑で難しい
届出書類には専門的な用語が多く、添付書類も多岐にわたるため、作成に多くの時間と手間がかかります。特に建設業は本業が多忙なため、これらの事務作業に大きな負担を感じる方も少なくありません。
- 解決策:専門家の活用
無理に自社だけで対応しようとせず、各分野の専門家の活用を積極的に検討しましょう。専門家への依頼には費用がかかりますが、手続きの正確性向上、時間的コストの削減、そして何より経営者が本業に専念できるという大きなメリットがあります。
・建設業許可関連の届出: 行政書士
・社会保険・労働保険関連の届出: 社会保険労務士
・税務関連の届出: 税理士
まとめ
本記事では、建設業を営む上で必要不可欠な各種届出について、その種類、提出先、そして手続きに関する注意点を網羅的に解説しました。
- 本記事の重要ポイント
・建設業における届出は、会社の設立から日々の現場作業、従業員の雇用まで、事業のあらゆる場面で発生します。
・これらの手続きは、労働者の安全を守り、適正な事業運営を行う上で法的に義務付けられているものです。
・届出を怠ると罰則や事業継続への支障が生じるリスクがあるため、「どの段階で」「どこへ」「何を」届け出る必要があるのかを正確に把握し、計画的に対応することが極めて重要です。
・手続きに不安があれば、行政書士や社会保険労務士といった専門家の力を借りることも有効な選択肢です。
適切な届出を確実に行い、法令を遵守した健全な事業運営を目指しましょう。
よくある質問
Q. 個人事業主でも届出は必要ですか?
A. はい、必要です。個人事業主であっても、税務署への「個人事業の開業・廃業等届出書」は必須です。また、従業員を一人でも雇用すれば、労働保険や雇用保険に関する届出義務が発生します。常時5人以上の従業員がいる場合は、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入も原則として必要となります。
Q. 届出はオンラインでできますか?
A. はい、多くの届出はオンライン(電子申請)に対応しています。政府が運営するポータルサイト「e-Gov(イーガブ)」を利用することで、社会保険や労働保険に関する主な手続きをインターネット経由で行うことが可能です。また、国税に関しても「e-Tax(イータックス)」を通じて電子申告ができます。オンライン申請は、時間や場所を選ばずに手続きができるため非常に便利ですが、利用にはマイナンバーカードや事前の利用登録が必要となります。[出典:e-Gov電子申請]
Q. 社会保険に関する届出で特に注意すべき点は何ですか?
A. 社会保険の加入は、法人の場合は代表者一人であっても義務となります。注意すべき点として、従業員の入退社や、給与額が大幅に変わった際(昇給・降給)、扶養家族に変更があった際など、その都度迅速な届出が必要です。特に、従業員の「資格取得届」の提出が遅れると、その間の医療費が全額自己負担になるなど、従業員に直接的な不利益が生じる可能性があるため注意が必要です。




